2012年12月30日日曜日

書評: 奇跡の教室

「すぐに役立つことは、すぐに役立たなくなります」

奇跡の教室 ~エチ先生と奇跡の子どもたち~
著者: 伊藤氏貴
出版社: 小学館


今でこそ超名門校だが、当時まだ公立校の滑り止めでしかなかった灘(なだ)。冒頭の言を発した教師は、この学校で薄っぺらい文庫本「銀の匙(ぎんのさじ)」一冊だけを3年間かけて読むという型破りな国語授業を行った。教え子たちは、灘に私立初の東大合格者数日本一の栄冠をもたらす。そして今、東大総長・副総長、最高裁事務総長、神奈川県知事、弁護士連合会事務総長・・・要職につき各界で活躍している。伝説とまでうたわれるようになったその教師の名は、橋本武 (2012年で満100歳)。

  • 橋下武先生は、本当にそんな授業を行ったのか?
  • 具体的に、どんな授業内容だったのか?
  • なぜ、そのような授業を行ったのか? 
  • そして、なぜ、結果を出せたのか? 
  • 教え子たちは、今、何を思うのか?
本書には、こうした疑問全てに対する答えがつまっている。

冒頭の言をはじめ、本書には生徒を教える教育者として、あるいは子を育てる親として、ハッとさせられるメッセージが数多く登場する。それが本書の魅力の1つでもある。

『"自分が中学生の時に国語で何を読んだか覚えていますか?私は教師になった時に自問自答して愕然としたんですよ。何も覚えてないって。』

『国語はすべての教科の基本です。”学ぶ力の背骨”なんです-』

『私は”教え子”ということばで卒業生を呼んだことはない。教師と生徒との関係の限界を知っているつもりだからである。』

しかし、何と言っても本書最大の魅力は、教育の本質をとらえた橋本武先生の教育手法の紹介だろう。一冊の本をとことん味わい尽くす・・・本書は、そんな橋下武先生の教育スタイルをスローフードならぬスローリーディングと呼ぶ。スローリーディングと言っても、単にゆっくり読むのではなく、そこに登場する言葉、情景、心情・・・文字の一言一句を大切にし、丁寧に観察し、”追体験”することを指すのだ。たとえば、主人公が金太郎飴を食べている描写があれば、実際に生徒にも金太郎飴を食べさせ・・・同じ状況を味わいながら読み進める、といった具合である。

ところで、スローリーディングを知るにつけ、ふと、思う。成果を伴った教育というか学問というか・・・そういったものには、一つの共通点があるなと・・・。

「ハーバード白熱日本史教室」の北川智子先生は、日本史の授業で、単に文字を追わせるだけでなく、当時の音楽を聴かせたり、地図を自ら作らせてみたり・・・アクティブティーチングと呼ぶそうだが・・・そういった手法を使って、五感をフル活用し歴史の追体験をさせる。

NHK番組プロフェッショナル仕事の流儀でも採りあげられ、日本中の教師から注目されている菊池省三先生は、小学生に1つのテーマを与え、自ら調べさせ考えさせ、ディベートをさせている。また、普通であればやらされ感いっぱいの運動会において、生徒自身に運動会での踊りの振り付けを創作させるなど、生徒に考えさせる機会をとにかくたくさん演出している。

お金がなく学校に通うこともままならなかったが、教育者の助けなく、自ら似たようなことを実践し、結果を出した若者もいた。「風をつかまえた少年」で有名になったウィリアム・カムクワンバ少年だ。彼は、自転車のライトをつけるモーターに興味をかきたてられ、廃材を利用して自分で実験し、図書館に足を運び独学で発電の仕組みを調べ、ついには風力発電を作り上げてしまった。

そう、これら全てのケースに共通するのは興味を持ち、自ら調べ、自ら体験し、自分の考えを見つけるというプロセスが発生している点である。橋本先生のスローリーディングは、まさに生徒にこのプロセスを踏ませる最も有効な手段の1つであるに違いない。しかも、今からはるか70年以上も前にその重要性に気がついて実践していたというのである。ゆうに還暦を迎える生徒達は、今も立派に生きている。

”奇跡の教室”・・・本書を読めばこの言葉が嘘ではないことがわかるはずだ。


【”教育”の本質に迫るという観点での類書】

2012年12月29日土曜日

書評:「セブン-イレブン終わりなき革新」&「個を動かす」

今回は、コンビニエンスストアにスポットライトを当てた二冊の本について、まとめて書評を書いてみたい。

セブン-イレブン終わりなき革新
著者:田中陽
発行元:日経ビジネス人文庫


個を動かす ~新浪剛史、ローソン作り直しの10年~
著者:池田信太朗
発行元:日経BP社

  ■セブン-イレブン終わりなき革新

セブン-イレブンの全てを書いた本だ。創業者であり現代表取締役会長でもある鈴木敏文氏のこの”会社に対する想い”セブンが今日の地位を築くまでの”苦労・進化の歴史”・・・この両方をたどることで、セブン-イレブンの哲学と業界ナンバーワンたらしめる強みに迫っている。

この本の魅力は、一冊で、おおよそセブン-イレブン・・・いやコンビニ業界・・・いや小売業のことが理解できてしまう、という点にあるだろう。なぜなら、小売り業の最先端を突っ走っていると言っても過言ではない業界でナンバーワンをはるセブン-イレブンの強みを知ることは、小売業における一つの理想像を知ることにもつながるからだ。セブン-イレブン関連の本はたくさん出ているが、我々一般人がセブン-イレブンを適度に理解するにはこれ一冊あれば十分な内容だ。

では、本が言及するセブン-イレブンの強みとは何か? 

幾つかを参考までに紹介すると、例えば、常に”顧客ありき”を前提にした単品管理・・・この軸をぶらさない姿勢がある。また、鈴木敏文氏の常に諦めない粘り強さ・・・が印象的だ。国内にコンビニエンスストアという業態がまだなかった時代に第一号店を立ち上げるまでの苦労、従来はあり得なかったメーカーの垣根を超えた商品開発協力体制の構築の話は、素直にすごいと思った。法規制やしがらみを打ち破ってのATMマシン設置にこぎつけるまでの話は、フィクション小説さながらに興奮した。さらに何と言っても、タイトルにもあるように、常にイノベーションを追い求める姿勢だ。POSシステム導入にはじまり、ふっくらしたおにぎりの開発、商品棚の改善、店舗の24時間化など、挙げれば枚挙にいとまがない。

こうした努力は数字に如実に表れている。コンビニ一店舗あたりの日販が、セブン-イレブンで66万9千円、ローソンが54万7千円、ファミリーマートが53万千円だそうだ。

最初に、本屋で見かけて「少しくらいは何か役立つことが載っているかな」と何とはなしに手にとった本だったが、良い意味で大きく期待を裏切ってくれた本だ。

個を動かす ~新浪剛史、ローソン作り直しの10年~

先の本がセブンーイレブンの全てを描いた本だとすれば、こちらは新浪剛史氏率いるローソンの全てを描いた本である。

「セブン-イレブンって、実は見た目以上に強いんだなぁ。他社は勝ち目なさそうだなぁ。」

「セブン-イレブン 終わりなき革新」を読み終わったときは、そう思った。しかし、この「個を動かす」を読むと「いやいや、何の何の。ちょっとでも隙あらばトップを奪いとるよ」・・・そんな力強さが伝わってくる。

セブン-イレブンよりも後発・・・加えて、ダイエーが三菱商事に譲り渡したときは、負の遺産もたくさんあったローソン。ローソンの強みは全都道府県にプレゼンスがあったという点。セブングループに比べ、売上も資金力も遠く及ばないローソンが、自社のこうした弱み、強みを認識した上で、独自の戦略を打ちたて、熾烈な戦いに挑み続ける・・・そんな姿勢が描かれている。その姿勢は極めてオリジナリティに溢れている。

本書の特徴を1つ挙げるとすれば、ローソンをより良く知るために、ローソンのみならず、セブンーイレブンの特徴について幾度と無く言及している点だろう(「セブン-イレブン 終わりなき革新」は、他社との違い・・・というよりも、あくまでもセブンーイレブン自身についての言及に終始している)。事実、比較のため「セブンーイレブン終わりなき革新」からの引用が数多く見られる。

三菱商事で学んだ現場ありきの実行力・・・そして、ハーバード・ビジネス・スクールのMBAの知識・技術・・・いい意味での頑固一徹なリーダーシップ力・・・新浪氏の魅力がひしひしと伝わってくる。

■二冊を合わせて読むのがベスト

両書を読んで浮き彫りになるのは、同じコンビニ・・・業界一位、二位を占める会社であり、見た目は同じような商売に見えるが、実は、両社が”似て非なるもの”・・・であるということだ。フランチャイズという形態、顧客第一主義・・・それ以外の点では何から何まで違うといっても言い過ぎではないのではなかろうか。これは本当に驚きの事実だった。

セブンーイレブンが本部の強烈なガバナンスの元で店舗運営をしているのに対し、ローソンはできる限り店舗運営を地域に任せている。セブンーイレブンが商品発注を店舗の人判断に任せているのに対し、ローソンはITを駆使して自動化させようと試みている。セブンーイレブンが同じエリアに大量出店するドミナント戦略をとっているのに対し、ローソンは広範囲に出店する戦略をとっている(あるいは、とってきた)。

ビジネスは生き物、ビジネスは戦い、ビジネスはやりよう・・・両書を読むと、いや、両社を知ると、それを実感させてくれる。それが、とてつもなく魅力的で面白い。興味がある方には、ぜひ、この二冊を読み比べることをオススメしたい。


===コンビニ商品力で格差(2013年1月11日追記)===
日経新聞2013年1月10日付け朝刊によれば、コンビニエンスストア大手5社の2012年3~11月期決算がそろったとの報。それによれば、
1. セブン-イレブン・ジャパン 4,679 / 1,450 (売上高/営業利益)
2. ローソン 3,722 / 534
3. ファミリーマート 2,571 / 361
4. サークルKサンクス 1,193 / 169
5. ミニストップ 955 / 45

だそうだ。際立つのは、セブンとローソン、ファミマ3社が増益、残り2社が減益ということと、セブンの営業利益の大きさだ。今後が注目される。

2012年12月23日日曜日

なぜ今、古事記なのか

VOICE2013年1月号を読んだ。

  ■なぜ今、古事記なのか

「なぜジャパン・エキスポで古事記なのか」の記事。吉木誉絵(よしきのりえ)さん・・・が、今、注目されているとのこと。なんでも日本の古事記をベースにしたステージ演出が日本のみならず世界で、評価されているらしい。この記事のヘッダーには「アメリカ留学を経て、日本の神話に見せられた若き歌姫が、古事記編纂千三百年の節目に挑んだ大プロジェクト」とある。 記事中、彼女が”古事記”に注目した理由について触れられているが、それが印象的だった。 

『お風呂好きな性質や勤勉さ、箸やご飯茶碗などは自分の食器が決まっていること、話し合いで争い事を解決しようとする性格など、わざわざ意識していなくても外国人から必ず日本人の特徴としてあげられるそれらの気質は、古事記に神々の気質として起源が書かれていたのである。勉強すればするほど、古事記が無意識的に日本人のなかで、共通に存在している不思議な感覚を覚えたのだった』

「日本の外に出てこそ見えてくる”日本人らしさ”」、「千年超えてなお変わらぬ”日本人らしさ”」、「古事記という神秘的・伝統的な書物に投影される”日本人らしさ”」・・・、なんだか日本人であることを誇らしげに感じてしまうのは自分だけだろうか。同時に、古事記を良く知らない自分が恥ずかしい。

■中央銀行の質と量?

「日銀がインフレターゲットを設定するのは必要なことだ」「いや、それだけでは不十分だ」「いや、不要だ」などなど、色々な専門家が喧々諤々。たとえば、江田健二氏(みんなの党)は、インフレターゲット設定を推奨しているが、池田信夫氏はインフレターゲット設定だけでは不十分という論を展開している。両者がそれぞれの論を支える根拠の1つとして挙げている点が(ともに事実を述べてはいるが)、(アタリマエのことではあるが)それぞれに都合の良い部分を使っているので、面白い。

『現にいま、イングランド銀行、スウェーデン中央銀行といった先進国の多くの中央銀行で、インフレターゲット政策が採用されている』(みんなの党 江田健二)

『インフレ目標というのは、中央銀行が物価上昇率に一定の基準を設けて、それを守るように金利を調整する政策だが、日銀もFRBもECB(欧州中央銀行)も採用していない』(経済評論家 池田信夫)

いや、面白い。

VOICE2013年1月号

2012年12月22日土曜日

書評: 南海物語 ~西郷家 愛と悲しみの系譜~

南海物語 ~西郷家 愛と悲しみの系譜~
著者: 加藤和子
出版社: 郁朋社



この本は、西郷隆盛(さいごうたかもり)と彼に深く関わった人々の人生を描いた歴史物語だ。

西郷隆盛と名乗るようになる遥か前のまだ24歳・・・そう、彼がまだ吉之助(きちのすけ)と呼ばれていた頃、切腹同然の罪を犯す。吉之助を失うことを”著しい損失”と考えた藩は、切腹の代わりに、当時侵略先として検討していた台湾で密偵役をこなすよう命を下す。琉球からの流れ者と偽り、とある台湾漁民と家族同然の仲になるが、そこの娘と恋仲になり妻として娶る。妻は身籠るが出産間近のタイミングで、藩命により吉之助は薩摩へ帰投することになる。残された妻子・・・とりわけ妻は、嘆き悲しむばかり・・・。産後の肥立ちも悪かったためか、ついには亡くなってしまう。

このように・・・物語は学校では習わなかった悲しい史実からいきなり始まる。

私のつたない記憶をたどると、西郷隆盛と言いえば・・・

「体の太い人」「銅像になってる人」「薩長同盟」「(最後は暴走気味に)西南戦争で負けた人」

といったことしか思い浮かばない(もし事実と著しく異なっていたとしても、それは私の教養不足のためであり容赦願いたい)。しかし、この本を読むと、おそらくは体型や薩長同盟に関すること以外、何1つ彼に対する知識が正しくなかったことがわかる。また、彼が台湾はおろか、奄美大島にもこれほど深い関わりを持っていた人とは知らなかった。さらに、そもそも隆盛という名が正しい名前ではなかった・・・ということも驚きだった。

サブタイトルの「西郷家、愛と悲しみの系譜」・・・これはパッと見、昼のメロドラマのタイトルのようで、この本に対して腰が引けなくもない(正直、私は最初の一ページを開くのに時間がかかった)。が、この本にはまさしく愛と悲しみがあふれている。読んでいると胸が張り裂けそうになるシーンも多々ある。

西郷隆盛に興味がある人はもちろん、明治維新に興味がある人、奄美大島に興味がある人・・・そして歴史に興味がある人・・・そんな人達にお勧めの本である。

【歴史物語という観点での(私が読んだ)類書】
この命、義に捧ぐ(門田隆将著)

2012年12月8日土曜日

書評: 背の眼

正直、ミステリーものはあまり好きじゃない。

現実世界を描きながら、現実っぽくない・・・その中途半端さが好きになれない。たいていの場合、複数の殺人が起こる。そしてたいていの場合、主人公はその(またはそれに近い)場面に出くわす。一人の人間が殺人に出くわすことって、人生に一度あるかないかだろうに・・・。

そんな自分の気持ちに背き、次の本に手を出した。素直に面白いっ!と思った。

背の眼
著者: 道尾秀介
発行元: 幻冬舎文庫



手を出したきっかけは、雑誌「男の隠れ家(2012年12月号)」での彼の記事を読んだことだ。そこには道尾秀介氏自らが設計を手がけた書斎が紹介されていた。一日きっちり10ページ・・・無理のないノルマを自分に課し、リラックスと集中・・・朝7時から夜6時まで小説を仕上げる。若手ながら次から次と賞を受賞・・・確か、そのような話だったと思うが、そんな素敵な空間&彼の才能
から描き出される世界観は、きっと読者にも何か素敵な気分を分け与えてくれるに違いない・・・そう思ったのかもしれない。

■白峠村を舞台にしたミステリー小説

「背の眼」は、ミステリー小説だ。ちなみに、ホラー・サスペンス大賞特別賞を受賞している。ネタバレしない程度にあらすじを紹介しておく。

作家業を営む道尾(みちお)は、久しぶりの旅行にでかける。行き先に選んだのは白峠村。この村を訪れた際、偶然、児童失踪事件の話を耳にする。その矢先、宿泊先近くの河原で、不気味な謎の声を聞き、慌ててその村を逃げ出してしまう。恐怖体験が頭から離れなず困った道尾は藁をもすがる思いで、霊現象探求所を運営する旧友、真備庄介(まきびしょうすけ)のもとを訪れる。そこで目にしたのは、被写体の背中に人間の眼が映り込む四枚の心霊写真。彼ら全員が撮影数日以内に自殺したという。そしてなんとその、白峠村周辺で撮影されたものだという。失踪、謎の声、心霊写真、自殺、白峠村・・・これは単なる偶然か・・・それとも・・・。


■ヒーローの存在と読めない展開

さて、なぜおもしろいと思ったのか・・・。

1つは、”強いヒーローを見たい”という欲求を満たしてくれるからだ。コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ、東野圭吾のガリレオ・・・彼らのような聡明さを持つ存在が、この作品では真備庄介にあたる。小説の最初の方で、道尾を”ワトスン”にみたて、真備があたかもシャーロック・ホームズになったかのように推理を披露するシーンがある。実は、デタラメの推理で冗談として挿入されている場面だが、作品内での二人の立場を描写するのに、これほど的確な喩えはないだろう。

もう1つは、ストーリー性だ。とても処女作とは思えない良く練られた作品だ。いくつものパズルのピースが、最後に、カチリとはまっていく・・・その流れに心地よさすら覚えた。加えて、(これがミステリー小説において最も重要なことなのだと思うが)最後の最後までストーリーが読めない。この小説の中に出てくる”霊”という存在をどのように捉えるべきか・・・どう捉えるかで、読者の推理のあり方も全て変わってしまう。すなわち、最後まで迷う。

■憎らしいほどの才能

ところで、”ワトスンくん的立場”で小説に登場する道尾は、作者の道尾秀介氏自身のこと・・・は自明だが、現実世界での作家としての能力は”ワトスンくん”・・・というよりも、”シャーロック・ホームズ”・・・と思わずにはいられない。

実は、この本の「あとがき」に裏話が載っているのだが、ホラーサスペンス大賞特別賞をとるためにとった戦略の話からはじまって、道尾秀介氏が短期間でいとも簡単に小説を仕上げてしまう話、そして今作品で打ち出した狙い・・・など・・・読者のみならず、小説の審査員の心理を的確に読み当てる彼の洞察力には、驚嘆するばかりだ。小説を読んだあと、ぜひとも、この「あとがき」を読んでほしい。

今でもミステリー小説は、相変わらずあまり好きではない。しかし、道尾秀介氏の作品なら、残りの作品もぜひ読んでみたい。「男の隠れ家」の記事に働いた私の直感は間違っていなかった。


2012年12月4日火曜日

コミュニケーションのあり方

VOICE2012年12月号をようやく読み終えた。後、6日で1月号が発売されてしまう・・・(;´Д`)


■再生JALの心意気(さかもと未明)

さかもと未明さん・・・色々な方の非難を浴びることを覚悟の上で、書きます・・・こう切り出した上で、JALに乗った際に近くにいた赤ん坊の鳴き声がうるさくてうるさくてたまらずブチキレた話をしはじめた。「お客様に迷惑がかからぬよう、個室を作るとか、乳児は乗せないとか、工夫ができないものか?」との提言。

この記事に端を発して、さかもと未明さんが色々な人からバッシングを受けているようだ。「さかもと未明は常識が足りない!!」など云々かんぬん・・・。

さかもと未明さんの気持ちはわかるが、赤ん坊は宝物。彼ら彼女らに関しては我々はもう少し許容の度合いを広げてもいいのでは?・・・と思う。この件にかぎらず、今の社会には(私を含め?)心の余裕がないというかなんというか・・・混雑している電車に赤ん坊を連れて乗り込んでくる母親を見て、ケアしてあげようと思うどころか、あちこちから舌打ちが聞こえてくるありさま。この余裕のなさが非常に寂しい。そもそもプッシングマンと呼ばれる駅員さんは「もっと奥につめてくださいっ!」と叫ぶより、「もうこれ以上乗らないで下さい!」と制する方が人間らしいと思うのだが・・・。

さはさりながら、さかもと未明さんに対するバッシングはやや度を過ぎているような気がしないでもない。女性週刊誌にまで、さかもと未明の文字が踊る。当件、「物議を醸し出している・・・」とか「論議を巻き起こしている・・・」とニュースは語るが、叩かれ方がほぼ一方的で・・・意見の中身よりも彼女の人間性を否定する口撃が多く、そもそも議論自体成り立っていない印象を受ける。ディベート慣れをしてない日本の悪い風潮かもしれないが、意見自体が存在することを真っ向から否定してしまう・・・バッシングの行き過ぎにはいささか、気分が悪くなる。

■悩めるリーダーはSFに学べ(押井守、夏野剛)

押井守氏は映画監督。なんといっても攻殻機動隊が有名だ。夏野剛氏は、ハイパーネット取締役副社長だ。二人の対談の中で「コミュニケーション」について語った印象的な箇所がある。

(押井)コミュニケーションには2つの側面がある。一つは、現状を維持するためのコミュニケーション。近所付き合いする、会社で同僚と関係を築く、恋愛関係や夫婦関係を保つ、といったものです。もう一つは、異質なものと付き合いためのコミュニケーション。会社は学校での会議、国同士の外交、恋愛や結婚の初期段階で必要な交渉などのことです。
 ネット社会では個人がむきだしになるあまり、本質的な問題について真剣に「議論」することなどできない。そして、前者だけを「コミュニケーション」と考えてきたの日本社会です

(夏野)日本人のいうコミュニケーションは、「周りと仲良くやること」。だから、周りと摩擦を起こす人のことを「コミュニケーションが取れない」といいますが、まったくの間違いですね。

 この発言で「なるほどな」と思ったのが、「SNSやツイッターなどのネットツールが、いずれアナログ的なコミュニケーションのあり方を置き換える」という風潮があるが、この論を前提にするとそれは難しい(あるいはできない)のだ、ということ。ネット社会では個人がむきだしになるかぎり・・・。いやはや、”むきだしになる”とは何とも言い得て妙だ。

2012年12月2日日曜日

書評: なぜフォークの歯は四本になったか

散歩途中に、コンクリート道路の隙間に咲いている花を見て・・・

「いったいなぜこんな場所に!?」

不思議に思い反応を示す人・・・、特に何も感じずそのまま歩き続ける人・・・。「バカの壁」 (養老孟司著)によれば、この2人の行動の違いは、それぞれが持つ「感情や興味の係数」の大きさによるという。

さて、みなさんの「感情や興味の係数」はいかがだろうか? ちょっと心配・・・という方にお勧めの本がある。

なぜフォークの歯は四本になったか 実用化進化論
著者: ヘンリー・ペトロスキー (忠平美幸 訳)
発行元: 平凡社



普段、わたしたちが”アタリマエのモノ”として目にする食器、文房具、大工道具、果ては建築物にいたるまで、それらがどうしてその形を持つにいたったのか・・・言わばダーウィンの進化論ばりに・・・但し、動物ではなくモノの・・・を徹底的に研究した本だ。

著者のペトロスキー氏はアメリカの工学者。学者らしいというか何というか・・・彼が最初から最後まで掲げている一貫した主張が「(人間が作る)モノの形は、機能ではなく失敗に従う」である。これをもう少し分かりやすく説明すると、たとえば(タイトルにある)フォークであれば、それに人が期待する役割(機能)は「食べ物をつかみ、安全に口に運ぶ」というものだが、それを満たすことがフォークの目的であれば、なんで何十何百種類ものデザインが存在するのか?とペトロスキー氏は疑問を呈する。「やれ、これがつかみづらい、あれが食べづらい・・・いや、このフォークの形はフォーマルな場には美しくない・・・」というように、モノの形を決めるのは、必ずしも機能ではなく、むしろ失敗(経験)だ・・・そういうことらしい。

著者はこの主張を証明しようと、本全体の9割近を”うんちく的な話”・・・に割いている。ナイフ、フォーク、スプーン、クリップ、ポストイット、ジッパー(チャック)、ジュース缶、マクドナルドのハンバーガー容器、ハンマー・・・世の中で普段わたし達が目にするモノの進化の歴史についての言及だ。こうした”うんちく”こそが、本書最大の特徴とも言える。

ところで、1つ難点を挙げるとすれば、この本は読むのに相当な体力を要するということだ。

読者の理解を助けようと、ところどころに出てくる挿絵はとてもありがたいのだが、残念ながら、取り上げられるモノの数の比して十分な量とはいえない。モノのデザインについて、その細かい部分を文章で描写されても、頭の体操をしたいのならともかく、気軽に読みたい読者にとっては疲労感を増やす要素以外の何者でもない。加えて、著者が終始言及する「ほらね、モノの形は失敗に従うじゃないか!」論・・・こちらについては、どうしても抽象的・概念的な話にならざるを得ず、やはり読んでいると疲れる。

しかしながら、こうしたネガティブな側面も、数々のモノのルーツを教えてくれる本書の魅力には抗えないと思う。それに、小難しい話は読み飛ばせばいい。

ポストイットで有名な3M(スリーエム)社が、元は砥石車やヤスリの製造業者だったという話・・・さらに聖書で読み進めた箇所をおさえておくのにしおりだと良くずり落ちて困るストレスを解消したい・・・という願いがポストイットを生んだという話・・・ほとんど目を丸くしながら読んだ。

読んだ次の日から「感情や摩擦の係数」が急上昇することうけあいだ。

「ふーん、このフォーク、このスプーン・・・このお箸は・・・どうしてこんなカタチに決まったんだろう??? なぜ?なぜ?なぜ?」・・・って。


【モノの起源にせまるという観点での類書】
 ・世界一のトイレ ウォシュレット開発物語(林 良佑著)
 ・舟を編む(三浦しをん著)

2012年11月24日土曜日

オンリーワン戦略 vs 事業継続

日経新聞2012年11月23日(金)朝刊の記事「iPadが液晶採用、シャープ救えるか(ルポ迫真)」は示唆に富んでいる。

シャープのオンリーワン戦略・・・その結晶であり、生き残るため”最後の綱”である最新液晶技術IGZO(イグゾー)が、同時にシャープを苦しめる理由にもなっている・・・その苦悩に言及した記事だ。

飛ぶように売れているApple社のiPadには、シャープの液晶が採用されている。

しかしiPadを買っても、液晶パネルがIGZOとは限らない。新型iPadには、シャープ製のIGZOと韓国サムスン電子などが作るアモルファス液晶という2種類のパネルが混在しているからだ。それが消費者に分からないよう、アップルは性能で勝るIGZOの解像度をわざと落としている。(記事抜粋)
記事はシャープの苦悩にスポットライトを当てたものだが、ここに出てくるApple社のリスクマネジメント戦略もとても興味深い

それは”どんなに製品が良くても、一社しか供給できない状況にはしない”複数購買戦略のことだ。もちろん、バイイングパワーが伴わなければできないことだが、画質を落としてでも複数社からの仕入れを実現させる・・・この姿勢には正直、驚いたし・・・だが、他のグローバル企業が見習うべき点がある。

調達先を複数にしておけば、事故・災害などにより、そのうちの一社が供給停止に陥ったとしても購買する側の企業は事業継続が可能になる。そして、もちろん価格競争をさせることにより調達価格自体を引き下げることにもつながる。

日本メーカーの多くは、今、二社購買にすることができずに困っている。オンリーワン企業が多い
からだ。しかも、仮に調達先(一次サプライヤ)を二社にしても、その先のどこかでつながっているケースは少なくない。しかし、一方で事故・災害は待ってくれない。それどころか日増しにリスクは高まっている。ニューヨークを襲ったハリケーン(サンディ)、タイの大洪水、東日本大震災・・・日経ビジネスによれば、「10ヶ月に1回は世界のどこかで大災害が起きている計算になる」そうだ。

「よりいいものを!」は確かに顧客の持つ強いニーズだが、「事業継続できるものを!」も、また顧客の持つ強いニーズと言えよう。オンリーワン戦略は、供給者側にとって(生き残るために)重要だが、需要者側にとっては「よりいいものをより安全に」が重要となるわけだ。

供給者側はこのパラドックスを、解けるのか。あるいはパラドックスであるとおもうこと自体間違いなのか。今流行の事業継続計画(BCP)は、その答えとなるのか・・・。

「顧客のニーズ(課題)解決をできる企業が生き残る」という事実を念頭においたとき、日本企業は、果たして、どのような戦略をとることができるだろうか。

【関連リンク】
 ・日経新聞社(公式HP)
 ・Apple社(公式HP)
 ・シャープIGZO紹介ページ

===オンリーワンがリスクマネジメント戦略を凌駕!?(2012年12月23日追記)====
最近、読んだ記事に、企業が求める答え(選択肢?)の1つたりうるものがあったので、ぜひ紹介しておきたい。YKK株式会社会長の言だ。

『例えばジーンズの米リーバイ・ストラウスはかつて、部材については自社商品の生産に支障を来さないように2~3社から同等のモノを仕入れることができるようにする方針だった。ところが、当社からファスナーを購入するようになってからは当社1社にしたいと言ってきた。いいモノを責任をもって供給してくれるので、リスクヘッジのため複数社に発注するよりもYKK1社の方がいいという判断だった』(日経ビジネス2012年12月24日号 吉田YKK代表取締役会長兼CEOに関するインタビュー記事より引用)

うーむ。なかなか・・・色々ありますな。

2012年11月23日金曜日

映画: ミッション・インポッシブルⅣ

DVDで「ミッション・インポッシブルⅣ(ゴースト・プロトコル)」を観た。 

だが実は借りるまでにすごく・・・そう2週間近くも悩んだ。

毎週レンタル屋に足は運び、このDVDが目にとまるのだが、どうしても手を伸ばそうという気にならなかった。ミッション・インポッシブルは、なんだかんだで一作目から三作目まで全て観てきて嫌いではない。むしろ好きだ。だが、どうしても手が伸びなかった。

 なぜなのか!?・・・いや、くだらない理由だ。「自分の貴重な時間を、水戸黄門ばりのお約束ストーリーを見ることに費やすことに本当にいいのか!?楽しめるのか!?」。そんな理由だ。

 いま思えばDVDの前に立って「うーん、借りるべきか、借りざるべきか」と悩んでいた時間のほうがもったいなかった。さっさと観てハラハラドキドキ・・・そして爽快な気分を味わっておけば良かった・・・そう思った。

今回はなんと、トム・クルーズ扮するイーサン・ハントが所属するIMFが強敵出現により、解散の危機に追い込まれる。絶体絶命の大ピンチ。(例によってまさに)ミッション・インポッシブル(遂行不可能)!

単にハラハラドキドキだけではなく、コミカルなシーンもある。まさに喜怒哀楽・・・全てが2時間に詰まった映画であり、エンタメとして十分に完成された映画だと思う。

その意味では、先日観たバトルシップなんかよりはるかに満足度が高い。 2時間ほどリラックス・・・(ハラハラしてるときはリラックスにはならないが)・・・したい・・・そんな人にはもってこいの作品。


2012年11月18日日曜日

書評: 「進化する教育」 ~あなたの脳力は進化する!~

今週は献本サイトReview+(レビュー・プラス)からもらった宿題本。

「進化する教育」 ~あなたの脳力は進化する!~
大前研一通信・特別保存版 PARTⅥ
大前研一、ビジネス・ブレークスルー出版事務局 編著

本書は、大前研一氏が経営するMBA大学・・・ビジネス・ブレークスルー(BBT)大学とその提携校である豪州ボンド大学大学院・・・のプロモーション本である。プロモーション本とはつまり・・・、
  • BBT大学の教育理念とは何か?
  • BBT大学の特徴とは何か?
  • BBTのカリキュラムはどんなものか?
  • BBTに参加している人たちの声はどんなものか?

など、同大学について、あらゆる角度から解説をしている、という意味だ。200ページほどのボリュームがあり、あたかも”大学院パンフレットの超豪華版”といった印象だ。ちなみに紙版と電子書籍版の2つがあり、電子書籍版はiPhone、iPad、Android、Tablet版PCや普通のパソコンなどで閲読できる。

どれどれ・・・どんなことが書いてあるんだろう。

恐る恐る本を開くと、最初から大前研一節が目に飛び込んでくる。今の日本人が世界で戦えていないワケ(今の日本人に欠けているモノ)が、熱く語られている。

『・・・世界中どこに放り出されても裸一貫で生きていける「生存力」を子供に身につけさせる、これこそが教育の目的のはずなのである。ところが、いまの日本の学校はどうかというと、学習指導要領に基づいて、先生が生徒にこれが正しいという答えを教えるという愚行を、あいも変わらずやり続けている・・・。』

大前氏は「これからの人材に求められるモノ」を、はっきりと、IT力、論理的思考力、コミュニケーション能力(=英語)の3つだと主張する。まさにそれを提供する場がBBT大学であるというわけだ。

本書最大の特徴は、”分かりやすさ””具体性”に尽きるだろう。さすが、論理的思考力をウリにする大学だけあって、「主張」、「理由」、「それを裏付ける具体的な証拠」・・・全てが明瞭完結にまとめられている。思わず「一流コンサルタントが大学院パンフレットを作るとこうなる!」と言い換えたくなるくらいだ。また、授業で取り上げられたケーススタディ及びその時のオンラインディスカッションの生の記録(一部)が記載されており、BBT大学で実際に何が行われているかが手に取るようにわかる。通信制のMBA受講をとるべきかどうか悩んでいる人が知りたい情報全てが載っているといっても過言ではないだろう。

1つ・・・留意事項を挙げるとすれば、当然だが、本書はBBT大学の欠点についてはほとんど振れていないという点だ。先にも触れたように、おそらく「受講すべきかどうか」を検討する人が読む本だろうが、そこは冷静かつ客観的に読むように努めるべきだ。BBT大学は基本的に通信制大学院(わずかだがキャンパスでの授業もあるようだが)だ。だから、キャンパス通いで得られるメリットは享受できない。たとえば、私はヨーロッパの大学のフルタイムキャンパスでMBAを取得したが、そこには40超の国から参加した学生と触れ合うことができた。グローバルな付き合い方(グループワークで喧嘩したほどだ)、生きた英語でのコミュニケーション、国際的な著名人のひっきりなしの講演、海外工場の見学・・・など、キャンパスでしか体験できないこともある。7年経過した今だからはっきり言えるが、そしてこれらは全て今の仕事の糧になっている。

勘違いしてもらいたくないのは、BBT大学を否定するつもりは全くない、ということである。むしろ、大前氏の主張にも、同大学の意義・・・にも賛同している。お金と時間をかける以上、効果的・効率的な手段を選ぶのは当然だ。通信大学も選択肢に入れている人であれば、本書も1つの貴重な判断材料とすべきだ。

フルタイムキャンパスに通うのは難しい、時間もお金もそこまではかけられない・・・でも本気で今の殻を打ち破りたいと思っている・・・そんな30代前半から40代の闘うビジネスマン・・・色々な手段を知り、自分の将来の選択肢を増やす・・・そう考えている人に1500円(電子書籍は600円)は決して高くないはずだ。

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2012年11月11日日曜日

顧客第一主義の意識を社内に根付かせる方法


ハーバードビジネスレビュー(HBR)2012年11月号の「How I Did it」(私はどうやったのか)は、ドイツの総合電機大手シーメンス社長兼CEOのピーター・レッシャー(Peter Loscher)氏の記事。

あのオリンパスのガバナンス問題が子どものように見える。シーメンスでは2007年とんでもない汚職事件が発覚した。事業受注をめぐり、各国の当局者らに13億6000万ドル(約1230億円)の賄賂を贈っていたことが分かったのだ。結果、2008年12月には米国やドイツ当局に総額約10億ユーロ(約1240億円)の制裁金を払うこととなり、当時の社長は引責辞任した。

ちなみに株価の変動を見る限りでは、この事件がどれだけ組織の企業価値に影響を与えたのか、よく分からない(あまり下がってないような・・・(-_-;) )

まさにこの苦難の時期に社長を引き継いだのが、この記事の主人公、ピーター・レッシャー氏だ。彼はいわゆる”プロパー”ではなく、ゼネラル・エレクトリック(GE)から引きぬかれてやってきた外部の人間だ。そんな彼が、どうやってこの組織を建てなおしたのか。

「人の意識を変えなければならない。しかも100年以上も続いてきた意識を・・・」

気の遠くなる仕事・・・それだけは容易に想像がつく。

記事にはビジネスに参考になる話がたくさん見つかるが、中でも「顧客第一」を社内に浸透させるため彼がとった手段の1つが印象的だった。

全てのCEOと役員の前年度の(アウトルック)カレンダー履歴をひっぱってきて、過去1年間に彼らがどれだけ顧客に会っていたか・・・その時間をグラフ化しランキングをつける・・・これを毎年続けるようにしたそうである。

最初の3年間こそ、(本人曰く、残念ながら・・・)社長であるピーター・レッシャー氏自身が1位だったらしいが、その後、ランキングが変わっていったとのこと。

このような話を聞くと「カレンダーなんぞに登録された情報に果たしてどこまで信ぴょう性があるのか」「顧客にどれだけ会ったかが、本当に”顧客第一”につながるのか」「CEOや役員の間に数値で優劣をつけて関係がぎくしゃくしないか」など・・・わたしのような素人は、ついつい「できない理由」をすぐに挙げてしまう。

しかし実はこれほど、シンプルかつ明瞭で、実践的な手段はない・・・かもしれない。本当にレッシャー氏自身が考えついたの?と勘ぐりたくなるほど、いいアイデアだ。きっと、前職とか顧客などからヒントを得たに違いない・・・。まぁ、それはさておき・・・、その効果の程はどうだったのか? 

「”顧客に耳を傾ける”というビジネスの原点」
「それを何としてもやりとげるという社長の強い意思」
「そしてそれを実践させる明瞭簡潔な手段」

とても勉強になった。

HBR 2012 Nov
【関連リンク】

2012年11月8日木曜日

書評: これが週間こどもニュースだ

「クローン人間はなぜダメなのか?」

これを小学生に伝えなければいけないとしたら・・・あなたならどう伝えるだろうか? 知りたい方はぜひ次の本を読んでいただきたい。

これが週刊こどもニュースだ
著書: 池上彰
出版社: 集英社文庫

この本を読むと
  • 人にわかりやすく伝えることがいかに大切か?
  • 人にわかりやすく伝えることがいかに難しいことか?
  • どうすればわかりやすく伝えられるのか?
が分かる!

なお、タイトルにある「週刊こどもニュース」とは、大人向けに報道されるニュース番組の内容について、子供にも理解できる言葉に噛み砕いて解説するNHK番組のことだ。ちなみに、番組は1994年10月から放映が開始され、2010年12月19日に放映が終了している。

■「週刊こどもニュース」を徹底解説

本書は、「週刊こどもニュース」の(初代)メインを担当した池上彰氏が、番組の表側と裏側を余すところなく紹介したものだ。

ここで言う”表側”とは番組でとりあげた時事ニュースやそこで使われる専門用語の解説そのもののことである。本では「日本銀行」にはじまり、「ゼネコンの談合」、「政治家の不正経理処理」、「衆議院と参議院」、「比例代表制度」、「逮捕状」、「警視庁と警察庁」、「GDPとGNP」、「円安と円高」などなど、子供のみならず一般の大人でも、正しく理解できてなさそうな基本用語について解説している。映像番組とは異なり、文字だけに頼った説明(多少、挿絵もある)ではあるが、いわゆる”今更、人には聞けない”事柄について知ることのできる、絶好のチャンスだ。ここで詳しくは紹介しないが、興味のある方はぜひ本を手にとって確認して欲しい。

”裏側”とは「番組編集側がニュースの中身や専門用語を視聴者にわかりやすく伝えるためにどんな苦労・工夫をしたか、発見があったか」といった裏話のことである。たとえば「日本銀行」の役割を説明する際に、お金を”血”、日本銀行を”心臓”に例えた話や、「談合」の意味を理解してもらうために、実際に演劇仕立てにした話など、が紹介されている。この”裏側”を読んでいると、単に”伝え方の技法”だけでなく、何かを人に伝えることの難しさ、それでいてなお、伝えることの意義について、気づかされる。

まさにこの点で印象的だったのが「職員のカラ出張問題について浅野知事が、子供インタビュアーからインタビューを受けた際」の事例話だ。

(池上氏)『浅野知事はカラ出張について、当初は「公金支出の不適切な処理」などと説明していたのですが、子供には通じません。なんとかわかってもらおうと表現に苦労しているうちに、とうとう知事は、「要するに、ウソついちゃったんだよ」と言ってしまいました。これを聞いた子供は、「えー、ウソついたのー?」と反応し、カラ出張の意味がようやくわかりました。」 この発言について知事は、後日、「子供になんとか理解してもらおうと苦心しているうちに思わず出た言葉だったが、このようにわかりやすく表現したことで、たいへん悪いことをしていたことがはっきりした」と述懐しています。』(本書より)

「”理解した”とは、それを他人に分かるように伝えられてはじめて言えることだ」とは良く言ったものだが、はからずも、子供に正確にモノゴトを伝えることを通じてコトの重大性を真に理解できた、ということなのかもしれない。

■「伝える」→「理解する」→「疑問を持つ」→「鵜呑みにしないクセがつく」→「考えるクセがつく」

ところで興味深かったのは、本書を読んだお陰で多くの疑問が解決できた・・・のではなく、むしろ疑問が増えた、ということだ。

たとえば温暖化についての話を読んだ時のこと。

『氷が溶けて海の水が増えます・・・(中略)・・・気をつけなくてはいけないのは、氷山が溶けても海の水は増えないということです。これ小学校の理科でやりましたよね。南極の(大陸の上に乗っかっている)氷が溶けて一部氷山になって海にただよいだせば、その段階で海水面が上昇しますが・・・』(本書より)

これを読んで「おー、そうだよな。今まで何も考えず、南極の氷山が溶ければ海水面が上がると考えてたけど、既に海に浸かっている・・・というか、浮かんでいる状態の氷は、溶けても海水面に影響を与えないよな。」と改めて理解したわけであるが、その瞬間、次のような新たな疑問がわいたのである。

「あれ、でもテレビでたまに”北極・南極の氷が溶けて海水面が上がるので・・・”といっているのは間違いじゃないのか? なぜなら、北極に大陸はなく、あるのは全て海に浮かんだ氷の塊なのだから・・・」。

理解がまた新たな疑問を呼ぶのである。本書を読みながら、わたしも何度、インターネットで調べ物をしたことか・・・。しかしながら、このように新たな疑問を持てることは大変素晴らしいことだと思う。疑問を解決するために自らまた調べ始めるわけだが、こうしたプロセスを繰り返していくうちに「何かをすぐに鵜呑みにしないクセ」すなわち、「自分で考えようとするクセ」が身につくからだ。

本書のお陰で、”人に伝えること”が究極的にどんな意味を持つか・・・、その本質を理解できたような気がした。

■とにかく読むのが楽しい本

池上氏の著書には「伝える力」という本があるが、”伝え方の技法”、”何かを人に伝えることの難しさ”、”伝えることの意義”を理解するという点では、「こどもニュース」にまさるものはないのではなかろうか。楽しみながら読める本・・・という点でも、秀逸である。

「週間こどもニュース」を見たことのない方、あるいは、本書を読んだことのない方は、ぜひ、ご一読あれ!

【類書】
 ・伝える力(池上彰)

2012年11月3日土曜日

トップによる透明性の貫徹

2012年11月5日号「日経ビジネス」。

「実践の奥義」・・・は、米P&Gアジア統括責任者、桐山一憲へのインタビュー記事だった。ワークライフバランスが主な話のテーマだったが、氏の次の一言が印象的だった。

『(部下にはワークライフバランスの重要性を説いておきながら)社長は別だ、俺がやるわけにいかないよ」というのは、少なくともP&Gでは通用しない。働く前提条件に関しても、自分が音頭をとる以上は、同じでなければならい。この「透明性の貫徹」は、トップに立つリーダーにとっては一番タフな仕事だと言える。』

タフな仕事・・・いや、すごく実践が難しいと思う。トップに立つ人には、仕事が山ほどある。でも、実践しなければならない。そして実践する。

僕も最近そんな境地に立っているので、妙に共感できた。

日経ビジネス2012年11月5日号

2012年10月28日日曜日

書評: 伝える力

”モノゴトを人に分かりやすく伝える”

池上彰氏のこの優れた能力にはワケがあった。


それを知りたいなら、次の本がオススメだ。

伝える力
著者: 池上彰
発行元: PHPビジネス新書
価格: 800円


■「話す」、「書く」、「聞く」を極めて伝える力をパワーアップ

本書は、コミュニケーション能力を高める秘訣を紹介したものだ。コミュニケーション能力とはすなわち、インプット(聞く)の仕方とアウトプット(伝える)の仕方・・・のことである。

中身は「まず、自分が”知らないこと”を知ろう」といった姿勢の持ち方に始まり、「会話や文章の”出だし”に力を入れよう」「カタカナ用語はできるだけ使わないようにしよう」といったモノゴトを人に伝える際の注意事項の紹介、そして「ブログを書くことを通じて他者に刺激を受ける努力をしよう」といった文章力を効果的・効率的に高める方法にいたるまで、幅広くカバーしている。

読んでみてまず「さすが、池上彰さん。1つ1つのポイントの説明がわかりやすいかった」という印象を持った。

ただし、「やや本の全体感を微妙に掴みづらかったかな」・・・といった感もある。そう感じたのは、この本を読んだ後に「コミュニケーション能力を高めるには、つまり、どうしたらいいのか?」を自分の中で一言でまとめてみようとすると、意外にすんなりできなかったからだ。そりゃー、おまえの能力が低いからだ、と言われればそれまでだが。

※本書の「おわりに」を読んでいて、その謎が解けた。この本は、編集部が取材と称し何回かに分けて池上彰氏に口頭でインタビューした内容をベースに本にまとめたもの、とある。最初に本全体のフォーマットを決めて、論理的に積み上げて書いた、というよりも、池上彰氏の頭の中にあるものを吐き出した後、それらをいくつかのテーマごとに分類整理した・・・そんな感じだ。

■”なるほど”の多さに、いたく感動

池上彰さんの本を読んでいて、いつも感じることだが、今回も”共感できること”、”なるほど”と思えることが多かった。

「わかりやすく伝える役割を持つ教科書こそ、最も専門用語を散りばめており、一番わかりにくくしている元凶だ」とか、「30秒あれば、起承転結を含めたちょっとしたストーリーを人に伝えることができるんだ、ということをキャスター時代に学んだ」といった話。わかりやすい文章を書くためには、「仮タイトル、ねらい、構成要素、結論など、最初にフォーマットを決めておくこと」、「書いた後に音読して読み返してみること」など、「へぇー、ほぉー」の連続だ。

中でも、私が「おぉっ!」と関心したのは次の話。

『知り合いのアナウンサーが放送でニュース原稿を読んでいるのを何気なく聞いていると、ある一箇所で突然、その内容が頭に入らなくなったのです。放送が終わった後で、その人に聞いてみました。「今の放送で、意味がわからないまま読んだところ、なかった?」と。思ったとおりでした。原稿を読んでいるとき、突然フッと集中力が途切れ、その部分の原稿の意味がとれなくなったそうです。意味が分からないまま読んだり話したりすると、それを聞いている相手も意味がわからない。そのことを、私はこのとき初めて知りました。』(本書より)

ドキッとした。読み上げている内容を自分でも実はそこまで理解できていないのに、相手に無理に説明していた過去が、私にもあった。この話を読んで「あー、聞いていた人は、あのとき頷いていたけど、きっと分かっていなかったんだろうな」と。

■技術者にこそ読んでもらいたい

先に挙げたいくつかの例を見て、お分かりいただけたと思うが、書かれている内容は、明日からでもすぐに実践できるものばかりだ。分厚い本ではないし、軽い気持ちで、読めるものだ。

ビジネスの世界では、コミュニケーションは何よりも大事なツールなので、ビジネスマンなら誰でも一読しておきたい本だ。

特に「君の話はわかりにくい」と良く言われる人や、テクニカルな内容を人にわかりやすく伝えなければいけない立場の人・・・そう、たとえばITエンジニアなど、には強くオススメしたい本である。


【これまでに読んだ池上彰氏の他の著書】
 ・書評: 「14歳からの世界金融恐慌」と「14歳からの世界恐慌入門」
 ・書評: 日銀を知れば経済が分かる

2012年10月23日火曜日

「維新の会」は信じられるか

2012年11月号のVOICE。


面白かったのは、今号のテーマにもなっている”「維新の会」は信じられるか”。

著名人が維新の会の政策について、色々な角度から評論している。たいていの場合VOICEでは、こうした声は賛否両論・・・はっきりとわかれるものだが、今回は細かい部分での差異こそあれ、大枠ではみな維新の会の方針に賛同しているという印象を持った。

 ひところに比べると、最近、人気もやや下火になってきたかな、と感じていたが、それは思い違いだったかもしれない。

わたし個人はと言うと、細かい政策1つひとつを批評するほどメディアは橋下市長を独裁者と揶揄するが、間違っていようがなんだろうが、明確なビジョンも意思も持てない他の政党には、辟易気味。


もう1つ面白かったのは、彬子女王の話。英国のエリザベス女王に会ったときの話が描かれている。自身がPrincess Akiko と呼ばれる身でありながら、英国のエリザベス女王に会うときに、我々一般人と同じように緊張しまくった話には、読んでいて思わず笑みがこぼれた。

書評: 「勉強しろ」と言わずに子どもを勉強させる法

”エリートになる人”には、どんな傾向があるのか? どうすれば”エリートを育てられる”のか?を語った本である。

「勉強しろ」と言わずに子どもを勉強させる法
著者: 小松公夫(こまつきみお)
出版社: PHP新書



この本の著者である小松氏は、一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了。法学博士。現在、明治大学法科大学院教育補助講師として・・・あの有名な受験漫画「ドラゴン桜」にも取り上げられ・・・うんぬんかんぬん・・・難しいので省略させていただく。

名実ともに頭の良いエリート先生が書いた本だ。

■”生徒を育てる教育者”と”子を育てる親”の立場から、論じる

さすがに数多くの生徒やその両親と接してきた教育のプロである。ハッとするような話も数多く紹介されている。たとえば以下は、わたしがドキッとした著者の指摘だが、多くの父親が陥りやすい罠の一例である。

『子どもがまだ幼いうちに信頼関係を培っていないと、後で修復は非常に難しくなります。大学受験のときに突如、「私(子どもの幼少期にあまり接して来なかった父親)が率先して面倒を見る!」と息巻いてみたところで、もはや手遅れなのです。』(本書第二章より)

なお、著者自身も二児の父親。教育のプロがエリート育成について、教育者としての立場と、実際に子を育てている親・・・その両面の立場から、学び、感じたことを描いてくれているところにもこの本の特徴があると言えよう。

『ちょっぴりズレてはいるものの、比較的勉強好きな姉に対して、妹の方は勉強に全く興味がありません・・・(中略)・・・あざらしとあしかの違いがよくわからないんだよ。あなた(妹)は動物に詳しいから、明日、学校から帰ったらお父さん(著者)に説明してくれないかな。」すると勉強の宿題には全く積極性のない下の娘が、そういうことはきちんとやるのです。』(本書第三章より)

■エリートが良いか悪いかは別問題

ところで、良くも悪くも、この本には”エリート=目指したほうがいいもの”という前提がある。

実際、著者は本書で、弁護士、東大、国立大学・・・こういった道に進めた人たちをポジティブな事例で紹介する一方で、普通の私立大学、普通のOLになった人を「タダの人」と評する。

こう書くと・・・

「そもそもエリート偏重の世の中が、どうしようもない日本を作り上げたんだ! そんなクソ本、読んでどうすんだ!?」

そう主張し、この本を一蹴する人もいようが、もちろん、そういう人はこの本に時間を割くべきではないと思う。

そもそも「エリートになるのがいいのか、悪いのか」といった話を展開させるのがこの本の目的ではないからだ。冒頭でも述べたように、あくまでも、エリートを1つのゴールとして見た時に、そこにどのような傾向が見て取れるか・・・その一点で、参考になる情報を紹介しようと、色々な事例をまとめた本なのである。

■コーチングの必要性を理解したいか、コーチング方法を理解したいか

「東大生の多くは親に勉強しろ!と言われたことがない」

先日、立ち読みしたプレジデントファミリー「東大生184人”親の顔”」にも似たようなことが書いてあったし、本書の売り文句でもある。

親がガミガミ言わない子ほど結果を残している・・・というわけだが、改めて感じたのは、結局のところ「子に対して上手なコーチングを実践できたかどうか」が、子育ての成否に大きくかかわっている、ということだ(※コーチングとは、ゴールを自覚させ、やっていることに楽しみや意義を感じさせ、自発的な行動をとるように仕向ける・・・カウンセリングの一種だ)。

いずれにせよ、本書を読むことで、子育てにおけるコーチングの必要性について、ある程度、理解することができる。

ただし・・・子育てコーチングの必要性は十分に理解しているのだが、その方法が良くわからない・・・そいういう親なら、この本を読むよりも、むしろ、子どもの心のコーチング」のようなコーチングそのものをテーマにした本に手を出したほうがベターだろう。


【類書】
書評: 子どもの心のコーチング(菅原裕子)

2012年10月15日月曜日

映画評: バトルシップ

バトルシップ(Battleship)

「近代兵器を使った”海戦”がどんな風になるのか!?」

この作品を観たいと思った人は、その部分に少なからず惹かれたのだと思う。私もそうだ。実際、ドンパチは圧巻だ。が、同時にそれが、映画にリアリティを求める者をやや興ざめさせる要因にもなっている。

やはり、第二次世界大戦当時ならまだしも、いまさら、船がドンパチやるシーンというのがどうもしっくり来ないのである。湾岸戦争のとき世界中に衝撃映像が流れたが、映像の中心は、巡洋艦から発射されるトマホークや空母から発進する戦闘機だった。確かに、近代先頭において重要な役割を担うが、主役ではなかったことが分かる。あくまでも後方支援のツールだ。

この映画のトレーラーを観た人なら分かるだろうが、にも関わらず、映画の中では船同士がドンパチやっている。そのあたりの不自然さは映画の中で、しっかりと解決してくれているであろうことを望んで観るわけだが・・・。

確かに、映画ではそうならざるをえないストーリーが作られているが、やっぱり無理があったように思う。気になる人は、ご自身の目で確かめられたし。

ちなみに、もう1つの見所は、日本人も活躍するところ。俳優、浅野忠信が主役に負けるとも劣らない役柄を演じている。パールハーバーで日本人とアメリカ人が協力する映画・・・というところに何らかの意図を感じるが・・・。

いずれにせよ、まとめるなら作風も、話のこじつけぶりも「インディペンデンス・デイ」そのものだ。つまり、あんな感じで、ぼーっと観て、スカッとしたい!という人向けの映画だ。

2012年10月14日日曜日

車の配線作業

車の配線作業というものを初めてやった。これまでこういった作業の類は、常に、フルアウトソーシング。

「オートバックスさん、頼んます・・・」

みたいな感じだ。これでは、いかん。全く、自分に知識も技術も残らない。そう思った私は、今回の作業を自力でやることにした。

インターネットにある10数記事を参考にして、作業を開始。

「なになに・・・線をカット? ・・・結線? ・・・絶縁テープ?」

いきなり、コーナンに走るハメに。ニッパー、絶縁テープ、ヤスリ・・・などを買ってきた。

30分後、再び作業に戻る。今度は、内貼りが外れない。説明には、指でつまんで上に上げればとれます・・・とあるが、指を差し込む場所は狭いし、力が入らない。何度格闘しても、外れない。ネット記事を再び見ると、

「内貼り剥がしを使うと楽です」

とある。

今度は、オートバックスへ。ここで専用の剥がし器(数百円)を購入。

30分後、再び作業に戻る。

あっという間に、はがせた。しかし、今度は、カーナビがなかなかはずれない。

「ここのネジを2つ外してから、養生テープなどで思いっきり引っ張れば、外れます」

ネットの説明には、そう書いてあったが、いくら引っ張っても外れない。おかしい。30分くらい格闘した後、よぉく見直すと、外すネジの場所が間違っていたことに気づく。Ozzz。


ようやく配線と巡り会えたものの、色が一杯あって、何がなんだか分からない。ボディアースだとか、なんだとか説明記事にはあるが、それも良くわからない。1時間くらい記事と格闘して、ようやく理解。

しかし、ニッパーで配線をカットしても、結線する道具やアース線自体がないことに気づく。再び、オートバックスへ。

ひととおり備品を購入し、作業再開。全くなれない手つきで、配線をカット。別の線につなぎ結線した。

ネットには20分で済む作業・・・とあったけど、占めて5時間。ほんっと苦手なんだ・・・自分は、こういうの・・・。

起業家マインド醸成のヒント

日経ビジネス2012年10月15日号の記事で、印象的だったのはリブセンス社長、村上太一氏の編集長インタビュー記事。

村上氏は、いわゆる若手起業家だ。現在25歳だが、10月1日に史上最年少で一部上場を果たした。

やはり注目されるべきは、彼のその起業家精神だ。いったい、いつ、どこで醸成されたのか。

『高校生の頃から私が関心を持ちそうな経済番組を良く録画してくれました。大塚製薬の「ポカリスエット」をいかに苦労してヒット商品に育て上げたかといった、何かを作り出すストーリーには感化されました。今も母や毎週、録画・編集した経済番組をDVDに焼いて送ってくれております。そんなアンテナのはり方は、母から影響を受けたもしれません。最近、学生によく言うのは、インターンでもなんでもいいから社長さんに会ったり、いろんな人に出会うことが大切だということです。子供の頃考えられる職業ってやはり、見たことがある人しかないと思う。』(日経ビジネス2012年10月15日号より)

良く、我々親の側は、子供に対して「やりたいことを見つけなさい」とか「おまえのやりたいことはいったいなんなんだ」、「なんでお前にはやりたいことがないんだ」とか・・・そんな不満をぶつけることがあろうかと思う。

果たして、親の側としてそんな機会を持たせる努力をしてきたのか・・・と言うと、全くそんなことはないのかもしれない。

日経ビジネス
2012年10月15日号

2012年10月9日火曜日

書評: 神去なあなあ日常

神去なあなあ日常
著者: 三浦しをん
出版社: 徳間書店


■都会人 vs 田舎者 with 林業

ご存知のとおり「どうも」という言葉は、ありがとう、すみません、はたまた、こんにちは、・・・など、色々な意味で使われる。日本語の中で最も便利な文句の1つだ。

神去村(かむさりむら)では、「なあなあ」という言葉が、最も便利な文句の1つらしい。「なあなあ」とは、ゆっくり行こう、まあ落ち着け・・・という意味だ。

主人公は、横浜出身の平野勇気(ひらのゆうき)。特にこれといった特技も、やりたいことも持たない、高校を卒業したばかりの19歳。「さて、のんびりとフリーターでもしようか」と思っていたところ、彼の先生が勝手に、林業への就職を前提とした1年間の研修制度へ応募した。親は反対するどころか、その制度への参加に大賛成。主人公は、わけが分からぬまま、神去村へ送られる・・・。本書は、都会人丸出しの主人公と、林業で生活する”なあなあ感”いっぱいの神去村の住人達の化学反応を描いた物語だ。

■読者を魅了する4つの要素

この本は単なる小説ではない。ある意味、主人公の平野勇気は読者自身だ。”勇気”が林業を修業する=読者も林業に詳しくなる・・・という仕組みの小説になっている。つまり、この本を読むと物語を愉しみつつ苦痛なく、林業に詳しくなれるのだ。

この本には読者を魅了させる、三浦しをん氏独特のスタイルが反映されている。それは、話がどう展開するかわからないドキドキ感と、知らない世界(マイナー職種)をもっと知りたいと思わせるワクワク感を、読者から引き出す著者のワザのことだ。三谷幸喜氏を彷彿とさせる要所要所のコミカルな演出も印象的だ。

『力づよくメドのほうへ、ヨキや清一さんたちが立つ方へ、死から生へ、引き寄せられる。「ファイトォォォ!」こめかみに筋を立て、ヨキが吼える。ふざけてる場合か、と思ったけど、オレも右腕に渾身の力をこめて吠えかえした。「いっぱぁあつ!」。』(本書より)

ところで、三浦しをん氏と言えば、2012年の本屋大賞に輝いた「舟を編む」が有名だが、本書もそれと同じスタイルで描かれていると言えば、わかりやすいだろう。「舟を編む」が辞書作成業にスポットライトを当てた物語であるのに対し、「神去なあなあ日常」は、林業にスポットライトを当てた物語といえる。

本書には、こうした特徴に加え、もう1つの要素が加わる。田舎独特の空気感というか・・・都会人が失ってしまったもの・・・つまり、のんびりとした雰囲気と強い仲間意識(≒よそ者排他感)を持つ社会が描かれており、都会に住み慣れた読者の憧れを誘う。ただし、単なる憧れ者を否定する生きる厳しさ・・・みたいなものも上手に描かれている。

■”なあなあ感”を求める人へ

わたしは常に「何かを習得したい!」という想いがあるため、読書においても、どちらかと言えば、自己啓発本や専門書、ビジネス書の類を好んで読む。ただ、こういった本ばかりを読んでいると、常に似たようなテーマ、似たような文体、難しい専門用語にさらされることになるし、内容を自分の人生に照らし合わせてみたり・・・など、疲労感を伴うことが多い。

だからだろう。そんなとき、こんな「なあなあ感」丸出しの小説を読むと、とてもリラックスできる。

「本からリラックスしながら(知識など)何かを得たい」と求める人、「ちょっと変わった本を読みたい」と思う人、「舟を編むにハマった」という人・・・そんな人たちに間違いなくオススメできる一冊だ。


【類書】
 ・書評: 舟を編む

2012年10月6日土曜日

書評: 戦国の軍隊

「長篠(ながしの)の戦いの勝利は”銃三千丁三段打ち”のおかげ、というのは嘘

そんな話をきっかけに読んだのが次の本だ。

戦国の軍隊 ~現代軍事学から見た戦国大名の軍勢~
著者: 西股 総生
出版社: 学研



■学校では習わなかった歴史

戦国史の欠落を埋める最新の歴史研究本だ。主に、東国・・・小田原に居城を構えていた北条氏や甲斐の武田信玄、越後の上杉謙信など、東国の戦国大名の軍隊について著者の考察を、素人でもわかる言葉で紹介している。

本の帯には「眼からウロコの新解釈が満載!!」とあるが、具体的には例えば次のようなものだ。




  • 長篠の戦いの勝利の鍵は、本当に”銃三千丁三段打ち”なのか
  • 戦国の兵士は、本当に半農半士(農業と兵士業を兼務)だったのか
  • 侍、足軽・雑兵にはどんな立場の者がなっていたのか
  • 実際に、どうやって兵を募集したのか、など

そこには確かに学校で習ったことのない内容・・・あまり聞いたことのない話ばかりが紹介されている。

たとえば、冒頭でも触れた「長篠の戦いにおける銃三千丁三段打ち」だが、多くの人は、わたし同様に「信長はこの見事な戦術で戦(いくさ)に勝利した」と信じていることだろう。

しかし、これに対して著者は次のような疑問を呈する。

「長篠の戦いは、実は織田軍のための戦いではなく、徳川軍+織田軍の戦い・・・もっと言えば、徳川軍のための戦いだったはず。あたかも”三段打ち”が、勝利の鍵であったかのようにとらえられているが、戦(いくさ)の背景や書物を改めて観察してみると、そうでなかったことが見えてくる」と。

本書では、当時の布陣を図示しながら、その核心に迫っている。

※ちなみに、著者によれば、この主張の論拠については学者の間で違いがあるものの、銃が主役ではなかった、という考え方は今ではだいぶ通説になってきているようだ。

■視点を変えることによる大きな発見

ところで・・・「何人もの歴史学者が何年も研究してきた分野において、今更どうしてこのように新しい見解がワンサカ出てくるのか?」

そんな疑問もわいてくる。

これについては、西股氏が”城郭研究の専門家”であることが大きく貢献しているようだ。事実、著者は次のように述べている。

『著者はずっと城郭研究の場に身をおいてきた・・・(中略)・・・生物の世界と同様、人間の創りだす構造物やシステムの場合も進化とは単純なものが複雑化してゆく課程ではなく、変遷する環境への適応ではなかろうか。だとしたら、城郭構造の進化とは、城郭をとりまく環境の変化への対応として生じたのではなかったか。城郭の本質が軍事的構造物であるのだとしたら、城郭の構造が進化するという現象の背後には、それを構築し使用する人間集団、つまりは軍隊の変化があるのではないか』(本書”あとがき”より)

「ハーバード白熱日本史教室」の北川智子氏を彷彿とさせるが、北川氏が戦国時代の侍(サムライ)を当時の女性・・・妻の視点から観察することで新たな発見を得たように、西股氏も従来とは異なる切り口・・・すなわち、当時の城郭のあり方から、戦国の軍隊を観察した結果、新解釈をしなければ説明できない事項がたくさんでてきた、ということだ。

これにはある程度の納得感がある。

■好奇心旺盛な人におすすめ

ただ、間違ってはいけないのは、本書で紹介されている内容は、あくまでも西股氏が紹介する新解釈であるということだ。考察は確かに丁寧で、論理的だが、仮説や推測も少なくない。

また、仮に西股氏の解釈が正しいとして、これまでの歴史解釈の間違いを発見できたからといって、それが「自分の人生にどういう意味をもつのか?」ということはイメージしづらい。

したがって、単に「正しい歴史の知識を得たいんだ」とか「何らかの自己啓発のきっかけとしたい」という想いで本書を読むと期待を裏切られることになる。事実、著者自身もそのように明言している。

わたし自身は、本書を通じて

・我々が知る歴史は、決して正確なものではないということ
・何ごとも切り口を変えて見ることが大切であるということ

といったことを実感できたという点で、それなりの意義があったと考えているが、そんなに深く構えず、純粋に「世の中ことを、もっともっとたくさん知りたい」・・・そういう気持ちがある人であれば、きっと楽しめる本だと思う。

2012年10月2日火曜日

埼玉県秩父市へ一泊二日旅行

先日、埼玉県秩父市に家族と友達と行って来ました。以下は、その報告録です。

【旅程】
9/29 
        9:00 横浜を出発
       12:00 秩父花園 道の駅 到着
       12:30 もみの木にて昼食
       13:30 荒川のライン下り
       14:30 天然氷蔵元 阿左美冷蔵 寶登山道店
       16:00  吉田元気村
       17:00 大浴場
       18:00 ピザ作り&バーベキュー&花火
       21:00 トランプ
       22:00 就寝

         7:00 起床
         7:30 バドミントン
         8:00 朝食
         8:30 クリ拾い
       10:00 吉田元気村チェックアウト
       10:30 こんにゃく工場
       11:30 吊り橋
       12:30 パン屋にて昼食
       14:00 秩父ミューズパーク
       15:00 お菓子のアウトレット 花園フォレスト
       15:30 自宅へ向け出発
       18:30 横浜到着

今回はコテージ一泊二日 in 秩父長瀞!!

 メインはライン下りと夜のピザ作り&バーベキュー。家族4人で2万8千円の旅でした。

もみの木

ライン下り(出発直後)

ライン下り(調子に乗る息子)

ライン下り(台風が来るとはとても思えない空)

ライン下りで見た地層(何層にも重なった非常に興味深い地層)

天然氷蔵元 阿左美冷蔵 寶登山道店
(人生の中で最もおいしいかき氷だった)

天然氷蔵元 阿左美冷蔵 寶登山道店
(値段も半端ない)

吉田元気村(一泊したコテージです)

ピザづくり@吉田元気村

バーベキュー@吉田元気村

栗ひろい@吉田元気村

拾ったクリでアンパンマン@吉田元気村

おでん食べ放題200円

怪しいダムへのトンネル

吊り橋(稲川淳二も恐れる橋)

吊り橋(自殺の名所でもあるそう)

吊り橋から見る景色

吊り橋(稲川淳二も恐れる橋、穴あいてます)

吊り橋(地上は穴の下、遥か遠く)

ミューズパーク(長い滑り台;無料!)

お菓子のアウトレット(クッキーシュークリームを食べました)


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...