2014年6月29日日曜日

書評: 全員で稼ぐ組織 ~JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書~

今回は、経営の神様とも言われる稲森和夫京セラ名誉会長が編み出した「アメーバ経営」に関する本である。 

全員で稼ぐ組織 ~JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書~
著者:森田直行
発行元:日経BP社

※レビュープラスさまからの献本です(但し、書評をするにあたって変な気遣いはしてません)

稲森会長はどうやってJALにアメーバ経営を導入したのか? なぜアメーバ経営でJALがよみがえったのか? アメーバ経営は何がそんなにすごいのか? どうやったらアメーバ経営を導入できるのか?・・・こういった数々の疑問に答えてくれる本だ。ちなみに、著者は稲森和夫氏自身ではない。「アメーバ経営」の仕組みを京セラで確立・推進し、やがては「アメーバ経営」のコンサルティング会社を立ち上げた森田直行氏が書いた本である。森田直行氏は、JALを再生する際に稲森氏に直に招聘され、「アメーバ経営」導入の立役者になった人物でもある。

さて、そんな森田氏が書いた本・・・その特徴は、なんと言ってもJALの事例だろう。JALにおいて組織体制がどう変わったのか、管理会計をどのように変えたのか・・・そして組織文化がどうかわったのか・・・具体例を持って解説してくれている。やはり何かを学ぶなら具体例は必要不可欠だ。その意味で、本書はありがたい。勉強になったという観点で1つ例を挙げるとすれば、組織文化に関してだ。組織文化に関しては、京セラフィロソフィーの話が登場する。京セラフィロソフィーとは、著者の言葉を借りて言うと「人間として普遍的に正しい判断基準」をわかりやすい言葉でかみ砕いて示したものである。管理会計になぜ、京セラフィロソフィーが登場するのか・・・一瞬、不思議な感じがしたが、本書を読んで、フィロソフィーとアメーバ経営は切り離せいないものであるということが良くわかった。アメーバ経営は、最小単位(5~10人程度)で管理会計を行う仕組みだ。つまり、どれだけ収益に貢献したかを、チーム単位で見える化する仕組みだ。この仕組みは非の打ち所のないように見えるが、チーム間の競争を生み、殺伐とした雰囲気を醸成する可能性を持つ。それを補うのがフィロソフィーというわけだ。京セラのホームページを見ると、これでもかこれでもかというくらいフィロソフィーの話が全面に出てくるのがやたらと疑問だったのだが、その訳をようやく理解できた。

で、本書を読めば、「アメーバ経営」を導入できるようになるか?という疑問についてだが、残念ながら、答えは否だ。タイトルにあるように「アメーバ経営」の教科書ではあるが、導入ガイドではない。教科書と言っても入門書である。ただし、組織論や会計論の話に踏み込む必要があるわけで、本書の中身をしっかりと頭に叩き込むだけでも一苦労だ。あわよくばいいとこ取りをしてしまえ・・・くらいな気持ちで、本書を手に取ったのだが、部分取りできるようなものではない。そもそも、全てが組み合わさっての「アメーバ経営」である。かといって、仕組み全体を導入しようと思うと、生半可な準備やノウハウだけではできなそうだ。

ところで、本書を読んで一つだけ、気になった点がある。それは果たして本当に「アメーバ経営」はどの組織にも適用できるのか、という疑問だ。「アメーバ経営」は京セラ・・・すなわち、製造業で生まれた仕組みだ。だから、著者自身も認めているように製造業での事例は多いようだ。確かに本書では、必ずしも製造業にとどまらないことを証明する目的で、病院での導入成功事例を紹介している。しかし、病院は一般的なサービス業とはやや異なる。著者は、決して、アメーバ経営は製造業に特化したモノではない・・・と息巻くが、やはり、まだまだ製造業という枠から完全に脱皮しきれていないのではないか・・・という印象を受けた。できることなら、今後ぜひとも、サービス業での成功事例を語る本を出して欲しい。

まとめよう。アメーバ経営は経営手法の1つと言える。本書は、その教科書だ。色々な経営手法を知って、自分の会社のあり方を考える際の参考にできるという意味では、製造業の経営者はもちろんのこと、経営者の立場にある人なら、読んでおいて損はないはずだ。もちろん、人事評価をつかさどる人事部門の人も同様だ。少なくとも、2年であのJALを立て直した実績を持つ手法なのだから。


2014年6月21日土曜日

書評: 企画は、ひと言。

正直、読書疲れでかなりご無沙汰してました。そろそろ、ゆっくりと再開しようと思います。

 さて、久方ぶりに紹介する本は...

企画は、ひと言。 
著者:石田章洋(放送作家)
出版社:日本能率協会マネジメントセンター



良い企画を生み出せずに困っている人に向けた本。著者の石田章洋氏は、「世界ふしぎ発見!」や「TVチャンピオン」など数々の有名番組を手がけてきた放送作家だ。つまり、氏の成功体験を・・・氏が極めた極意を・・・氏の頭の中に入っているノウハウを・・・我々読者が読める形に落とし込んでくれたのだ。

さすが、「企画は、ひと言。」と主張するだけのことはある。著者のメッセージは非常にシンプルだ。決して、5つの要素とか、3つのポイントとか・・・ちょっとした数にまとめられているというわけではなく・・・いや、それ以上にシンプルだ。メッセージはたった一つ。

「企画は、ひと言で言えるものでなければならない」

と、それだけだ。だから、本書の話の中心は、全てシンプルなセンテンスをどうやって創出するか、である。「まず、企画書の構成を学ぼう」とか、「企画の目的から整理しよう?」とか、「内容の骨子を作ろう?」とか・・・そんな平凡な感じの本ではない。面白いひと言企画を作れさえすれば、内容は後から展開できる、という考えだ。たとえば、あの有名なTVチャンピオンの番組企画をとおすときのひと言は「あらゆるジャンルの日本一を決める番組!」というものだったそうだが、なるほど、確かにそのひと言を聞くだけで、イメージが沸き、面白そう!という気になれるし、後の細かい話を聞かなくても、7割は賛成!という気にさせられる。

ところで、企画を生み出す・・・という以上は、どんなに単純であったとしても、そこにはやはり発想力が求められる。本書はそうしたテクニックについても具体的に解説してくれている。テレビや新聞をうまく活用する話。外を歩く話、逆転の発想・・・などなど。このあたりについて、興味深いな・・・と感じたのは、発想力について同様に説いた小山薫堂氏の「もったいない主義」に通ずるところが多々あったという発見だ。外を出歩くとか、逆転の発想とか・・・数々の成功者が口をそろえて説くわけだから、本当にその通りなのだろうと、心底思うのだ。

さて、やや横道にそれたが、企画書を書く人、提案書を書く人、プレゼン資料を作る人・・・など、なにか人に訴えかける資料を作る職業にある人なら、読む価値はあるだろう。「いやいや、もう提案書なんぞ、何枚も書いてるし、今更シンプルな話を聞かされても・・・」と思った人がいるとしたら・・・その人こそ読むべきだ。なぜなら、私がそうだったからだ。熟練者ほど、手の込んだ資料を作りがちで、ひと言で伝える重要性を見失いがちではないか・・・とそう思うのだ。


【類書】
もったいない主義(小山薫堂著)

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...