2012年9月28日金曜日

書評: 逆境を超えてゆく者へ

「新渡戸稲造氏は、なぜ5,000円札に選ばれたのか?」
「軍国主義の時代を生きた人にどんな学びを期待できるのか?」
「なぜ著名な経営者がこの本を勧めるのか?」

著者名を見てタイトルよりも先に、そんなことが頭に思い浮かんだ。

逆境を越えてゆく者へ ~爪先立ち明日を考える~
著者: 新渡戸稲造(にとべいなぞう)
出版社: 実業之日本社


※キヤノン電子の酒巻久社長が、日経ビジネス(2012年7月30日号)でオススメの一冊として紹介していた記事を見て、この本の存在を知りました。

■新渡戸稲造流ポジティブシンキング術

新渡戸稲造氏は、1862年(文久二年)生まれ。1933年に71歳で生涯の幕を閉じている。そんな人生の約3分の2を過ごした時点で、過去を振り返り「人間としての生き方はどうあるべきか」について、氏が感ずるところを著した。本書は彼の人生観そのものだ。

ところで、私はお恥ずかしいことに新渡戸稲造氏が何をしてきた人か・・・5000円札に選ばれた人・・・という以外、何も知らない。どんな人だったのかと著者プロフィール欄を見てみると、一言でさらっと伝えるのが困難なほど豊富な経歴の持ち主のようである。無理やり詰め込んで、ようやくA4サイズ1ページにおさまる程のボリュームだ。無茶を承知で、あえて私流にまとめると「当時にしては珍しく国際感覚に秀で、高い教養と豊富な知識、様々な経験を持った人であり、日米外交の修復や青少年の教育に非常に大きな情熱を注いだ人」といった感じだろうか。

さて、そんな氏が書いた本書だが、タイトルは「逆境を越えてゆく者へ」。ここからも想像できるように「逆境を乗り越えてゆくことこそが、人間の成長に欠かせない・・・いや、生きることそのものなんだよ」というストレートなメッセージが伝わってくる。文中、何度も「善用」といった言葉が登場するが、これは逆境(ネガティブな状況)を順境(ポジティブな状況)に変える・・・今風に言えば、ポジティブシンキングのことだ。そう・・・本書は、新渡戸稲造氏が身につけたポジティブシンキング術がいっぱいに詰まった本・・・とも言える。

■アタリマエが書かれていることの凄さ

出版社によれば、本書は1911年に刊行された「修養」と、1916年に刊行された「自警」・・・当時のベストセラーを基に出版社が編纂した本だ、とのこと。

いずれにしても、今から1世紀以上も前に書かれたモノである。当時は日本が軍国主義に突き進んだ時代。今の思想と全く違う世の中・・・というイメージが先行するが、その時に書かれた本が果たして、今の我々の心にどう響くのか、素直に興味がわく。

読んでみてわかったのは、実は書いてある多くが「アタリマエ」であるということだ。「アタリマエ」というと響きが悪いが、誤解しないで欲しい。いい意味で「アタリマエ」ということだ。最近は、メディアが発達したおかげで、それこそ世界中の成功者が語る”生きるヒント”を、日々、目や耳にする。が、実は、そのほとんどは新渡戸氏の指摘と重なっている・・・という印象を持った。

例えば、「一事に通じれば万事に適用できる」という新渡戸氏の体験談は、スティーブ・ジョブズが、カリグラフィーを極めた話にも似ているし、「日本人には、(来年の話をすると鬼が笑うという諺もあるように)個人として長期計画を立てて実行する者は少ないが、そうすべきだ」という指摘は、今やどの自己啓発本にも取り上げられるような話だ。

現代において「アタリマエと感じること」が書かれている・・・ということは、それだけ新渡戸稲造氏の本が本質をついているという証拠でもある。ゆえに、この本の一言一句に、重みを感じ、その全てを自分の中に取り込みたいという気にさせられるのである。

■偉大な先人の知恵を活かす

わたしは小さい頃、親に「とにかく、何か1つでも続けた方がいい」と言われたことがあった。

それがどう心に響いたのかは分からない。が、「きっと、長く生きてきた人(親)の言っていることは正しい。実践してみよう。」・・・そう信じ、他の教科こそあまり勉強しなかったが、たとえば英語の勉強だけは、中学の頃から毎週一時間・・・大学生になっても続けていた。40歳になる今、それは間違いなく正しい行いであったと胸を張って言える。

これは私の親から授かった知恵であり・・・卑近な例だ。が、今、ここに100年前に立派に生きた偉人の知恵について書かれた本がある。それこそ、もっと昔からある孔子の論語の方が素晴らしい。そういう人もいるだろう。確かにそうかもしれないが、我々のような凡人には、新渡戸氏の本くらいが理解しやすくてちょうどいい。

きっと”生きるヒント”の多くが、この本に載っているのではないか。そんな気がしてならないのである。


【人生論という観点での類書】
 ・書評: 人間の基本(曽野綾子)
 ・書評: 石橋を叩けば渡れない(西堀栄三郎)
 ・書評: 40歳からの適応力(羽生善治)

お米のおいしい研ぎ方

TBSラジオ番組”たまむすび”、2012年9月19日(水)放送の「お米のピークを探せ」がタメになった。

 番組内で、お米のおいしい炊き方が紹介されていた。今さら何を・・・という方もいるだろうが、わたしには新鮮だった。

以下は、そのときに聞いたポイントだ。



・最近は精米技術が優れているので、お米は”軽く研ぐ”・・・で十分  
(白い液体はデンプンだから、なくなるまで研ぐと甘みが飛んでしまうとのこと)  

・新米でも古米でも、水の分量は変えなくていい  
(古米は水気がないから、水文量を多めに・・・は間違い、だそう)  

・米をとぐときに一番理想な水は、そのお米の産地の水  
(とにかく水の品質が大事。いずれにしても軟水がいい、そう)


なお、水の分量については私も完全に誤解していた。非常に勉強になった。早速、実践しようと思う。

研ぎ方について、より詳しく知りたい方は、下記、スズノブさんのホームページを見るのがベストだ。

株式会社スズノブのホームページ
http://www.suzunobu.com/index.html

2012年9月23日日曜日

書評: 日本企業にいま大切なこと

最近、コンサルティング支援をしている企業の担当部長と親しくさせていただいている。

時折、この方から「こんな本を読んだけど、君にどうかな・・・と思って」と、本を紹介いただくことがある。偏見なく、色々な本を読みたい・・・そう思っている自分には願ってもないことだ。今日は、その中からの一冊だ。



■経営の指南書

「著者の一人である遠藤さんとは、以前、仕事で一緒したことあるけど、ときどき過激なこと言うときあるよね。まー、でも的を得たこと言っている人だから・・・。」

これは担当部長の弁。

そんな弁とともに頂戴したこの本は、ビジネス界で著名な二人が、日本・欧米企業の成功体験に基づき、日本企業が、これから世界でどのように戦っていけばいいかを指し示した指南書である。

なお、著者の一人である野中郁次郎氏は、あの有名な・・・日本軍が敗れた原因を客観的・科学的に紐解いた・・・「失敗の本質」を書いた著者の一人だ。個人的には、ややアカデミックな人という印象を持っている。

また、もう一人の著者、遠藤功氏は、これまた戦略に関して豊富な知識と現場経験を持つお方で、数多くの本を出版している。氏の書いた「IT断食のすすめ」という本が私の印象に残っている。

■主張をキャッチボール形式に展開

もともと月刊「VOICE」誌上での両氏の対談をきっかけに、構成を大幅に見なおして互いに加筆・修正を施し、まとめられたものだ。

だから本書最大の特徴は、良くも悪くも、著者二人が、それぞれの観点からキャッチボール形式で話を展開させている点にある。

ただし、意見を対立させて話を昇華させていくディベートというよりは、「そうそう、そのとおり。僕もそう思う。なぜなら・・・」というように、ほぼ同じ主張に対して、二人がそれぞれの根拠を述べ、話を広げていく・・・そんな感じだ。

で、気になる”ほぼ同じ主張”・・・というやつだが、それは本の帯にもあるように「アメリカ型はもはや古い!」ということを指している。

もう少し、噛み砕いて説明すると次のようになる。

「欧米でも、特にリーマン・ショック以後も成功している企業は、株主を第一!に考えてきた企業というよりは、実は人材育成や終身雇用、現場主義など日本企業の良さを体現した企業だ。日本企業は欧米の良さを取り入れようとするあまり、そういった良さまでも打ち消してきてしまった。日本企業は、もっと自分たちの培ってきた経験や知識を信頼し、それらを軸にしつつ、グローバルな戦いに真に必要な部分だけを取り入れていくべきだ」

すなわち、本書は、従来の日本企業が持っていた強み、グローバルにも通用するもの、グローバルに戦っていく上で、欧米企業に見習う点、その理由・・・について、説いているのだ。

■文章全体にぎこちなさも・・・

ところで、先ほどキャッチボール形式とは言ったが、両氏の話が、ところどころ気持よく噛み合って流れているように感じなかった。その理由だが、一つには、やはり別雑誌(VOICE)向けの記事が基になっているせいだろう。そしてもうひとつには、お互い、それぞれの視点で言いたいこと、引用したいことなどが一杯ありすぎたのだろう。話の展開のさせ方に、しばし強引さを感じることもあった。

また、スピード、現場、量より質・・・本書を読んで出ていると当然、色々なキーワードが出てくるのだが、「とてもアタリマエなことだよな」と感じることが少なからずあった。ただ、これについては、私自身が心のどこかで、”魔法のように経営者の悩みを問題を解決してくれるとっても素敵な成功の法則”を求めていたせいだろう。良く考えてみれば、どんな世界でも、成功に求められることは実は非常にシンプルで、アタリマエのことなわけで、私のこの本に対する期待の持ち方が正しくなかったのだろうと納得している。

■一冊でトレンドに追いつけるMBA的な本

繰り返しになるが、両氏の主張は、実際の企業の成功事例をはじめ、ハーバード・ビジネスレビューに載るような世界の権威ある専門家たちの考え方などをベースに展開されている。

つまり、この本を読むメリットは、たった200ページで、日本企業に求められる・・・いや日本企業がとるべき最新の経営戦略のヒントを得ることできるということではないかと思う。それはまるで、短期間のうちに最新のマネジメントスキルや知識を習得できるMBA的なお得感にも通ずる。

多忙を極め、経営戦略に関わる最新本を何冊も読んでられない経営者には、短期間に知識を吸収し、頭を整理するのに、うってつけの本となるだろう。



2012年9月15日土曜日

アラフォーならぬ、アラハンドレット

2012年9月10日号の日経ビジネス・・・色々と気になる記事はあったが、何と言っても圧巻は、特集「隠居ベーション」で紹介されていた福井福太郎(ふくいふくたろう)氏。

 最近では、アラサー(Around 30)やアラフォー(Around forty)という言葉が当たり前になったが、なんとこの福太郎氏・・・アラハンドレッド(Around 100)??なのである。Around・・・っていうか、ズバリ100歳。 こ・・・これには”福”のついた名前の恩恵もあるのか!?

100歳でありながら、毎日、東京のオフィスに通い、売上金管理事務をこなす現役サラリーマンだそうだ。

スーツを着て改札口の前に立っている氏の写真が掲載されているが、正直、その直立不動に立つ氏の姿に我が目を疑う。今でも一日最低7000歩歩く・・・というのだから、もう脱帽である。

 「100歳にいたっても働きつづけていること」が素晴らしいと言いたいのではない。

 「100歳にいたっても生気にあふれていること」が素晴らしいと思うのである。

書評: 目からウロコのコーチング

「優れたホステスがやっていることとコーチングは同じこと」

著者はそう言い切る。

目からウロコのコーチング ~なぜ、あの人には部下がついてくるのか~
著者: 播磨 早苗
出版社: PHP文庫


テーマを”コーチング”に絞って本を買いあさり・・・書評も、ついに三冊目(もうそろそろ飽きてきた)(-_-;)

■コーチングの本質をビジュアル化

冒頭で述べたように、本書最大の特徴は、コーチングの要点を優れたホステスがやっていることに喩えて事例を紹介している点にある。

なんとなくボンヤリとして掴みどころの無さそうな”コーチング”というテーマに、ホステスの世界観を持ち込むことによって、その本質が一瞬のうちに読者の頭の中にビジュアル化される。

そういった店に行ったことある人でもない人でも、「あぁ、なんとなく聴き上手ってイメージだよなぁ」とか「相手を乗せるのがウマそうだようなぁ」ってな具合に・・・(^_^;)

たとえば、コーチングのプロセスには「成長させたい相手(例:部下など)を”承認”する」という重要な行為がある。ここでいう”承認”とは”褒める”とは違い、「相手の存在(価値)を認めてあげる」というものだ。この行為について、著者は次のように解説する。

『ホステス(Mさん)は自分のお客が来たとき、別の接客をしていて席を離れられない場合にも、必ず、来店したお客にアイコンタクトで「来店を知っているわ。あなたの存在を知っている」と伝えます。お客もMさんを視線で探していますから、視線同士がヒットすれば、お客は「Mさんに来店を認められた(承認された)」と安心します。』(本書P91より引用)

ものごとを学ぶには、その本質を捉えることが一番大事なわけで・・・その意味では、この本は十分にその要件をクリアしている。優れたコーチング指南書だと思う。

■肌身離さず持ち歩きたい本

もう1つ、この本の良い意味での特徴を挙げるとすれば、文庫本サイズである・・・という点だ。

「そんなの中身の話じゃないじゃん!」

とお叱りを受けそうだが、指南書において、本のサイズは大事だと思う。

中身に限って言えば、2週間くらい前に読んだ「この1冊ですべてがわかるコーチングの基本」も非常に優れていた。いや、むしろ事例の数に勝るという点で、わたしにとっては「目からウロコ・・・」よりも、お気に入りの本であると言えるだろう。しかし、如何せん文庫本サイズがない。持ち歩きには難あり・・・なのである。

コーチング技術をしっかりと身につけたいという人ならば、こういった類の本を常に一冊は携行していたいものである。

本を読んだ直後は知識も鮮明に頭に残っているし、気も高揚するが、時間の経過とともにそれらが薄まっていく・・・。だから、常に原点に立ち返ろうとコーチングの本を手にとってぱらぱらと読み返したくなることが少なくない。

地味な話だが、こうした理由から、文庫本サイズというのは魅力なのだ。(電子書籍リーダーのiPadやKindleも、当然小さいし・・・)

■買うべきか、買わざるべきか

さて、本書を買うべきかどうか。

ホステスのいるお店に通ってコーチングを学ぶか・・・、はたまた、この本を買ってコーチングを学ぶか・・・。ちなみに、本書は約500円。

それはあなた次第・・・。

【類書】
書評: この1冊ですべてわかるコーチングの基本
書評: 子どもの心のコーチング

2012年9月3日月曜日

書評: 清須会議

「”清須会議”という本を出しまして・・・」

J-Waveのラジオ番組(23:45~0:00)Making Senseで、三谷幸喜氏が自身の本の紹介をしていた。

日本の歴史を左右したといっても過言ではない一大会議・・・清須会議(きよすかいぎ)の場面を、今風の会話言葉で表現したとしたら・・・そして、そこに三谷幸喜風の味付けをしたとしたら・・・どうなるか?・・・そんなタラレバを実現させたのがこの本だ。

清須会議
著者: 三谷幸喜
出版社: 幻冬舎
発行日: 2012年6月27日



ちなみに、清須会議とは1582年7月16日に清須城で開かれた会議だ。織田信長が本能寺で自害し、そのきっかけをつくった明智光秀は秀吉に打たれた。この直後、織田家の跡継ぎ問題及び領地再分配を決めるために開かれた会議である。

■三谷幸喜風味が史実に見事にブレンド

現代語風にアレンジされた歴史小説であるにも関わらず、意外にも、違和感なく小説の世界に入り込めた。

それでいて、強い個性を放つ登場人物の人間性がページいっぱいに広がる。余計な情景描写をなくし、現代語を使い、登場人物一人一人にスポットライトを当てる・・・三谷幸喜氏の上手さなのだろうが、これにより当時の登場人物の心境が、テレビドラマを見ているかのように手に取るように伝わってくる。

実際、改めて、羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)の傑出した人心掌握力を実感したし、柴田勝家の無骨さ・・・というか不器用さも、「あー、今の世の中にもこんな人、いるいる・・・」といった親しみ感を覚えた。

加えて、史実に忠実でありつつも、三谷幸喜氏特有のコミカルさは欠かさない。たとえば、次は冒頭、織田信長が本能寺の変で火に取り囲まれた場面の一節だ。

『熱いな。だいぶ熱くなってきた。それにしても、まさかこんなカタチで死を迎えるとは。だって昨日の夜まではごく普通の一日だったんだ・・・(中略)・・・俺の周囲を囲んでいる紅蓮の炎は、やがて俺の体を焼きつくすであろう。せっかくなんで、ちょっとかっこよく言ってみたよ。・・・』(本書より)

■期待すべきは”斬新さ”にあらず

ただし、三谷氏の映画にいつも見られる”斬新さ”・・・これを期待しすぎて読むと裏切られるかもしれない。

これはある意味、仕方のないことだ。どこまで言っても、所詮、史実からはみ出すことはできないので、これまでの映画のような「先がどうなるんだろう・・・」といったワクワク感を作り出すには限界があるからだ。

■本書を読む3つのメリット

まとめると、この本を読むメリットは3つある。

1つには、三谷節の心地いい小説のお陰で、いいリラックスできるという点。
2つには、日本史の一大イベントを、頭に刻みつけることができるという点。
3つには、昔も今も変わらない人間の本質とは何か、を学ぶことができるという点。

とりわけ2点目だが、歴史も捉え方1つで、こうも興味の強さが変わるなんて・・・と思う。「ハーバード白熱日本史教室」もそうだったし、「学校では教えてくれない日本史の授業」もそうだったが、見方1つ変えるだけで、興味の持ち方が全然変わってくる。興味が強くなれば、記憶への残り方も断然違ってくる。

クライアントを教えるコンサルタントとして、部下を育てる上司として、子を育てる親として・・・こうしたものにヒントを得たい。


【歴史を面白く学べるという観点での類書】
書評: ハーバード白熱日本史教室
書評: 学校では教えてくれない日本史の授業

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...