2018年4月14日土曜日

書評: ストーリーとしての競争戦略

スポーツ選手が究極に集中した状態を俗に「ゾーンに入る」と言うが、これは人だけにとどまらないのかもしれない。企業も究極に集中した状態で全社一丸となって戦略を遂行することがあるのだろう。

さしずめ「活きた戦略」とでも言おうか。 楠木健氏の言う「ストーリーとしての競争戦略」は、まさにこの企業がゾーンに入った状態を引き出す戦略と言えるだろう。

ストーリーとしての競争戦略 ~優れた戦略の条件~
著者: 楠木健


本書には、ストーリー戦略とは何か、ストーリー戦略に必要な要素は何か、 ストーリー戦略をどのように描けば良いのか、強いストーリー戦略を描くには何がポイントになるのか、といった問いに関する答えが書かれている。著者の楠木健氏はビジネススクールで戦略に関する講師を勤めているが、数多くのケーススタディや経営者との対談を経験する中で「成功企業に欠かせない要素」として、この「ストーリー戦略」があることを実感せずにはいられなかったのだろう。

事例として取り上げられているケースも豊富だ。ぱっとみただけでも、トヨタ、日産、マツダ、フォード、セブンイレブン、スタバ、マブチモーター、デル、アマゾン、アスクル、ガリバーインターナショナルなどの事例に触れている。

ここで1つの疑問がわく。戦略本は世の中にゴマンとある。この本の何がそんなにすごいのか?と。実際、私が過去に読んだ本の中にも野中郁次郎氏の「戦略の本質」や、三枝匡氏の「戦略プロフェッショナル」といった本がある。これらの本と比較して何が違うのか。2つの観点で異なる。1つは引き合いに出すケースが異なっている。「戦略の本質」は過去に起きた戦争が題材だ。「戦略プロフェッショナル」は、現実にある会社をミックスさせて作り上げた架空会社が題材だ。対して本書は、前出のとおり、最近のリアルな会社が題材となっている。もう1つの観点は、根底に流れる哲学だ。「戦略の本質」の哲学・・・の1つは「環境変化に合わせて柔軟に変えられる・変える戦略が大事である」ということ。「戦略プロフェッショナル」には「早いうちからたくさんの失敗経験をいかに積めるか。それが戦略を何よりも成功させる重要だ」という哲学が流れている。対して、「ストーリーとしての競争戦略」は、文字通り「戦略に人に語りたくなるストーリー性があるかどうか」という一点に成功の軸においている。

なるほど、そういう違いがあるのだな、と思ったところで、更にもう1つの疑問がわく。私だけがそう思うのかもしれないが、戦略本というのはなんとなく胡散臭いものである。というのも、読んでもなかなか、現実には適用しづらい。抽象的。後知恵的。そんな印象があるからだ。事実、私自身の経験でも、いつも問題になるのは、戦略そのものよりも、立てた戦略を仲間がなかなか実行してくれないといったことだ。眼の前の緊急なことにばかり目が行き、中長期的な戦略のために時間を割けない。そうこうしていくうちに戦略の半分も実行せいないうちに半年が経過してしまう。そんな感じなのだ。つまり、PDCAでいうところのPではなくDに問題がある・・・。それが実態なのだ。そんな中にあって、この「ストーリー戦略」はどんなヒントを与えてくれるのだろうか。いや、ヒントはあるのだろうか。そう思いながら読んだ。

そして、驚いた。「ストーリー戦略」そのものがまさに「実行力を伴わせる戦略」のことだったからだ。普段、会社で立てる戦略は、セグメンテーション、ターゲット、ソリューション、マーケティングとプロモーション、アクションプランなどなど・・・あたりまえの要素が含まれるが、ブツリブツリとスライド間のつながりが弱い、単なる数字の羅列になってしまうことが多い。しかし、そこにはっきりとしたストーリー・・・そう、さしずめ小説のように語れるストーリーがあると、説得性も、何もかもが変わる。

私はリスクマネジメントのコンサルタントとして、よくクライアントに何事も言語化が大事だ、と言っている。戦略にもまさにこれが当てはまるということだろう。が、小説のように具体的にイメージができて人に語りたくなる・・・ストーリーになるような言語化ができるといい。そこまではおもいが及ばなかった。

そんなわけで、本書は組織において何らかの戦略・・・というか、企画立案する立場にある人が読むとよいだろう。なぜって、企画立案は実行性が伴って初めて成り立つものだからだ。実行が伴う企画を作るにはストーリーが必要なのだ。そう、それこそが楠木氏が言うストーリー戦略なのだ。


2018年4月7日土曜日

記事評: 叱咤激励の技術

HBR2018年1月号を読んで・・・。

『倉庫業務が物流コスト全体に締める比率は推定約20%であり、倉庫関連コストの65%が商品を棚から取り出すピッキング作業にまつわるものである。』
(AR戦略:拡張現実の並外れた可能性より)

これはどう思ったというよりも、勉強になったうんちく・・・。なるほど、想像以上にアナログ作業が現場を占めているというわけだ。


『パブロ・ピカソがコンピュータについて述べたコメントだ。「しかし彼ら(コンピュータ)は役立たずだ。答えることしかできない』
(人工知能が汎用技術になる日より)

「AIが人間の仕事を奪う。脅威でしかない」という主張に対して、これほど明快な反論があろうか。答えることはできるが、問いを持つこと、すなわち課題を設定することは相変わらず人間の役割というわけだ。ますます、「自分で考える力」「疑問を持つ力」が重要になるという意味でもある。「正解がないのはわかるけど、一例を教えて」とか、「正解を教えて」と聞いてばかりの人間からの脱却が必要だ。


『科学から見れば、かならず成功するスピーチのほとんどに三つの要素があることが判明した。それは、「方向性を示す」「共感を伝える」「意味付けを行う」である。』
(叱咤激励の技術より)

この3つの要素は、リーダーの立場に立つ者が、チームを鼓舞し、一丸となって進むべき方向に進ませるために必要な要素であり、実用的な指摘である。自分に当てはめた場合、ともすれば、数値目標や課題だけを伝えて終えてしまうことがある。「共感を伝える」と「意味付け」・・・の部分が、弱いと感じた。そりゃー、そうだわな。人間対人間だし・・・。

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...