2016年7月30日土曜日

書評: 桐島、部活辞めるってよ

「世界地図の下書き」を読んで、なかなかおもしろい小説を書く人だな、と思った。だから、この本も読んでみたいと思った。映画化もされたし・・・。

桐島、部活辞めるってよ
著者: 朝井リョウ
出版社: 集英社文庫
フィクション小説だ。一言で言えば、高校生の青春小説。全7章からなり、舞台や時間は常にほぼ同じだが、章ごとに語り手・・・すなわち、主人公が変わる。これがこの小説のユニークなところだ。いずれも同じ高校に通う7名それぞれを章ごとに主人公として描いているのだ。

最初はこのような構成になっていると知らず、「あれ?オムニバス?」など戸惑いながら読んだが、途中で作者の意図が分かって、スムーズに読むことができた。

さすがだと思った。多感な時期で、同じことを異なる捉え方をし、そして、将来を考え、大いなる夢を持ち、努力をし、悩み、不安になり・・・とにかく、心のなかに大きな渦巻きができるのがこの高校時代だ。“高校生”の内面を描くには最高の手法だろう。

そして、心憎いのが、必ずそれぞれの章で、主人公たちが何らかの決意をする。彼ら・彼女らなりに感じ、思ったことを心に秘め、「こうしよう、ああしよう」と決意する。それが、またどういう決意であっても、「成長」ということを感ぜずにはいられない・・・ポジティブな感情を読者に植え付ける。

大人が読むと、「あー、羨ましい。あの頃に戻りたい」と思うだろう。高校生が読むと「あー、自分も一生懸命もがいてみよう」と思うだろう。

何も考えずにすーっと読める本だが、メッセージがハッキリとはしてないので、「ん?何が言いたいの?」と思う人もいるかもしれないが、ハマる人はハマるだろう。そういう人には、心をくすぐる一冊になるはずだ。


【朝井リョウの本】

2016年7月28日木曜日

書評: 総理

さぁ、旅行先に何を持って行こうかな・・・そんな時、ふと目に止まった。長期政権を担う安倍首相に興味があった。一般メディアが教えてくれる情報(我々が知っている事実)と真実との間にどれだけ情報格差があるか、知りたかった。





■宰相の仕事、安倍総理、安倍政権の裏側を語った本
安倍首相の第一次内閣発足の時から、第二次内閣を発足し、2015年9月に総裁選に勝利した直後くらいまでに起きた政治の裏側を語った本である。当時TBS記者であった山口氏自身が安倍総理に張り付く中で見聞きし、感じたことを語ってくれている。「見聞きしたこと」とは、主に、山口氏が安倍総理自身や安倍政権の政治家から直接何度も相談を受けたり、他の政治家同士の伝令役になったり、個人的な心の支えになったり...そういったやりとりの中での出来事を指す。

記者も政治家も、ぶつかり合うことはしょっちゅうだが、結局はお互いがお互いを必要とする関係なので、互いにある程度親密な人間関係を築く必要があるし、実際そういう記者がいるのは知っていた。だが、どうやら著者である山口氏は、私たちの想像を超えるほどの深い関係を築いていたようだ。「記者と政治家もそこまでの関係を築くことがあるのか!?」と読みながら思ったほどだ。

■本書はプロパガンダ本か、それとも・・・
だからこそ本書に価値があるのだが、同時に誰もが思うのは「安倍総理の傀儡になりさがった記者によるプロパガンダ本なんじゃないの?」ということだろう。この点については著者のいう言葉を信じるしかないが、著者はこういう疑問が読者から湧くことも想定していたようで、「本書を通じてジャーナリズムとはどうあるべきかを考える材料を提供したい」とも語っている。なお、著者の抗弁は次のようなものだ。

「スイカがどんな食べ物かは、外の皮だけ見ても分からない。開けてみて中身を見ただけでもダメ。中身をとって口に入れて初めて分かる。中身を食べたら腹を壊すこともあるかもしれない。その顛末を伝えて初めてその一連の作業がジャーナリズムに属するのだ」と。つまり、独立性・公平性を決して脅かしてはいけないが、ズブズブと言われるほどの関係にならずして真実を伝えられるのか、と。本書はその結果得られたものであり、ここで提供されたものこそ皆が知りたいことではないのか、というわけだ。

■NHKの大河ドラマを見ているようだった
読んでみて私自身はどう感じたか? 2つの点で期待を超える内容だったと思った。

1つは、間違いなく山口氏本人しか知りえない安倍総理、安倍政権の話を知ることができたということ。一般のメディアの報道を見聞きして一喜一憂している自分は浅はかだったなと思うと同時に、外見だけ見てわかるほど人間はそんなに簡単じゃないな、と思った。もし、ジャーナリストが本当に独立性・公平性を担保できるなら、こうした内容を伝えることはとても大事だとも思った。本書には全く関係ないが、ジブリの鈴木敏夫さんと社会学者の上野千鶴子氏の対談を聞いていた時に、上野千鶴子氏が「研究でも何でも、何かを論ずる場合は、自分がその中につかって愛憎をともにそこをくぐり抜けないと(ダメなんです)・・・外見だけを見て論ずることはできても、その内容は面白く無いです」とおっしゃっていたのを聞いて、「あぁ、山口氏の主張していたことと同じだ」と思ったし、実際、本書を読んでそうだと感じた。ただし、政治家に目を光らせるのがメディアの役目なら、メディアに目を光らせるのは誰か?・・・そこが課題だろう。

2つは、NHKの大河ドラマを見ているような体験ができたことだ。政治家の駆け引きは、戦国時代の武将の駆け引きのそれにも似ていると心底思った。総裁の椅子をめぐる動き、消費税増税をめぐる動き、派閥をめぐる動き・・・人間模様が面白い。麻生さんのとことん筋を通す性格、菅さんの優秀さ、安倍さんの日本の将来を見据えた覚悟・・そのためにアメリカにNOという姿勢、財務省の日本の昔の軍隊のような恐ろしさ・・・などなど。いやぁ、ノンフィクションって面白い。

■投票権を持つ全ての人が対象読者
著者は「総理の仕事、安倍総理、安倍政権について読者に伝えること」を狙いの1つに挙げている。概ねこれらは達成できていると言えるだろう。こうしたことへの理解を経て、少なくとも今以上に、政治に関心を持てるようになるはずだ。その意味で、投票権を持つ18歳以上全ての人が対象読者だ。


【政治という観点での類書】
私を通り過ぎた政治家たち(佐々淳行)
天才(石原慎太郎)

2016年7月27日水曜日

書評: 世界のトップを10秒で納得させる資料の法則

ビジネスマンの誰もが避けては通れないこと。それはな何だろうか? そう、資料作りだ。役員になったら、そんな事務作業なんて...という感じだろうが、それでも部下が作ってくる資料のレビューをする必要がある。ビジネスマンの資料作りが業務全体に占める割合って意外と多いのだと思う。効率性・有効性を向上させる技があるなら、誰もが便乗したい。そう思うはずだ。

世界のトップを10秒で納得させる資料の法則
著者: 三木 雄信
出版社: 東洋経済新報社
本書は、ソフトバンクにて孫さんの下で経営が納得する資料作りの酸いも甘いも経験してきた著者が、たどり着いた「資料作り道」を指南してくれる本だ。

私が本書に手を出したのは冒頭で述べたような理由もあったが、もう一つは、一流と言われる孫さんの求めるレベルに興味があったからだ。加えて、実際にソフトバンクグループと取引することもあるので、そうした資料文化を知っておいて損はない。

さて、何が書かれているのかというと、「資料作りの本質とは何か」「どうやったら本質を汲んだ資料作りができるのか」「より具体的にはどんなテクニックがあるのか」と言ったことが書かれている。これらの説明を理解するためには、著者(孫さん?)の資料作りの信条を押さえておくことが大事だ。それは、プレゼンでも何でも、何かをアピールする際には数字が大事だ(全てのページに入れてもいいくらい)ということ。そして数字を基にしたキーメッセージを発信するにはグラフ化が大事ということだ。そう言えば、堀紘一氏もその著書「コンサルティングとは何か」の中で、コンサルの仕事を一言で表すとすると「グラフ化だ」と言っていた。

だから、本書はグラフ化の話から始まる。とりわけ業務改善をする際に役立ちそうな分析・グラフ化について解説している。「群管理」「回帰分析」など。グラフ化の話をベースとして、各種資料作り・・・議事録作成、プロジェクト管理、企画書作成、プレゼン資料作成に話は及ぶ。

なるほど、明日から役立ちそうなヒントが載っている。私の場合は幸か不幸かすでに色々なお客様にしごかれてきたので、おおよそ知っているようなポイントも多かったが、学んだのにすっかり忘れていたことを気付かさせてくれたことだけでもありがたい。例えば、グラフ化のところで登場する回帰分析は、MBAで習っていたものだが、すっかり使うことを忘れてたので良いリマインダーになった。また、議事録やプロジェクト管理の精度を高めるポイントも一部、忘れていたものに気づかせてくれた。プレゼンターとプレゼン資料との間の関係性が主従逆になることが多いという指摘も尤もだ。

ところでかの伝説の教師、橋本武氏がこんなことを言っている。「すぐに役立つものは、すぐに役立たなくなる」と。本書はどうか? 両方が内在している本だと思う。強いて言えばやや「すぐに役立つ」よりか。資料作りの本質について言及する一方、事細かなテクニック...中にはエクセルを具体的にどう使えば欲しいグラフに落とせるかの手順にまで言及しているパートがある。だからだ。

結論を言えば、ビジネスマン、それも入社3年目以降の社員であれば、本書を読む価値はあると思う。なぜ、3年目以降かと言えば、無駄な資料作りを何回か経験し、失敗してからの方が本質をより理解できると思うからだ。逆に私のように既に色々なことを経験済みの人は「自分がどれだけ一流が求める力量に到達できているか」のギャップ分析に使えるだろう。


【資料作りに役立つという観点での類書】

2016年7月26日火曜日

書評: これならわかるコーポレートガバナンスの教科書


2015年はコーポレートガバナンス元年と呼ばれた。そう呼ぶ一つのきっかけとなるコーポレートガバナンスコードなるものも同年に発行された。コーポレートガバナンスの強化はアベノミクスの「第三の矢」を支える重要な施策の一つにもなっている。日経新聞でコーポレートガバナンスという文字を見かけない日はほとんどない。さて、この「コーポレートガバナンス」とは一体、何ものなのだろうか?

著者: 松田千恵子
出版社: 日経BP社


私が本書に手をだしたのには2つの理由がある。1つ目は、Kindle版があったためだ。得てしてこういう本は大きく・分厚く、持ち歩くのに不便だからだ。2つ目は、もともと扱うテーマ自体が難しく面白くないものなので、分かりやすさが何よりも大事だと思ったからだ。タイトルが決め手になった。

⚫️コーポレートガバナンスのイロハ
本書には、コーポレートガバナンスのイロハが書かれている。イロハとは、具体的には次のようなものだ。
  • コーポレートガバナンスとは
  • コーポレートガバナンスが必要な背景
  • コーポレートガバナンスに関する要求事項と対応の要諦
  • グループ会社へのコーポレートガバナンスの効かせ方と要諦
なお、コーポレートガバナンスの要求事項とは、コーポレートガバナンスにおいて企業がどう取り組むべきかを示した法規制やガイドラインなどのことを指す。本書では、この点について冒頭でも触れたコーポレートガバナンスコードにスポットライトを当てている。

※コーポレートガバナンスコードとは、2015年6月1日に施行されたもので、上場企業がコーポレート・ガバナンスにおいて、遵守すべき事項を規定した行動規範だ。

⚫️入門書ながら、痒いところにも手が届く本
本書の特徴は、分かりやすさだ。良くタイトルだけ「わかりやすい」とか、「入門」とか書いてありながら、中身は実は「わかりづらい」という本も無数に存在するが、本書はその類ではない。難しい言葉を噛み砕いて説明している。分かりやすいって具体的にどんな感じだろうか?例えば、コーポレートガバナンスという用語の解説を次のように行っている。

『この 「ガバナンス 」を 、企業について考えた場合が 「コ ーポレ ートガバナンス 」です 。企業の舵取りを 、関係者間でいろいろと考えていこうよ 、ということです 。 「企業統治 」などと訳されるコ ーポレ ートガバナンスですが 、単に 「株主の言うことを聞け 」という上意下達的な支配をさすのではなく 、関係者の間で企業の舵取りをどうするかを考えるということなのですね 。』(出典: これなら分かるコーポレートガバナンスの教科書より)

また、意外に痒いところに手が届く内容にもなっている。なんていうか、こう、昨今、企業経営をするにあたり、ありがちな壁や悩みについて、触れてくれている。「社外取締役を入れても、時間の限られた取締役会にもにすごく議題を詰め込みすぎてうわべだけの議論で終わってしまう」という話。「中計の策定と言いながら、実際は数字合わせや調整だけで終わっている」という話。「海外子会社を管理するにあたりついつい、海外事業統括に任せてしまう」という話。どれもありがちで、実際に企業が抱えている課題である。本書がアカデミックの書ではないことの証明でもある。

ただし、一点、課題解決のヒントは書かれているが、課題解決のステップを事細かに書いてくれているわけではないという点にだけ留意が必要だ。

⚫️会社勤め人なら知っておきたい世の中の仕組みの1つ
著者曰く、本書のコンセプトは「難しそうな論議ばかりが満載されているようにみえるガバナンス分野について 、法律や規則の詳細にこだわらず 、専門的な見地にも立たず 、社外役員などの経験も踏まえながら 、実務において直面する様々な課題を 、企業のミドル層と一緒に考える 」といったものだそうだ。まさにその通りの印象を受けた。

コーポレートガバナンスを知っておくべき立場の人、すなわち、経営コンサル、会社経営者、その候補者、監査役・社外取締役になる人、買収のブレインになる部門の人(経営企画部や財務部など)、海外駐在する人などは、ぜひ目を通しておいたほうがいいだろう。いや、本当は会社勤めをするなら、会社の仕組みくらい知っておきたいものだ。


2016年7月25日月曜日

書評: 東芝 粉飾の原点 ~内部告発が暴いた闇~

最近思うことがある。机上の知識は空論になりがちだ。だが、そんな中にあっても「失敗を追体験できる本」ほど価値のあるものはない。さきごろ読んだ「自分を変える読書術」の著者、堀紘一氏も「読むなら、人の成功体験よりも、失敗体験のほうを強くお勧めする」と言っていたが、まさにそのとおりだ、と思う。

この気づきを前提におくと、失敗体験をできるこの本は、まさにコーポレート・ガバナンスとはどうあるべきかを学習したい人にとって、貴重な教科書と言えるだろう。

東芝 粉飾の原点 ~内部告発が暴いた闇~
著者:小笠原 啓
出版社:日経BP社



■なぜ、東芝のコーポレート・ガバナンスは機能しなかったのか?
いきなりコーポレート・ガバナンスという言葉を使ってしまったが、コーポレート・ガバナンスとはそもそも何だろうか? コーポレート・ガバナンスとは、「従業員、顧客、規制当局、投資家、債権者、取引先など利害関係者間のいずれか一人に、一方的な都合・不都合が生じないように企業の舵取りをみんなでいろいろと考えていくための仕組み」だ。本書は、このコーポレート・ガバナンスが機能不全に陥った組織・・・東芝に、一体、何が起きていたのか? 東芝の粉飾は、どうして起きたのか? どのように起きたのか?についての真相を暴いた本だ。

なお、東芝の粉飾について簡単におさらいをしておくと次のようなものである。ことは2015年の某日、東芝のある社員が証券取引等監視委員会に内部告発したことから始まった。これをきっかけとして、証券取引等監視監視委員会は東芝に開示検査に入る。おかしな点が見つかったため、その2ヶ月後、東芝は社内で独自に特別調査委員会を立ち上げた。だが、不正を把握しきれず、5月に第三者委員会を立ち上げる。結果、2009年3月以降の7年間で1500億円超の利益水増しがあったこと、経営トップの関与があったことが明るみになった・・・というものだ。

■裏の裏の裏まで迫った・・・まさに闇を暴いた本
本書の特徴は、こうした経緯を、内部告発によって得た情報を手がかりに裏とりを行い、克明に実態を負っていることにある。

『東芝では「チャレンジ」と称し、通常の方法では達成不可能な業務目標を強制することが半ば常態化していました。同様の経験をお持ちかどうか、強制された時にどのように対応したのか、率直なご意見をお聞かせくださいアンケートは所属組織名も含め、実名でお応えください。内容に応じて、日経ビジネスの記者が取材させていただきます。取材源の秘匿は報道の鉄則です。・・・(以下、省略)・・・。』(出典:東芝粉飾の原点 集まった800人の肉声より)

こんな文面を紙面やWEBサイトに載せ、最終的に800人以上から情報を入手することができたそうだ。ゆえに、他の新聞や雑誌、書籍では取り上げ得ない裏側の裏側にまでせまっている本であることがわかる。著者の取材が入ったことで、東芝がひた隠しにしてきた事実・・・子会社のウエスチングハウス単体で巨額の減損があったことが明るみになった話はまさに「裏の裏の裏にまで迫った」を証明するものだろう。

■結局、粉飾をしても誰も何も得しない
それにしても、ここまで「組織は腐ることができるものなのか?」と驚くばかりだ。もちろん、責められるべきは東芝ばかりではない。調査にために立ち上がった第三者委員会も、10億円という監査報酬に目がくらんだ監査法人も・・・それぞれの行動を目の当たりにするにつけ、人間の強欲さというか、弱さ・脆さ・・・を改めて見せつけられた気がする。

また、本書を読むと、今流行の「社外取締役の導入」だけでは、今回のようなこの粉飾に対する効果が極めて限定的であることがわかる。なぜなら、監査法人ですら、見抜くのが難しかったものを社外取締役が見抜けるわけはないからだ。この点については、先日読んだ雑誌にも似たような記事が載っていたので引用させていただく。

『自分で(ソニーの社外取締役を)やってみて分かった。外の人間に正しい経営判断などできるわけがない。ソニーの取締役会ではエレクトロニクスだけでなく、音楽、映画から銀行まであらゆる案件を討議したが、一件百億円の案件にかける時間は十分程度。事前に渡される資料の数字が正しいかどうかを確かめる術もない』 (出典:文藝春秋2016年8月号 社外取締役347人リストより)

そして何よりもよく分かるのは、「粉飾決算に関係した経営陣は、保身はもちろんのこと、従業員やその家族のためと、良かれと思ってやったことかもしれないが、蓋を開けてみれば、結局、みんな不幸になっている」という事実である。自らは損害賠償の責を負い、従業員は解雇、株主は大損害、日本の株式市場の信用は低下・・・あとは言わずもがな・・・である。

本書を読むとこれらがよく分かる。

■ケーススタディとしての活用をおすすめ
既に述べたように、他書では載ってないような密度の濃い話が満載だ。リスクマネジメントのあり方について、仕組みや方法論を説いた本は無数にあるが、むしろそうした書籍よりも、本書のほうが、真のコーポレート・ガバナンスやリスクマネジメントのあり方について、よほど学習になると考える。企業の経営者、リスクマネジメント部門や内部統制室、監査室・・・社外取締役を担う人などが、本書をケーススタディに使うことをぜひおすすめしたい。


2016年7月22日金曜日

書評: 自分を変える読書術

ここ数ヶ月間、読書から遠ざかっていたが、それでも過去5年を振り返ると年間40冊くらいは読んでいると思う。本当はもっと読みたいのだが、読むだけではなく、必ず読んだ本の書評を書くようにしているので、どうしてもこれくらいのペースに落ち着いてしまう。

そこそこの読書量だとは思うが、だからこそ、こうした読書方法が合っているのかどうなのか、気になる。ついつい、“読書術”を語った本に定期的に手を出してしまう自分がいる。というわけで、堀紘一氏の書いた「自分を変える読書術」という本にも手を出してしまった。

著者: 堀 紘一
出版社: SB新書


本書の内容は、

・なぜ、読書がいいのか?
・読書は、どんな効能をもたらしてくれるのか?
・どういう本を読むのがいいのか?
・著者自身に、本がどのように役立ってきたのか?

といったもの。著者は、経営コンサルタントの中のコンサルタント、プロ中のプロ、堀紘一氏だ。その著者が読んだという5000冊以上の本の中から、おすすめ本をたくさん列挙してくれているのか?と思う人もいるだろうが、そうではない。あくまでも、読書の効能とその効能の手の入れ方に終始した本である。ちなみに、唯一、本のタイトルが出てくるのは本書の最後・・・そこで5000冊の中の6冊・・・と称して、紹介してくれている。

ずっとコンサルタント人生を歩んできた堀紘一氏らしく、コンサルタント目線での主張が多い。たとえば、野村克也さんの「勝ちに不思議の価値あり、負けに不思議の負けなし」という言葉を引用しつつ、「コンサルタントにできるのは絶対確実な成功の方法を教えることではなく、失敗する確率を下げて成功確率を上げることなのだ。(その失敗する確率を下げる最上の手段の一つが読書である)」という主張。いかにもコンサルタントらしい。

ただし、こうしたコンサルタント目線での語り口調がどうしても肌に合わない人もいるだろう。後半、堀紘一氏自身の人生の歩みを追うことで、「読書がどう自分に役立ってきたか?」を伝えようとしてくれているのだが、そこでは「イギリスへの大使館職員としての父の赴任、エリート校への入学、同じ黒田東彦日銀総裁よりも自分の学生時代のほうが本を読んでいたという話、ハーバード大学へ入学、ボストンコンサルティングへ入社・・・」などの話が登場する。パッとみただけでも、どちらかというと恵まれた環境にいた堀紘一氏の話は、読者の人生と重なりにくい印象があり、なんか、こう・・・共感を呼びにくいというか、なんというか・・・そんな人がすすめる読書術・・・??・・・と複雑な心境になる。

読書術に関する本は無数にある。ゆえに、こうしたコンサルタント目線での語り口調がどうしても肌に合わない人には他の読書術の本を読んだほうがいいだろう。読書がどう役立ったかという話なら、ライフネット生命会長兼CEOの出口治明氏の「人生を面白くする本物の教養」のほうが面白いと思う。あれは面白かった。まだ読んでない人がいるなら、ぜひそちらの本を読んで欲しい。


【読書術という観点での類書】
人生を面白くする本物の教養(出口治明)

2016年7月21日木曜日

書評: 人間の分際

最近、日本はいろいろなことが窮屈になってきている気がする。いろいろなことが100:0の社会になってきている。そんなに世の中って、シロクロはっきりしてるものだろうか。できるものだろうか。そんな疑問に答えてくれる。こうした世の中の変な偏り方に気づかせてくれる。それが曽野綾子だと思う。彼女の作品「人間の基本」では、次のようなことを述べている。

『以前、人に進められてある宗教団体の教祖の自伝を読みかけましたが「とにかく自分は哀れな人を救うのが好きで、幼い時から自分は食べなくても人には食べさせた」というような記述が延々と続いて、どうしてもついていけませんでした・・・(中略)・・・良いことは結構だが、良いことだけでもやってはいけない、という気がしてしまいます。周りを見渡してみても、自分を含めて皆いいかげんで、おもいつきで悪いことをしたり、ずるをしたりする。でも、いいこともしたいんです。その両方の情熱が矛盾していない。それが人間性だと思うのです。』(曽野綾子 人間基本より)

曽野綾子氏の本を読むと、こうした変な偏りに気づかせてくれる。補正してくれる。まさにこの理由で次の作品を読んだ。

人間の分際
出版社:幻冬舎文庫



人生観。過去の作品のとりまとめ集。過去作品の中で曽野綾子氏自らが語ったことを、「人間が自分の分際をわきまえていると思えるもの、思えないもの」というテーマでまとめなおしたものだ。冒頭でも触れたが、世の中に「それはシロだ!」「それはクロだ!」と主張する人がたくさんいるが、「人生はそんなシロクロで分けられないことばかり。それを認めた上で世の中を見直すと、自分の人生がより幸せになるのでは?」と教えてくれるのが本書だ。

『女子バレーを率いて金メダルをとらせた大松監督が「為せば成る」と言ったことが、世間に大ヒットした...(中略)...しかし「私は騙されないぞ」と思った。「為せば成る」なら、どうして多くの日本人が命をかけて戦ったあの大東亜戦争に負けたのか。』(人間の分際より)

曽野綾子氏は言う。「為せば成らない」と受け止めることで、悲劇が避けられるかもしれないし、もし何かやって失敗しても、仕方がなかったと受け止めて心が楽になれる。」と。

ところで、本書の巻末を見ると出典元の本・コラムの数だけでも優に60を超えてそうだ。どんだけ書いてるのだ!? この人は? とびっくりする。逆に言えば、この本1冊にどれだけのものが凝縮されているかがわかるわけで、それだけ本書のお得感を感じさせる。

ちなみに、曽野綾子は敬虔なカトリック信者だが、文中の引用の中にそういった影響も垣間見える。かと思えば宗教色が全面に出ているわけでもなく、むしろ彼女が学んできた人生観を解説する際にカトリックの教え一部が自然に重なってきた...とそんな印象を受ける。宗教の凄さを感じるとともにカトリック教も悪くないな、と思った(入信する予定はないけど)。また、宗教の意義についても、ハっと気が付かされることがあった。神の存在がなければ、この世界には自分と他人しかいないわけで、そうなると「あいつのほうが恵まれている」「私のほうが恵まれている」といった常に二者の比較になる。その比較は不幸・不満を生む。ところが、そこに神という第三者がいるだけで、「神が決めたことだから」「神が私に与えたつらさなのだ」という考え方も生まれる。なるほどな、と思う。

さて、本書は、次のような人たちが読むべきものだろう。

  • 不公平に怒りを感じてる人 → もう少し上手な生き方を学べます
  • 自分は本当に不幸だと感じている人 → 逃げ道を見つけられます
  • 年配者 → 自分がそういう罠に陥ってないか、ハッとさせられます
  • 若者・バリバリの勤労マン → 勝つことがすべて、正しいことが全て、と思いがちな自分に喝を入れられます

【類書】


2016年7月19日火曜日

書評:ほとんどの社員が17時に帰る、売上10年連続右肩上がりの会社

どうしたら「社員がワークライフバランスを実現し幸せに働くことができるか?」について、著者自身の失敗談・経験談を元に成功のヒントを提示してくれている。それが本書だ。

ほとんどの社員が17時に帰る、売上10年連続右肩上がりの会社
著者:岩崎裕美子
出版社:CrossMedia Publishing



本書に手を出した理由は、タイトルを見て「あ、自分の会社にも通じる課題だ」と感じたからだ。我が社も、社員が増加傾向にあるが、良いことばかりではない。辞める人もゼロではない。働くのは楽しいが、常に17時退社が保証されているような会社でもない。やはりワークライフバランスに課題があるのだ。

本書の読み始めは、正直、ウーン・・・なんか「ありきたりのことしか書いてないなぁ。もしかしたら、面白くないかも」などと思った。前半は“17時に帰すテクニック”ではなく、まずはどうやったら従業員を早く帰らせる余裕を作れるか、に力点がおかれていた。それだったら「どうやったら会社が儲かるか?」の本を読むよ、と。

ただ、読み進めてみると、どんどん興味をそそられるようになっていった。なんてことはない、誰もが経験しそうなことがつらつらと書かれているのだが、いちいち自分たちが経験してきたこと・していることに当てはまるのだ。多分、これこそが本書最大の魅力なのだと思う。そう、起業家ならばおそらく誰しもがとおる壁、そしてそれをどうやって乗り越えたかについて書かれているのだ。

そもそも、著者が起業当時に持っていた心理状態からして、まさしく自分と同じ。まるで私の過去を見て本書を書いたのでは?と思うくらいだ。ちなみに、我が社では、「純粋に優秀な人を」という目線で採用をし続けてきたら、いつの間にか女性社員が半数を超えるくらいになってしまった。女性社員が多いという環境まで一緒なだけに、余計に本書に書かれた内容は人ごとに思えない。

とった対策も似ている。精神的・物理的負荷を減らすために、営業活動からマーケティング活動に主軸を移したこと、様々な制度を導入したこと、良い文化を醸成するために戦略合宿をしてみたり、新卒採用に手を出してみたりしたこと。すごくかぶる。

ただし、本書に共感できるかどうかと、本書が役立つかどうかは別の話だ。私にとって見れば、どんなに書いてあることが立派でも、内容全てが私の経験とかぶっているのであれば、読む価値はなくなる。著者がとった手段全てが、おーそれはやってみようと思えるものではなかったが、そこには私の会社ではトライしたことのない制度もありちょっとやってみたいなとも思えたものも紹介されている。ちなみにその一例を紹介すると「お、これはいいな」と思ったのは、「17時で帰っていいよ制度」や「選べる時間休制度」など。ぜひ、前向きに検討したい。

ふと、数年前に、こういった類の本を読んだことを思い出した。その本の名は、「日本で一番社員満足度が高い会社の非常識な働き方」(山本敏行著)。その本にも、中小企業に役立つさまざまなノウハウや制度が紹介されていた。「ランチトーク制度」「ノートパソコンのためのモニターを用意する」など、そのときに影響を受けて実践したことは、少なからず役に立っている。だから、この本に書かれている内容も、何か役立つはずだと信じて疑わない。

書評: たった一人の熱狂

本当に久しぶりの投稿。活字を見る気になれなくて、ここ数ヶ月、読書から遠ざかっていました・・・。さて、そんなダラダラ感を吹き飛ばしてくれるような”熱い男の本”。今回は、この本を紹介したい。幻冬舎文庫の社長、見城徹(けんじょうとおる)氏の本だ。

たった一人の熱狂
出版社: 幻冬舎文庫



そもそも、なぜこの本に手を出したのか? 見城徹氏のことをもっと知りたいと思ったからだ。日本テレビ系列「アナザースカイ」でも取り上げられ、彼の生き様は、とても”とんがっている”ように見えた。見城氏は、尾崎豊など、数々の著名人を口説き落とし、これまでにたくさんの本を独占出版してきた。石原慎太郎氏を口説き落とす際に、彼の過去の作品を丸暗記して暗唱してみせた・・・という。衝撃的である。飽和状態に近い出版業界にあって、遅咲きながら出版社(幻冬舎文庫)を立ち上げ、軌道に乗せた。ハワイで不動産ビジネスを始め、ジュースビジネスにも着手する。経歴を聞いただけでも、そのパワフルなエネルギーに圧倒される。

そんな見城氏の人生哲学がまとめられているのが、本書だ。なお、ベースは、彼が最近手を出したというソーシャルネットワークサービス(SNS)※でのユーザとのやりとりである。ただし、誤解のないように述べておくと、ユーザとのやりとりがそのまま文章に起こされた・・・という最近流行りのシロモノとは違う。テーマこそ、やりとりの中で出てきたものだが、それに対する彼の考えがしっかりとまとめられているのだ。
※このSNSは755(ナナゴーゴー)と呼ばれるもので、ツイッターとブログの中間的な位置づけのサービスだ

本書を読むと、びっくりする。活字ですら熱を帯びているからだ。「憂鬱じゃない仕事は、仕事じゃない」「結果の出ない努力に意味は無い」「圧倒的な努力をしろ」「誠意とはスピードだ」「君がなんとなく生きた今日は、昨日死んでいった人たちがどうしても行きたかった1日だ」・・・投げかけるメッセージとともに、彼がそれをどうやって実践しているか、克明にそれを示してくれている。上っ面だけでもっともらしいことを語る人はいっぱいいるが、彼ほど、発する言葉と生き様そのものが完全にシンクロする人はいないのではなかろうか。

熱を帯びた人の話を聞くと、その熱は伝播するのだろうか。本書を読むと、自らももっとやらねば、という思いが湧いてくる。とりわけ、「単なる努力ではなく、圧倒的な努力をしているか」という問いかけは、私の心に響く。「まだ足りない」「まだ足りない」「まだまだ足りない」と・・・今以上に、さらに一生懸命に生きてみたくなった。

ところで、とにかく生き急いでいる感が半端ない。あまりに凄すぎて、やや引いてしまうくらいだ。このエネルギーは一体どこからやってくるのか。本書のネタばらしになるわけではないので、述べておくと、その答えは“死”である。「生まれたその日から、死に一日一日と近づいていて・・・それを紛らわすためにとにかく必死に生きている」のだそうだ。ソフトバンクの孫会長も生き急いでいる感があるが、孫会長の場合は「とにかく偉大なことを成し遂げたい。そのための時間はいくらあっても足りない」と言ったものだった。その意味で両者が生き急ぐ理由はやや異なるが、“やがては訪れる死”というものが、今を必死に生きるモチベーションになっている点は共通している。

ふと思う。“生に限りがあること”に理不尽さや虚しさを感じる一方で、“生に限りがあること”こそが人間が生きていくためのパワーなのであると。なんと矛盾する答えであることか。

やや哲学じみた話になってしまったが、彼の死生観に共感できない人は、読んでも???となるかもしれない。逆に、一生懸命生きていて、さらに生きるエネルギーをもらいたい人にはありがたい一冊と言えるだろう。「憂鬱じゃない仕事は仕事じゃない」という一言で、救われる人もたくさんいるはずだ。頑張ってみようと。私がそう感じたように。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...