2020年8月15日土曜日

書評: 逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密

ニューズ・ウィーク2020.8.11号「人生を変えた55冊」で、あの日本ラグビーの名監督、エディー・ジョーンズ氏の推薦図書に見つけた本だ。彼が、「とても影響を受けた本」と述べていたことが気になってすぐに買った。

本書は、「一見、有利不利は明らかに見えているという状況でも、それは気のせいで、戦略・努力次第でどうとでも変えられるんだよ」という実例をたくさん載せた本である。具体的には、経験者 vs 未経験者、裕福 vs 貧困、エリート校 vs 一般校、障害者 vs 健常者、幸せな家庭 vs 不幸せな家庭という二項対立の構図で、本当にみたとおりの結論になると思ったら大間違いだよ、というのだ。見かけが全てではなくその人が持つもの、、、それがたとえ苦難であれ、貧困であれ、体が小さいことであれ、片親であれ、、、逆にそれが他の人にはない人生の武器になりうるということ。逆もまた然り。裕福であることが有利であるとは限らない、というわけだ。

そういえば、昔、「漫画の世界のヒーローは不幸な出自が多い、親がいないの定番」などといった冗談を聞いたことがあったが、まんざら冗談ではないよということじゃなかろうか。「なんとなくそうじゃないか」と思っていたことが、しっかりと著者の出すデータで裏付けられたという感じだ。

個人的には、印象に残ったのはこうした二項対立の話もさることながら、その他に2つある。

1つは、「相対的剥奪の落とし穴」というお話。これは非常に興味深い。一見、昇進確率が低い組織であるにもかかわらずその組織のメンバーの満足度は高く、逆に昇進確率が高い組織であるにもかかわらずその組織のメンバーは不満が高かったりする、というのだ。これは、背景に「自分が幸せと感じるかどうか、不幸と感じるかどうかは、誰かと比較して感じるものである」ということがあり、誰も昇進しない中で稀に昇進すればそのものは幸せを感じるし、昇進しないものも、周りと自分を同列だと感じて安心することができるという論理だ。Facebookで、誰かが「あそこにでかけた。今日、こんな素敵なプレゼンをもらった」など半ば自慢めいたことを書くと、実はそれを読んだ人はストレスを感じることがわかっているなんていうニュースを読んだことがあるが、それと同じ論理だろう。人間って、変な動物だと改めて感じるとともに、逆にこの論理を理解しておけば色々な応用が効くなと思った。

あともう1つ印象に残ったのは、リモートミスの話。戦火で、爆撃を受けた市民のダメージを3グループに分けることができると言う。1つは「死ぬ人」。もう一つがニアミス。死にはしないが負傷し心に大きなダメージを負う者。最後はリモートミス。遠くで爆弾が落ち無傷で助かった者。こうした人達は、どこか不死身感漂う興奮を覚えると言う。そして戦争では当然ながらこのリモートミスが一番多い。つまり高揚する市民の方が多いと言うのだ。このリモートミスの感情はプラスの側面では、むしろ戦意を上げることの繋がる。本書ではこのプラスの側面について言及している。ただ私はマイナスの側面もあると思った。マイナスの側面では「根拠のない自信から油断へとつながり、むしろ死者を増やしてしまう可能性があるのではなかろうか。

このリモートミスの話を聞いて、ふと「正常性バイアス」という人間が陥る心理の罠を思い浮かべた。有事においてなぜか「自分だけは大丈夫」と根拠なく思ってしまう心理状態のことだ。地震が起きたときに、すぐに避難行動にうつらない人の心理状況がまさにこれだ。リモートミスの話を聞いて思ったのは、地震などで「リモートミス」グループに入った人は、ただでさえ陥る「正常性バイアス」に加え、いよいよ「不死身感」を感じたりするのではなかろうか。わたしは、東日本大震災が起きた当時、東京にいたからまさにリモートミスのグループだ。自分は、果たして「地震」をなめてないだろうか。。。そんなことを考えさせられた。

ちょっと横道に話がそれたが本筋に戻ると、本書が一番言いたいのは、冒頭で述べたとおり。タイトルにもあるまさに誰にでも「逆転」できるチャンスがあるということだ。「自分が不幸だ」「なんて不利な立場にいるんだ」・・・そう思っている人。それはむしろあなたにとっての強力な武器なのだ。そんなあなたにこそおすすめの本だ。

2020年8月12日水曜日

書評:気配りが9割

 昨日、父親から「お前こそ読め」と言われて、Kindleで購入し読みました。

どこぞで聞いたことがあるフレーズ「〜が9割」ですが、まぁ、たしかに自分は圧倒的に「気配り」が足りないなと思ってます。本書を手に取ってといきなり目に飛び込んできたのは、「気配りは」要するに「相手が喜ぶことをすることだよ」というメッセージ。なんてわかりやすい。そりゃぁーもうそのとおりでしょとなりますが、問題は「相手が喜ぶことをしよう」という気持ちにどうしたらなれるかだと思うのです。

すると著者の引用したホリエモンの次の言葉が目にとまりました。

「大金の動く投資やビジネスで求められるのは、信用、それに尽きる。」
「お金は信用を数値化したもの。だからお金ではなく、信用を貯めるべきである。」

そう、つまり「信用を貯めること」に「気配り」が最強の武器の1つだというわけです。なるほど、これは説得力あります。このロジックのもと、本書は、「どういうことをされたら人は嬉しいか」について、特に著者自身がおつきあいしてきた人たち・・・中でも政治家について徹底言及しています。確かに、政治家はこの分野に強そうです。私の印象に残った事例をいくつか挙げておきます。

・人間にはギバー(人に惜しみなく与える人)とテイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)、マッチャー(損得のバランスを考える人)の3種類いるが、最も成功しているのは「ギバー」である
・すごいと思わせる人の1つの共通点として、彼らはどんなに忙しくても偉くてもそれを言い訳にせず、相手に尽くしている(例:一番忙しいはずなのに常に会議に5分前には着席し会議が終了するまで必ずいる、忙しいはずなのに自ら足を運んで礼を言う、など)
・とにかく実行が速い

中には、「貞観政要」の太宗の話まで出てきました。この本は私も先日読んで、心の底から関心した本なので「そうだろう、そうだろう」と思いながら読みました。

そして本書の最後には著者が惚れたという小泉進次郎氏との対談話が登場します。彼の次の言葉は印象的でした。

「どれだけ犠牲があってもこの世界で生きることを選んだのは自分なのだと思えば耐えられます。だからこそ、自分で決めるのが大切なのです。たとえうまくいかなくても、自分で選んだ道なら誰かのせいにしない。だから自分のことは自分で決めた方がいい」
「若い人に将来の夢を聞くと「有名になりたい」と答える人もいるでしょう。しかし、有名になることが目的だったら、もし有名になれたとしても身も心も持たないと思う。重要なのは何をやりたいか、です。そのやりたいことを実現させて、結果として有名になったというなら耐えられます」

要するに、「自分の意志を持ちなさい。その意志で自ら決定しなさい」・・・信念をもちなさいという話です。「あれ?気配りが、いつのまにか『信念』の話に変わっている(笑)」とおもわなくもなかったのですが、「随一の気配りができる彼」が、「自ら決めることを大事にしている」というのは1つの大事なメッセージなのでしょう。わたしもよく子どもたちに「自分で決めなさい」と言いますが、「なぜ自分で決めることが大事か?」まではうまく説明できていなかったので、彼のこの発言はこころに染み入りました。

というわけで、「気配りが9割」。「む?政治家!?」と思う人もいるかもしれませんが、学ぶべきことは確かに沢山あると思いました。「信用」をつくると人生豊かになりそうですよね。みなさんも、ご一読あれ。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...