2011年12月31日土曜日

偉大なる会社は何が違うのか?

2011年11月号のハーバードビジネスレビューのテーマは"What Great Companies Do Differently (偉大なる会社は何が違うのか?)"だ。この号は、個人的に読み応えがあった。

■Why Don't We Try To Be India's Most Respected Company?
(インドで最も尊敬される会社になってみないか?)

この記事はインドで最も有名な会社の一つ、インフォシス(Infosys)の成功体験談を語ったものだ。創設者の一人、N.R. Narayana Murthy氏は、賄賂が横行する20年前あえて、会社の目指す姿に「インドで最も尊敬される会社になること」をぶちあげた。

記事が面白いのは「正しいことをやろうとするほうが、とてつもなく大きな損失を被る」社会の中で、どうやって「正しいことをやり続け、どうやって信頼を勝ち得たか」・・・その事例を紹介してくれている点だ。

「オレに賄賂を払えば、ただで税関を通してやる。賄賂を払わなければ、135%の関税だ。」

会社の資金がほとんどないときに、そう言われたらわたしだったらどうするか? 非常に興味深いテーマだった。

■Social Strategies That Work
 (機能するソーシャルストラテジーとは)

Facebook(今やユーザー数7億人!)のようなソーシャルネットワークサービス(SNS)を莫大な利益の源泉として活用する企業が増えてきたが、成功者はまだまだ少ない。成功者と失敗者の違いは何だろうか?・・・この問いに答えようとしている記事だ。

SNSの活用に失敗している会社は「SNSを活用している顧客にとってのWinは、企業の商品を知ることや買うことよりもむしろ、ネットワークの輪を広げたり、強めたりすることである」にも関わらず、その期待に応えるような戦略をとっていない、と記事は指摘している。つまり、相変わらず「顧客にとってのWinは自分たちの商品を買うことである」「自分たちにとってのWinは自分たちの商品が売れることである」というスタンスでアプローチしている、というわけだ。

この関係性を理解して上手くビジネスにつなげている企業として、記事は、Yelp、Amex、eBay、そしてZyngaを取り上げている。こうした企業がどうやってSNSで儲けているのかを知ることは決して損なことではないと思う。

ところで、わたしはとりわけZynga(ジンガ)に注目している。なぜなら、自分もまさにこの戦略の罠にハマった一人だからである。Zyngaという会社は、Facebook上でプレイできるゲームを無料で提供し、2011年に10億円の収益を叩き出した会社だ。無料なのに何故10億円の収益がでるのか? 今、はやりのフリーミアムだ。フリーミアム(Freemium)とは、基本的なサービスや製品を無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能について料金を課金する仕組みのビジネスモデルのことだ(Wikipediaより)。

Facebook上で、知人から定期的にZyngaの誘いを受け、最初はバイアグラか何か、よくあるいかがわしい勧誘だと思っていた。しかし、紹介者が知っている友人であること、たまたまそのとき暇を持て余していたこと、Facebookに多少ハマっていたこともあって、ついついクリックしてしまったのである。すると、あれよあれよ・・・という間にいきなりゲームが開始。・・・そんな感じだ。私はお金を払うようなことはしていないが、思いがけずネットワークが広がるし、ゲームそのものもなかなか面白い。たまに楽しませてもらっている。

この仕組を作ったアイデアと技術は凄いな、と脱帽せずにはいられない。

■KFC's Radical Approach to China 
(中国に対するKFCの過激なアプローチ)

KFCの中国マーケットに対するアグレッシブなアプローチ。自分たちの王道である「標準化、フランチャイズ化、少数精鋭の品揃え化・・・」をことごとくひっくり返す戦略。いわゆる”グローカリゼーション”の極みをそこに見た気がした。

ちなみに、先日、読んだ日経ビジネスに「中国ではバラエティーに富んでいることが良しとされる」と書いてあったが、KFCが中国市場を攻めるにあたってもそれは例外ではなかったようだ。本家米国ではメニューが29種類であるのに対し、KFC中国では50種類ものアイテムが取り揃えられているそうだ。

ハーバードビジネスレビュー 2011年11月号

2011年12月29日木曜日

2011年全体を振り返る

■まずまずの2011年目標の総括

先日、2011年初に立てた目標のうちの1つ「52冊の本を読み、その半分について書評を書く」の結果についてブログに書いた。今日は、残りの目標についてもある程度、備忘録的な側面から、総括をしておきたい。

結論から言うと、目標は細かいものも含めると全部で30程度あったのだが、達成率は6割程度だ。大きく目標のカテゴリとしては「家庭」「仕事」「個人」の3つを設けていたが、とりわけ「家庭」と「個人」についてはそれなりに成果を出すことができたと思っている(周りがハッピーかどうかはまた別の問題だが・・・)。

たとえば「家庭」で言えば、「週末は最低2~3時間は子供と”外”で遊ぶ」とか「週に2回は夜7時半までに帰宅をする」などといった目標を立てていたが、実際、8割程度はできていたのではないかと思っている(そもそも、目標が甘いね・・・といわれれがそれまでだが・・・。)

また「個人」では、先日触れた「書籍を52冊読む」といったことのほか、週3回はジョギング最寄り駅までの移動を自転車に頼らないBlogのビュアーを○○○まで増やす・・・など具体的に立てていたが、9割を達成することができた。

一方で、出来なかったことも少なくない。特に仕事面では、毎日の忙しさにかまかけて、中長期的な動きをとることがほとんどできなかった。経営者としては完全に失格だ。また、「1月あたり1回は、普段は滅多に会わない人と会食をする」という目標について、続けられたのは最初の4ヶ月程度で、その後は力尽きてしまった。

■目標を明文化することの意義

実は、目標をきちんと立てたのは2011年・・・人生38年目にして今年が初めてである。知人の「目標は立てるだけでなく、書きだしておいたほうがいい」と言う言葉に影響されて、モノは試しとやってみた。もちろん、目標を立てるだけでなく、立て方も大事だ。ある程度定量的に立てておかないと、目標が達成できたのかどうか、上手に判断できない。たとえば、わたしは「このBlogのビュワーを○○○人まで増やす(恥ずかしくて具体的な数字は書き出せないが)」と立てたが、実際はその目標を千人超で終えることができた。達成感も得られるし、また来年もがんばろう・・・という気になる。

また、2010年まで読書なんぞ年に10冊いかない程度だった。しかし、明確化させた目標の力は素晴らしい。肩を押されるように、今年はいきなり52冊読むことができたのだ。それも糞忙しい中で・・・。

「週2回は夜7時半までに帰宅する」といった目標もそうだ。毎日残業が多い中、果たしてそんなことができるのか、と思っていたが、いざ目標を立ててみると、不思議と達成しようと意思が働いた。実際、今年に入ってからというもの、毎週末「翌週のこの曜日とこの曜日は夜7時以降の予定をブロックしよう」とカレンダーを予めブロックして行動するようになった。もちろん、仕事のしわ寄せは他の曜日に移るだけだが、早く帰るときは早く帰る、遅くまで集中して仕事をするときはする・・・とメリハリがつけられるようになった。

「駅までの移動を自転車に頼らない」もそうだ。最寄り駅まで徒歩で11分。面倒くさがり屋のわたしは駅に月3000円を払って駐輪場を借りていた。この目標を達成するために年初に早速、解約手続きを実行。それからというもの、毎朝、歩いて駅に行くようになった。健康にもいいし、お金も浮く。一石二鳥とはまさにこのことである。

というわけで、目標を立てる・・・いや、目標を明文化する、ということがいかに重要なことが今更ながら痛感した次第である。これに味をしめたので、今度は2012年の目標を立てることで頭が一杯だ。

2012年はどうしよう・・・。わくわく、どきどき・・・このプロセスも楽しいのだ。


オリンパスと監査法人

もうカレコレ4週ぐらいだろうか。日経ビジネスは「オリンパス問題」の記事から始まる。これまで、そうした記事の大部分が「内部統制はどうして機能しなかったのか!?」といったテーマに割かれていたが、今週はちょっと違った。外部監査に関する記事である。

記事の趣旨はこうだ。

「内部統制、内部統制・・・というが、経営の根幹が腐っていたので、そんな状態で内部統制をどう強化するかを議論してもなかなか始まらない。しかし外部監査はどうだ。今回のように内部統制が機能しなかったときのためにあるのが外部監査じゃないか。外部監査で統制の完全な崩壊を防ぐ・・・それができたはずだ」と。

あからさまに、あずさ監査法人と新日本監査法人の名を挙げて非難している。

監査法人が善意(知らなくて見逃したのか)であれ悪意(知っていて見逃したのか)であれ、こうした本来の目的を実現できなかったことが大きな争点の1つであることは間違いない。成果だけを見れば、監査法人がもらう数千万円という対価は果たして本当に妥当なのか、と疑問を呈したくなる。

ただ、よく言われてきたことだが、企業が監査をしてもらう監査法人を選定し、その法人に対して監査報酬を払う・・・という仕組み自体に無理があるのかもしれない。監査法人してみれば厳しく監査を行う監査対象である企業は、お金を払ってくれる顧客でもある。強い利害関係がある以上、厳しい追及を行えないのもある意味仕方がないのでは、と思ってしまう。

そういった関係を断ち切るためには、企業は上場先に一定の上納金を納めて、上場先の会社が監査法人を選定・契約を結び、各会社に監査法人を派遣する・・・とか、そんなんじゃないと難しいんじゃないだろうか・・・と、かなり素人的でいい加減な意見を言ってみたくもなる・・・。

監査法人も信頼を取り戻すべく色々と活動中のようだが、もう少し抜本的に仕組みを見直す時期に来ているのではないだろうか。

日経ビジネス2011年12月26~1月2日合併号

2011年12月27日火曜日

2011年に読んだ本を振り返る

実は、わたしには「42歳までに自分の本を出したい」という想いがある。お陰様でこれまで周りの方に助けていただいて共著という形で本を出したことはあったが、まだ”自分の本”という形で出したことはないからだ。

夢を夢で終わらせないために今から1年前、今年(2011年)の目標を書いた。公私含めてたくさんあったが、そのうちの1つが次のようなものだった。

「52冊の本を読み、半分以上について書評を書く」

この1年間、この目標を達成すべく、がむしゃらに本を読み感想を書いてきた。今日まで読んだ本の数なんぞ数えたこともなかったが、今日総括のために読み終えた本を数えたところ全部で49冊(複数の巻にわかれている本はそれぞれの巻を1冊として数える;数えないと45冊になる)だった。

49冊の読書、49冊の書評・・・それが今年の結果だ。もちろん、これは私が達成したい目的の手段にしか過ぎないが、充実感はそれなりにある。実際に知識も増えたし、読む力がついた。なにより、書く力・・・いや、まとめる力があがったと自覚できる。

これに奢ることなく、また、目的と手段を見間違えることなく、夢に向かって邁進したい。

 【2011年に読んだ本一覧と個人的ランキング】
タイトル 著者 Best 10 言語
心を鍛える言葉 白石豊 4 日本語
リスク・リテラシーが身につく統計的思考法 ゲルト・ギーゲレンツァー   日本語
裁判官の爆笑お言葉集 長嶺 超輝   日本語
脳に悪い7つの習慣 林 成之   日本語
そこまで言うか! 勝間 和代,堀江 貴文,西村 博之   日本語
日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方 山本 敏行   日本語
文系ビジネスマンでもわかる数字力の教科書 久保 憂希也   日本語
この命、義に捧ぐ~台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡~ 門田 隆将 6 日本語
デフレの正体 藻谷 浩介   日本語
一勝九敗 柳井 正   日本語
ティッピング・ポイント マルコム グラッドウェル   英語
東京を経営する 渡邉 美樹   日本語
日本改革宣言 東国原英夫   日本語
大前研一の新しい資本主義の論点 大前 研一   日本語
三陸海岸 大津波 吉村 昭 3 日本語
地域防災力を高める 山崎 登   日本語
丁稚のすすめ 秋山 利輝   日本語
ユニクロ帝国の光と影 横田 増生   日本語
突然、僕は殺人犯にされた スマイリーキクチ   日本語
暗渠の宿 西村 賢太   日本語
国会議員の仕事 林 芳正,津村 啓介   日本語
コンサルティングとは何か 堀 紘一   日本語
40歳からの適応力 羽生 善治   日本語
生き残る判断 生き残れない行動 アマンダ・リプリー  7 日本語
もったいない主義 小山 薫堂   日本語
困ってる人 大野更紗 8 日本語
パプリカ 筒井 康隆   日本語
ニッポンの書評 豊崎 由美   日本語
やめないよ 三浦知良   日本語
失敗の本質―日本軍の組織論的研究  戸部 良一,寺本 義也,鎌田 伸一,杉之尾 孝生,村井 友秀,野中 郁次郎   日本語
学校では教えてくれない日本史の授業 井沢 元彦 5 日本語
なぜアップルの時価総額はソニーの8倍になったのか? 長谷川 正人   日本語
40歳の教科書 ~親が子供のためにできること~ モーニング編集部&朝日新聞社   日本語
40歳の教科書 NEXT ~自分の人生を見つめ直す~ モーニング編集部&朝日新聞社   日本語
レッドゾーン(上)(下) 真山 仁   日本語
中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか 加藤 嘉一   日本語
運命の人(一)~(四) 山崎 豊子   日本語
The Help. Movie Tie-In Kathryn Stockett 2 英語
佐藤可士和の超整理術 佐藤 可士和   日本語
人生がときめく片づけの魔法 近藤 麻理恵 9 日本語
45分でわかる! 14歳からの世界金融危機 池上 彰 10 日本語
45分でわかる!14歳からの世界恐慌入門 池上 彰 10 日本語
世界一のトイレ ウォシュレット開発物語 林 良祐   日本語
風をつかまえた少年 ウィリアム・カムクワンバ,ブライアン・ミーラー  1 日本語
イギリス発 恥と誇りを忘れた母国・日本へ! 渡辺 幸一   日本語

【関連リンク】
2013年に読んだ本を振り返る
2012年に読んだ本を振り返る

2011年12月26日月曜日

書評: イギリス発 恥と誇りを忘れた母国・日本へ!

書籍の増えた本棚を見ながらやや悦に浸っているとき、ホコリをかぶった本を一冊見つけた。大きな声では言えないが、随分と前に父から「君なら結構、興味持って読めるんじゃないか。読んでみろよ。」と渡された本だった。

イギリス発 恥と誇りを忘れた母国・日本へ!
著者: 渡辺幸一
発行元: 河出書房新社
発行年月日: 2008年9月20日


■外から見て初めて浮き彫りになる日本社会のおかしな部分

「どうして、日本の電車には痴漢がいるのか?」
「どうして、メイド喫茶が流行るのか?」
「どうして、若者はすぐキレるのか?」
「どうして、外国人に弱いのか?」
「どうして、駅の階段の登り下りに困っている人に手を差し伸べないのか?」

これらの疑問は日本の社会現象を反映したものだ。ところが、こうした問いかけはイギリスには当てはまらない。同じ島国なのに何故か。この本は、日本・イギリス両国の違いにスポットライトを当て、日本の問題とこれからについて提言した本である。

■著者の学識と実体験が生み出す鋭い考察

『・・・イギリスでは、先に入った人が後続の人のために開けたドアを押さえて待っていることが、一種のマナーになっている。その場合も後続の人ははっきり「サンキュー」と言う。私が日本に帰った時、こうしたイギリスの習慣が自然と出て、デパートであとから入る人のためにドアを押さえて待っていたことがあるが、後続の人たちは無言で通り過ぎただけで誰一人として「ありがとう」と言わなかった。・・・(中略)・・・イギリス人の市民意識とは、地域社会の構成員として、権利と義務の両方を負っているという意識である。』

日本で40年間、イギリスで18年間暮らしてきた著者ならではの体験談が豊富に語られている。そして、単なる体験談にとどめず、著者の隣人や知人・友人あるいは、過去に日本について語った文化人類学者や作家、思想家の考えなど、様々な観点を交えながら、答えを導き出している点が面白い。

ちなみに、私もイギリスで5年間ほど生活(うち2年間は学生生活)をした経験があるので、著者の言わんとしていることは良く分かった。たとえば、先述したマナーの話についてなど読んで「そうそう、そうだった、そうだった」といちいち頷いてしまった。

■”イギリスかぶれ”と思うなかれ

「イギリスはこんなふうにできているのに、日本はこうなってしまっている」・・・こんな言い回しが繰り返しでてくるとどうしても(著者同様、海外経験をしてきたわたしですら)思うことがある。

「イギリスに長く住んできたせいか、少しイギリス贔屓になり過ぎてないかい!?」と。

ただ、われわれ読者がこの本を心地よく読めるかどうかは別として、「日本人に生まれたことを誇りに持っている」あるいは「日本に良くなってもらいたい」という著者の発言は、偽らざる気持ちだと思う。そうでなければ、イギリスに住みながらにして、俳句をたしなむこともないだろうし、こうした本を書くこともないはずだ。

■”海を渡りたい”と思わせることにこの本の意義がある

著者の主張は明快かつ論理的で、実際に同じように海外経験をした者からすると合点のいくことも多い。しかし、一方で疑問も残る。

「おまえさん、それをいっちゃぁー、おしめーだよ」

と責められることを覚悟で言わせてもらえば、著者の主張は、外から日本を見ることができた者であるからこそのものであって、海外経験をしたことのない人がこの本を読んで「著者の主張が腑に落ちた」となることは、なかなかないのではないだろうか。

そういう意味では、読者に「あーしよう、こーしよう」といった著者の主張を理解させることよりも「うーん、そうか。これはとにかく一回、日本の外に出てみなければダメだな」と思わせることに、この本の意義があるような気がしてならないのは、わたしだけだろうか。

【関連リンク(日本よ頑張れ!的な本の紹介)】
 ・一勝九敗



2011年12月19日月曜日

置くだけでバッテリー補充!

日経ビジネス2011年12月19日号を読んで気になったこと。

■トヨタ、日本のための「籠城戦」

『トヨタは日本を捨てて海外に行くことはしない。規模が大きすぎ、国内産業が空洞化してしまう。為替水準も代わり、自分で自分の首を締めることになる。だからそ、財務の強さを生かして国内に残り、弱者が外に出たあとの残存者利益を狙う「籠城戦」を選択した。』(メルリンチ日本証券マネージングディレクター中西氏)

先日読んだ東レの戦略と似ているなー。日本の借金が増えすぎて、破綻すれば円が急激に安くなり、トヨタの天下がやってくるかも・・・。

■置くだけでバッテリー補充(ワイヤレス充電)

きたきたきたきた。昨年(2010年)末に向こう10年間のIT技術の普及状況を予測した「ITロードマップ2011年度版」(野村総合研究所)を読んだ時に、注目技術として挙げられていたモノだ。ワイヤレス充電とは文字通り、ケーブルを直接つなげずとも充電できる技術だ。記事では、同技術にどのような種類があり、それぞれどうしてワイヤレスの充電ができるのか、図解を使って解説してくれている。

びっくりしたのは、EV車の充電システムの研究がすごく進んでいたことだ。15~30センチ離れているにも関わらず、充電が行われるように設計されている。

全ての家電製品がワイヤレス(ケーブルレス)になる・・・なんて将来も、来るのだろうか。ワクワクするような、怖いような・・・。

日経ビジネス2011年12月19日号

【関連リンク】
 ・東レの戦略
 ・「ITロードマップ2011年度版」(野村総合研究所)

2011年12月17日土曜日

書評: 風をつかまえた少年

今年読んだ本の中で間違いなく一番お勧めの本だ。

風をつかまえた少年 ~14歳だった僕はたったひとりで風力発電を作った~
著者: ウィリアム・カムグワンバ、(協力者: ブライアン・ミーラー)
発行元: 文藝春秋 (2010年11月20日発行)

とあるラジオ番組で池上彰氏が「ぜひお勧めしたい本」ということでとりあげていた2冊のうちの1冊がこれだった。ちなみに、もう1冊とは藻谷浩介氏の「デフレの正体」だ。

■図書館に通い独力で風力発電を作った少年の奇跡

この本は、南アフリカはマラウイに生まれた男の子が、貧しくて明日の食い扶持もままならない中、また学校に通うこともできない中、たった一人NPOの図書館に通いながら風力発電を作り上げた話だ。

男の子の名前はウィリアム・カムクワンバ (William Kamkwamba)。本は彼の6歳の記憶から始まる。

『ぼくは6歳だった。道で遊んでいると、牛追いの少年の一団が歌を歌い、踊りながらやってきた。ぼくたち家族はカスング市近くのマスィタラ村で農業をしていた。』

風力発電を作った天才少年の話を期待して読み始めたのだが、始めは”風力”の”ふ”の字も出てこない。いや、何かを発明するとかそんな呑気な状況ではなく、今日一日を生きる延びるためにどうするのか、そんな厳しい話が綴られていた。2001年12月(今からほんの10年前・・・つい最近の話だ)、主人公が14歳のときにマラウイ全土を襲った飢饉における彼の話は、思わず目を覆いたくなるようなものだった。中でも、わたしが衝撃的だったのは次のようなくだりだ(凄惨さが伝わるのでぜひ取り上げておきたい)。

『食べ物が少ない時期に状況がさらに悪くなる。そのため、赤ん坊につけられる名前は、生まれた当時の状況や両親がいだいた恐怖を反映していることが多い・・・(中略)・・・たとえば、スィムカリーツァー(どうせ死ぬんだ)やマラザニ(とどめを刺してくれ)、マリロ(葬儀)にマンダ(墓石)にペラントゥニ(すぐに殺せ)といった名前だ・・・(中略)・・・父さんの兄さんもその一人だ。祖父母に、”自殺”という意味の”ムズィマンゲ”と名付けられた・・・』

この世の中にこれ以上劣悪な環境は果たして存在し得るのか?と思えるくらいな状況下で、主人公は好奇心を持ち、学校に通えず持て余した時間を図書館での読書にあて、独学で風力発電を作り上げた。これは嘘のようだが本当に本当の話だ。

彼のような凄い人間をわたしは他に知らない。きっと世の中の他の人も同じように感じたからこそ、今日、わたしたちの手元に彼の本があるのだろう。

■丁寧で素直な描写がただただ心を打つ


世界中にその名を知られるようになった主人公。彼のこれまで約20年弱の間に起きた話について、本人が振り返る形で描かれている。

わたしは、恥ずかしながらこの本を読むまでマラウイはアフリカにある・・・それ以外のことは何も知らなかった。しかし、主人公の描写・気持ちが素直に描かれているからだろうか。私が知らないはずのとてつもなく広い大地、厳しい環境、そこで生活する貧しい人々、それらがわたしの頭の中に広がった。もちろん、そこで大きな発見にうち喜ぶウィリアム少年の姿も・・・。

『父さんの自転車をいじっていて、リード線がライトからはずれているのに気づいた。それでも車輪をまわしていると、そのリード線の先端がたまたま鉄のハンドルに触れた。火花が散った。それを見て、僕はふとあることを思いついた。』

■教育・学習・・・その原点がここにある

「何故かを知りたい」、「家族を助けたい」、「何かを作りたい」。ウィリアム少年の思いは膨らんだ。そして彼はNPOの図書館で学び、夢を実現させた。「変なものを作ろうとして、あいつは頭がおかしくなったんじゃないのか」。周りが彼を変人扱いする中、父親は息子を信じ、ただただ暖かく見守った。

自分で学ぶ(学習)、学習を手助けする(教育)とは何か、その原点がこの本に集約されているような気がした。この本は、いや、ウィリアム・クワンバは、世界中の人々に夢と希望、勇気・・・そして興奮を与えてくれた。

この本に出会えたこと、彼の存在を知ることができたことを心から感謝したい。

【関連リンク】
ウィリアム・クワンバ (William Kamkwamba)のホームページ





2011年12月12日月曜日

書評: まじめの罠

「与えられたルールに疑いを持たず、その中で懸命に成果を出そうとする人」・・・この人たちが陥りやすい罠を勝間和代氏は”まじめの罠”と呼ぶ。

そして「そうした”まじめの罠”に陥る人達は、ルールを破って効率的・効果的に成果を出した人を許さない」傾向がある、とも述べる。

「まじめの罠」
著者: 勝間和代氏
発行元: 光文社新書 (2011年10月20日 740円)

著者のツイッターでのつぶやきで偶然、この本が出版されたことを知ったのだが、タイトルの”まじめ”という言葉が妙にひっかかり(日本人なら誰もが反応しそうなキーワードではある)Amazonで衝動買いしてしまった。

■日本人の多くがハマる大きな落とし穴

日本人の多くがハマっている大きな落とし穴・・・国、社会、会社、上司、先生、隣人が作ったルールを、”当然正しいもの”であるかのように馬鹿正直に受け入れた結果、実はみんな大きく損をしているんだよ、早くその負のループから抜けだそうよ、ということを訴えている本だ。

ルールに従うのは大事な事だが、ルールは所詮人が作ったものであり、そのルール自体が間違っていることが多いにもかかわらず、それに盲目的に従うのは危険だ、というのが勝間氏の主張である。

たとえば、ルールが間違っている例として農林水産省が作った「カロリーベースの自給率計算」を挙げている。これは文字通り、カロリーで日本はどれくらい自給自足できているのかを計るものだ。頭の回転の早い人なら、ここですぐに疑問がわく。「ん!? なぜ、自給自足をカロリーで計算するのか?」と。当然、この基準で計算すると、商品価値が高く競争力のある野菜や果物を作ると自給率が下がることになる。逆に米やジャガイモのようなカロリーの高いものを作ると自給率が上がることになる。

■”まじめ教”の洗脳を解こうとする著者の意気込み

勝間氏はこの本で”まじめ”という言葉を使っているが、氏が本質的に言わんとしている「正しい課題設定をせよ」という観点では、類似した本はたくさんあるように思う。わたしがパッと思いつくところでは大前研一氏の「質問する力」だ。

しかし、この本が特徴的なのは「”まじめの罠”からの脱出ノウハウ」という点よりも「”まじめの罠”がいかに危険なものか?」「”まじめの罠”にいかにして人は陥るのか」といった点にフォーカスを当てているところだろう。逆に言えば”まじめの罠”は、それだけ小手先のテクニックだけで脱出できるような簡単な罠ではない、その罠に陥る過程をしっかりと理解するところから始めねば、ということなのだろう。

ちなみに、昨日偶然知ったのだが近々、勝間和代氏が「ズルい仕事術」という本をディスカヴァー・トゥエンティワン社から出すらしい。段取りがいいなー。タイトルからも容易に察しがつくが、実質的には、今作「まじめの罠」の続編・・・実践編といったところか。

【”まじめの罠”の目次】
第一章: 「まじめの罠」とは何か、そして、なぜ「まじめの罠」はあなたにとって危険なのか
第二章: あなたが「まじめの罠」にハマってしまうメカニズムを理解しよう
第三章: 「まじめの罠」の害毒
第四章: 「まじめの罠」に対する処方箋

■長いものにすぐに巻かれてしまう人向けの本

”まじめ”な人だけが本の対象者・・・と著者自身言うとおり、上で述べた趣旨について理解している人はあえて読む必要のない本だ。

世の中のマジョリティにすぐに飛びつく傾向のある人、マスメディアや政府が発表する内容を盲目的に信じてしまう傾向にある人・・・そういった人は、この本を読んでみると、自分の成長の糧を得られるかもしれない。



【関連リンク】
失敗を許容しない文化(ブログ記事)

失敗を許容しない文化


2011年12月11日付の日経新聞朝刊に興味深い記事があった。

「真珠湾の埋もれた教訓」というものだ。趣旨は”失敗”から学べる、いや、学ぶべきことがたくさんあるにも関わらず、(個々の学者による検証はあるにせよ)日本政府自体は、先の大戦についてそうした取組みをほとんど行なってきていない、というものだ。

なるほど、それは意外であり残念なことだ。

記事は、”失敗からの学び”が行われてこなかった理由について、更に元外務省幹部の次のコメントを載せている。

『過去の失敗を総括するにはだれがいけなかったのかを特定し、事実上、名指しで糾弾しなければならない。日本にはそういうことを嫌う集団意識がある』

この意見については半同意・半反対だ。

なるほど「失敗を嫌う」「失敗を許容しない」というのは、リスクマネジメントコンサルタントという職業をやっていて私もそう感じる場面が多々ある。日本人は事故や災害が起きないように細心の注意を払う。市場に対しても時間を犠牲にしてでも十分に検証された新製品を出す傾向が強い。しかし、その反面「万が一、事故が起きてしまったとき」に対する備えが弱い。「失敗を嫌う」「失敗を許容しない」文化の中では、無意識のうちに「失敗はあってはならない」「失敗したときのことを考えたくない」という思考プロセスが働くからではないだろうか。

ちなみに、この「失敗を許容しない文化」という点については、勝間和代氏の書籍「真面目の罠」でも色々な観点で言及されている。

ただし、海外で仕事をした者として感じるのは「”名指しでの糾弾を嫌う”のは海外こそ、そうだ」という点だ。海外では「人のせい」にしたがらない。ではどうするのか? 「仕組みのせい」にすることが多い。「仕組みが悪かったから、私は不正をしてしまったのだ」「仕組みが悪かったから、あの人は間違えたんだ」・・・こんな感じだ。こうした考え方は、責任の所在が曖昧になりやすいという反面、「失敗」を表沙汰にすることをあまり厭わない、というメリットがある。

私の考えでは、日本は”人のせい”にする傾向がものすごく強い”仕組みのせい”にするなんて言語道断、必ず責任は人に帰属すべきだろう・・・と。責任の所在がはっきりするが、罰を恐れて失敗を公にしたがらないし、安易なトカゲのしっぽ切りにも使われやすい。(別に、”人のせい”にすることが悪いと言っているのではないが、何でもかんでも”人のせい”にすることは大きな弊害もあるのでは、と思っている)

むしろ、こうした風土こそが「日本人が失敗を反省したがらない理由」ではないだろうか。なんて、ちょっと偉そうなことを言ってみたり・・・。

【関連リンク】
書評: 失敗の本質
書評: まじめの罠

2011年12月8日木曜日

POSからPOCへ

今週号の日経ビジネスで2つ印象に残った記事がある。

■「POS」より「POC」が重要に

シニア層マーケットには、従来のPOSシステムではなく、POCに基づいた分析・アプローチをしないとリーチできない、というお話だ。POSがPoint of Salesであるのに対し、POCはPoint of Contact・・・すなわち、金銭的なやりとりが発生する(セールス)場面はもちろんのこと、それ以外の場面でのシニア層との接点をStudyすることが重要になるという意味だ。

ところで、これはわたし個人の経験だが以前、シニア層への娯楽サービス提供を生業にしている会社の方が「”シニア=お金を持っている”と聞いて、市場に攻めたけど、払ってくれないんだよね・・・。実際はシニアはお金なんて持ってないんですよ、きっと。」とボヤいていた。販売時点(POS)ばかりを観察していると、確かにマーケットがそのように見えてしまうのかもしれない。

しかし、実際はどうだろうか。記事はシニア層の購買行動をよく観察してみると一定の法則が見えてくる」と述べている。

具体的には、シニア層は「まだ使えるものを捨てるのはもったいない、と考える世代であり、一般的には、もはや衣料品やファッションにお金を掛けたくないという気持ちが強い・・・その一方で自分が強い興味を持つ活動や体験のためにお金をかけることには躊躇しない」とある。

これが正しいとすれば、先にわたしが挙げた娯楽サービスを提供されている会社の事例では「”シニア=お金を持っていない”から売れない」ではなく「”シニアのニーズ”=”売っている商品がマッチしていない”から売れない」といった論理が見えてくる。

「人や組織は失敗に多くのことを学ぶ」とは言うが、ただし、それは正しい学び方があって初めて達成されることなんだ、ということを示す良い例だ。

■アメリカでは法人による球団所有を良しとしない

NFL(アメフトのプロリーグ)では、なんと法人による球団保有を禁止しているのだそうだ。知らなかった・・・。メジャーリーグ(MLB)ではそのような正式な縛りはないらしいが、やはり個人所有が推奨されているとのこと。

理由は、アメリカでは、球団を保有する人・組織は、球団経営を第一義とし、ことに全力で集中すべきだと考える風土があるかららしい。日本ではどちらかといえば、コマーシャルの延長線上でありコストセンターに近い扱いだが、アメリカではプロフィットセンターとしてとらえている・・・ということもできるのだろうか。日経ビジネスの記事では、異論反論あるかもしれないが、それで良い結果をもたらしているのは日本よりもアメリカのほうだ・・・と言っている。

なるほどねー。アメリカと日本の球団経営って似ているようで全然似ていなんだねー。しかし、球団を保有できるほど裕福な人ってなかなかいないような・・・。しかも、横並びを良しとする日本において、そういった突出した裕福さを他人に見せるような行為は日本ではなかなか受け入れられなさそう。

日経ビジネス 2011年12月5日号

2011年12月7日水曜日

イカに生きる意味を学んだ日

現在、博多出張中でホテルからこれを投稿している。昨晩は取引先の方のご好意で新鮮な刺し身や素敵なお酒のあるお店に連れていっていただいた。


名物の1つはイカだ。普段、食べるイカは調理され、完全に死んでしまった後のものだが、昨晩のモノは違う。まだ生きているイカだった。

うまく表現できないが、新鮮な体験でもあり、喉の奥にささった小骨のように妙にひっかかる感じでもあり・・・。

それはそう・・・なんというか、肋骨が開かれた状態の手術中の人間を、みんなでニヤニヤしながら観察しているような感覚だ。しかし、申し訳ないと思いつつも、切られた彼の体のパーツを一枚一枚ひっぺがして口に運んでいく・・・おいしいと思う・・・このパラドックス。

必死で逃げようと手足を伸ばすイカ。恨めしそうな大きな目が、突き刺さる。

残酷・・・矛盾・・・。

生きるって、こういうことの連続なのだ、きっと・・・。変なところで、先日読んだ本「ヘルプ」とつながる(笑)。




【関連リンク】
ヘルプ(書評)

2011年12月5日月曜日

僕が39歳になった意味

つい先日、39歳になった。思えば遠くへ来たもんだ・・・へへ。

39歳という年齢がどういう意味か・・・考えてみた。「40歳の一歩手前」「もう初老」「もうすぐ厄年」なんて・・・どうもネガティブなキーワードしか出てこない。

そんなくだらないことを考えながら、ふと思いだした。

そうだ、自分の母親が亡くなったのは49歳だった。

彼女が亡くなったのは私が大学生の時。それは突然やってきた。まだ受け入れられない自分がいるせいなのかもしれないが、そんな昔のことにも思えない。

そんな昔の話ではないはずなのに、今からもう間もない10年後に自分にもその年令がやってくる・・・そう考えると39歳という年齢がとたんに重たく聞こえる。

なぜ重たく聞こえるのか・・・その理由は何だろうか。

すぐに答えが見つからないが、なにか不思議と胸がしめつけられる。

また今日から一日一日を精一杯生きよう。ただ、そう思う。

2011年12月4日日曜日

書評: 世界一のトイレ ウォシュレット開発物語

今週はこの本を読んだ。

タイトル: 世界一のトイレ ウォシュレット開発物語
著者: 林 良祐(はやし りょうすけ)
発行元: 朝日新書
発行年月日: 2011年9月30日 (720円)

■開発者の生々しい苦労話が満載

”ウォシュレット”というのはTOTOの登録商標だそうだ。その誕生は、1980年にまで遡る。

『ウォシュレット開発がスタートして、まず立ちはだかった壁があった。どこにお湯を当てれば良いのか、すなわち、肛門の位置はどこか?」ということだ。そんな数値データなんてあるわけがない。開発チームは社内に協力者を求めた。・・・』

世界中に知られるようになったウォシュレットだが、開発に携わった張本人が、その歴史全てを”生々しく”語ってくれている。

「電気と水の共存をどうやって可能にさせたのか?」「1回20リットルも必要だったものが水洗をどうやって4.8リットルまで減らせたのか?」「全く文化の違うアメリカにどうやって入り込めたのか?」など、様々な疑問に答えてくれる。

■思わず仕事に役立つ知識も

かなり興味本位で買った本ではあるが、実は私の仕事に思いがけず役に立った部分もある。私は、リスクマネジメントコンサルタントであり、企業のリスク軽減またはリスクが顕在化した際の効果的な対応方法について、その仕組の導入をお手伝いしている身だ。当然、そんなリスクの1つに地震があるが、企業のビルで地震などにより断水が発生したときに、貯水槽にどれくらいの水が残っているのか、どうやってトイレまで水g運ばれているのか、一人あたりどの程度の水量を使うものなのか、などを考えなければならない場合がある。

この本はそんな疑問にも答えてくれる。著者によれば、それこそ節水よりも綺麗に流すことが至上命題であった昔のトイレでは高価なもので1回に20リットル近くの水を必要としたそうである。それが現代では、技術力を駆使して1回あたり4.8リットルですむところまできたそうだ。

ちなみに、偶然だがちょうど2日前の新聞(2011年12月2日付けの日経新聞朝刊)に「TOTO、トイレの水1リットル節約 1回3.8リットル、国内最小に」の文字が踊っていた。

■TOTOのチャレンジ精神に乾杯

ところでTOTOの技術力は世界に誇るべきものだ。今更、語るまでもない。ただ、私がこの本を読んで改めてTOTOがすごいと思ったことがある。それは、創業早くから世界に目を向けていた経営陣の意識の高さだ。日本企業は1億2千万人という、ある意味中途半端に心地よいマーケットで安穏としてしまう内弁慶な傾向がある。そんな中にあって、TOTOの目は常に世界に向いていたことが分かる。

1917年に大倉和親氏が初代社長となったとき、小倉工場の定礎の辞で「欧州の製品を凌駕し、世界の需要に答えていく」と述べたそうである。

また、今でこそロゴマークは"TOTO"と文字をかたどったものになっているが、最近まで”世界にはばたけ”という思いを込めて地球や大鷲をモチーフにしたロゴを使っていたようだ。


■日常に”笑み”をもたらす機会を

日常生活に完全に溶けこんでしまっているので、正直、この本を手に取るまで”トイレ”を意識したことなんてなかった。食事中に積極的に話すような話題でもないので、人と会話のテーマにもなりにくいといったせいもあるだろう。

しかし、日常生活において、これほどなくてはならないものはない。技術が注がれる意義も大きい。著者に言わせると、世界の6リットル便器が4.8リットルに替わると、年間2億立方メートル(ダム1つ分の大きさ)の節水と12万トンのCO2削減が見込めるそうだ。

トイレには、開発者の並々ならぬ情熱と努力が注がれている。

そして、この本を読んでからというもの、トイレに入るたびに思わず笑みをこぼしながら便器を眺める自分がいることに気がつく。


【関連リンク】
TOTO(企業の公式HP)

========ウォシュレットが機械遺産に========
日本機械学会は、生活の発展や社会に貢献し、歴史的に意義のある「機械遺産」に、温水洗浄便座「ウォシュレットG」など5件を新たに選んだと発表した。(2012年7月23日 日経新聞朝刊より)

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...