2022年8月14日日曜日

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

 「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」


どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記事。そこで見つけた。

その記事のライターの名は、近藤康太郎。何気なしに買ったこの本と同じ著者だった。

3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾
著者: 近藤康太郎

本書は、朝日新聞編集委員の名物・名文記者が、「文章がうまくなりたい」という人に向けて25の文章テクニックを紹介したものだ。しかも、その紹介の仕方が何せ上手い。分かりやすく、実践をイメージしやすく、心に残りやすい。

冒頭に挙げた「常套句を使うのをやめろ」がまさにそれ。なお、常套句とは「抜けるように青い空」や「喜びを爆発させた」といった決まり文句のことだ。もう一つ例を挙げる。文章はできる限り短くしろ。著者は次のように表現する。

「二つに分けられる文は、全部、二つに分ける。」

ところで、文章執筆術は人によって違うのだろうか。「ハゲタカ」で有名な真山仁氏は、ある文章講座※で起承転結の「転」こそが大事だ、と述べている。近藤氏も「転」を書けるライターが生き残る、とまで言い切っている。

「転とは文字通り転がすことです。起で書き起こし、承で大方を説明した事象、この事象を、自分はどう考えているかを書く。そのことで、読者を転がす。」

「転」は執筆者の「魂」と言い換えられるのかもしれない。執筆のプロ二人が意識する「転」を私は軽んじてきた。今まで書いてきた文章を見返すのが、怖くなった。

しかし、今からでも遅くはないはず。今日以降は、本書から学んだことを実践していきたい。そう意識させてくれた時点で、本書に払ったお金の元は十分に取れたと思う。

2022年8月10日水曜日

書評:クライシスマネジメントの本質 本質行動学による3・11大川小学校事故の研究 西條剛央

この本を読んで 久々に心を揺さぶられた。

クライシスマネジメントの本質
 -本質行動学による3.11大川小学校事故の研究

西條剛央

そう感じたのは、世の中の災害対応の課題が全て集約されていると言っても過言ではないと感じたからだ。本書は、東日本大震災での大川小学校事故の詳細が語られている。なお、大川小学校事故とは、2011年3月11日に津波が来た時点で学校管理下にあった76名の児童のうち69名が遺体で見つかって3人が行方不明となった事故のことだ。

最初の揺れから津波到達まで50分の時間があり、校庭から走って1分ほどで登れる裏山があったにもかかわらず、どうしてこのような悲劇が起きたのか。著者は、その原因について、客観的な調査・分析・評価を試みている。

災害対応の課題は、ひと言で言えば「正論だけでは語れない人間心理の厄介さ」だろう。言ってしまえば、天災というよりも人災だ。いざ災害に直面してみると意思決定ができず判断に迷いが出る。「自分だけは大丈夫」「これまで起きなかったから今回も大丈夫」「誰かに怪我をさせて責任問題に発展させたくない」などといったバイアスにも直面する。

以下は、それを浮き彫りにする一例だ。

「教頭先生は山に逃げた方が良いと言っていたが、鎌谷の人は『ここまで来ないから大丈夫』と言って喧嘩みたいにもめていた」(本書 第二章 あの日の校庭 より)

こうしたドロドロとした課題が想定されるからこその、事前の取り決めであり、訓練の徹底なのである。本書を通じて見えてきたのは「何が本当に大事か」を形式ではなく本質で考え、幹部と日頃から意識共有しておくことの重要性や、有事のスピーディーな意思決定を実現するための行動基準の明文化の重要性などだ。

訓練の重要性は言うまでもないが、本書が挙げた、多くの児童が無事に避難することができた保育所の有事対応の背景がそれを裏付けてくれる。

「では、保育園ではなぜ避難訓練を徹底できたのであろうか。実は管轄となる省庁が違うためである。就学後は文科省の管轄となるのに対し、『5歳児までを預かる保育所では厚労省の基準に基づいて火事や地震を想定して少なくとも月一回以上避難訓練することが義務付けられている』のだ」(第5章 あの日、何を最優先にすべきだったか より)

事は有事対応だけではない。悲惨な事故が起きた後の原因究明においても、人間心理が邪魔をする。とりわけ人が自分のせいで亡くなったかもしれない、となれば、尚更だ。そこにメスを入れようとすればどうしたって保身に走ろうとする者が出てくる。当時、学校を留守にしていた校長が、責任追及を恐れてメールを削除したり、市教委が当事者からの報告内容を添削・加筆したりしていたことがわかっている。

だからこそ、そうした点も含めて、深く潜り込み、客観的に調査・分析・評価した本書の意義は大きいと言える。

ただ、私たちが決して忘れてはいけないのは、大川小学校と同じ過ちを犯す可能性のある組織・個人はたくさんあると言うことだ。私自身もそうだ。東日本大震災で死傷者を出さなかった学校でも、たまたま運が良かっただったかもしれない。東日本大震災以降の災害でも、例えば平成26年の西日本豪雨などでも、逃げるべき時に逃げずに亡くなった方が大勢いる。

大なり小なり同じ悲劇が繰り返されていることを忘れてはならない。「自分たちはこのような過ちを犯すわけがない。大川小学校の人たちだけが悪かったんだ。もう学んだし大丈夫なんだ」と思ってはいけないんだ。

組織を率いるリーダー全てが本書を読むことで、世の中が少しづつ良い方向に変わっていくのではないか。そう思った。

2022年7月10日日曜日

書評:「なぜ危機に気づけなかったのか 組織を救うリーダーの問題発見力」

 この本を読むとリスク感度がどうして人によって異なるのか、それはどうやれば養えるのかのヒントを得ることができるだろう。

タイトル:なぜ危機に気づけなかったのか 〜組織を救うリーダーの問題発見力〜
著者:マイケル・A・ロベルト

冒頭で述べたように、本書は、誰よりもいち早く問題に気づいて行動を取ることができた人はどういう人だったのか、それはどういう理由だったのか、そこに共通要素はあるのか、あるとしたらそれはどうやったら標準化できるのか、それをやった事例はどんなものか、などといったことについて書いてある本だ。

例えば、オーストラリアのいくつかの病院で、容態が急変し亡くなる前に、患者の異変にいち早く気づくためにどうしたらいいのかについて取り組みを行なった事例が紹介されている。彼らがやったことはおおよそ3つあり、1つ目としては各病棟に心停止の前兆となりうるトリガー例を貼り付けてあるそうだ。2つ目としては、そうしたトリガーに基づいてアラートをあげた看護師の声に、いち早く処置できる緊急対応チームを立ち上げたそうだ。第3に、看護師が誤った警報を出しても、一切咎めないというルールを徹底したそうだ。なお、緊急対応チームは、火災で言えば、いわば煙の段階に対応・処置するチームであり、消火役のコード・ブルー・チームとは一線を画している。

言い換えれば、本書は昨今よく言われる「バッドニュースファースト」をどうやったら実現できるのか、について解説している本ということもできる。組織では、「なかなか問題が起きていることに気づけない」「気付いたとしても上げようとしてくれない」「あげたとしても情報にフィルターがかかってしまう」など、あらゆるところにインシデント対応上のハードルがあるが、それをどうすれば取り除けるのか、についてたくさんのヒントが書かれている。

組織の再発防止やインシデント管理を洗練させたいのなら、おすすめの一冊だ。


2022年6月5日日曜日

リスク心理学(中谷内一也)を読んで

 「人のリスクの捉え方を知っておくことで、リーダーは、適切なリスクコミュニケーションを取れる可能性が高まる。だからリスク心理学を学ぼう」


著者のメッセージをあえて一言で言うなら、こんな感じだろう。

著者は、人のリスクに関わる行動を、思考を構成するシステム1と2の組み合わせで論ずることができると言う。

システム1が持つ思考の特徴は直情径行型で思ったことを身軽に実行に移すことであり、システム2の特徴は慎重居士で腰が重いことである。じっくりしっかりとものを考えるため、その分、知的な負担は大きい。だから、我々の判断は、リスク認知を含めて知的な負担の小さいシステム1思考に依存しがちになると言う。

だから例えば10万人の飢餓が出ているから助けてほしいというメッセージよりも、そのうちの一人の悲惨な状態にスポットライトを当てた方が、システム1の思考に影響を与えやすく、結果として人は行動に移しやすいというわけだ。

逆にこのこと(システム1が主導権を握りやすいこと)が人の判断に違いや歪みを生む温床になっているとも言える。例えば、能動的な行為か受動的な行為かでも、リスク許容度が異なるようだ。具体的にはスキーや喫煙のような能動的に行う行為は、電力や自然災害のように通常の日常生活を送るだけで関わることになる受動的なハザードに比べて1000倍もの大きなリスクが許容されているとのデータがある。

結果として、本来ならそこまで害がないものを過度に恐れて、「そんなリスクは取れない」という意思決定をしてしまう場面を、私たちは数多く見てきたはずだ。「飛行機に乗って死ぬ確率の方が自動車事故で亡くなる確率よりも低いのに、飛行機に乗るリスクは取りたくない」と言うのも1つの例かもしれない。

そういう時こそ、リーダーは、システム2に頼ることが重要だと著者は言う。つまり統計データを示すなどより客観的に物事を捉え説明することだ。

著者の結論はこうだ。

「組織のリーダーとしてリスク管理を行う人は2つの思考システムの両方を機能させる必要があると言うことです

2022年5月8日日曜日

「土偶」は本当は何のために作られたのか!?

「土偶、が何のために作られたのか、謎を解いた」という話を聞いたら、皆さんはどう思うだろうか。


「え〜。100年以上、専門家が解き明かせなかったものが、そんな簡単にわかるかねぇ」



私は、そういうふうに思いながらも、好奇心を抑えきれず土偶を読むを手に取った。すでにヒントは本のカバーに描かれている。土偶の顔と栗が並べられた写真が掲載されている。

「そうなのか、答えは、土偶は食べ物を偶像化したものということなのか? でも、土偶は他にもたくさん人型をしたものがあったはずだが、それらはどう説明するんだ!?」


そう思いつつ読み進める。1例目はハート型の土偶の話。ハート型と食べ物が結びつくイメージが全くなかったが、著者が提示するある食べ物と並べた写真を見て、正直、驚いた。確かにそっくりだった。しかも、(これは個人的感想だが)ハートは現代でこそ「心」を模したものとされているが、5,000〜6,000年前の縄文人がそんなアナロジー思考ができているハズもない。これも私の拙い知識からの話になるが、実際「RANGE 〜知識の『幅』が最強の武器になる〜」の著書、デイビッド・エプスタイン氏はその本の中で、「知識を持っている教育を受けた人と未開の人との違いは、アナロジー思考ができるかどうかの差になって現れる」といったことを述べていた。いずれにしても、だとしたら、縄文人は何か身近なものを土偶に模写したハズで、その観点でも説得性がある。


「でも、たかだか1つの事例だけで信じてたまるか」


そう思いながら2例目を読む。栗と並ぶ形で表紙の写真に掲載されていた土偶の話だ。確かに似ているかもしれないな。続けて3例目を読む。ここに掲載された写真を見て「あぁ、これは確かにすごい」と思った。

その後は「よくもまぁ、ここまで調べて仮説を立てたものだ」と感心しながら、読み進める。


決定的に唸らされたのは、超有名な恵比寿田土偶の解説とそこに付された写真を見たときだ。「確かに、人間を模した土偶と説明する方がよほど信憑性がない。しかし、こんなものが、どんな食べ物を模したものだというのだ!?」


【「土偶を読む」恵比寿田土偶の写真より】

著者が読者に信じてもらうために、土偶写真の一部を、その食べ物に置き換えた加工写真を掲載している。俄には信じがたいのだが、「加工」に気づかないほど土偶の体の一部とそっくりなのだ。

ここで正解を述べたら面白くないので、これで興味を持った方はぜひ読んでもらいたい。本書の良いところは、著者の主張を裏付けるために、写真や絵がふんだんに掲載されているゆえ、読者自身が、自らの目で検証できる点にある。

ところでなぜ、我々は「土偶を読む」に興奮するのか。読んで、どんなメリットがあるのか。しばらく考え込んだ。自分が出した答えはこうだ。

「とにかくワクワク感が湧いてくる。なぜそんな気持ちになるのかといえば、キリストが生まれたとされる年よりも昔・・・はるか5,000年前の人間がどんな人間だったのかを知ることができるからだ。そして、食べ物等を土偶に模すことによって豊作を願うなんざぁ、今の自分達と何ら変わらない人間だったんじゃないか、と気付かされる。今の我々が5,000年前と全く同じ人間。そう思っただけで、自分が5,000年前にタイムスリップできた気がするのだ。この気持ちは、サピエンス日本上陸 3万年前も大航海を読んだときにもあった。」

この本一冊でそんなワクワク感を得られるのだとしたら、素敵なことじゃないだろうか。


2022年1月1日土曜日

書評:エンパワーメント 社員の力で最高のチームを作る ケン・ブランチャード著

 エンパワーメントとは、『社員がもっているパワーを解き放ち、それを会社の課題や成果を達成するために発揮させること』。チームがどうしたら自律的に機能するのか、エンパワーメントの方法を明快に解説してくれている。


エンパワーメント 社員の力で最高のチームを作る

ケン・ブランチャード著


ステップはシンプル。シンプルだからこそ、その本質を正しく理解して、端折ることなく実行することが求められる。

1.情報を全て共有する
2.境界線を決める
3.セルフマネジメントチームを作る

セルフマネジメントをするために必要な会社の情報を全て包み隠さず伝え、ただしどこまで自由に動いていいのか枠組みを伝え、その中で自律的に考えて動くように促していくのだ。

マーカス・バッキンガムの「最高のリーダー、マネージャーがいつも考えているたった一つのこと」が示すリーダーやマネージャーのあるべき姿を理解しつつ、このエンパワーメントを実践できたら、みんな十分立派なマネジメントになれるだろう。


書評:最高のリーダー、マネージャーがいつも考えているたった一つのこと マーカス・バッキンガム

 マネージャーとリーダーという軸に分けて、どうすれば優れたリーダーやマネージャーになれるかについて語っている本。


最高のリーダー、マネージャーがいつも考えているたった一つのこと

マーカス・バッキンガム


本書から、それぞれの定義や役割らしきものを抽出すると次のようにまとめることができる。そしてこれを知るだけで、自分がどうたち振る舞うべきかが見えてくる。

マネージャーは、部下の才能を業績に結びつける1番の方法を見つけ出す人を言う。マネージャーが企業のために働く唯一の道は、まず部下のために働くことだと本能的に理解している。そして、それは必ずしも短所をなくすことばかりが部下のためになるわけではないということも理解している。

リーダーは、優れたリーダーは、より良い未来に向けて人々を一致団結させる人を言う。リーダーは決して現状に満足しない。より良い未来が見えるからだ。リーダーが未来像を描くのは、そうせずには居られないからだ。未来があまりにもありありと鮮明にみえ、それが頭から離れないからだ。リーダーシップの鍵はより良い未来を思いあげくだけでなく、それを実現させるのは自分しかいないと、己の全存在をかけて信じることにある。現状をより良いものに変える責任を引き受けるのは自分しかないないと信じるのだ。

すごくシンプルですごくわかりやすく道筋を示してくれる本だ。


2021年10月10日日曜日

書評:米中対立 アメリカの戦略転換と分断される世界

今の時代、どうしても中国の動向は気になる。そんなわけで先日は、「ラスト・エンペラー習近平」を読んだが、今回は雑誌の紹介記事を見て次の本を読んだ。

米中対立 アメリカの戦略転換と分断される世界 

著者:佐橋 亮


本書は、米中のこれまでと現在の関係性を特に米国視点で追いかけてみることで、今後の米中対立の行方を占う本だ。
政治・社会・経済の話は、情報量が多いせいもあって、いまいち頭に整理されて入ってこないので、本書のように「米国視点で米中関係性を観察してみる」というアプローチは、意外に新鮮でありがたかった。

実際、時系列に米中の関係性を読み進めていくと、「あぁ、確かに2000年初頭はこんな感じだったな」と記憶が蘇ってくる。時系列に追いかけるという行為があまりに面白かったので、読了後に、自分でも本を読みながら、とりわけ関係性に変化がで始めた辺りを中心に、主なイベントを並べてみた。

1997 中国を孤立化させることはかえって危険という判断から 関与政策へ
1998 3つのノー(台湾独立、2つの中国という解決法、台湾の国連加盟等のいずれをも支持しない)を強調
2000 「(中国は)戦略的パートナーではなく戦略的競争相手だ」という発言
2003 台湾の現状を変えようとする動きに米国反発。米台の関係関係
2005 中国人民元の割安感に対して不満の強まり
2006 中国への警戒感がより明確に
2008 リーマンショック
2009 中国が東シナ海、南シナ海で高圧的な振る舞い。反発はするもリーマンショック後で、中国にアメリカ政府公債の買い支えてほしいと発言
2010 米国がピボット戦略でより南シナ海問題を多く取り上げ。中国反発
2011 中国の軍拡や地域戦略の狙いに懸念
2012 陳光誠氏が米国亡命を申請。米中関係悪化。中国の人権問題も指摘
2013 中国が突如東シナ海にADIZを設定。バイデン副大統領狼狽
2016 地域の安定性を揺るがすものは台頭しつつある中国との認識が広く共有
2017 「国家安全保障戦略」にて中国を米国への挑戦者として明言。台湾防衛も。
2018 国家主席の任期が撤廃。ウイグル人権問題浮上。米国の警戒感が高まる
2019 米国国防授権法成立。米中の通商協議決裂。華為への輸出管理強化
2020 新型コロナ(COVID-19)発生で米中の関係が悪化
2021 中東欧諸国も中国に失望。人権侵害に米英カナダが制裁措置。中国は対抗
※本書を参考に自分なりにまとめた内容

ここからは一部私見だが、上記のように並べて眺めてみると、確かにわかってくることがある。例えば、私は次のような印象を持った。
  • アメリカは「安定第一」で既存の状況を変えない戦略をとっている
  • 中国は自分の支配領域を決め、そこに入ってくるなと思っている
  • 中国は台湾はもちろん、東シナ海は自分達の領域だと感じている
  • 中国は上記考えを邪魔する者には徹底抗戦する
  • 中国は目的達成のためならかなりアグレッシブな態度をとる
  • 中国は他国が反抗すればメンツを重んじる国ゆえ対抗措置を必ずとる
上記に加え、著者の指摘からなるほどなと感じたのは、こうした中国の動きに対して日米豪印4か国連携のクアッドのような協力体制が確立されてきたが、決して、オーストラリアや他の国々がアメリカとの関係性こそが第一と考えているわけでもないことだ。やはりどの国も自国の権益を守るために、その延長線上にクアッドがあるだけで、利用できる範囲で利用してやろうという意思が見え隠れしている。

欧州もそうだ。ただし、今は、中国が先のような自分達の目的達成のためなら、手段を選ばないアプローチをとっているため、強い嫌悪感を抱かれているのは確かではあるが。

ところで、こうした中国のアグレッシブな姿勢は、今後も無くなりそうもないという考えを補強するかのような記事を、最近、たまたま目にした。

「辛亥革命110周年の記念式典で、習近平国家主席が『中台統一を必ず実現する』演説をした」(朝日新聞2021/10/10の朝刊より)

こういうニュースを見るにつけ、目的達成のためならある意味手段を選ばず強硬に突き進む中国のスタイルは今後も継続しそうな雰囲気がある。武力で威嚇しつつ、経済的な取り込みや、政治的な手段などあらゆるアプローチを使って、台湾を取り込んでいこうとするのではないだろうか。そうなれば当然、米中は対立するし、制裁措置も激化しかねない。ちなみに「ラストエンペラー・習近平」では、中国は「戦狼外交」を続けているし、やめられそうもない(だからそのまま行けば破滅する)と指摘している。

だいぶ脱線したが、まぁ、要するにこうしたいろいろなことを考えさせてくれるところが本書の魅力だ。ただ漠然と「米中の関係性は今後こうなっていく」とか「今こんなことが起きている」といった定点観測の専門家の話を聞く前に、このように米中の関係性をストーリーとしてインプットしておくことは間違いなく有益だろう。今後の世界においてこの2国の動向に目が離せないのだから、それをする重要性はとても大きい。


2021年9月19日日曜日

書評:ソニーの半導体の奇跡

期待していた以上の面白さだった。

なぜ、面白いと思ったのか。理由はおそらく次の2点だ。1つは、この本一冊にビジネスの辛さやほろ苦さ、悲しみや喜び、成功や失敗のポイントにつながる生の物語が凝縮されているからだと思う。やっぱりリアルな話は何ものにも変え難い。もう1つは、経営理念とかビジョンとかそういう抽象的な表現では決して伝わらないソニーの文化や気質というものを知ることができたからだと思う。本書を通じて、ソニーらしさが何たるかを知った。

ソニー半導体の奇跡―お荷物集団の逆転劇 著者:斎藤 端(東洋経済)

では、成功や失敗のポイントにつながる生の物語とは具体的に何か。いくつか例を挙げておきたい。

の1)スーパーマンが活躍することを想定した組織運営はいずれ限界が来る


「(出井元社長は)就任当初の電話、すべての事業ユニット隅々まで理解し掌握しないと自信を持って的確な方針を支持できないと感じていたようです。報告を事細かに機器導入予定の製品デザインをチェックし研究開発者の中に埋もれている人はいないか話を聞きに行きました。そこで見出した近藤哲次郎と言う異能技術者を抜擢してきたり、はたまた世界のスター経営者のところへ出かけていては提携の話をまとめて、とまさにスーパーマンのような活躍でした。まさにスーパーマンのような活躍でした。彼のようなやり方は例えて言うならマラソンを100メートル走の全速力で走るようなものです。このままでは会社に殺されるよ。出井がため息をついていたのを何度か目にしたことがあります」(本書より)

私自身、「自分が支えなければ」という思いで、ついつい無理をして頑張ってしまうことが多いのだが、経験上、それが決して長続きしないことがわかっている。それがあの巨人ソニーでも起きていたのかと思うと、無視してはいけない事柄だなと改めて思う。そうそう、以前、国境なき医師団日本前会長の黒崎氏がアフリカの

If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.
(早く結果を出したければ一人でやれ。より大きな目標を実現するために力を合わせよう)

という諺を紹介していたのだが、それに通ずるものもある。その意味でも、この諺、やっぱりいいですよね。

その2)本番環境の検証なしの変更はどんなものでも命取りになる
「材料メーカーが無断で、軟化剤として要素化合物を混入させていたのです。・・・(中略)・・・(材料メーカーは)とにかく工程をもとに戻したらしいのですが、ここでソニーも痛恨のミスを犯します。要素が腐食するガスを出すには水分が必要です。当時、ソニーが生産するCCDイメージセンサーのパッケージにはプラスチックとセラミックの2種類がありました。プラスチックは水分を通す一方で、セラミックは水を全く通しません。それならと言うことで、プラスチックパッケージの製品は元の樹脂に戻す、ただしセラミックパッケージの製品は要素が入った樹脂のままでも問題ないだろう、変更の必要なし、と言う判断をしてしまったのです。・・・(中略)・・・何かあればその原因を追求できるようにするとともに、不要な変更はご法度というのが品質管理の原則です。ただプロセスは自社内だけに閉じてないこともあります。セラミックパッケージのケースでは、ソニーが自社プロセスでのみ判断を行い「問題は起きれない」と接触に判断したことが、後に膨大な改修費用を生む原因となってしまったのです。全体のプロセスを確認するまでは、検証が済んでいる状態に全て戻すのが原則だったのかもしれません(本書より)

「変更はどんなものでも命取りになる」という趣旨は、誰しもなんとなく理解できる。しかしそれが、どの程度のレベルの変更を言っているのかといえば、人によってズレがあると思う。私もさすがにここまでの厳しさが求められるとは思わなかった。失敗した当人にとってはほろ苦い経験だろうが、本当にタメになった。

その3)現場の言葉を鵜呑みにしないこと
「東日本大震災後、「どうして電気が2時間程度止まるだけで、厚木事業所すべてを閉めなければいけないのですか。どうして全員が帰宅する必要があるのですか」と、よく話を聞いてみると、どうやら空調が止まることで社員の健康状態が懸念されること、照明が消えてしまうことを問題視していることがわかりました。2時間の空調ストップでみんなが息苦しくなるはずもなく、窓を開ければ作業可能でした」(本書より)

「現場のことは現場がよくわかっている」とはよく言ったもの。だが、イコール、現場から上がってきた報告をそのまま鵜呑みにすればいいわけではない、ということがわかる事例だと思う。情報は伝えればといいというものではなく、「何があったのか。どうすべきだと思うのか。なぜそう思ったのか」という深く突っ込んだコミュニケーションが取れるかどうかが大切なのだと思った。


・・・とまぁ、本書には、成功や失敗のポイントにつながる生の物語はこんな感じでたくさん登場する。だからこそ、「次は何が起こる?」「次は何が起こった?」といった感じで、私のページを捲る手はなかなか止まらなかった。


ところで、少し脱線するが、企業のBCP、特にサプライチェーンリスクを考える上でのヒントが得られたことも私にはありがたかった。本書では、2011年に東日本大震災に直面した時のことを次のように語っている。

「東日本大震災の影響で資材が日本で逼迫しているのなら、今まで純度の問題で使用不可とされていた韓国製資材を見直すことになりました。すると半導体産業で韓国は日本を超えており、スペック上の問題は無いことがわかりました。一部資材は供給先の選択肢を広げる結果となり、タブーは伝説だったと震災が教えてくれたのです」(本書より)

このクダリを読んで、あ!っと思ったのだ。というのも、ちょうどこのクダリを読む数日前に、ダイキン工業社長が日経ビジネスのインタビュー記事で次のように答えていたからだ。

「半導体は空調の機種ごとに仕様が異なりますが、複数機種で特定の半導体を使い回せるかを社内で調べさせたところ、代替品でも対応できることがわかりました。世界の当社の生産拠点にある半導体を、必要な地域に一気に供給する対応も取りました。おかげで(コロナ禍でも)「弾切れ」を起こさなかった」(日経ビジネス2021/09/20号 編集長インタビューより)

両組織に共通して言えるのは、「それは無理だ。あり得ない」と思い込んでいたものが、危機に直面して、抜け道を改めて真剣に考えざるを得なくなった際に「実はそれは無理じゃなかった」という発見ができたことである。危機というのはピンチをもたらすが、その切迫感がチャンスを生み出すこともあるのだな、と思った。同時に、「既存の常識を徹底的に疑えるかどうか」ということが、BCPの有効性に大きな影響を与えるポイントになるとも感じた。

さて、ちょっと話は逸れたが、最後に、そもそもなぜこの本を手に取ったのかについて触れて締めたいと思う。手に取った理由は単純で「半導体」というキーワードがタイトルについていたからだ。昨今、何かと注目の的になっている半導体の理解が進むかもしれない、と思ったのだ。きっかけはそうだったが、すでに述べてきた通り、手に取って良かったと思っている。やはりビジネスの世界の酸いも甘いも知ることができるということと、ソニーならではの文化を知ることができる、というのは魅力的である。ただし、半導体・・・は、そこまでの理解にはつながらなかったかなw



2021年9月18日土曜日

書評:ポジティブの教科書

 「朝目覚めたら『起きる』という行為をまず楽しむ。それから顔を洗って、歯を磨いて、髪を整えるといった一連の行動すべてに意識を集中して、楽しんでいくんです。」

NewsPicksの記事で、武田双雲氏のインタビュー記事を見て、「ヤバイ。この人、面白い!」と思ったのが本書を買ったきっかけ。

(参考)インタビュー記事
https://newspicks.com/news/4224963/body/

ポジティブの教科書
著者:武田双雲

早速、読んだ。冒頭のクダリほど、インパクトのある内容をもらえたわけではないが、まぁまぁ、期待値どおりの本だった。氏のポジティブシンキングを支える哲学は(本書でも述べられているが)おそらく次の3つである。

  • 幸せを与えること
  • 幸せであることに「気づくこと」
  • 幸せな言葉を発し、幸せな態度をとること

特に一点目は、アダム・グラント氏の本「GIVE AND TAKE -与える人こそ成功する時代」に通ずるものがある。これだけ様々な実証者がいるのだから、(誤解を恐れずに言えば)「正解」であるに違いない。

本書は概念的な話にとどまらず、テクニック的な話も書かれている。例えば、「嫉妬をした時の対処方法」について。武田氏は、「他人の成功は自分にとってのマイナスではないはず。だから、嫉妬している相手の幸せや成功を願うのです。」と述べていル。

また、「イライラすることへの対処方法」について。「大事なことはイライラしないことじゃなく、イライラを溜めない、イライラを増やさないイライラを長引かせないこと」だと述べる。ちなみに私が「なるほど」と思ったのは、「日常でよくイライラしてしまう事象を書き出してみてください」というアドバイス。実際、私も書き出してみたが、いわゆる自分の「イライラポイント」というものがほぼほぼ決まっているということに気がついた。こうやって書き出して観察してみることで、じゃぁ、こういうイライラポイントに直面した時にどうしたらイライラしないで済むか・・・そうしたことを客観的に考えることができるな、と感じた。

まぁ、ポジティブシンキングの本は文字通り、ゴマンとあるが、この本はこの本でなかなか読みやすく面白かった。

それにしてもなぁ・・・。この類の本はこれまでにもう何冊も読んでいるはずなのに、時間が経つと、忘れてしまうようだ。先にあげた「ギブアンドテイク」の本のこともすっかり忘れていた。似たような本を読んだことがあっても、刷り込みという意味で、手を出すのもありなのかもしれない。

明日からもう一度気を引き締め直して生きてみよう。

2021年8月29日日曜日

書評:ラスト・エンペラー 習近平

 「あの国では現場の指揮官の皆が野望を抱いており、『こうすれば習近平が喜ぶだろう』と考え、率先して動く傾向がある。むしろ、上からの指令を待つことのほうが少ないかもしれない」(月刊VOICE2021.9)

エドワード・ルトワック氏のこの中国描写がスっと腹落ちした。その瞬間、氏のこの本を読もうと決めた。

ラストエンペラー習近平 (文春新書)


この著者、エドワード・ルトワック氏とは何者か。本書の経歴をそのまま引用すると次のようなものだ。米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問。戦略家、歴史家、経済学者、国防アドバイザー。1942年、ルーマニアのトランシルヴァニア地方のアラド生まれ。

本書は、中国のこれまでの行動と考え方に基づき、今後の中国がどうなるかを考察した本だ。中国のこれまでをチャイナx.0と言う表現を使って、4段階に大きく分けて解説している。その概要は以下の通りである。

  • チャイナ1.0
    • 平和的台頭
  • チャイナ2.0
    • 対外強行路線。中国の外交を大いに後退させた悪手だった
  • チャイナ3.0
    • 選択的攻撃。「抵抗のないところ(フィリピン)には攻撃を続ける」は、アメリカからの外交的な反撃を受け、早くも2015年の段階で戦略として破綻していった
  • チャイナ4.0
    • 全方位強行路線(戦狼外交であり、チャイナ2.0の劣化版)


さて、では著者の捉える中国とはどんなものか。著者の次の表現がわかりやすい。

「桂氏の釈放を求めるスェーデン政府を中国の駐スェーデン大使が『48キロ級のボクサーが、86キロ級のボクサーに挑み続けている』と揶揄」

「北京の人々は他国の安全を脅かし、その国民の命を奪っても、相手が経済、すなわち金の力に平伏すだろうと考えている」

「中国は現在、国際社会で守られているルールに縛られることなく、全て自分で決めた『国内法』によって行動し、他の国がそれに従うことを求めている」


これらを読んで私が頭の中に思い浮かべたのは、独りよがりのジャイアン(笑)。いや、これは私見だし、ジャイアンに対しては大変失礼な話かもしれない(が、それは容赦願いたい)。著者はこのジャアン的思想こそが、中国を破滅に向かわせるという。それが、この本のタイトルに込められた意味でもある。

そのロジックはどう成り立つのか。「いわゆる戦狼外交で、相手を屈服させることなどできないから」というのがその理由である。例えていうなら、いくら筋力ムキムキのジャイアンになっても、それで一致団結した相手をねじ伏せることなどできない、と言うのだ。ちなみに、ここで言う筋肉ムキムキ力を海軍力、一致団結した力を海洋力という言葉で著者は表現している。

しかも、ジャイアンには誰かと対等に付き合うという考えはない。著者は言う。「中国の外交は、強者が弱者からの朝貢を受けるという不平等な関係を常に前提としてきた。対等な他者として認めようとはしなかった」と。つまり、その姿勢をとり続ける限り、習近平はラスト・エンペラーになると言うわけだ。

有益な本であることに間違いはないが、一点、注意はしておきたい。そもそも一国を理解するのに、本一冊読めばOKなんてことはない。説得力はあるが、あくまでも1つの捉え方に過ぎないと言うことだ。

だが、これまでとこれからの中国を理解する上でヒントにはなる。少なくとも、今後の中国のニュースを見る目が変わる。ニュースを見て、彼らがまだ「戦狼外交」を続けているのか、それゆえ破滅に向かっているのか、それによって我々がどういう行動を取るべきか考えることができる。

たとえば今QUAD(日本、米国、オーストラリア、インドの首脳や外相による安全保障や経済を協議する枠組み)と言うキーワードがたまにニュース上で飛び交うが、それも大きな意味を持つものとして見えてくる。

引き続き、色々な知識を増やして中国や他国の理解を深められたらなと思う。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...