2016年12月3日土曜日

書評: 生産性 〜マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

『成果が出せない時に、“成果が出せていないから、せめて頑張る姿勢だけでも示さないと”と考える人がいるんです。たとえば10の成果が求められているのに、スキルが足りなくて2しか出せていないとします。・・・(中略)・・・そういうときに、「どう働き方を変えれば、もしくは、どんなスキルを習得すれば、同じ8時間で成果を2から10に上げられるか」と考えるのではなく、「成果が2しかできていなくて申し訳ない。せめて1日13時間働いて、頑張っていることを示そう」と考えてしまう人がいるってことです。たぶんそれまでの人生で、「頑張るコト」自体が評価されると刷り込まれてしまったんでしょう。』
HBR 伊賀泰代氏に聞く「働き方改革」の本質・・・マッキンゼーは、長時間労働じゃないですか?・・・より)

このコメントを読んで、すぐに伊賀泰代氏の次の本を買った。

生産性 〜マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの~
著者: 伊賀泰代
出版社: ダイヤモンド社



■誰もが悩む人材採用・育成の真の課題とは
著者の伊賀泰代氏は、あのマッキンゼーで17年間人事を担当していた人である。そんな著者が、人材採用・人材育成において企業が直面している真の課題は何なのか? それを明確に示しつつ、解決方法についてヒントを提示してくれている。そして、彼女が紐解くヒントの軸がまさに・・・“生産性“・・・。生産性という観点でモノゴトをとらえたとき、果たして従来の取り組み方が妥当なのか? たとえば、採用。伊賀氏は言う。

『生産性の観点からみれば、こういった“とにかく応募者を増やす”方法は、最も避けるべき方策です。なのになぜ、多くの企業がそういう方向に走ってしまうのか。理由はふたつです。まずは“採用人数を増やすためには、応募人数を増やすしかない”と思い込んでいること。つまり、生産性を上げるという発想がないことです。』(生産性より)

頭の良い人には至極当たり前の問題提起だが、私には新鮮な提起だった。この軸を与えられただけで、今まで見えていなかった課題がはっきりと浮かび上がってくる。

■優秀企業の人事術とは
本書の特徴は言うまでもなく、マッキンゼー出身者が書いた本だということ。ただし、昨今、マッキンゼー出身者が書いた本は溢れている。たとえば、「イシューからはじめよ(安宅和人)」「マッキンゼー流入者1年目の問題解決の教科書(大嶋 祥誉)」「マッキンゼー流図解の技術ワークブック」「不格好経営(南場智子)」など・・・私も読んだ。そんな中にあって、本書の特徴を挙げるとすれば、それはコンサルタントではなく、マッキンゼーで人事を担当していた人が書いたという事実である。それは新鮮な目線だ。

ただし、このように書くと、こう思う人がいるに違いない。ブランド力もあって、“超”のつくエリートが勝手に集まってくるマッキンゼーの人事経験が、我々のような一般的な組織に役立つのか?と。私もそう思いながら読んだ。だが、それは杞憂だ。なぜなら、本書で指摘されたポイントは、中小企業である私の会社にもすべて当てはまったからだ。

■果たして役立つ内容が書いてあるのか?
コンサルの書いた本は特に、答えを教えずヒントをほのめかして終わる本が多い。なぜなら、最終的には自分の商売につなげるのが目的だからだ。そう、マーケティングが主目的だからだ。本書はどうか? 私にはドストライクの本だった・・・、それが答えである。その一部を紹介すると・・・
  • 伸びしろが違う人にどう接するべきなのか?
  • 会議の多さをどう減らすべきなのか?
  • 働けば評価される評価をどう見直すべきなのか?
  • 目標難易度に関係なく達成すれば評価されてしまうという課題をどう見直すべきなのか?
  • 個々人の課題をどうやって見える化するのか?
などなど、誰もが知りたい問いかけが多い。こうした課題解決のヒントを得ることができるのだ。

■成長に組織体制の整備がおいつていない会社の管理部やマネジメント層の人に
多分、私にドストライクだったということは、私の会社のような会社に勤めている人・・・中小企業で、成長しつつあるが、その成長に会社の管理体制の整備が追いついていないような会社の・・・管理部やマネジメント層の人に向いているのではなかろうか。

買ってよかった・・・と心から強く思えた本である。


【マッキンゼーつながりという観点での類書】
「イシューからはじめよ(安宅和人)」
「マッキンゼー流入者1年目の問題解決の教科書(大嶋 祥誉)」
「マッキンゼー流図解の技術ワークブック」
「不格好経営(南場智子)」

2016年11月23日水曜日

書評: なんでお店が儲からないのか僕が解決する

久しぶりの一冊・・・。最近、アマゾンプライムにハマりすぎて、本から縁遠くなっている。そんな中、読んだ一冊がこれだ。

なんでお店が儲からないのか僕が解決する
著者: 堀江貴文
出版社:ぴあ



さてさて、なぜこの本を読んだのか? ホリエモンが書いたし、なんとなく読んだ・・・・・・ではなく、そこには実は明確な理由がある。端的に言えば、「飲食業が苦しんでいる理由」を知りたかったからだ。仕事がら、飲食を生業にするクライアントと接する機会が多いためだ。

なお、私が持っている“苦しんでいる”というイメージは次のようなものだ。飲食業界全体通じて、お客は値段に敏感・・・という印象。だから、多くのレストランオーナーが安さ・・・で戦いを挑んでいる。そこで経営者は、たとえばファミレスなどであれば、限りなく合理化をすすめてコスト削減を行っている。人件費が一番お金がかかると言われる業界だから、ウェイターやウェイトレスは、最小人数に抑え、賃金も決して高いとはいえない。そういう環境では、従業員に対して満足度の高いケアができないし、精神的にもモチベーションが上がらない。こうしてブラック企業の俎上ができあがっていく・・・。こんな状態では、やれコンプライアンス教育だ、やれ多少の賃上げだ、と気合を入れたところで、焼け石に水だ。

だから私は常々・・・そもそも満足のいく待遇を与えられない環境ができあがっていること自体が・・・そうなってしまっているビジネスモデル自体が問題なのではないか・・・と感じていた。だとしたら、どうすればいいのか・・・そんなことをぼんやりと考えていたときに、この本に出会ったわけなのだ。

実際に、本書ではホリエモンも次のように述べている。

『値段を抑えたいなら、それなりのビジネスモデルをきちんと考えること。人件費や材料費を抑えるのではなく、適切な情報を集め、機械化やロボット化、マニュアル化を含めた賢い工夫で合理化をすすめるべきだ。従業員であれ、お客さんであれ、もちろん店主であれ、誰かが不幸になるのは成功するビジネスとは言えないだろう』(本書より)

そんな本書だが、あらためて何が書かれているかというと、レストラン経営者の悩みについて、食事のほぼすべてを外食で済ませるというホリエモン自らの豊富な経験則をもとに、レストラン経営における問題を指摘し、助言を提示しているものである。前半は、ホリエモンの考察が、そして、後半は、レストラン経営者からの質問に一問一答形式で回答するQ&A集となっている。

本書を読んで納得のいく答えが得られたか?ワウファクター(驚きの要素)はなかったが・・・そもそもそんなものがある世界ではないだろうから、そこに贅沢を求めない・・・が、個人的には、自分の考えの裏付けや多少なりと解決のヒントを得ることができたのでOKだ。ただ、始めから終わりまで、全て似たような内容ではある。特に後半のQ&A集を読むとわかるが、レストランオーナーの悩みは、みんな同じワナに陥っているだけなのかもしれない。ホリエモンは語る。

『ブラックな労働環境を生んでいるのは、もっと古い世代と、そこに続く職人の世界だと僕は考えている。せっかく自由な世界にありながら、自分たちで世界を狭くしている』(本書より)

『モラルの低いお店や会社だと、従業員の賃金が安くてブラック家することもある。だからといって、規制すれば解決する問題じゃない。モラルや社会的地位を高めれば解決するだろう。それよりも「なんでもあり」な状況で、面白い業態を考えついて実行したり、斬新なメニューを出したりするほうが絶対に楽しい世界になる。』(本書より)

答えは割とシンプルだが、そのシンプルなことが、できていないだけなのだろう。ホリエモンにしたら、こうした課題があまりにもはっきり見えすぎて・・・それでいてなかなか解決されない世の中に一石を投じたかった・・・とにかく自分がさらにおいしい食事にありつきたいのだ、みんな頼むよ・・・と、そんなところだろうか。


2016年8月25日木曜日

書評: 新編 日本の面影 - Glimpses of Unfamiliar Japan -

時は1890年。自分が生まれる以前の世界がどうだったか知りたい。そう思う人は少なくないはずだ。

だが、当時のことを知ろうにも、今のように便利なビデオがない。かろうじて写真があるが、シロクロだし、数も多くはない。当時の風景を描いた絵画からでも当時の雰囲気を読み取ろうか?

いや、待てよ。当時の日本がどうだったかを克明に描いた情景描写...これがあればそこから読み取れるものも多いのではなかろうか。でも、そんな本あるのか? いや、それがあったのだ。

⚫️昔の日本を語るのにこれ以上ないふさわしい人物とは
その本を知ったキッカケはNHK番組「100分 de 名著」だった。当時の日本を愛し、当時の日本の特徴や文化を知り尽くし、当時の情景を克明に描いた人がいる。知る人ぞ知る、小泉八雲こと、ラフカディオ・ハーンだ。ラフカディオ・ハーン(1850-1904)は、ギリシャ生まれのアイルランド育ち、アメリカで作家として活躍した後、来日。そのまま日本に帰化した人物だ。

当時の日本について... 彼のような文章を書くことに長けた人物が...彼のように外の世界を知っている人物が、日本を愛してやまなかった人物が、日本を描く...。当時の日本を描くのに、これ以上ふさわしい人物はいないのではないか。

⚫️1890年の日本を美しく詳しく描いた本
小泉八雲ことラフカディオ・ハーンは、アメリカの新聞記者として1890年に来日。来日後に新聞記者としての契約を破棄し、日本で英語教師として教鞭をとるようになった。翌年結婚。松江・熊本・神戸・東京と居を移したが、本書はその初めの頃である1890年・・・島根県松江市に住み始めた頃からその地を去ることになる時期までの日本を描いている。

そこには期待どおり、私の全く知らない世界が描かれていた。100年以上前のこととは言え、見聞きして知っているはずの日本。だが、今の日本とまるで違うと心の底から思った。

中でも、びっくりしたのは、いわゆる「日本人の微笑」。「日本人は何かあると曖昧な微笑を返すことが多い」とは良く聞く話。確かに日本人はなんとなく曖昧な笑顔で反応することが多いよなと思っていたが、私にしてみれば「言葉の分からない外国人に話しかけられて、反応の返しようがないときに、とりあえず笑ってみる・・・」そんな感じ・・・そう思っていた。だが、本当の「日本人の微笑」とはそういう次元の物ではないらしい。その場でどんなに理不尽な扱いを受けようとも微笑を返す...ハーンが描く、幾つかの実例を読んで、「まじか!?」と唸らざるを得なかった。

『ある日のこと、私が馬を駆って横浜の山の手から降りてくると、空の人力車が一台、曲がり角の左右間違った側を登ってくるのに気がついた。手綱を引いたところで間に合わなかったし、手綱を引こうともしなかった。特に危険だとも思わなかったからね。ただ私は、日本語で、“道の反対側に寄れ!”と怒鳴ったんです。・・・(中略)・・・あのときの馬の速度では、衝突をさける余裕などなかったからね。そして次の瞬間には、車の一方の梶棒が私の馬の方にぶつかった。・・・(中略)・・・馬の方から血が流れているのを見て、私はかっとなってしまい、手にしていた鞭の柄で、車夫の頭をごつんと殴ってしまった。すると彼は私をじっと見つめ、微笑を浮かべ、そしてお辞儀をしたんです。今でも、あの“微笑“を思い浮かべることができますよ。』(引用:日本の面影 「日本人の微笑」より)

⚫️驚きと悲しさと切なさと...
『日本国中から、昔ながらの安らぎと趣が消えてゆく運命のような気がする。』

ハーンは本書の中でこう語った。事実、ハーンが描く1890年の世界は、とても今の日本とは思えなかった。

たった100年ちょっとの間に起きた変化の大きさに対する驚きと... そしてそれをはっきりと直感したハーンの先見の明に対する畏怖の念と... 日本が豊かさを得た代わりに何かとてつもなく大切なものを失ってしまったのではないかという焦燥感・・・いや、刹那さと、複雑な感情が交錯した。

『外国人たちはどうして、ニコリともしないのでしょう。あなた(ラフカディオ・ハーン)はお話なさりながらも、(日本人のように)微笑を以って接し、挨拶のお辞儀もなさるというのに、(ほかの)外国人の方が決して笑顔を見せないのは、どういうわけなのでしょう』(引用:日本の面影 「日本人の微笑」より)

本書のこのような語りを読んで、ニコニコ動画で有名な川上量生氏が、先日、次のように話していたことを思い出さずにはいられなかった。

『最近の子って、会話の中で冗談を投げかけても反応が薄いので、喜んでいるかどうかわからないんですよ。ところが、よく見ると手はしきりに動いていて、携帯に“www(笑)“と打ち込んでいる。感情表現の仕方が変わってきてるんです。顔に一切表情を出さないが、ネット空間の中で、文字を使って感情表現している。これからますますそうなっていく(顔からは一切の感情が消えていく)かもしれませんね。』(川上 量生氏)

時代は変わる。変わっていく。でも変わらない・・・いや、変えてはいけない本質も絶対にあるはず。それは何なのか。100年以上も前に書かれた本書の中に、そのヒントがきっとあるはずだ。


【日本人の特徴を描くという観点での類書】
なぜ「日本人がブランド価値」なのか ~世界の人々が日本に憧れる本当の理由~(著者:呉 善華)

2016年8月16日火曜日

書評: マチネの終わりに

美しい言葉で描かれた恋愛小説・・・

マチネの終わりに
著者: 平井啓一郎


蒔野聡史(まきのさとし)と小峰洋子・・・二人が主人公の物語。プロギターリストであり天才的才能を持つ蒔野聡史。彼には、蒔野聡史の音楽を愛し、彼の才能を愛し、陰で彼を懸命に支え続ける三谷早苗が側にいた。清楚で才能豊かなジャーナリスト小峰洋子。彼女には、経済学者のフィアンセがいた。そんな二人が運命的な出会いをする。強力な磁場に引きこまれたかのようにお互いの関係は急接近する。偶然と必然に翻弄される二人。果たして二人の恋の物語の行く末は...。

本書を知ったきっかけはニュースアプリNewsPicksで、作家平野啓一郎氏とエッセイスト小島慶子氏との対談記事を読んだのがきっかけだった。対談記事を読んでいて、この人の書いた本を読んでみたい・・・なんとなく興味が湧いたのだ。

何も前知識なしに手を出したが、とても読み心地の良い小説だと思った。読んで本当に良かったと思っている。事実、本書を読み終えたあと、「平井啓一郎氏のほかの小説も読んでみたい」という気になり、早速、買ってしまったほどだ。その本の感想は後日上げるが・・・。

この読み心地の良さはいったいどこから来るのか? 考えてみたが、彼がおりなす言葉の表現がとても丁寧で絶妙なのだ。いちいち情景がストンと心に落ちてくる。

『見たい夢を自由に見られないだけでなく、人間は、見たくない夢を見ない自由も与えられてはいないのだった。』(マチネの終わりに 第六章 消失点より)

『洋子は、自分が、バランスを崩しつつあることを自覚した。支えきれないほど大きなトレイを持たされて、そこに載せられた幾つもの玉を安定させようと腐心しているかのようだった。一つを気に掛ければ他方が走りだし、落とさぬように慌てた動作のために、今度は一斉に反対に玉が転がりだしてしまう・・・(略)・・・』(マチネの終わりに 第六章 消失点より)

また、この恋愛という1つのテーマを、音楽と宗教と戦争という観念を通じて、非常に美しく描いている。一見バラバラなこれらの要素を見事に融和させ、読者をその物語に引き込むと同時に、問いかけている。あなたは聖母マリアなのか、その姉マルタなのか、そして、どちらが正しいと思うのか、と。

そして、主人公二人に過酷な試練を強いながら、何かポジティブなメッセージも伝わってくる。少なくとも、私には「人にはそれぞれに役割がありそれを否定していはいけない」「過去につらいことがあっても、これからの生き方次第で変えられる」というメッセージをもらった気がしている。

フィクション小説は「結局、なんだったんだろう?」と疑問を持つだけで終わることが多く、「あまり好きじゃないな」と思う本が多い中にあって、本書は・・・私はとても好きだ。既に述べたように、描写が美しいし、ストーリーも本当によく練られている。私に、マッチする作家さんだと思う。平野啓一郎氏も40代だし、本書の主人公たちも40代・・・、私も40代。もしかしたら、そのせいもあるかもしれない。40代の方はぜひ・・・。


2016年8月7日日曜日

書評: アドラー心理学入門

見方を変えるだけで、こんなにも心がすっきりすることがあるもんなんだ...と。

アドラー心理学入門
著者: 岸見一郎

■アルフレッド・アドラーの考えを解説してくれる本
オーストリア生まれのユダヤ人精神科医&心理学者アルフレッド・アドラーの考えの解説書。主として、次のようなテーマをカバーした本である。
  • アドラーはどういう人で何をした人なのか?
  • なぜ、そういう考えを持つにいたったのか?
  • 彼の代表的な考えは、つまり現代の日常に当てはめるとどう捉えられるのか?
では、「彼の代表的な考え」とは何か? それは育児と教育に関するものだ。力で子供たちを抑えるつけることなく全幅の信頼をもって子どもたちに接することを教えとしている。

■私が本書に手を出した理由
まず、なぜ、私がこのタイミングでアドラーに手を出したのか?理由は2つある。1つは、NHK番組の「100分 de 名著」で、アドラーのことを知る機会があり、興味を持ったからだ。心理学というと小難しいイメージがあるが、同番組では、モノゴトの捉え方について、どこか当たり前のようでいて我々が日々実践できていないアドラーのアプローチを紹介してくれていた。その際に、アドラー心理学には、学ぶべき点が大いにあると感じたのだ。もっと知りたいと思った。

本書に手を出したもう1つの理由は、「教養」になりそうな本であると感じたからだ。個人的な理由だが、最近、小手先のテクニック本ばかりに手を出してきたので、ここいらで路線を、より「中長期的に役立ちそうな本」に戻したいと思ったからだ。

■自分がいま持っている課題解決に役立つヒントを得ることができた
改めて、なるほどなと腑に落ちた部分があると同時に、子供に対する接し方はもちろん、社会における対人関係のあり方について、考えさせられる部分が多々あった。

具体的にはたとえば、「原因論ではなく、目的論でものごとを捉えなおするアプローチ」。私自身にも、周囲にも子供がたくさんいるが、彼らが大人から見て不可解または理不尽な行動をとったときの我々の対応方法についてだ。そういうときは、「何が原因で彼らがそういう行動をとるようになってしまったのか?」ではなく、「どんな目的を達成するためにそういう行動をとっているのか?」を、大人は自らに問いかけるべき、という考え方は「目からうろこ」だった。

その他にも、「幸福な精神であるためには、誰とでも対等の立場・・・縦の関係ではなく、横の関係を重視してつきあうべし」とか、「自分が、他人より優れていなきゃいけない・・・と思うのではなく、今の自分で十分良い・・・と思うようにすること」などなど、間違いなく、私の記憶に刷り込まれたものがいくつかある。

■「読みやすさ」「学び」という2つの観点で本書はどう評価できるか?
さて、本書の評価を2つの観点から述べておきたい。

1つは「読みやすさ」という観点。この点に関しては、全体的に読みやすい本であったと評価したい。抽象論に留めずに著者自身の経験談などが多数述べられており、「結局、読者自身の身に置き換えるとどういうことなのか?」のイメージを持ちやすかった。ただし、全5章のうち、後半2章(4章「アドラー心理学の基礎理論」と5章「人生の意味を込めて」)については他の章に比べ難しく、あまり頭に入らなかったことを付け加えておく。

「学び」という観点ではどうか? これは既に述べたように、目からうろこのポイントもあったし、その他いくつかの学びを得ることができたので、読んで良かったと素直に評価できる。「我々の人生の大半は人と接していくこと」だが、アドラーは「人間の悩みは全て対人関係に関するものである」と言っている。まさにその対人関係において、我々がぶつかるであろう課題解決のヒントを提示してくれる本書の意義は大きい。

■すべての人に役立つ本
アドラーの代表的な考えは育児と教育に関するものだ、と冒頭で述べた。出発点は確かに育児と教育だが、そこで述べられている内容は、企業生活における対人関係にもそのまま当てはまる。その意味では、本書の対象読者に垣根はない。入門書であるのでもちろんアドラー心理学の玄人は読む必要はないだろうが、それ以外は本書の漢字を読めるすべての人が読者対象だ。

ちなみに、一点だけ付け加えておくと、実は、アドラー心理学の入門書は他にも何冊か出版されている。私も、それらすべての本を読んだわけではないので、どの本がベストか?を論じることは私にはできない。間違いなく言えるのは、本書を読んで損をしたと思う可能性は少ないということだ。


2016年8月4日木曜日

書評: 超・箇条書き

先日の「世界のトップを10秒で納得させる資料の法則」を読んだのと同じ理由で手を出した。資料作りは社会人にとって避けては通れないタスクの1つだ。加えて、❝箇条書き❞というシンプルでありながら、とても狭いテーマに特化している本書の姿勢に惹かれた。






企画でも、プレゼンでも、議事録でも、なにかを誰かに伝える際に、いかに明瞭完結かつ魅力的にそれを箇条書きを使って実現するか・・・そのテクニックについて、とことん掘り下げた本である。具体的には、次のような論点を抑えた本だ。

・なぜ、箇条書きが大切か?
・どうすれば、素晴らしい箇条書きが作れるか?
・箇条書き能力を更に他の作業に応用させるには?

結論から言えば、2つの観点でタメになる本だ。

1つ目は、本書がそもそもの狙いにおいているとおり・・・純粋に普段作成している資料の有効性向上を図ることができる。普段、無意識のうちにやっていること・やれてないことを、自覚し、明日以降の資料作りに早速反映できる。

2つ目は、上手に箇条書きを使う方法をわかりやすく教える方法を取得することができる。箇条書きのような至極あたりまえでシンプル極まりないものについて、人に必要なテクニックを伝えるのはなかなか難しい。そこにいくと、本書の著者が優れているのが、こうしたアナログ的な技術を、巧みに言語化している点だ。たとえば、タイトルからしてそう。「超・箇条書き」。その他にも、MECE(ミッシー)崩し、隠れ重言・・・など、ユニークな用語を使って解説しているので、印象に残りやすい。

ちなみに、私にとって「なるほどな」と思えたのは、❝自動詞と他動詞の整合を考えろ❞と❝箇条書きに体言止めは使わない方が良い❞と❝隠れ重言NG集❞・・・かな。この3点については、私自身もう少し改善の余地があると感じた。

さて、対象読者は誰であるべきか? これまた冒頭で述べた「世界のトップを10秒で納得させる資料の法則」同様、あくまでも、対象者は、ビジネスマン、それも入社3年目以降の社員であろう。なぜ、3年目以降かと言えば、無駄な資料作りを何回か経験し、失敗してからの方が本質をより理解できると思うからだ。


 

【資料作りをパワーアップさせるという観点での類書】
世界のトップを10秒で納得させる資料の法則(杉野幹人)
マッキンゼー流 図解の技術ワークブック(ジーン・ゼラズニー)

書評: ジブリの仲間たち

きっかけはいつも単純だ。何か面白いラジオ番組(ポドキャスト)はないかなぁと探していたところ、たまたま見つけたのがスタジオジブリの名プロデューサー「鈴木敏夫のジブリの汗まみれ」だった。何気なしに聞いたのだが、これがもんのすごく面白かった。いったい、なぜ、面白いのか? 

単なる裏話以上のものが聴けるのだ。具体的には、次のような面白さがある。
  • あまり表には出ていない映画作成時の舞台裏の話が聴ける
  • セブン-イレブンの鈴木敏文氏を彷彿とさせるような”逆風をひっくり返し続けた話”が聴ける
  • 述べ観客動員数が日本の総人口に匹敵するほどのスケールのでかい市場の話が聴ける
  • 市場環境の劇的な変化に合わせた千変万化のマーケティング手法が聴ける
  • 著名な人と対談(化学反応)が聴ける(川上量生、押井守、上野千鶴子、園子温、秋元康...等)
そんな鈴木敏夫氏が本を出した、と言うではないか。即買である。


■ラジオで聞いた話同様、単なる裏話以上の話が満載
ナウシカにはじまって、天空の城ラピュタ、となりのトトロ、火垂るの墓、魔女の宅急便、おもひでぽろぽろ、紅の豚、平成狸合戦ぽんぽこ、耳をすませば、もののけ姫、ホーホケキョとなりの山田くん、千と千尋の神隠し、猫の恩返し、ハウルの動く城、崖の上のポニョ、借りぐらしのアリエッテイ、コクリコ坂から、風立ちぬ、かぐや姫の物語、思い出のマーニー...をヒットさせるためにどのような苦労や失敗、成功を積み重ねてきたか、舞台の裏側について語ってくれている。

これが冒頭に触れたラジオ番組同様に面白いのだ。最初、数十ページだけ手を出して、あとは次の日に読もうかなと思っていたのだが、気がつくと止まらなくなってその日のうちに一気に読破してしまったくらいだ。いったい、何がそんなに面白いのか? 基本的には、鈴木敏夫氏のラジオ番組「鈴木敏夫のジブリの汗まみれ」がなぜ面白いのか?の疑問に対する答えと一緒である。そうした面白さに加えて、良いスパイスになっているのが、鈴木敏夫氏をよく知る関係者・・・たとえば取引先の東宝宣伝プロデューサーなどの彼に対するコメントである。鈴木敏夫という人物は、客観的にはどう捉えられているのか、を知るのにとても良い材料になった。

■鈴木敏夫の凄さが肌感覚で伝わってくる
それにしてもつくづく、映画は、宮崎駿や高畑勲監督のような天才と、作った作品を宣伝する広告会社、劇場を持っている映画会社、コピーライターなど様々な人たちのパワーが合わさって出来上がる結晶なんだな、と思った。そして、こうした関係者個々の力を最大限に引き出し、どこまでパワーを融合させ、核融合を起こさせるか・・・ここの出来具合で映画の興行収入が決まるのだろうが、まさに、この役割を担うのが、プロデューサーである鈴木敏夫氏なのである。

スタジオジブリと言えば宮崎駿や高畑勲監督と言われるし、そのとおりだと思うが、同時に、鈴木敏夫氏の存在なくしてジブリの成功はなかったことが本書を読むと、よく分かる。宮﨑駿にとっての鈴木敏夫氏とは、ホンダの創業者、本田宗一郎氏にとっての藤沢武夫氏のような存在といったところだろうか。

■鈴木敏夫の凄さの源泉は一体、どこにあるのか?
鈴木敏夫氏の・・・次々と課題を乗り越える発想力や、人を巻きこみ、それぞれの力を引き出し、1+1を3にも4にもする能力の源泉は、一体なんであるのか?・・・後半は、それがただただ知りたくて貪るように読んだ。

一つ思ったのは、彼の教養の高さ。どのような手段で、彼がそうした教養を得たかは別にしても、たとえば映像や音楽を語るセンスは、彼のバラエティ豊かな知識が素になっていると感じる場面が何度かあった。あとは、好奇心の強さと興味を持ったものには、ステレオタイプにとらわれず食べて見ようとする柔軟性。ドワンゴの代表取締役会長、川上量生氏と接点を持ったときの話などは秀逸だ。どんなに途方も無く大きい話でも、そこに論理性・戦略性を持ち込む冷静さ・賢さ。人と異なる逆転の発想力。働かない宣伝マン博報堂の藤巻さんをポニョの主題歌の歌い手に抜擢する話は、間違いなく誰も思いつかなかった話だろう。

■楽しみながらリラックスして読めるビジネス書
だから、本書はマーケターにとってみればマーケティングの勉強になる。プロジェクトマネージャーにとっては、どうやって人を巻き込むか、そのパワーを引き出すか・・・プロジェクトマネジメントの勉強になる。もちろん、映画好きには裏話がたまらない。そして、普通の社会人にとっても、次々と市場や技術環境が変化する中で、自分の立ち位置を客観的に見つめ、どういう戦略を立てるべきか、その際に自分はどうあるべきか・・・勉強になる。出した本人はそんなつもりは全くなかっただろうが、楽しみながらリラックスして読めるビジネス書なんて最高じゃないか。


2016年8月3日水曜日

書評: 最高のリーダーは何もしない

遅すぎるかもしれないが、44歳になった今、リーダーシップとはどうあるべきかに思考を割く時間が増えてきた。特に自分は「リーダーである前に、プロフェッショナルでありたい」と思い続け、邁進してきたので、きっとリーダーシップ論には疎いほうである。まだまだ改善すべき点があるはずだ。

最高のリーダーは何もしない
〜内向型人間が最強のチームを作る〜
著者: 藤沢久美
出版社: ダイヤモンド社


■リーダーシップの指南書
本書はリーダーシップ論を説いた本である。著者自身の社長としてのリーダー経験に加え、これまで何百人と会ってきた著名な企業トップとの対談内容を基に、「昨今の“できるリーダーに共通する秘訣”」に著者なりの答えを提示している本である。

■リーダーシップ論の重要性は、ハウツーよりもハウトゥドゥー?
読んでみての個人的な結論は次のようなものだ。

「リーダーシップ論は“ふわふわ”しているようで、実はもう答えが出ている分野なのではないか。ただ、そのワザをどうやって実践するか、実践し続けるか・・・そこだけの問題なのではないか」

なぜ、そういう結論にいたったのかというと、どこぞで聞いた話、どこぞで体験した話が多かったからである。本書を擁護するために付け加えておけば、私は対象読者層ではなかったためでもあるだろう。実際、本書を読んだ時に「やっぱり、そうよね。そういう結論になるよね。あとは、それを信じて実行し続けることができるか。できる経営者とできない経営者の違いは、それに尽きるよね」と思った。

たとえば本書の中で「社長はビジョンを作り自ら共有し続けること」、「周りに対する気遣いを欠かさないこと」、「女性の登用を軽視しないこと」、「メンバーに対する感謝をまず忘れないこと」、「寝食共にする合宿などを経験すること」などといった主張(あくまでも一部である)がなされているが、自分自身がそれを実践しようと日々心がけていることと全く同じなのだ。

■本書の意義は、読みやすさ・・・これに尽きる
本書を読むことで、私自身が経営者として、あるいはチームのリーダーとして自らが、やってきたこ・これからやろうとしていることが間違っていないことを再確認できたという点において役立ったという見方もできる。

だが、別の見方をすれば、特にビジネス書を良く読む人にとっては「え、新たな学びはないの?」と、否定的な結論も出せる。実際、リーダーシップ論は、かのピータードラッカーを始め、数多くの著名人が執筆してきているテーマだ。表現の仕方は違っても、結論はほぼ似ていると言って間違いないからだ。

そう考えると、本書の意義はいったいどこにあるのだろうか? テレビ番組のキャスターやラジオのパーソナリティーとしてこれまでに著名な社長に会いいろいろな話を聞いてきた著者の経験が本書の基になっていることか? だが、出ている結論は他書と似ている。果たして本書の意義は? うーん・・・と真剣に考えたのだが、私の出した結論は、以下の点に尽きる。

「読みやすい」ということ。

本を「あっというまに読める本」と「読むのに時間がかかる本」と2つに大別するとすれば、本書は前者にあたる。1時間足らずで読める・・・いわゆる“今風の読みやすい本“なのだ。

■リーダー初心者向けの入門書
リーダーといっても会社の社長とは限らない。組織のおけるあらゆる階層でリーダー的存在が求められる。そう考えるとリーダーシップ論は組織で働く全ての人が対象になるが、本書の“読みやすい”という特徴・・・それを加味すると、リーダー的立場を今から目指す人、もしくはそういった立場になったばかりの人などが、最適な対象読者といえる。まさにリーダーシップ論の入門書的な本なのだから・・・。


2016年8月1日月曜日

書評: 天才

最近、本屋に足を運ぶと田中角栄という名前をタイトルに含んだ書籍が山積みになっている。田中角栄ブームが起きている印象もあり、気にはなっていた。そして本書については、ラジオ番組か何かで耳にしたのが知ったきっかけだった。

思えば、田中角栄が登場し、日本列島改造論を唱え・・・なんてときは、自分は生まれたか生まれてないかの頃だし、現代史はあまり習った記憶もないので、ちょうど自分の知識にぽっかりと穴があいた部分なのだ。そこに加えて、田中角栄とぶつかったという石原慎太郎氏が筆をとったというものだから、なおさら、興味が湧いたのである。さて、田中角栄とは、どんな人物なのか。

著者: 石原慎太郎
出版社: 幻冬舎

本書は、田中角栄がこの世に生を受けてから、天に召されるまでの生涯を描いたものである。父親の博打好きに翻弄された少年時代。貧しいながらも上京し必死に働いた時代。期せずして政治家の世界に足を踏み入れた時代。政治家として総理まで登りつめた時代。ロッキード事件に巻き込まれ失墜し、そこから再起を図ろうとする時代。そして1993年12月16日75歳でその生涯に幕を閉じるまで・・・。

本書がユニークなのは、田中角栄....全盛期時代の金権政治に、牙を剥いた石原慎太郎氏自身が筆をとっているという点だ。「敵対視していたはずの人のことをなぜ?」と思うが、「嫌い嫌いも好きのうち」という言葉が、石原氏にはぴったり当てはまるようだ。氏自身が、ある人に「あなた(石原慎太郎)は、実は田中角栄という人物が好きではないのですか?」に問われ、次のように答えている。

『私(石原慎太郎)はそれ(その問い)に、肯んじた。「確かに彼のように、この現代にいながら中世期的で、 バルザック的な人物はめったにいませんからね。』(「天才」 長いあとがきより)

唯我独尊的なイメージの強い石原慎太郎氏すらも惹きこむ田中角栄の魅力とは一体なんなのか?田中角栄とは稀代の人たらしなのか? そのヒントが本書にあるわけだ。

そして、本書の魅力をさらにひきたたせているのが、石原氏があたかも田中角栄氏本人の回顧録であるかのように、一人称で書いていることだろう。

『「お前(田中角栄)の親父も金の算段の後先も考えずに駄目な男だなあ」。吐き出すように言ったものだった。その言葉の印象が何故か俺(田中角栄)の胸に強く響いた。金の貸し借りと言うものが人間の運命を変える、だけではなしに、人間の値打ちまで決められてしまうということを、その時悟らされたような気がした。以来、俺は人から借金を申し込まれたら、できないと思った時はきっぱりと断る、貸す時は渡す金は返って来なくてもいいと言う気持ちで、何も言わずに渡すことにしてきた。』(「天才」 本文より)

今は亡き田中角栄の思考をそのまま追体験している気になる。私は何の前情報もなしに本書を読んだものだから、読み始めて最初の数十ページは、てっきり、石原慎太郎自身の話が書かれているのだと勘違いしたくらい違和感のない書きっぷりだった。

仮に田中角栄氏が石原慎太郎氏が描いた通りの人物だったとして、私は本書から田中角栄氏を次のような人だと感じた。

「日本列島改造論など将来の国家像を具体的に考えた人。媚びない政治をした人。実行し結果を出した人。」

政治家だし、まして総理大臣になるような人ならば、当然に国家の将来像を持っているでしょう...と思いがちだが、そうではないらしい。「総理」の著者、山口氏がその本の中で、例えば野田聖子氏が、安倍首相との一騎打ちで総裁選に立候補しようとした際に何の展望も持っていなかったと述べていたし、歴代の首相の多く(安倍首相になってそれは変わったと著者は言っているが)がポピュリズムに走っているのは周知の事実だ。最近の田中角栄ブームは、ポピュリズムに嫌気がさしつつある国民感情を反映しているのかな・・・と、幼稚な頭ながら思った。

さて、多数の文献と本人自身の体験談が元になっているので、石原慎太郎氏の描くそれが、限りなく真実に近いのだろうが、どこまでいっても石原慎太郎氏が亡くなった田中角栄氏を模した内容であるので、全てが客観的事実とは言えない。田中角栄氏に惚れた人が書く本なのだから、内容に美化されている点があってもおかしくない。残念ながら、どの程度事実と異なっているのか・・・私の知識が乏しいためそれを判断することができない。本気で田中角栄氏について論じるなら、他の出版された全ての本も読むべきだろう。

というわけで、差し引いて読む必要はあるが、先述したように一人称で書かれているので、主人公に感情移入しやすく、当時の心理状況を考えやすい。どのような人生を生きて人なのかが・・・ほんとうにその概略にしか過ぎないが、この本一冊を読むことである程度、全体像を理解できる。そして、どうして石原慎太郎氏をはじめ、多くの人が田中角栄氏に惹きつけられていったのか、最後は逮捕された人なのになぜ多くの人が彼を懐かしむのか、その理由も見えてくる。山口氏の書いた「総理」という本もそうだったが、政治家に何を求めるべきか・・・誰に投票をするべきか、の一つのヒントになるのかもしれない。


【政治という観点での類書】
総理(山口敬之)
私を通り過ぎた政治家たち(佐々淳行)

2016年7月30日土曜日

書評: 桐島、部活辞めるってよ

「世界地図の下書き」を読んで、なかなかおもしろい小説を書く人だな、と思った。だから、この本も読んでみたいと思った。映画化もされたし・・・。

桐島、部活辞めるってよ
著者: 朝井リョウ
出版社: 集英社文庫
フィクション小説だ。一言で言えば、高校生の青春小説。全7章からなり、舞台や時間は常にほぼ同じだが、章ごとに語り手・・・すなわち、主人公が変わる。これがこの小説のユニークなところだ。いずれも同じ高校に通う7名それぞれを章ごとに主人公として描いているのだ。

最初はこのような構成になっていると知らず、「あれ?オムニバス?」など戸惑いながら読んだが、途中で作者の意図が分かって、スムーズに読むことができた。

さすがだと思った。多感な時期で、同じことを異なる捉え方をし、そして、将来を考え、大いなる夢を持ち、努力をし、悩み、不安になり・・・とにかく、心のなかに大きな渦巻きができるのがこの高校時代だ。“高校生”の内面を描くには最高の手法だろう。

そして、心憎いのが、必ずそれぞれの章で、主人公たちが何らかの決意をする。彼ら・彼女らなりに感じ、思ったことを心に秘め、「こうしよう、ああしよう」と決意する。それが、またどういう決意であっても、「成長」ということを感ぜずにはいられない・・・ポジティブな感情を読者に植え付ける。

大人が読むと、「あー、羨ましい。あの頃に戻りたい」と思うだろう。高校生が読むと「あー、自分も一生懸命もがいてみよう」と思うだろう。

何も考えずにすーっと読める本だが、メッセージがハッキリとはしてないので、「ん?何が言いたいの?」と思う人もいるかもしれないが、ハマる人はハマるだろう。そういう人には、心をくすぐる一冊になるはずだ。


【朝井リョウの本】

2016年7月28日木曜日

書評: 総理

さぁ、旅行先に何を持って行こうかな・・・そんな時、ふと目に止まった。長期政権を担う安倍首相に興味があった。一般メディアが教えてくれる情報(我々が知っている事実)と真実との間にどれだけ情報格差があるか、知りたかった。





■宰相の仕事、安倍総理、安倍政権の裏側を語った本
安倍首相の第一次内閣発足の時から、第二次内閣を発足し、2015年9月に総裁選に勝利した直後くらいまでに起きた政治の裏側を語った本である。当時TBS記者であった山口氏自身が安倍総理に張り付く中で見聞きし、感じたことを語ってくれている。「見聞きしたこと」とは、主に、山口氏が安倍総理自身や安倍政権の政治家から直接何度も相談を受けたり、他の政治家同士の伝令役になったり、個人的な心の支えになったり...そういったやりとりの中での出来事を指す。

記者も政治家も、ぶつかり合うことはしょっちゅうだが、結局はお互いがお互いを必要とする関係なので、互いにある程度親密な人間関係を築く必要があるし、実際そういう記者がいるのは知っていた。だが、どうやら著者である山口氏は、私たちの想像を超えるほどの深い関係を築いていたようだ。「記者と政治家もそこまでの関係を築くことがあるのか!?」と読みながら思ったほどだ。

■本書はプロパガンダ本か、それとも・・・
だからこそ本書に価値があるのだが、同時に誰もが思うのは「安倍総理の傀儡になりさがった記者によるプロパガンダ本なんじゃないの?」ということだろう。この点については著者のいう言葉を信じるしかないが、著者はこういう疑問が読者から湧くことも想定していたようで、「本書を通じてジャーナリズムとはどうあるべきかを考える材料を提供したい」とも語っている。なお、著者の抗弁は次のようなものだ。

「スイカがどんな食べ物かは、外の皮だけ見ても分からない。開けてみて中身を見ただけでもダメ。中身をとって口に入れて初めて分かる。中身を食べたら腹を壊すこともあるかもしれない。その顛末を伝えて初めてその一連の作業がジャーナリズムに属するのだ」と。つまり、独立性・公平性を決して脅かしてはいけないが、ズブズブと言われるほどの関係にならずして真実を伝えられるのか、と。本書はその結果得られたものであり、ここで提供されたものこそ皆が知りたいことではないのか、というわけだ。

■NHKの大河ドラマを見ているようだった
読んでみて私自身はどう感じたか? 2つの点で期待を超える内容だったと思った。

1つは、間違いなく山口氏本人しか知りえない安倍総理、安倍政権の話を知ることができたということ。一般のメディアの報道を見聞きして一喜一憂している自分は浅はかだったなと思うと同時に、外見だけ見てわかるほど人間はそんなに簡単じゃないな、と思った。もし、ジャーナリストが本当に独立性・公平性を担保できるなら、こうした内容を伝えることはとても大事だとも思った。本書には全く関係ないが、ジブリの鈴木敏夫さんと社会学者の上野千鶴子氏の対談を聞いていた時に、上野千鶴子氏が「研究でも何でも、何かを論ずる場合は、自分がその中につかって愛憎をともにそこをくぐり抜けないと(ダメなんです)・・・外見だけを見て論ずることはできても、その内容は面白く無いです」とおっしゃっていたのを聞いて、「あぁ、山口氏の主張していたことと同じだ」と思ったし、実際、本書を読んでそうだと感じた。ただし、政治家に目を光らせるのがメディアの役目なら、メディアに目を光らせるのは誰か?・・・そこが課題だろう。

2つは、NHKの大河ドラマを見ているような体験ができたことだ。政治家の駆け引きは、戦国時代の武将の駆け引きのそれにも似ていると心底思った。総裁の椅子をめぐる動き、消費税増税をめぐる動き、派閥をめぐる動き・・・人間模様が面白い。麻生さんのとことん筋を通す性格、菅さんの優秀さ、安倍さんの日本の将来を見据えた覚悟・・そのためにアメリカにNOという姿勢、財務省の日本の昔の軍隊のような恐ろしさ・・・などなど。いやぁ、ノンフィクションって面白い。

■投票権を持つ全ての人が対象読者
著者は「総理の仕事、安倍総理、安倍政権について読者に伝えること」を狙いの1つに挙げている。概ねこれらは達成できていると言えるだろう。こうしたことへの理解を経て、少なくとも今以上に、政治に関心を持てるようになるはずだ。その意味で、投票権を持つ18歳以上全ての人が対象読者だ。


【政治という観点での類書】
私を通り過ぎた政治家たち(佐々淳行)
天才(石原慎太郎)

2016年7月27日水曜日

書評: 世界のトップを10秒で納得させる資料の法則

ビジネスマンの誰もが避けては通れないこと。それはな何だろうか? そう、資料作りだ。役員になったら、そんな事務作業なんて...という感じだろうが、それでも部下が作ってくる資料のレビューをする必要がある。ビジネスマンの資料作りが業務全体に占める割合って意外と多いのだと思う。効率性・有効性を向上させる技があるなら、誰もが便乗したい。そう思うはずだ。

世界のトップを10秒で納得させる資料の法則
著者: 三木 雄信
出版社: 東洋経済新報社
本書は、ソフトバンクにて孫さんの下で経営が納得する資料作りの酸いも甘いも経験してきた著者が、たどり着いた「資料作り道」を指南してくれる本だ。

私が本書に手を出したのは冒頭で述べたような理由もあったが、もう一つは、一流と言われる孫さんの求めるレベルに興味があったからだ。加えて、実際にソフトバンクグループと取引することもあるので、そうした資料文化を知っておいて損はない。

さて、何が書かれているのかというと、「資料作りの本質とは何か」「どうやったら本質を汲んだ資料作りができるのか」「より具体的にはどんなテクニックがあるのか」と言ったことが書かれている。これらの説明を理解するためには、著者(孫さん?)の資料作りの信条を押さえておくことが大事だ。それは、プレゼンでも何でも、何かをアピールする際には数字が大事だ(全てのページに入れてもいいくらい)ということ。そして数字を基にしたキーメッセージを発信するにはグラフ化が大事ということだ。そう言えば、堀紘一氏もその著書「コンサルティングとは何か」の中で、コンサルの仕事を一言で表すとすると「グラフ化だ」と言っていた。

だから、本書はグラフ化の話から始まる。とりわけ業務改善をする際に役立ちそうな分析・グラフ化について解説している。「群管理」「回帰分析」など。グラフ化の話をベースとして、各種資料作り・・・議事録作成、プロジェクト管理、企画書作成、プレゼン資料作成に話は及ぶ。

なるほど、明日から役立ちそうなヒントが載っている。私の場合は幸か不幸かすでに色々なお客様にしごかれてきたので、おおよそ知っているようなポイントも多かったが、学んだのにすっかり忘れていたことを気付かさせてくれたことだけでもありがたい。例えば、グラフ化のところで登場する回帰分析は、MBAで習っていたものだが、すっかり使うことを忘れてたので良いリマインダーになった。また、議事録やプロジェクト管理の精度を高めるポイントも一部、忘れていたものに気づかせてくれた。プレゼンターとプレゼン資料との間の関係性が主従逆になることが多いという指摘も尤もだ。

ところでかの伝説の教師、橋本武氏がこんなことを言っている。「すぐに役立つものは、すぐに役立たなくなる」と。本書はどうか? 両方が内在している本だと思う。強いて言えばやや「すぐに役立つ」よりか。資料作りの本質について言及する一方、事細かなテクニック...中にはエクセルを具体的にどう使えば欲しいグラフに落とせるかの手順にまで言及しているパートがある。だからだ。

結論を言えば、ビジネスマン、それも入社3年目以降の社員であれば、本書を読む価値はあると思う。なぜ、3年目以降かと言えば、無駄な資料作りを何回か経験し、失敗してからの方が本質をより理解できると思うからだ。逆に私のように既に色々なことを経験済みの人は「自分がどれだけ一流が求める力量に到達できているか」のギャップ分析に使えるだろう。


【資料作りに役立つという観点での類書】

2016年7月26日火曜日

書評: これならわかるコーポレートガバナンスの教科書


2015年はコーポレートガバナンス元年と呼ばれた。そう呼ぶ一つのきっかけとなるコーポレートガバナンスコードなるものも同年に発行された。コーポレートガバナンスの強化はアベノミクスの「第三の矢」を支える重要な施策の一つにもなっている。日経新聞でコーポレートガバナンスという文字を見かけない日はほとんどない。さて、この「コーポレートガバナンス」とは一体、何ものなのだろうか?

著者: 松田千恵子
出版社: 日経BP社


私が本書に手をだしたのには2つの理由がある。1つ目は、Kindle版があったためだ。得てしてこういう本は大きく・分厚く、持ち歩くのに不便だからだ。2つ目は、もともと扱うテーマ自体が難しく面白くないものなので、分かりやすさが何よりも大事だと思ったからだ。タイトルが決め手になった。

⚫️コーポレートガバナンスのイロハ
本書には、コーポレートガバナンスのイロハが書かれている。イロハとは、具体的には次のようなものだ。
  • コーポレートガバナンスとは
  • コーポレートガバナンスが必要な背景
  • コーポレートガバナンスに関する要求事項と対応の要諦
  • グループ会社へのコーポレートガバナンスの効かせ方と要諦
なお、コーポレートガバナンスの要求事項とは、コーポレートガバナンスにおいて企業がどう取り組むべきかを示した法規制やガイドラインなどのことを指す。本書では、この点について冒頭でも触れたコーポレートガバナンスコードにスポットライトを当てている。

※コーポレートガバナンスコードとは、2015年6月1日に施行されたもので、上場企業がコーポレート・ガバナンスにおいて、遵守すべき事項を規定した行動規範だ。

⚫️入門書ながら、痒いところにも手が届く本
本書の特徴は、分かりやすさだ。良くタイトルだけ「わかりやすい」とか、「入門」とか書いてありながら、中身は実は「わかりづらい」という本も無数に存在するが、本書はその類ではない。難しい言葉を噛み砕いて説明している。分かりやすいって具体的にどんな感じだろうか?例えば、コーポレートガバナンスという用語の解説を次のように行っている。

『この 「ガバナンス 」を 、企業について考えた場合が 「コ ーポレ ートガバナンス 」です 。企業の舵取りを 、関係者間でいろいろと考えていこうよ 、ということです 。 「企業統治 」などと訳されるコ ーポレ ートガバナンスですが 、単に 「株主の言うことを聞け 」という上意下達的な支配をさすのではなく 、関係者の間で企業の舵取りをどうするかを考えるということなのですね 。』(出典: これなら分かるコーポレートガバナンスの教科書より)

また、意外に痒いところに手が届く内容にもなっている。なんていうか、こう、昨今、企業経営をするにあたり、ありがちな壁や悩みについて、触れてくれている。「社外取締役を入れても、時間の限られた取締役会にもにすごく議題を詰め込みすぎてうわべだけの議論で終わってしまう」という話。「中計の策定と言いながら、実際は数字合わせや調整だけで終わっている」という話。「海外子会社を管理するにあたりついつい、海外事業統括に任せてしまう」という話。どれもありがちで、実際に企業が抱えている課題である。本書がアカデミックの書ではないことの証明でもある。

ただし、一点、課題解決のヒントは書かれているが、課題解決のステップを事細かに書いてくれているわけではないという点にだけ留意が必要だ。

⚫️会社勤め人なら知っておきたい世の中の仕組みの1つ
著者曰く、本書のコンセプトは「難しそうな論議ばかりが満載されているようにみえるガバナンス分野について 、法律や規則の詳細にこだわらず 、専門的な見地にも立たず 、社外役員などの経験も踏まえながら 、実務において直面する様々な課題を 、企業のミドル層と一緒に考える 」といったものだそうだ。まさにその通りの印象を受けた。

コーポレートガバナンスを知っておくべき立場の人、すなわち、経営コンサル、会社経営者、その候補者、監査役・社外取締役になる人、買収のブレインになる部門の人(経営企画部や財務部など)、海外駐在する人などは、ぜひ目を通しておいたほうがいいだろう。いや、本当は会社勤めをするなら、会社の仕組みくらい知っておきたいものだ。


2016年7月25日月曜日

書評: 東芝 粉飾の原点 ~内部告発が暴いた闇~

最近思うことがある。机上の知識は空論になりがちだ。だが、そんな中にあっても「失敗を追体験できる本」ほど価値のあるものはない。さきごろ読んだ「自分を変える読書術」の著者、堀紘一氏も「読むなら、人の成功体験よりも、失敗体験のほうを強くお勧めする」と言っていたが、まさにそのとおりだ、と思う。

この気づきを前提におくと、失敗体験をできるこの本は、まさにコーポレート・ガバナンスとはどうあるべきかを学習したい人にとって、貴重な教科書と言えるだろう。

東芝 粉飾の原点 ~内部告発が暴いた闇~
著者:小笠原 啓
出版社:日経BP社



■なぜ、東芝のコーポレート・ガバナンスは機能しなかったのか?
いきなりコーポレート・ガバナンスという言葉を使ってしまったが、コーポレート・ガバナンスとはそもそも何だろうか? コーポレート・ガバナンスとは、「従業員、顧客、規制当局、投資家、債権者、取引先など利害関係者間のいずれか一人に、一方的な都合・不都合が生じないように企業の舵取りをみんなでいろいろと考えていくための仕組み」だ。本書は、このコーポレート・ガバナンスが機能不全に陥った組織・・・東芝に、一体、何が起きていたのか? 東芝の粉飾は、どうして起きたのか? どのように起きたのか?についての真相を暴いた本だ。

なお、東芝の粉飾について簡単におさらいをしておくと次のようなものである。ことは2015年の某日、東芝のある社員が証券取引等監視委員会に内部告発したことから始まった。これをきっかけとして、証券取引等監視監視委員会は東芝に開示検査に入る。おかしな点が見つかったため、その2ヶ月後、東芝は社内で独自に特別調査委員会を立ち上げた。だが、不正を把握しきれず、5月に第三者委員会を立ち上げる。結果、2009年3月以降の7年間で1500億円超の利益水増しがあったこと、経営トップの関与があったことが明るみになった・・・というものだ。

■裏の裏の裏まで迫った・・・まさに闇を暴いた本
本書の特徴は、こうした経緯を、内部告発によって得た情報を手がかりに裏とりを行い、克明に実態を負っていることにある。

『東芝では「チャレンジ」と称し、通常の方法では達成不可能な業務目標を強制することが半ば常態化していました。同様の経験をお持ちかどうか、強制された時にどのように対応したのか、率直なご意見をお聞かせくださいアンケートは所属組織名も含め、実名でお応えください。内容に応じて、日経ビジネスの記者が取材させていただきます。取材源の秘匿は報道の鉄則です。・・・(以下、省略)・・・。』(出典:東芝粉飾の原点 集まった800人の肉声より)

こんな文面を紙面やWEBサイトに載せ、最終的に800人以上から情報を入手することができたそうだ。ゆえに、他の新聞や雑誌、書籍では取り上げ得ない裏側の裏側にまでせまっている本であることがわかる。著者の取材が入ったことで、東芝がひた隠しにしてきた事実・・・子会社のウエスチングハウス単体で巨額の減損があったことが明るみになった話はまさに「裏の裏の裏にまで迫った」を証明するものだろう。

■結局、粉飾をしても誰も何も得しない
それにしても、ここまで「組織は腐ることができるものなのか?」と驚くばかりだ。もちろん、責められるべきは東芝ばかりではない。調査にために立ち上がった第三者委員会も、10億円という監査報酬に目がくらんだ監査法人も・・・それぞれの行動を目の当たりにするにつけ、人間の強欲さというか、弱さ・脆さ・・・を改めて見せつけられた気がする。

また、本書を読むと、今流行の「社外取締役の導入」だけでは、今回のようなこの粉飾に対する効果が極めて限定的であることがわかる。なぜなら、監査法人ですら、見抜くのが難しかったものを社外取締役が見抜けるわけはないからだ。この点については、先日読んだ雑誌にも似たような記事が載っていたので引用させていただく。

『自分で(ソニーの社外取締役を)やってみて分かった。外の人間に正しい経営判断などできるわけがない。ソニーの取締役会ではエレクトロニクスだけでなく、音楽、映画から銀行まであらゆる案件を討議したが、一件百億円の案件にかける時間は十分程度。事前に渡される資料の数字が正しいかどうかを確かめる術もない』 (出典:文藝春秋2016年8月号 社外取締役347人リストより)

そして何よりもよく分かるのは、「粉飾決算に関係した経営陣は、保身はもちろんのこと、従業員やその家族のためと、良かれと思ってやったことかもしれないが、蓋を開けてみれば、結局、みんな不幸になっている」という事実である。自らは損害賠償の責を負い、従業員は解雇、株主は大損害、日本の株式市場の信用は低下・・・あとは言わずもがな・・・である。

本書を読むとこれらがよく分かる。

■ケーススタディとしての活用をおすすめ
既に述べたように、他書では載ってないような密度の濃い話が満載だ。リスクマネジメントのあり方について、仕組みや方法論を説いた本は無数にあるが、むしろそうした書籍よりも、本書のほうが、真のコーポレート・ガバナンスやリスクマネジメントのあり方について、よほど学習になると考える。企業の経営者、リスクマネジメント部門や内部統制室、監査室・・・社外取締役を担う人などが、本書をケーススタディに使うことをぜひおすすめしたい。


2016年7月22日金曜日

書評: 自分を変える読書術

ここ数ヶ月間、読書から遠ざかっていたが、それでも過去5年を振り返ると年間40冊くらいは読んでいると思う。本当はもっと読みたいのだが、読むだけではなく、必ず読んだ本の書評を書くようにしているので、どうしてもこれくらいのペースに落ち着いてしまう。

そこそこの読書量だとは思うが、だからこそ、こうした読書方法が合っているのかどうなのか、気になる。ついつい、“読書術”を語った本に定期的に手を出してしまう自分がいる。というわけで、堀紘一氏の書いた「自分を変える読書術」という本にも手を出してしまった。

著者: 堀 紘一
出版社: SB新書


本書の内容は、

・なぜ、読書がいいのか?
・読書は、どんな効能をもたらしてくれるのか?
・どういう本を読むのがいいのか?
・著者自身に、本がどのように役立ってきたのか?

といったもの。著者は、経営コンサルタントの中のコンサルタント、プロ中のプロ、堀紘一氏だ。その著者が読んだという5000冊以上の本の中から、おすすめ本をたくさん列挙してくれているのか?と思う人もいるだろうが、そうではない。あくまでも、読書の効能とその効能の手の入れ方に終始した本である。ちなみに、唯一、本のタイトルが出てくるのは本書の最後・・・そこで5000冊の中の6冊・・・と称して、紹介してくれている。

ずっとコンサルタント人生を歩んできた堀紘一氏らしく、コンサルタント目線での主張が多い。たとえば、野村克也さんの「勝ちに不思議の価値あり、負けに不思議の負けなし」という言葉を引用しつつ、「コンサルタントにできるのは絶対確実な成功の方法を教えることではなく、失敗する確率を下げて成功確率を上げることなのだ。(その失敗する確率を下げる最上の手段の一つが読書である)」という主張。いかにもコンサルタントらしい。

ただし、こうしたコンサルタント目線での語り口調がどうしても肌に合わない人もいるだろう。後半、堀紘一氏自身の人生の歩みを追うことで、「読書がどう自分に役立ってきたか?」を伝えようとしてくれているのだが、そこでは「イギリスへの大使館職員としての父の赴任、エリート校への入学、同じ黒田東彦日銀総裁よりも自分の学生時代のほうが本を読んでいたという話、ハーバード大学へ入学、ボストンコンサルティングへ入社・・・」などの話が登場する。パッとみただけでも、どちらかというと恵まれた環境にいた堀紘一氏の話は、読者の人生と重なりにくい印象があり、なんか、こう・・・共感を呼びにくいというか、なんというか・・・そんな人がすすめる読書術・・・??・・・と複雑な心境になる。

読書術に関する本は無数にある。ゆえに、こうしたコンサルタント目線での語り口調がどうしても肌に合わない人には他の読書術の本を読んだほうがいいだろう。読書がどう役立ったかという話なら、ライフネット生命会長兼CEOの出口治明氏の「人生を面白くする本物の教養」のほうが面白いと思う。あれは面白かった。まだ読んでない人がいるなら、ぜひそちらの本を読んで欲しい。


【読書術という観点での類書】
人生を面白くする本物の教養(出口治明)

2016年7月21日木曜日

書評: 人間の分際

最近、日本はいろいろなことが窮屈になってきている気がする。いろいろなことが100:0の社会になってきている。そんなに世の中って、シロクロはっきりしてるものだろうか。できるものだろうか。そんな疑問に答えてくれる。こうした世の中の変な偏り方に気づかせてくれる。それが曽野綾子だと思う。彼女の作品「人間の基本」では、次のようなことを述べている。

『以前、人に進められてある宗教団体の教祖の自伝を読みかけましたが「とにかく自分は哀れな人を救うのが好きで、幼い時から自分は食べなくても人には食べさせた」というような記述が延々と続いて、どうしてもついていけませんでした・・・(中略)・・・良いことは結構だが、良いことだけでもやってはいけない、という気がしてしまいます。周りを見渡してみても、自分を含めて皆いいかげんで、おもいつきで悪いことをしたり、ずるをしたりする。でも、いいこともしたいんです。その両方の情熱が矛盾していない。それが人間性だと思うのです。』(曽野綾子 人間基本より)

曽野綾子氏の本を読むと、こうした変な偏りに気づかせてくれる。補正してくれる。まさにこの理由で次の作品を読んだ。

人間の分際
出版社:幻冬舎文庫



人生観。過去の作品のとりまとめ集。過去作品の中で曽野綾子氏自らが語ったことを、「人間が自分の分際をわきまえていると思えるもの、思えないもの」というテーマでまとめなおしたものだ。冒頭でも触れたが、世の中に「それはシロだ!」「それはクロだ!」と主張する人がたくさんいるが、「人生はそんなシロクロで分けられないことばかり。それを認めた上で世の中を見直すと、自分の人生がより幸せになるのでは?」と教えてくれるのが本書だ。

『女子バレーを率いて金メダルをとらせた大松監督が「為せば成る」と言ったことが、世間に大ヒットした...(中略)...しかし「私は騙されないぞ」と思った。「為せば成る」なら、どうして多くの日本人が命をかけて戦ったあの大東亜戦争に負けたのか。』(人間の分際より)

曽野綾子氏は言う。「為せば成らない」と受け止めることで、悲劇が避けられるかもしれないし、もし何かやって失敗しても、仕方がなかったと受け止めて心が楽になれる。」と。

ところで、本書の巻末を見ると出典元の本・コラムの数だけでも優に60を超えてそうだ。どんだけ書いてるのだ!? この人は? とびっくりする。逆に言えば、この本1冊にどれだけのものが凝縮されているかがわかるわけで、それだけ本書のお得感を感じさせる。

ちなみに、曽野綾子は敬虔なカトリック信者だが、文中の引用の中にそういった影響も垣間見える。かと思えば宗教色が全面に出ているわけでもなく、むしろ彼女が学んできた人生観を解説する際にカトリックの教え一部が自然に重なってきた...とそんな印象を受ける。宗教の凄さを感じるとともにカトリック教も悪くないな、と思った(入信する予定はないけど)。また、宗教の意義についても、ハっと気が付かされることがあった。神の存在がなければ、この世界には自分と他人しかいないわけで、そうなると「あいつのほうが恵まれている」「私のほうが恵まれている」といった常に二者の比較になる。その比較は不幸・不満を生む。ところが、そこに神という第三者がいるだけで、「神が決めたことだから」「神が私に与えたつらさなのだ」という考え方も生まれる。なるほどな、と思う。

さて、本書は、次のような人たちが読むべきものだろう。

  • 不公平に怒りを感じてる人 → もう少し上手な生き方を学べます
  • 自分は本当に不幸だと感じている人 → 逃げ道を見つけられます
  • 年配者 → 自分がそういう罠に陥ってないか、ハッとさせられます
  • 若者・バリバリの勤労マン → 勝つことがすべて、正しいことが全て、と思いがちな自分に喝を入れられます

【類書】


2016年7月19日火曜日

書評:ほとんどの社員が17時に帰る、売上10年連続右肩上がりの会社

どうしたら「社員がワークライフバランスを実現し幸せに働くことができるか?」について、著者自身の失敗談・経験談を元に成功のヒントを提示してくれている。それが本書だ。

ほとんどの社員が17時に帰る、売上10年連続右肩上がりの会社
著者:岩崎裕美子
出版社:CrossMedia Publishing



本書に手を出した理由は、タイトルを見て「あ、自分の会社にも通じる課題だ」と感じたからだ。我が社も、社員が増加傾向にあるが、良いことばかりではない。辞める人もゼロではない。働くのは楽しいが、常に17時退社が保証されているような会社でもない。やはりワークライフバランスに課題があるのだ。

本書の読み始めは、正直、ウーン・・・なんか「ありきたりのことしか書いてないなぁ。もしかしたら、面白くないかも」などと思った。前半は“17時に帰すテクニック”ではなく、まずはどうやったら従業員を早く帰らせる余裕を作れるか、に力点がおかれていた。それだったら「どうやったら会社が儲かるか?」の本を読むよ、と。

ただ、読み進めてみると、どんどん興味をそそられるようになっていった。なんてことはない、誰もが経験しそうなことがつらつらと書かれているのだが、いちいち自分たちが経験してきたこと・していることに当てはまるのだ。多分、これこそが本書最大の魅力なのだと思う。そう、起業家ならばおそらく誰しもがとおる壁、そしてそれをどうやって乗り越えたかについて書かれているのだ。

そもそも、著者が起業当時に持っていた心理状態からして、まさしく自分と同じ。まるで私の過去を見て本書を書いたのでは?と思うくらいだ。ちなみに、我が社では、「純粋に優秀な人を」という目線で採用をし続けてきたら、いつの間にか女性社員が半数を超えるくらいになってしまった。女性社員が多いという環境まで一緒なだけに、余計に本書に書かれた内容は人ごとに思えない。

とった対策も似ている。精神的・物理的負荷を減らすために、営業活動からマーケティング活動に主軸を移したこと、様々な制度を導入したこと、良い文化を醸成するために戦略合宿をしてみたり、新卒採用に手を出してみたりしたこと。すごくかぶる。

ただし、本書に共感できるかどうかと、本書が役立つかどうかは別の話だ。私にとって見れば、どんなに書いてあることが立派でも、内容全てが私の経験とかぶっているのであれば、読む価値はなくなる。著者がとった手段全てが、おーそれはやってみようと思えるものではなかったが、そこには私の会社ではトライしたことのない制度もありちょっとやってみたいなとも思えたものも紹介されている。ちなみにその一例を紹介すると「お、これはいいな」と思ったのは、「17時で帰っていいよ制度」や「選べる時間休制度」など。ぜひ、前向きに検討したい。

ふと、数年前に、こういった類の本を読んだことを思い出した。その本の名は、「日本で一番社員満足度が高い会社の非常識な働き方」(山本敏行著)。その本にも、中小企業に役立つさまざまなノウハウや制度が紹介されていた。「ランチトーク制度」「ノートパソコンのためのモニターを用意する」など、そのときに影響を受けて実践したことは、少なからず役に立っている。だから、この本に書かれている内容も、何か役立つはずだと信じて疑わない。

書評: たった一人の熱狂

本当に久しぶりの投稿。活字を見る気になれなくて、ここ数ヶ月、読書から遠ざかっていました・・・。さて、そんなダラダラ感を吹き飛ばしてくれるような”熱い男の本”。今回は、この本を紹介したい。幻冬舎文庫の社長、見城徹(けんじょうとおる)氏の本だ。

たった一人の熱狂
出版社: 幻冬舎文庫



そもそも、なぜこの本に手を出したのか? 見城徹氏のことをもっと知りたいと思ったからだ。日本テレビ系列「アナザースカイ」でも取り上げられ、彼の生き様は、とても”とんがっている”ように見えた。見城氏は、尾崎豊など、数々の著名人を口説き落とし、これまでにたくさんの本を独占出版してきた。石原慎太郎氏を口説き落とす際に、彼の過去の作品を丸暗記して暗唱してみせた・・・という。衝撃的である。飽和状態に近い出版業界にあって、遅咲きながら出版社(幻冬舎文庫)を立ち上げ、軌道に乗せた。ハワイで不動産ビジネスを始め、ジュースビジネスにも着手する。経歴を聞いただけでも、そのパワフルなエネルギーに圧倒される。

そんな見城氏の人生哲学がまとめられているのが、本書だ。なお、ベースは、彼が最近手を出したというソーシャルネットワークサービス(SNS)※でのユーザとのやりとりである。ただし、誤解のないように述べておくと、ユーザとのやりとりがそのまま文章に起こされた・・・という最近流行りのシロモノとは違う。テーマこそ、やりとりの中で出てきたものだが、それに対する彼の考えがしっかりとまとめられているのだ。
※このSNSは755(ナナゴーゴー)と呼ばれるもので、ツイッターとブログの中間的な位置づけのサービスだ

本書を読むと、びっくりする。活字ですら熱を帯びているからだ。「憂鬱じゃない仕事は、仕事じゃない」「結果の出ない努力に意味は無い」「圧倒的な努力をしろ」「誠意とはスピードだ」「君がなんとなく生きた今日は、昨日死んでいった人たちがどうしても行きたかった1日だ」・・・投げかけるメッセージとともに、彼がそれをどうやって実践しているか、克明にそれを示してくれている。上っ面だけでもっともらしいことを語る人はいっぱいいるが、彼ほど、発する言葉と生き様そのものが完全にシンクロする人はいないのではなかろうか。

熱を帯びた人の話を聞くと、その熱は伝播するのだろうか。本書を読むと、自らももっとやらねば、という思いが湧いてくる。とりわけ、「単なる努力ではなく、圧倒的な努力をしているか」という問いかけは、私の心に響く。「まだ足りない」「まだ足りない」「まだまだ足りない」と・・・今以上に、さらに一生懸命に生きてみたくなった。

ところで、とにかく生き急いでいる感が半端ない。あまりに凄すぎて、やや引いてしまうくらいだ。このエネルギーは一体どこからやってくるのか。本書のネタばらしになるわけではないので、述べておくと、その答えは“死”である。「生まれたその日から、死に一日一日と近づいていて・・・それを紛らわすためにとにかく必死に生きている」のだそうだ。ソフトバンクの孫会長も生き急いでいる感があるが、孫会長の場合は「とにかく偉大なことを成し遂げたい。そのための時間はいくらあっても足りない」と言ったものだった。その意味で両者が生き急ぐ理由はやや異なるが、“やがては訪れる死”というものが、今を必死に生きるモチベーションになっている点は共通している。

ふと思う。“生に限りがあること”に理不尽さや虚しさを感じる一方で、“生に限りがあること”こそが人間が生きていくためのパワーなのであると。なんと矛盾する答えであることか。

やや哲学じみた話になってしまったが、彼の死生観に共感できない人は、読んでも???となるかもしれない。逆に、一生懸命生きていて、さらに生きるエネルギーをもらいたい人にはありがたい一冊と言えるだろう。「憂鬱じゃない仕事は仕事じゃない」という一言で、救われる人もたくさんいるはずだ。頑張ってみようと。私がそう感じたように。


2016年5月24日火曜日

書評: 複数の問題を一気に解決するインクルージョン思考

久しぶりの書評投稿。根を詰めて読むことがあるかと思えば、いきなり本から遠ざかりたくなることがある。最近はずっと後者・・・本から遠ざかっていた。

そんな中、献本サイト(レビュープラス)からの話が舞い込んだ。その本のタイトルは、「複数の問題を一気に解決するインクルージョン思考」だという。著者の名前を見ると、石田章洋とある。はて、どこかで見た名前だ。そう、思い出した。確か、以前彼の著書を読んだことがある。そのタイトルは「企画は、ひと言」。自分の中にそうした印象が少しでも残っているということを考えると、今回の彼のこの本についてもきっと読む価値があるに違いない。そう考えて、読むことにした。

複数の問題を一気に解決するインクルージョン思考
著者: 石田 章洋
出版社: 大和書房



早速、本書を手にとったわけだが、やはり気になるのは、この横文字・・・インクルージョン思考。いったい何なのだ!?・・・と思った時点で、実はすでに著者や出版社の術中にハマっている。キャッチーなタイトルで読者を惹きつけたい・・・そんな戦略がタイトルに見え隠れするからだ。インクルージョン思考とは何か?の答えは、すでにタイトルの中にある。「複数の問題を一気に解決する思考」こそが、インクルージョン思考なのだ。

本書は、複数の問題を一気に解決できるアイデアをどうやったら生み出せるか、その実践術を指南した本なのである。

アイデアというものはそもそも「複数の問題を解決するもの」・・・そう定義する任天堂の宮本氏の言葉を、著者自身が本書で引用している。なので、「複数の問題を解決できる発想力を身につける」と・・・タイトルが謳うとおりにその意味をとることもできるが、もっと明瞭簡潔に、本書は「発想力を身につける指南書」と言い換えることもできると思う。

さて、書いてある内容は、シンプル。次の項目がカバーされている。

・インクルージョン思考とは何か?
・発想力にインクルージョン思考がなぜ重要なのか?
・インクルージョン思考はどうやって実践するのか?

個人的な感想を言えば、これまで発想力の本は何冊か読んできたので、そこまで目新しい!とか、ワオッ!と思うようなことはなかった。そんな中で、改めて印象に残ったキーワードは「寝かせる」だ。アタリマエのことで、そこまで気にしてこなかったが、改めて著者がいう「いったん、寝かせる」というステップは、文章として読むとなるほどと思う。振り返れば、自分もぱっとナイスアイデアを思いつくときは、いったん、机からはなれて、皇居の周りを散歩していたり、自宅周辺のジョギングコースを走っていたりするときだ。無意識だったことが、有意識になった。

さてさて発想術を書いた本は無数ある。おそらく大きな違いは、具体性、読書容易性、実行容易性などの観点でだろう。その観点で本書を評価すると、具体性・・・○、読書容易性・・・◎、実行容易性・・・◎といったところか。事実、私の人生の中で一番早く読み終えた本であるといっても過言ではない。つまり、本書は読書が苦手な人、何か言われてもなかなか実行に移すことが苦手な人・・・にこそ向いているだろう。


【同じ著者の別の本】
企画は、ひと言(石田章洋)


2016年4月13日水曜日

書評: インド数学の発想 〜IT大国の源流を語る〜


ふと、ホントーにふと、インド人はなぜITに強いのか? もしかして日本人より数学が得意なのか? ゼロを発明したことが関係しているのか? もっと言えばなぜゼロを発明できたのか?もしかしたら、そこには彼らの宗教観や言語なども、関係しているのでは? そこで得たヒントはもしかして子供の教育にも生かせるのでは?

答えを知ったらどーなるんだ?というツッコミはおいておいて、そんな疑問がたくさん湧いたので、とにかく手っ取り早く答えを知りたいとアマゾンで探して本書を買った。

結論から言うと、欲しい答えは全て得られた。本を買わなければ得られなかった答えなのかどうかは別にして。満足のいく答えだったかどうかは別にして。

本書の著者にはもちろん縁がなかったわけだが、凄いと思う。何がって、本当に歴史を深く研究し紐解いているから。インドでは九九掛け算は19×19まで暗記しているのかどうかとか、インドでの数学の教え方は日本と実際違うのかだとか、ゼロは本当にインド人が発明したのかだとか、地球の自転についてインドの学者どう考えていたのかだとか、それはもう、詳しい。

既に述べたように疑問の全ては明らかになった。が、答え以外の領域への著者の踏み込み程度は、深海のよーにハンパないわけで、読書家としての忍耐力が少ない私は、後半に息切れしてしまった。もー、読み飛ばすわ、読み飛ばすわ。

加えて、「ITはなぜインドで発達したのか」という疑問に対して、「カースト制に縛られない新興職業だから」という一行を読んだ時、説得力ある、でもあまりの単純明快さに、「こんなことなら本買わずにググっておけば良かった」という、やるせなさ、も感ぜずにはいられなかった。

まぁー、冒頭でもあげたように他にも疑問がたくさんあったわけだから、本書は無意味だったとは言わない。二桁の大きな数字の掛け算の面白い方法も学べたし。息子の反応は「ふーん」程度ではあったが、私は確かに感動した。

総括すると、そんなわけで...費用対効果は人によってだいぶ変わりそうだ。気軽に読める本ではないので、目的意識がはっきりできない限りはオススメしない。購入される際には私以上に慎重になられたし。

2016年4月5日火曜日

書評:ストーリーセラー

久々の小説。


ストーリーセラー(著者:有川浩)を読んだ。なぜって、書店の目立つ場所にランキング1位と掲げられ置かれていたからだ。

カセットテープよろしく、A面とB面といった2本仕立ての小説から構成されている。両方とも、夫婦の話。両方とも、彼女の方が小説家という設定。両方とも、彼女の夢を支える素敵な旦那さんという設定。両方とも、どこまでがリアルでどこまでが架空の話か、その境界がわかりにくい。異なるのは・・・もちろん、エンディング。

ほのぼのとした、でもリアリスティックな結末の話。2つの夫婦の人生を追体験できた。なかなかとらえどころのないオチはなんだったんだろう・・・と考え込んで、ページをぱらぱらとめくってなんでも読み返してしまった。なんでこの本が1位なのか、どうしても腑に落ちなかった。何が面白いのか。

でも読んでからしばらく・・・1時間ほど経って、ふと、結婚した誰の人生でもA面かB面のどちらかの話に当てはまるのかもな・・・と気がついた。自分にこれから降りかかる人生はA面なのかB面なのか。そう考えると、なんとなく他人事で読んでいたこの小説が自分ごとに思えてくる。

もし、作者がそれを見越して本書を書いたのなら、それはなんかすごいことだと思う。でも、やっぱりなんか腑に落ちない。私には、向いてない本がだったのかも。

2016年4月3日日曜日

書評: 創価学会と平和主義

私が好きなNHK番組に100分で名著というものがある。先日、そこで司馬遼太郎が取り上げられていた。著書の代表作「花神」に登場する主人公「大村益次郎」にまつわる解説者の話が印象的だった。

『多くの日本人は“これまでこうしてきました”、“みなさんそうなさいます”からといった理由で、既存概念から脱却できずにいた。これに対し、大村益次郎は、合理主義の信徒だった。そのお陰で戦いで勝ち続けた。』

この発言は、人間いや我々日本人は、感情に走り過ぎて、あるいは、横(他人)を見過ぎて、損してることが結構あるのではないか、という示唆に富んでいる。もちろん合理的・論理的であることが常に正解とは限らない。事実、大村益次郎は人間的にはダメダメだったらしい。だが、余計な感情を廃し、合理的・論理的に物事を見る行為には我々が暮らしよくしていくためのヒントが隠されているのではないかと思うのだ。これこそが、私が本書に手を出した理由である。

著者:佐藤 優
出版社:朝日新書


⚫️創価学会と公明党を客観的に紐といた本
創価学会の正体を語ってくれている本だ。公明党とのつながり、その奥底にある決してブラさない軸、当該宗教における池田大作氏の位置づけ、彼や創価学会、公明党が果たしてきた役割などを、“偏見を入れずに”解説している。

“偏見を入れずに”と、なぜ言えるのか?それは著者が、あの佐藤優氏だからである。しかも、佐藤優氏自身、既に別の宗教に入信している身である。そう、プロテスタントであり、肩入れするような立場でもないのだ。

⚫️佐藤優氏が本書を書いた理由
そう考えると逆に「なぜ、彼がこんな本を?」という疑念がわくが、これについては冒頭で私が述べたものに似た趣旨の発言を、本書の中で述べている。

『キリスト教とは、同時に他の宗教を信じることが認められていない。したがって、私は、当然、創価学会員ではない。また、創価学会におもねる必要もない。しかし、同時に私は、偏見を極力排除し、創価学会を等身大で理解し、そこから学びたいと思っている。それは私の理解では、創価学会が生きている、本物の宗教だからである。』(本書より)

ちなみに、私も創価学会には接点はない。良い印象も悪い印象も持っていない。強いて言うなら「得体の知れない団体」という、ややもすれば負の印象を持っていると言えるかもしれない。若い頃、私が塾でバイトをしていた関係もあって、そのときの教え子に「集会に来てみませんか?」と誘われて、その集まりに参加したことがある。そこで見た、大勢の人が集団で何度も一斉に「何妙法蓮華経」と声に発していた光景だけが、いっぺんの記憶として残っている。

⚫️異教徒が異教を語るユニークさこそが本書最大の魅力
宗教を異にする佐藤優氏自身が他の宗教について語っているということ自体が異色だが、キリスト教との類似点について語っているのは佐藤氏ならではだと思う。キリスト教布教の歴史と創価学会の布教の歴史を対比させているのは佐藤氏くらいではなかろうか。

そして、さらに、政教分離がどうの・・・と言われる中で、あえて「むしろ、公明党と創価学会はお互いの距離を、外部の人間の目にも見える形で縮めるべきだと主張したほうが日本のためになる」という発言は、興味深い。なぜ、そんな主張をしているのか、についてはぜひ本書を読んでもらいたい。

⚫️読んで見て、思った通りに得られた学び
本書を読んでみて、「びっくりぽん」(あさちゃん風)だったのは、以下の3つである。
  • 佐藤優氏がプロテスタントだったということ(実は知らなかった)
  • 政教分離に対して間違った認識を持っていたこと(公明党は政教分離スレスレだと思っていた)
  • ナショナリズム※も、グローバリズムも、今の世界が抱えている課題解決にはたり得ないということ。逆に創価学会が説く、非暴力と対話に基づく平和主義に解決にヒントが隠されているのではないかということ
ナショナリズムは自分の国の習慣と価値観が他の国のものより優れているという考え方

⚫️誰が読むべきだろうか
佐藤優氏曰く、次の読者を想定した執筆したとのこと。

創価学会に反感を覚える人、宗教に無関心な人、熱心な創価学会員、両親が創価学会員である関係で自分も学会員になっているが活動には熱心でない子と、恋人が創価学会員であるために両親から交際をやめろと言われている人など。

宗教がどうのこうのとか、創価学会がどうのこうのとかということを差し置いて、まず今事実として誰が何をしようとしているのか、それはどんな意味を持つのかについて認識することは決して損ではなく自分にとっての正しい答えを導き出す近道にもなり得ると思う。

まぁ、装丁やタイトルには、正直、手にとって読もうと思いづらい雰囲気があるけどね。


【宗教解説という観点での類書】
ふしぎなキリスト教(著者:橋爪大三郎、大澤真幸)

2016年3月30日水曜日

書評: ワークシフト

先日も書いたが、インプットとアウトプットは常にセットで行うと身につく。
習ったこと・覚えたこと・見聞きしたことを、改めて自分の口に出してみたり、文書に落としてみたり・・・。アウトプットすると、自分の考えが鮮明になり、持つべき意思も、より強固になる。意思がはっきりすれば、自然と実行力も上がる。

本書が取り扱うテーマは、自分の未来には何が待ち受け、それに備えてどう行動すべきか、だ。このテーマについては、日常生活の中で、しょっちゅう考える機会はあるし、考えてきた。でも、きちんとアウトプットする機会はあまりなかったように思う。だから、いつも未来には何が待ち受け、自分がどうするか・・・明確な意思は持ててないし、自分の行動にもつながっていない。

本書は、まさにそこを解決してくれる一助になるかもしれない。

WORKSHIFT(ワークシフト)
~孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〔2025〕
著者:リンダ・グラットン(池村千秋訳)
出版社:プレジデント社


将来がどう変わるかを予測し、我々が後悔しない生き方をするために今からどんなことに気をつけておいたほうがいいのかといったテーマを考えるための基礎情報を提供してくれている本だ。単に基礎情報を提供するだけでなく、同基礎資料を使って自分なりの答えを導き出した人々の回答例や、著者本人としての結論も紹介されている。なお、ここで言う将来とは、今から10年先(2025年)のことを指している。

ところで、著者はどうやって不確実な未来予測をしたのか。世界に散らばるメンバーからなる共同研究プロジェクトを立ち上げて実施したという。そして、次の5つの要因からなる32の現象をリストアップしていったそうだ。
  • テクノロジーの進化
  • グローバル化の進展
  • 人口構成の変化と長寿化
  • 社会の変化
  • エネルギー・環境問題の深刻化
32の現象とはたとえば、「メガ企業とミニ起業家が台頭する」「バーチャル空間で働き、“アバター”を利用することが当たり前になる」「世界の様々な地域に貧困層が出現する」など。

我々は、こうした32の現象を、一つの基礎資料として自分なりのより具体的な未来想定と、どうすべきかの答えを導き出していくわけだ。先述したように、単に基礎資料だけ用意して「あとは自分だけで考えてみてくれ」というわけではない。そこには、実際にこの現象を基にどういった未来を描いたのか、いくつかの事例が紹介されているし、著者自身の考えも述べられている。「物理的な距離を感じさせないバーチャルな共同業務が当たり前になり、ますます仕事の細切れ化が進む」といった話や「何でもネットでつながっていくがために、人と人とのつながりが希薄化していく」といった話など様々だ。

ちなみに著者自身に1つの考えはこうだ。「色々な仕事はコンピュータにとって変わられる」「コンピュータがとって変われない仕事は、専門性が高く、想像力が求められる仕事である」「そこまでの力量を身につけるためには、“自らが本当にやりたいと思う仕事”でなければ無理だろう」「ただし予想した未来が確実にやってくるとは言えない」「だから、“自ら本当にやりたいと思う仕事”を見つけ、それにつく努力を今以上にしていくことがいいだろう」というものだ。ただし、何度も言うように、これは著者自身の考えであり、実際は本書が提供する基礎資料を基に、自分なりの未来を描く必要がある。

私自身はこの本を買って読んだおかげで、冒頭に述べたように今まで漠然としか考えてこなかった未来、それに伴って自分がすべきことが、よりはっきりしてきた。その意味で本書には感謝している。他のみなさんも読んだ方がいいのか?という問いに関しては、人による・・・というのが私の答えだ。今から10年後の話なのだから、学生自身、そして学生を子供に持つ親にとっては、使い方次第で有益な本になるだろう。


2016年3月22日火曜日

常にインプットとアウトプットは“ペア”にする

NewsPicks【堀江貴文×鈴木おさむ】面白い企画は“心の貯金”から生まれる
https://newspicks.com/news/1456846/body/?ref=search

は面白い記事だった。下記、言は印象にはピンと来るモノがあった。

「インプットとアウトプットは同時に行うように心がける」(堀江貴文)
「じっくり3カ月かけて企画を出すより、短期間集中して出す22個のほうが大事だと思います。」(鈴木おさむ)

アウトプットってインプットするより面倒臭くて、例えば自分で本を読んでもアウトプット出すのに時間を空けちゃうことがよくある。「きちんと思考を整理したいから、時間を取れるまで置いとこう」みたいな。でも、振り返ると時間をおいたからってアウトプット品質がすごく良くなるわけではないし、むしろ時間が経過したせいで記憶が薄れ、品質が劣化する(あるいは時間がかかる)ことも少なくない。

「アウトプットは自分にとって本当に役立つ情報への変換作業である」という目的に鑑みれば、時間をかけてアウトプットするよりも、むしろ、できるだけ素早く数多くこなした方が、有効性が高いという事実は、成功者が共通に発見してきたことなのだろう。

2016年3月12日土曜日

書評: 経営パワーの危機 ~会社再建の企業変革ドラマ~

インフルエンザBで倒れてた...。読み終わってはいたけれど、パソコンに向かうことができなかった。

さて、書評。


■ノンフィクションに限りなく近い、会社再建ドラマ
これは、会社再建ドラマだ。フィクションではあるが、著者自身が経営コンサルをする中で得た実話を上手に組み合わせて、書き上げたかなりリアルな物語である。読者に追体験させることを狙いとしている。

舞台は、色々な会社を買収し、多角化を進めてきた企業、新日本工業から始まる。投資した子会社の業績は惨憺たる状態。新日本工業社長・・・財津は、立て直しをしようと抜本改革を目指す。そもそも経営を担える次世代幹部が育っていないことを真の課題ととらえた財津社長は、36歳の伊達陽介に注目し、彼を傾きかけた子会社の1つに出向させる。そう、物語の主人公は財津社長・・・ではなく、倒産寸前の会社に送り込まれた伊達陽介だ。彼は困難に立ち向かい、会社を再建できるのか。

■「ザ・ゴール」を彷彿とさせる示唆にとんだ本
読んでパッと頭に思い浮かんだのは、エリヤフ・ゴールドラット氏が書いた有名なオペレーションズ・マネージメント小説「ザ・ゴール」だ。「ザ・ゴール」は小説に仕立て上げられた経営管理の教育本だが、本書「経営パワーの危機」も、言わば、その経営再建バージョンと言えるだろう。

結論から言うと、面白かった。500ページ近くからなる分厚い本だが、立ち止まることなくあっという間に読めた。加えて、小説の合間合間に登場する著者のちょっとしたコメントは示唆に富んでおり、役に立つ。たとえば、財津社長が主人公の伊達陽介を出向させる場面では、

「日本企業の弱点は、経営が育ちにくい環境であることだ。組織を小さなプロフィットセンターに分けて、権限を与えればいいが、日本ではこのアプローチがまだまだできていない。多くの日本企業が依然として機能別組織や中途半端な事業部制の組織にとどまっている。だから実質、本来の意味での“経営センスを磨く場”が乏しいといえる」

といった著者のコメントが登場する。なるほどな、と思っているところ・・・本を読み終えた翌々日くらいに次のような日経新聞の記事がたまたま飛び込んできた。

みずほ、顧客別に組織!みずほフィナンシャルグループは4月に社内カンパニー制を導入する。2016年2月27日日経新聞朝刊より
トヨタ、次世代経営者育成! カンパニー制導入発表。「トヨタ自動車は2日、社内カンパニー制を4月に導入すると発表した。」2016年3月4日日経新聞朝刊より

みずほの場合は、どちらかと言えば顧客ニーズを掘り起こすことを目的とした組織編成だが、トヨタなどはまさに著者がしてきたしたような課題解決を目指した組織編成を行おうとしているわけだ。

こうしたリアルな企業のニュースが、自分のアンテナにひっかかり、単なるニュースが単なるニュースだけでおわらないのは、本書を読んだからこそだと思う。本書は本当にタメになる。こんなケーススタディ本がたくさん登場し、読まれるようになれば、と願う。日本企業から真の経営者が生まれることは、日本経済の活性化にもつながるのだろうから。


【経営ノウハウを物語から学習できるという観点での類書】
ザ・ゴール(エリヤフ・ゴールドラット)
ザ・ゴール2(エリヤフ・ゴールドラット)

2016年2月13日土曜日

イノベーションと経済危機と自動洗濯折り畳み機

今日は、イノベーションについて考えたい。世の中、イノベーションを起こすのにみんな必死だ。だがイノベーションってそもそも何だろう。

私は、ユーザーにもたらす良い意味での驚きのことだと思う。そしてその驚きには購買欲求も伴う。その意味で言えば、iPhoneなぞは、まさにイノベーションだった。その証拠に、みんな(私も含め)飛びついた。多少高価でも関係ない。みんな飛びついた。

だが、盛者必衰のことわりを表すとはよく言ったもの。iPhoneの売り上げが減少したと先日の日経は報じていた。人間は飽きやすい動物だ。驚きは長続きはしないのだ。そんな動物にイノベーションをもたらし続けるってきっと大変なことなのだ。

他方、イノベーションは、経済危機にも関係があると言う。佐藤優氏の本で学んだ。イノベーションが停滞すると購買活動が減り、売り上げが減少、給料が減少、これが行くところまでいくとバブルがはじける・・・それが経済危機だそうだ。

ぼんやりとそんなことを考えていたところ、今日、日経ビジネスを読んでいて良い意味での驚きに出会った。なんと、自動洗濯折り畳み機の実用化がすぐそこまで来ているという。これが実用化されたら、その購買欲求たるや、iPhoneに匹敵・・・いやそれ以上ではなかろうか。

人間は飽きやすい動物といったが、飽くなき欲求があるかぎり、イノベーションはもたらされつづけるのだろう。経済危機もやってはくるだろうが、乗り切れそうだ。

2016年2月12日金曜日

仕事の効率化術(バッグ編)

私はずっとランドセルのような厚さの大きなバッグを仕事で使っていた。しかも、常にパンパンだった。酷使していたため、数年でひもが引きちぎれ、買い換えてきた。その都度、大きめのモノを・・・という選び方をしてきた。

数年前、佐藤可士和氏の「仕事の超整理術」という本を読んだとき、「定期的にバッグをからっぽにする」といった彼の発言を見て、これだ!と思った。そして、定期的にバッグをからっぽにするように心がけてきた。だが、気がつけば最後はいつもパンパンになっている。

ホチキス!ポストイットのり!参考書!ノート!PC!iPad!電源がなくなったときのための予備バッテリー・・・。困ったときにあると便利だが、バッグが重くなる一方だった。パンパンかつ重たいバッグを持ち歩いて、健康に良いことなどない。肩も痛くなるし、体も傾く。

2016年12月、何を思ったか突如、薄型のバッグを買った。とにかく何も持ち歩きたくない・・・いっそのこと持ち歩けないバッグにしてみてはどうだろうか・・・と思ったからだ。予備のバッテリー? いらない! ホチキス! なくても困らない! ノート!数枚で十分!・・・そんな感じで無駄を排除した結果、必要なものは全てそこに収まった。それから2ヶ月。特に困ることは何もない。強いて言えば、客先でもらったペットボトルの水が入らないことくらいだ。でもさっさと飲み干せばいい。
いったい、パンパンで重たいバッグを持ち歩いて・・・それでも、まだ何か足りない・・・という状態だったあの数年間の苦しさはいったい何だったのだろう。バッグは軽いし、体も軽い。必要なものもすぐに取り出せる。整理整頓の整理は捨てること、整頓はしまうこと・・・とは良く言ったモノだが、捨てること・・・これをせざるを得ない強制的な環境を作ること・・・これも一つの有効な手段なのかもしれない。

書評: 売る力 〜心をつかむ仕事術〜





●顧客目線を実践したい一心で手を出した
著者の鈴木敏文氏が結果的に成功したものはその多くが、提案当初、たくさんの人から反対されたものばかりだった・・・という。セブン銀行やおにぎり販売、共同配送・・・などなど。セブン銀行のときは取引銀行の頭取までもが直接訪問してきて反対したというからびっくりだ。顧客目線が重要と言いながら、いかに顧客目線じゃない人が多いかということを示すのにこれほど分かりやすい例はないのではなかろうか。

セブン-イレブンに関する本は過去に1冊に読んでおり、鈴木敏文氏の考え方はある程度わかっているつもりだ。それでも、今回改めて彼の本に手を出したのは、顧客目線・・・が分かっていても、実践しきれていないと感じるからだ。まるで、顧客目線から引き離そうとする強力な磁場が働く中にいるかのようだ。油断するとすぐに売り主目線になっている。

この強力な磁場から抜け出すためのヒントが少しでも得られれば・・・という思いから、本書に手を出した。そして結論から言えば、その希望はある程度叶えられたと思う。

●顧客目線の第一人者が語る仕事術
「売る力」は、顧客重視の第一人者といっても過言ではない、鈴木敏文氏が執筆した本だ。ご存知の通りセブンイレブンは競争が激化しているコンビニ市場にあって、コンビニ業界・・・いや小売業界の王様と言える。その大きな原動力になってきたのは、間違いなく鈴木敏文氏である。どんな環境変化にさらされてもタイムリーに顧客の心を掴み、売れる商品を提供し続けてきた鈴木敏文氏のアプローチ方法が、本書には書かれている。

●本書が読者にもたらす3つの価値
3つの理由で価値ある本だと思う。

1つめは、顧客目線とは何たるかを教えてくれる点だ。顧客目線とは、売れる商品を作り完売させることではなく、顧客が買いたいと思う商品に欠品を出さないことだ・・・という鈴木敏文氏の話が、印象的だった。Francfranc(フランフラン)高島氏の「横(ライバル)を見るのではなくひたすら客だけを見続けた」と言う対談話は、胸にぐさりと突き刺ささった。

2つめは、顧客目線を持つにはどうしたらいいかを教えてくれる点だ。顧客目線を持つには、「顧客のために」という思考ではなく、「顧客の立場で」という思考が大事という鈴木氏の話は至極まっとうだ。そのほかにも、セブンイレブンのブランディングを担当したクリエイティブディレクター佐藤可士和氏の赤い携帯電話の事例話が面白かった。

3つめは、顧客自身も気づいてない顧客目線というものをどうやって持つかを教えてくれる点だ。ただし、この点については昨日読んだ堀江貴文氏の「アイデア自体の価値は下がっている。重要なのは実行に移すかどうかだ」という言葉も思い起こされる。その意味では、ヒントはごろごろ転がっているハズで、ちょっとした工夫で、気づけるようになる・・・ということなのだろう。AKB48で有名な秋元康氏の予定調和の壊し方に関する対談話や、自らの声にいかに耳を傾けるかという鈴木敏文氏自身の話が興味深かった。

●会社の仲間に伝えたい
あの鈴木敏文氏が敬意の念を抱いているという人達の話は、有名な人ばかりだ。そして期せずして共通しているのは、みんな地道で尋常じゃない努力をし続けているという点だと言う。

うちはB-to-Cじゃないから。そういう声もあるだろう。だが、顧客重視に業種・業態など関係ないはずだ。みんな顧客目線に立つために、地道で尋常じゃない努力をしつづけてきているんだ・・・ということを、わたしの会社の仲間にも伝えたいし、読んで欲しい。そう思わせてくれる本である。

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...