2017年4月29日土曜日

書評: 仕事にやりがいを感じている人の働き方、考え方、生き方

人生も40代半ばにさし掛かり、色々な人と話す機会を通じて、人の仕事に対する価値観って色々あるな・・・と感じている。たとえば、「仕事はつらいもの。だから、必要最小限に抑えるにこしたことはない。仕事が楽しいなんて感じたことないし、楽しくしようとも思わない」と昔同僚だったAさんは僕にそういった。「死の怖さを紛らわせるために、必死で働く」と言ったのは、幻冬舎社長の見城徹氏だ。では私は?といえば、「仕事は人生の一部。だから、楽しくやりたいしやるべきもの」と考えている。

そんなわけで、仕事に対する価値観って三者三様なのだ。だから私は自分の考えを他人に押し付けるつもりもないし、尊重するように意識してきた。

そんな風に考えていた私の懐に、偶然飛び込んできた一冊の本がある。


仕事にやりがいを感じている人の働き方、考え方、生き方
著者: 毛利 大一郎
出版社: 幻冬舎

偶然・・・と書いたのは、私が個人的に登録している献本サイト・・・レビュープラスさんからの献本だったからだ。ちなみに献本されて書評を書くからって、わざと持ち上げるつもりはない。いつものように思ったことを素直に書かせていただく。

●著者が尊敬できる10人の尊敬できる人の生の人生、生の声

著者が尊敬するという10人たち。その人たちにインタビューをし、彼ら・彼女らの仕事に対する考え方、そこから派生する人の生き方について生の声をまとめた本だ。

そこから何が得られるというのか? 私が感じたのは次の2点だ。

1点目・・・腐らず立ち直るためのきっかけ
紹介されている人たちは、いずれも途中で大きな苦労や挫折を経験した10人だ。奥さんを脳腫瘍で失った人、仕事で目が出ずニートになった人、開発しても開発しても売上につながらない人、お客様から三行半をつきつけられた人などなど。そんな人たちがそのとき何を思い、そしてそこからどうやって立ち直ったのか・・・本書を読むと、その追体験をすることができる。

2点目・・・自分の仕事に対する価値観を考え直すきっかけ
「仕事にやりがいを感じている人」ということに共通点を持つ10人だが、では完全に仕事に対する考え方が一致しているか、というとそうでもない。人それぞれ、経験を通じた想いがある。「仕事は人生の一部だから、楽しくやりたい」「仕事も大事だが、仕事だけが人生じゃない。家庭も大事。両方を大事にしたい」・・・などなど、本書に登場する人たちが考える仕事に対する価値観も三者三様だ。本書を読めば、こうした人達の考え方と自らの仕事に対する価値観を照らし合わせることができる。

●どこにでもいそうな身近な10人・・・それが本書の最大の特徴

本書に取り上げられた10人は決して、雲の上の存在ではない。自分と同じ生身の人間であり、身近に感じられる、いわゆる普通の人たちばかりだ。たとえば、これが孫正義やビル・ゲイツの話であれば、尊敬はできるが、すごすぎてマネをすることは到底無理という結論に至るかもしれない。また、「日本でいちばん大切にしたい会社」という本があるが、そういった本で紹介される人たちはそれこそ本当に苦労もしているし、その分大きく成功し、本当に立派な会社を切り盛りしている。だが、あそこで紹介されている人たちも、やはりやや遠くの存在に感じるかもしれない。本書で紹介されている10人は、(こんな言い方をしたら本当に失礼だが、わかりやすく言えば)ごく平凡な人たちだ。だが、自分たちなりの生き方を見つけ、それに向かって一生懸命生き、充実した毎日を送っている人たちだ。

このような人たちの話だからこそ、読み手にとっては身近に感じることができ、大きなやる気につながるのではなかろうか。

●平易な文章・・・それがまた印象的

正直、著者の文章力は決して高いとは思わない。なんというかこう10人の事例を、メリハリなく、とつとつに語っている感じだ。読み始めた最初・・・「この本大丈夫か?」・・・とそこに違和感を感じたが、最後まで読んでみると、かえって変な装飾や演出がない面が新鮮であり、朴訥であり、著者自身の良い人間性が伝わってくる感じがして・・・結果的にはプラスだったと思う。

●これから社会を切り開く若者たちに

20代から30代の人たちがターゲットだと思う。最近は新卒で就職してもすぐに辞めてしまい・・・果ては大きな挫折につながっていく人が少なくないと聞く。そういった人たちが仕事をどう捉え、どのような生き方をすることができそうなのか・・・先輩たちの声を聞くことは何らかの良い気づきを与えてくれるのではないだろうか。

 

2017年4月16日日曜日

書評: 「一見さんお断り」の勝ち残り経営

発想力とは、既にあるものではあるが、今までにやったことのなかった組み合わせを行うこと・・・すなわ新たな化学反応を起こすことで生まれる。40代も半ばに近づき、自分自身の過去の発想のトリガーを考えてみると、やはりそうだった。だから、一見、風変わりで、役に立ちそうもない情報こそが、貴重な宝に見えてくる。

「一見さんお断り」の勝ち残り経営
~京都花街お茶屋を350年繁栄させてきた手法に学ぶ~
著者: 高橋秀彰
出版社: ぱる出版


さて、「京都のお茶屋」と言われて、みなさんはいかがだろうか。私にとっては、

「一見さんお断り」
「格式が高いが値段も高い」
「知らない作法がありお客側も学ばなければいけないことがあり面倒くさそう」
「知らない世界だから一度は経験してみたい」

こうしたことが頭に思い浮かぶ。つまるところ、何も知らない。京都のお茶屋・・・そしてその企業経営・・・無縁の私には当然ピンと来ない。

しかし、だからこそ、本書に手を出したというわけだ。

本書は、企業経営に役立てることを狙いとして、「一見さんお断り」を掲げる京都花街の経営をビジネス視点で紐解いたものだ。そんな伝統の世界を語る著者は何者なのか。京都花街に足繁く通う一ファンであるが、単にそれだけなら本書はいわゆる“オタク本”になってしまう。本書をビジネス本たらしめる理由は、著者自身がお茶屋の経営を取り入れて、ビジネスを成功させた実績があるということだろう。公認会計士事務所経営で「一見さんお断り経営」を貫き、今の確固たる地位を確立させたそうだ。

そもそも「一見さんお断り」の勝ち残り経営とはどんなものか? 売り込み営業も、お金をかけたプロモーション活動もしない、カタログや料金表もつくらない、現金払いではなく掛け払いにする・・・など、なるほど一般企業人からすると非常に逆説的な経営ばかりである。普通の企業であれば、受動ではなく、能動的に動き、仕事を取りに行く。ソフトバンクを見てみるがいい。しょっちゅう我が家に電話がかかってくるし、コマーシャルには一流のスター(スマップやジャスティン・ビーバー)を起用する。カタログや料金表がない・・・そして、掛払いを率先して勧めるレストランなんて庶民にはありえない。売掛金をできるだけ減らすこと・・・現金回収はビジネスの大原則だからだ。

なぜ、これまで間逆なのか。そもそもの企業戦略が違うのだ。一般的な経営は、品質だけでなく、どれだけ生産性や効率性をあげることができるか・・・の視点で戦略が立てられる。だが、京都の花屋の戦略は、「顧客満足度の徹底的な追求」・・・この一点だけである。だから、たとえば先の掛け払い問題にしても、「なじみ客が連れてきたお客様の目の前で、支払い処理を行うなど無粋なことはせず、一旦お店側で建て替えておき、後日、請求する」というプロセスに落ち着いたのである。

顧客満足度だけを徹底的に追求する・・・というのは怖いことだ。そこに生産性や効率性という視点が抜け落ちると、利益が出ないと考えてしまうからだ。事実、私の会社でも、「顧客満足度の向上を」と訴えると、現場の人間はついつい採算度外視で顧客のために時間を使ってしまう。会社はボランティアではないし、そもそも継続できなければ顧客満足を提供し続けられないから、そこに生産性や効率性というキーワードが必要になる。

普段、常識だと思っていたことを疑ってみる・・・大事なことだ。冒頭で触れたような化学反応を起こすために普段触れていない情報に触れてみる・・・大事なことだ。本書を勧めるとしたらこの点だろう。

本書に否定的な点はないのか? 一つ挙げるとすれば、「一見するとユニークな世界に見えるが、冷静に考えると、意外にユニークではない。つまり、そこまで新鮮ではない」という点だろう。京都のお茶屋は私のようにその世界を知らない人も多いし、確かにユニークな視点ではあるが、客観的に見ると、昨今の口コミ重視経営と言えなくもない。京都のお茶屋でなくとも、ミシュランをとった寿司屋・・・すきやばし次郎のような高級レストランもある意味、似たような哲学を以てやっている。その他、世の中で讃えられる中小企業・・・にもこうした哲学を持つ会社は少なくない。

結局、「徹底的に顧客満足度を追求するスタイルを貫く」という形で差別化を図る戦略をとるのか、「薄利多売を通じた安値」で差別化を図る戦略をとるのか・・・企業経営の大戦略に関わる話なのだと思う。

そう考えると、「これから会社を立ち上げるんだ」とか、「いま、値段よりも品質・・・その一点で差別化を図るんだ」という戦略を考えている会社の人であれば、「何か、不足している観点はないか?」の答えを京都のお茶屋ビジネスに求めることは妥当だろう。逆に、「我が社は、吉野家のようなビジネス戦略でいくんだ」と決めた企業が本書を読んでも、参考にできる点は少ないだろう。

いずれにしても、最近、このように常識と逆のことをアピールする本・・・多いよね。以前、LINEの元社長、森川亮氏のが書いた「シンプルに考える」という本を読んだときも、そこにはやたらと、みんなが常識と思ってやっていたことと違う経営方法が書かれていた。「経営理念をつくらない」とか、「給与はみんなわかるようにする」とか・・・。読み手も、全てをうのみにするのではなく、しっかりと自分の頭でかんがえて読むことが求められる時代だとおもう。

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...