2011年12月31日土曜日

偉大なる会社は何が違うのか?

2011年11月号のハーバードビジネスレビューのテーマは"What Great Companies Do Differently (偉大なる会社は何が違うのか?)"だ。この号は、個人的に読み応えがあった。

■Why Don't We Try To Be India's Most Respected Company?
(インドで最も尊敬される会社になってみないか?)

この記事はインドで最も有名な会社の一つ、インフォシス(Infosys)の成功体験談を語ったものだ。創設者の一人、N.R. Narayana Murthy氏は、賄賂が横行する20年前あえて、会社の目指す姿に「インドで最も尊敬される会社になること」をぶちあげた。

記事が面白いのは「正しいことをやろうとするほうが、とてつもなく大きな損失を被る」社会の中で、どうやって「正しいことをやり続け、どうやって信頼を勝ち得たか」・・・その事例を紹介してくれている点だ。

「オレに賄賂を払えば、ただで税関を通してやる。賄賂を払わなければ、135%の関税だ。」

会社の資金がほとんどないときに、そう言われたらわたしだったらどうするか? 非常に興味深いテーマだった。

■Social Strategies That Work
 (機能するソーシャルストラテジーとは)

Facebook(今やユーザー数7億人!)のようなソーシャルネットワークサービス(SNS)を莫大な利益の源泉として活用する企業が増えてきたが、成功者はまだまだ少ない。成功者と失敗者の違いは何だろうか?・・・この問いに答えようとしている記事だ。

SNSの活用に失敗している会社は「SNSを活用している顧客にとってのWinは、企業の商品を知ることや買うことよりもむしろ、ネットワークの輪を広げたり、強めたりすることである」にも関わらず、その期待に応えるような戦略をとっていない、と記事は指摘している。つまり、相変わらず「顧客にとってのWinは自分たちの商品を買うことである」「自分たちにとってのWinは自分たちの商品が売れることである」というスタンスでアプローチしている、というわけだ。

この関係性を理解して上手くビジネスにつなげている企業として、記事は、Yelp、Amex、eBay、そしてZyngaを取り上げている。こうした企業がどうやってSNSで儲けているのかを知ることは決して損なことではないと思う。

ところで、わたしはとりわけZynga(ジンガ)に注目している。なぜなら、自分もまさにこの戦略の罠にハマった一人だからである。Zyngaという会社は、Facebook上でプレイできるゲームを無料で提供し、2011年に10億円の収益を叩き出した会社だ。無料なのに何故10億円の収益がでるのか? 今、はやりのフリーミアムだ。フリーミアム(Freemium)とは、基本的なサービスや製品を無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能について料金を課金する仕組みのビジネスモデルのことだ(Wikipediaより)。

Facebook上で、知人から定期的にZyngaの誘いを受け、最初はバイアグラか何か、よくあるいかがわしい勧誘だと思っていた。しかし、紹介者が知っている友人であること、たまたまそのとき暇を持て余していたこと、Facebookに多少ハマっていたこともあって、ついついクリックしてしまったのである。すると、あれよあれよ・・・という間にいきなりゲームが開始。・・・そんな感じだ。私はお金を払うようなことはしていないが、思いがけずネットワークが広がるし、ゲームそのものもなかなか面白い。たまに楽しませてもらっている。

この仕組を作ったアイデアと技術は凄いな、と脱帽せずにはいられない。

■KFC's Radical Approach to China 
(中国に対するKFCの過激なアプローチ)

KFCの中国マーケットに対するアグレッシブなアプローチ。自分たちの王道である「標準化、フランチャイズ化、少数精鋭の品揃え化・・・」をことごとくひっくり返す戦略。いわゆる”グローカリゼーション”の極みをそこに見た気がした。

ちなみに、先日、読んだ日経ビジネスに「中国ではバラエティーに富んでいることが良しとされる」と書いてあったが、KFCが中国市場を攻めるにあたってもそれは例外ではなかったようだ。本家米国ではメニューが29種類であるのに対し、KFC中国では50種類ものアイテムが取り揃えられているそうだ。

ハーバードビジネスレビュー 2011年11月号

2011年12月29日木曜日

2011年全体を振り返る

■まずまずの2011年目標の総括

先日、2011年初に立てた目標のうちの1つ「52冊の本を読み、その半分について書評を書く」の結果についてブログに書いた。今日は、残りの目標についてもある程度、備忘録的な側面から、総括をしておきたい。

結論から言うと、目標は細かいものも含めると全部で30程度あったのだが、達成率は6割程度だ。大きく目標のカテゴリとしては「家庭」「仕事」「個人」の3つを設けていたが、とりわけ「家庭」と「個人」についてはそれなりに成果を出すことができたと思っている(周りがハッピーかどうかはまた別の問題だが・・・)。

たとえば「家庭」で言えば、「週末は最低2~3時間は子供と”外”で遊ぶ」とか「週に2回は夜7時半までに帰宅をする」などといった目標を立てていたが、実際、8割程度はできていたのではないかと思っている(そもそも、目標が甘いね・・・といわれれがそれまでだが・・・。)

また「個人」では、先日触れた「書籍を52冊読む」といったことのほか、週3回はジョギング最寄り駅までの移動を自転車に頼らないBlogのビュアーを○○○まで増やす・・・など具体的に立てていたが、9割を達成することができた。

一方で、出来なかったことも少なくない。特に仕事面では、毎日の忙しさにかまかけて、中長期的な動きをとることがほとんどできなかった。経営者としては完全に失格だ。また、「1月あたり1回は、普段は滅多に会わない人と会食をする」という目標について、続けられたのは最初の4ヶ月程度で、その後は力尽きてしまった。

■目標を明文化することの意義

実は、目標をきちんと立てたのは2011年・・・人生38年目にして今年が初めてである。知人の「目標は立てるだけでなく、書きだしておいたほうがいい」と言う言葉に影響されて、モノは試しとやってみた。もちろん、目標を立てるだけでなく、立て方も大事だ。ある程度定量的に立てておかないと、目標が達成できたのかどうか、上手に判断できない。たとえば、わたしは「このBlogのビュワーを○○○人まで増やす(恥ずかしくて具体的な数字は書き出せないが)」と立てたが、実際はその目標を千人超で終えることができた。達成感も得られるし、また来年もがんばろう・・・という気になる。

また、2010年まで読書なんぞ年に10冊いかない程度だった。しかし、明確化させた目標の力は素晴らしい。肩を押されるように、今年はいきなり52冊読むことができたのだ。それも糞忙しい中で・・・。

「週2回は夜7時半までに帰宅する」といった目標もそうだ。毎日残業が多い中、果たしてそんなことができるのか、と思っていたが、いざ目標を立ててみると、不思議と達成しようと意思が働いた。実際、今年に入ってからというもの、毎週末「翌週のこの曜日とこの曜日は夜7時以降の予定をブロックしよう」とカレンダーを予めブロックして行動するようになった。もちろん、仕事のしわ寄せは他の曜日に移るだけだが、早く帰るときは早く帰る、遅くまで集中して仕事をするときはする・・・とメリハリがつけられるようになった。

「駅までの移動を自転車に頼らない」もそうだ。最寄り駅まで徒歩で11分。面倒くさがり屋のわたしは駅に月3000円を払って駐輪場を借りていた。この目標を達成するために年初に早速、解約手続きを実行。それからというもの、毎朝、歩いて駅に行くようになった。健康にもいいし、お金も浮く。一石二鳥とはまさにこのことである。

というわけで、目標を立てる・・・いや、目標を明文化する、ということがいかに重要なことが今更ながら痛感した次第である。これに味をしめたので、今度は2012年の目標を立てることで頭が一杯だ。

2012年はどうしよう・・・。わくわく、どきどき・・・このプロセスも楽しいのだ。


オリンパスと監査法人

もうカレコレ4週ぐらいだろうか。日経ビジネスは「オリンパス問題」の記事から始まる。これまで、そうした記事の大部分が「内部統制はどうして機能しなかったのか!?」といったテーマに割かれていたが、今週はちょっと違った。外部監査に関する記事である。

記事の趣旨はこうだ。

「内部統制、内部統制・・・というが、経営の根幹が腐っていたので、そんな状態で内部統制をどう強化するかを議論してもなかなか始まらない。しかし外部監査はどうだ。今回のように内部統制が機能しなかったときのためにあるのが外部監査じゃないか。外部監査で統制の完全な崩壊を防ぐ・・・それができたはずだ」と。

あからさまに、あずさ監査法人と新日本監査法人の名を挙げて非難している。

監査法人が善意(知らなくて見逃したのか)であれ悪意(知っていて見逃したのか)であれ、こうした本来の目的を実現できなかったことが大きな争点の1つであることは間違いない。成果だけを見れば、監査法人がもらう数千万円という対価は果たして本当に妥当なのか、と疑問を呈したくなる。

ただ、よく言われてきたことだが、企業が監査をしてもらう監査法人を選定し、その法人に対して監査報酬を払う・・・という仕組み自体に無理があるのかもしれない。監査法人してみれば厳しく監査を行う監査対象である企業は、お金を払ってくれる顧客でもある。強い利害関係がある以上、厳しい追及を行えないのもある意味仕方がないのでは、と思ってしまう。

そういった関係を断ち切るためには、企業は上場先に一定の上納金を納めて、上場先の会社が監査法人を選定・契約を結び、各会社に監査法人を派遣する・・・とか、そんなんじゃないと難しいんじゃないだろうか・・・と、かなり素人的でいい加減な意見を言ってみたくもなる・・・。

監査法人も信頼を取り戻すべく色々と活動中のようだが、もう少し抜本的に仕組みを見直す時期に来ているのではないだろうか。

日経ビジネス2011年12月26~1月2日合併号

2011年12月27日火曜日

2011年に読んだ本を振り返る

実は、わたしには「42歳までに自分の本を出したい」という想いがある。お陰様でこれまで周りの方に助けていただいて共著という形で本を出したことはあったが、まだ”自分の本”という形で出したことはないからだ。

夢を夢で終わらせないために今から1年前、今年(2011年)の目標を書いた。公私含めてたくさんあったが、そのうちの1つが次のようなものだった。

「52冊の本を読み、半分以上について書評を書く」

この1年間、この目標を達成すべく、がむしゃらに本を読み感想を書いてきた。今日まで読んだ本の数なんぞ数えたこともなかったが、今日総括のために読み終えた本を数えたところ全部で49冊(複数の巻にわかれている本はそれぞれの巻を1冊として数える;数えないと45冊になる)だった。

49冊の読書、49冊の書評・・・それが今年の結果だ。もちろん、これは私が達成したい目的の手段にしか過ぎないが、充実感はそれなりにある。実際に知識も増えたし、読む力がついた。なにより、書く力・・・いや、まとめる力があがったと自覚できる。

これに奢ることなく、また、目的と手段を見間違えることなく、夢に向かって邁進したい。

 【2011年に読んだ本一覧と個人的ランキング】
タイトル 著者 Best 10 言語
心を鍛える言葉 白石豊 4 日本語
リスク・リテラシーが身につく統計的思考法 ゲルト・ギーゲレンツァー   日本語
裁判官の爆笑お言葉集 長嶺 超輝   日本語
脳に悪い7つの習慣 林 成之   日本語
そこまで言うか! 勝間 和代,堀江 貴文,西村 博之   日本語
日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方 山本 敏行   日本語
文系ビジネスマンでもわかる数字力の教科書 久保 憂希也   日本語
この命、義に捧ぐ~台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡~ 門田 隆将 6 日本語
デフレの正体 藻谷 浩介   日本語
一勝九敗 柳井 正   日本語
ティッピング・ポイント マルコム グラッドウェル   英語
東京を経営する 渡邉 美樹   日本語
日本改革宣言 東国原英夫   日本語
大前研一の新しい資本主義の論点 大前 研一   日本語
三陸海岸 大津波 吉村 昭 3 日本語
地域防災力を高める 山崎 登   日本語
丁稚のすすめ 秋山 利輝   日本語
ユニクロ帝国の光と影 横田 増生   日本語
突然、僕は殺人犯にされた スマイリーキクチ   日本語
暗渠の宿 西村 賢太   日本語
国会議員の仕事 林 芳正,津村 啓介   日本語
コンサルティングとは何か 堀 紘一   日本語
40歳からの適応力 羽生 善治   日本語
生き残る判断 生き残れない行動 アマンダ・リプリー  7 日本語
もったいない主義 小山 薫堂   日本語
困ってる人 大野更紗 8 日本語
パプリカ 筒井 康隆   日本語
ニッポンの書評 豊崎 由美   日本語
やめないよ 三浦知良   日本語
失敗の本質―日本軍の組織論的研究  戸部 良一,寺本 義也,鎌田 伸一,杉之尾 孝生,村井 友秀,野中 郁次郎   日本語
学校では教えてくれない日本史の授業 井沢 元彦 5 日本語
なぜアップルの時価総額はソニーの8倍になったのか? 長谷川 正人   日本語
40歳の教科書 ~親が子供のためにできること~ モーニング編集部&朝日新聞社   日本語
40歳の教科書 NEXT ~自分の人生を見つめ直す~ モーニング編集部&朝日新聞社   日本語
レッドゾーン(上)(下) 真山 仁   日本語
中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか 加藤 嘉一   日本語
運命の人(一)~(四) 山崎 豊子   日本語
The Help. Movie Tie-In Kathryn Stockett 2 英語
佐藤可士和の超整理術 佐藤 可士和   日本語
人生がときめく片づけの魔法 近藤 麻理恵 9 日本語
45分でわかる! 14歳からの世界金融危機 池上 彰 10 日本語
45分でわかる!14歳からの世界恐慌入門 池上 彰 10 日本語
世界一のトイレ ウォシュレット開発物語 林 良祐   日本語
風をつかまえた少年 ウィリアム・カムクワンバ,ブライアン・ミーラー  1 日本語
イギリス発 恥と誇りを忘れた母国・日本へ! 渡辺 幸一   日本語

【関連リンク】
2013年に読んだ本を振り返る
2012年に読んだ本を振り返る

2011年12月26日月曜日

書評: イギリス発 恥と誇りを忘れた母国・日本へ!

書籍の増えた本棚を見ながらやや悦に浸っているとき、ホコリをかぶった本を一冊見つけた。大きな声では言えないが、随分と前に父から「君なら結構、興味持って読めるんじゃないか。読んでみろよ。」と渡された本だった。

イギリス発 恥と誇りを忘れた母国・日本へ!
著者: 渡辺幸一
発行元: 河出書房新社
発行年月日: 2008年9月20日


■外から見て初めて浮き彫りになる日本社会のおかしな部分

「どうして、日本の電車には痴漢がいるのか?」
「どうして、メイド喫茶が流行るのか?」
「どうして、若者はすぐキレるのか?」
「どうして、外国人に弱いのか?」
「どうして、駅の階段の登り下りに困っている人に手を差し伸べないのか?」

これらの疑問は日本の社会現象を反映したものだ。ところが、こうした問いかけはイギリスには当てはまらない。同じ島国なのに何故か。この本は、日本・イギリス両国の違いにスポットライトを当て、日本の問題とこれからについて提言した本である。

■著者の学識と実体験が生み出す鋭い考察

『・・・イギリスでは、先に入った人が後続の人のために開けたドアを押さえて待っていることが、一種のマナーになっている。その場合も後続の人ははっきり「サンキュー」と言う。私が日本に帰った時、こうしたイギリスの習慣が自然と出て、デパートであとから入る人のためにドアを押さえて待っていたことがあるが、後続の人たちは無言で通り過ぎただけで誰一人として「ありがとう」と言わなかった。・・・(中略)・・・イギリス人の市民意識とは、地域社会の構成員として、権利と義務の両方を負っているという意識である。』

日本で40年間、イギリスで18年間暮らしてきた著者ならではの体験談が豊富に語られている。そして、単なる体験談にとどめず、著者の隣人や知人・友人あるいは、過去に日本について語った文化人類学者や作家、思想家の考えなど、様々な観点を交えながら、答えを導き出している点が面白い。

ちなみに、私もイギリスで5年間ほど生活(うち2年間は学生生活)をした経験があるので、著者の言わんとしていることは良く分かった。たとえば、先述したマナーの話についてなど読んで「そうそう、そうだった、そうだった」といちいち頷いてしまった。

■”イギリスかぶれ”と思うなかれ

「イギリスはこんなふうにできているのに、日本はこうなってしまっている」・・・こんな言い回しが繰り返しでてくるとどうしても(著者同様、海外経験をしてきたわたしですら)思うことがある。

「イギリスに長く住んできたせいか、少しイギリス贔屓になり過ぎてないかい!?」と。

ただ、われわれ読者がこの本を心地よく読めるかどうかは別として、「日本人に生まれたことを誇りに持っている」あるいは「日本に良くなってもらいたい」という著者の発言は、偽らざる気持ちだと思う。そうでなければ、イギリスに住みながらにして、俳句をたしなむこともないだろうし、こうした本を書くこともないはずだ。

■”海を渡りたい”と思わせることにこの本の意義がある

著者の主張は明快かつ論理的で、実際に同じように海外経験をした者からすると合点のいくことも多い。しかし、一方で疑問も残る。

「おまえさん、それをいっちゃぁー、おしめーだよ」

と責められることを覚悟で言わせてもらえば、著者の主張は、外から日本を見ることができた者であるからこそのものであって、海外経験をしたことのない人がこの本を読んで「著者の主張が腑に落ちた」となることは、なかなかないのではないだろうか。

そういう意味では、読者に「あーしよう、こーしよう」といった著者の主張を理解させることよりも「うーん、そうか。これはとにかく一回、日本の外に出てみなければダメだな」と思わせることに、この本の意義があるような気がしてならないのは、わたしだけだろうか。

【関連リンク(日本よ頑張れ!的な本の紹介)】
 ・一勝九敗



2011年12月19日月曜日

置くだけでバッテリー補充!

日経ビジネス2011年12月19日号を読んで気になったこと。

■トヨタ、日本のための「籠城戦」

『トヨタは日本を捨てて海外に行くことはしない。規模が大きすぎ、国内産業が空洞化してしまう。為替水準も代わり、自分で自分の首を締めることになる。だからそ、財務の強さを生かして国内に残り、弱者が外に出たあとの残存者利益を狙う「籠城戦」を選択した。』(メルリンチ日本証券マネージングディレクター中西氏)

先日読んだ東レの戦略と似ているなー。日本の借金が増えすぎて、破綻すれば円が急激に安くなり、トヨタの天下がやってくるかも・・・。

■置くだけでバッテリー補充(ワイヤレス充電)

きたきたきたきた。昨年(2010年)末に向こう10年間のIT技術の普及状況を予測した「ITロードマップ2011年度版」(野村総合研究所)を読んだ時に、注目技術として挙げられていたモノだ。ワイヤレス充電とは文字通り、ケーブルを直接つなげずとも充電できる技術だ。記事では、同技術にどのような種類があり、それぞれどうしてワイヤレスの充電ができるのか、図解を使って解説してくれている。

びっくりしたのは、EV車の充電システムの研究がすごく進んでいたことだ。15~30センチ離れているにも関わらず、充電が行われるように設計されている。

全ての家電製品がワイヤレス(ケーブルレス)になる・・・なんて将来も、来るのだろうか。ワクワクするような、怖いような・・・。

日経ビジネス2011年12月19日号

【関連リンク】
 ・東レの戦略
 ・「ITロードマップ2011年度版」(野村総合研究所)

2011年12月17日土曜日

書評: 風をつかまえた少年

今年読んだ本の中で間違いなく一番お勧めの本だ。

風をつかまえた少年 ~14歳だった僕はたったひとりで風力発電を作った~
著者: ウィリアム・カムグワンバ、(協力者: ブライアン・ミーラー)
発行元: 文藝春秋 (2010年11月20日発行)

とあるラジオ番組で池上彰氏が「ぜひお勧めしたい本」ということでとりあげていた2冊のうちの1冊がこれだった。ちなみに、もう1冊とは藻谷浩介氏の「デフレの正体」だ。

■図書館に通い独力で風力発電を作った少年の奇跡

この本は、南アフリカはマラウイに生まれた男の子が、貧しくて明日の食い扶持もままならない中、また学校に通うこともできない中、たった一人NPOの図書館に通いながら風力発電を作り上げた話だ。

男の子の名前はウィリアム・カムクワンバ (William Kamkwamba)。本は彼の6歳の記憶から始まる。

『ぼくは6歳だった。道で遊んでいると、牛追いの少年の一団が歌を歌い、踊りながらやってきた。ぼくたち家族はカスング市近くのマスィタラ村で農業をしていた。』

風力発電を作った天才少年の話を期待して読み始めたのだが、始めは”風力”の”ふ”の字も出てこない。いや、何かを発明するとかそんな呑気な状況ではなく、今日一日を生きる延びるためにどうするのか、そんな厳しい話が綴られていた。2001年12月(今からほんの10年前・・・つい最近の話だ)、主人公が14歳のときにマラウイ全土を襲った飢饉における彼の話は、思わず目を覆いたくなるようなものだった。中でも、わたしが衝撃的だったのは次のようなくだりだ(凄惨さが伝わるのでぜひ取り上げておきたい)。

『食べ物が少ない時期に状況がさらに悪くなる。そのため、赤ん坊につけられる名前は、生まれた当時の状況や両親がいだいた恐怖を反映していることが多い・・・(中略)・・・たとえば、スィムカリーツァー(どうせ死ぬんだ)やマラザニ(とどめを刺してくれ)、マリロ(葬儀)にマンダ(墓石)にペラントゥニ(すぐに殺せ)といった名前だ・・・(中略)・・・父さんの兄さんもその一人だ。祖父母に、”自殺”という意味の”ムズィマンゲ”と名付けられた・・・』

この世の中にこれ以上劣悪な環境は果たして存在し得るのか?と思えるくらいな状況下で、主人公は好奇心を持ち、学校に通えず持て余した時間を図書館での読書にあて、独学で風力発電を作り上げた。これは嘘のようだが本当に本当の話だ。

彼のような凄い人間をわたしは他に知らない。きっと世の中の他の人も同じように感じたからこそ、今日、わたしたちの手元に彼の本があるのだろう。

■丁寧で素直な描写がただただ心を打つ


世界中にその名を知られるようになった主人公。彼のこれまで約20年弱の間に起きた話について、本人が振り返る形で描かれている。

わたしは、恥ずかしながらこの本を読むまでマラウイはアフリカにある・・・それ以外のことは何も知らなかった。しかし、主人公の描写・気持ちが素直に描かれているからだろうか。私が知らないはずのとてつもなく広い大地、厳しい環境、そこで生活する貧しい人々、それらがわたしの頭の中に広がった。もちろん、そこで大きな発見にうち喜ぶウィリアム少年の姿も・・・。

『父さんの自転車をいじっていて、リード線がライトからはずれているのに気づいた。それでも車輪をまわしていると、そのリード線の先端がたまたま鉄のハンドルに触れた。火花が散った。それを見て、僕はふとあることを思いついた。』

■教育・学習・・・その原点がここにある

「何故かを知りたい」、「家族を助けたい」、「何かを作りたい」。ウィリアム少年の思いは膨らんだ。そして彼はNPOの図書館で学び、夢を実現させた。「変なものを作ろうとして、あいつは頭がおかしくなったんじゃないのか」。周りが彼を変人扱いする中、父親は息子を信じ、ただただ暖かく見守った。

自分で学ぶ(学習)、学習を手助けする(教育)とは何か、その原点がこの本に集約されているような気がした。この本は、いや、ウィリアム・クワンバは、世界中の人々に夢と希望、勇気・・・そして興奮を与えてくれた。

この本に出会えたこと、彼の存在を知ることができたことを心から感謝したい。

【関連リンク】
ウィリアム・クワンバ (William Kamkwamba)のホームページ





2011年12月12日月曜日

書評: まじめの罠

「与えられたルールに疑いを持たず、その中で懸命に成果を出そうとする人」・・・この人たちが陥りやすい罠を勝間和代氏は”まじめの罠”と呼ぶ。

そして「そうした”まじめの罠”に陥る人達は、ルールを破って効率的・効果的に成果を出した人を許さない」傾向がある、とも述べる。

「まじめの罠」
著者: 勝間和代氏
発行元: 光文社新書 (2011年10月20日 740円)

著者のツイッターでのつぶやきで偶然、この本が出版されたことを知ったのだが、タイトルの”まじめ”という言葉が妙にひっかかり(日本人なら誰もが反応しそうなキーワードではある)Amazonで衝動買いしてしまった。

■日本人の多くがハマる大きな落とし穴

日本人の多くがハマっている大きな落とし穴・・・国、社会、会社、上司、先生、隣人が作ったルールを、”当然正しいもの”であるかのように馬鹿正直に受け入れた結果、実はみんな大きく損をしているんだよ、早くその負のループから抜けだそうよ、ということを訴えている本だ。

ルールに従うのは大事な事だが、ルールは所詮人が作ったものであり、そのルール自体が間違っていることが多いにもかかわらず、それに盲目的に従うのは危険だ、というのが勝間氏の主張である。

たとえば、ルールが間違っている例として農林水産省が作った「カロリーベースの自給率計算」を挙げている。これは文字通り、カロリーで日本はどれくらい自給自足できているのかを計るものだ。頭の回転の早い人なら、ここですぐに疑問がわく。「ん!? なぜ、自給自足をカロリーで計算するのか?」と。当然、この基準で計算すると、商品価値が高く競争力のある野菜や果物を作ると自給率が下がることになる。逆に米やジャガイモのようなカロリーの高いものを作ると自給率が上がることになる。

■”まじめ教”の洗脳を解こうとする著者の意気込み

勝間氏はこの本で”まじめ”という言葉を使っているが、氏が本質的に言わんとしている「正しい課題設定をせよ」という観点では、類似した本はたくさんあるように思う。わたしがパッと思いつくところでは大前研一氏の「質問する力」だ。

しかし、この本が特徴的なのは「”まじめの罠”からの脱出ノウハウ」という点よりも「”まじめの罠”がいかに危険なものか?」「”まじめの罠”にいかにして人は陥るのか」といった点にフォーカスを当てているところだろう。逆に言えば”まじめの罠”は、それだけ小手先のテクニックだけで脱出できるような簡単な罠ではない、その罠に陥る過程をしっかりと理解するところから始めねば、ということなのだろう。

ちなみに、昨日偶然知ったのだが近々、勝間和代氏が「ズルい仕事術」という本をディスカヴァー・トゥエンティワン社から出すらしい。段取りがいいなー。タイトルからも容易に察しがつくが、実質的には、今作「まじめの罠」の続編・・・実践編といったところか。

【”まじめの罠”の目次】
第一章: 「まじめの罠」とは何か、そして、なぜ「まじめの罠」はあなたにとって危険なのか
第二章: あなたが「まじめの罠」にハマってしまうメカニズムを理解しよう
第三章: 「まじめの罠」の害毒
第四章: 「まじめの罠」に対する処方箋

■長いものにすぐに巻かれてしまう人向けの本

”まじめ”な人だけが本の対象者・・・と著者自身言うとおり、上で述べた趣旨について理解している人はあえて読む必要のない本だ。

世の中のマジョリティにすぐに飛びつく傾向のある人、マスメディアや政府が発表する内容を盲目的に信じてしまう傾向にある人・・・そういった人は、この本を読んでみると、自分の成長の糧を得られるかもしれない。



【関連リンク】
失敗を許容しない文化(ブログ記事)

失敗を許容しない文化


2011年12月11日付の日経新聞朝刊に興味深い記事があった。

「真珠湾の埋もれた教訓」というものだ。趣旨は”失敗”から学べる、いや、学ぶべきことがたくさんあるにも関わらず、(個々の学者による検証はあるにせよ)日本政府自体は、先の大戦についてそうした取組みをほとんど行なってきていない、というものだ。

なるほど、それは意外であり残念なことだ。

記事は、”失敗からの学び”が行われてこなかった理由について、更に元外務省幹部の次のコメントを載せている。

『過去の失敗を総括するにはだれがいけなかったのかを特定し、事実上、名指しで糾弾しなければならない。日本にはそういうことを嫌う集団意識がある』

この意見については半同意・半反対だ。

なるほど「失敗を嫌う」「失敗を許容しない」というのは、リスクマネジメントコンサルタントという職業をやっていて私もそう感じる場面が多々ある。日本人は事故や災害が起きないように細心の注意を払う。市場に対しても時間を犠牲にしてでも十分に検証された新製品を出す傾向が強い。しかし、その反面「万が一、事故が起きてしまったとき」に対する備えが弱い。「失敗を嫌う」「失敗を許容しない」文化の中では、無意識のうちに「失敗はあってはならない」「失敗したときのことを考えたくない」という思考プロセスが働くからではないだろうか。

ちなみに、この「失敗を許容しない文化」という点については、勝間和代氏の書籍「真面目の罠」でも色々な観点で言及されている。

ただし、海外で仕事をした者として感じるのは「”名指しでの糾弾を嫌う”のは海外こそ、そうだ」という点だ。海外では「人のせい」にしたがらない。ではどうするのか? 「仕組みのせい」にすることが多い。「仕組みが悪かったから、私は不正をしてしまったのだ」「仕組みが悪かったから、あの人は間違えたんだ」・・・こんな感じだ。こうした考え方は、責任の所在が曖昧になりやすいという反面、「失敗」を表沙汰にすることをあまり厭わない、というメリットがある。

私の考えでは、日本は”人のせい”にする傾向がものすごく強い”仕組みのせい”にするなんて言語道断、必ず責任は人に帰属すべきだろう・・・と。責任の所在がはっきりするが、罰を恐れて失敗を公にしたがらないし、安易なトカゲのしっぽ切りにも使われやすい。(別に、”人のせい”にすることが悪いと言っているのではないが、何でもかんでも”人のせい”にすることは大きな弊害もあるのでは、と思っている)

むしろ、こうした風土こそが「日本人が失敗を反省したがらない理由」ではないだろうか。なんて、ちょっと偉そうなことを言ってみたり・・・。

【関連リンク】
書評: 失敗の本質
書評: まじめの罠

2011年12月8日木曜日

POSからPOCへ

今週号の日経ビジネスで2つ印象に残った記事がある。

■「POS」より「POC」が重要に

シニア層マーケットには、従来のPOSシステムではなく、POCに基づいた分析・アプローチをしないとリーチできない、というお話だ。POSがPoint of Salesであるのに対し、POCはPoint of Contact・・・すなわち、金銭的なやりとりが発生する(セールス)場面はもちろんのこと、それ以外の場面でのシニア層との接点をStudyすることが重要になるという意味だ。

ところで、これはわたし個人の経験だが以前、シニア層への娯楽サービス提供を生業にしている会社の方が「”シニア=お金を持っている”と聞いて、市場に攻めたけど、払ってくれないんだよね・・・。実際はシニアはお金なんて持ってないんですよ、きっと。」とボヤいていた。販売時点(POS)ばかりを観察していると、確かにマーケットがそのように見えてしまうのかもしれない。

しかし、実際はどうだろうか。記事はシニア層の購買行動をよく観察してみると一定の法則が見えてくる」と述べている。

具体的には、シニア層は「まだ使えるものを捨てるのはもったいない、と考える世代であり、一般的には、もはや衣料品やファッションにお金を掛けたくないという気持ちが強い・・・その一方で自分が強い興味を持つ活動や体験のためにお金をかけることには躊躇しない」とある。

これが正しいとすれば、先にわたしが挙げた娯楽サービスを提供されている会社の事例では「”シニア=お金を持っていない”から売れない」ではなく「”シニアのニーズ”=”売っている商品がマッチしていない”から売れない」といった論理が見えてくる。

「人や組織は失敗に多くのことを学ぶ」とは言うが、ただし、それは正しい学び方があって初めて達成されることなんだ、ということを示す良い例だ。

■アメリカでは法人による球団所有を良しとしない

NFL(アメフトのプロリーグ)では、なんと法人による球団保有を禁止しているのだそうだ。知らなかった・・・。メジャーリーグ(MLB)ではそのような正式な縛りはないらしいが、やはり個人所有が推奨されているとのこと。

理由は、アメリカでは、球団を保有する人・組織は、球団経営を第一義とし、ことに全力で集中すべきだと考える風土があるかららしい。日本ではどちらかといえば、コマーシャルの延長線上でありコストセンターに近い扱いだが、アメリカではプロフィットセンターとしてとらえている・・・ということもできるのだろうか。日経ビジネスの記事では、異論反論あるかもしれないが、それで良い結果をもたらしているのは日本よりもアメリカのほうだ・・・と言っている。

なるほどねー。アメリカと日本の球団経営って似ているようで全然似ていなんだねー。しかし、球団を保有できるほど裕福な人ってなかなかいないような・・・。しかも、横並びを良しとする日本において、そういった突出した裕福さを他人に見せるような行為は日本ではなかなか受け入れられなさそう。

日経ビジネス 2011年12月5日号

2011年12月7日水曜日

イカに生きる意味を学んだ日

現在、博多出張中でホテルからこれを投稿している。昨晩は取引先の方のご好意で新鮮な刺し身や素敵なお酒のあるお店に連れていっていただいた。


名物の1つはイカだ。普段、食べるイカは調理され、完全に死んでしまった後のものだが、昨晩のモノは違う。まだ生きているイカだった。

うまく表現できないが、新鮮な体験でもあり、喉の奥にささった小骨のように妙にひっかかる感じでもあり・・・。

それはそう・・・なんというか、肋骨が開かれた状態の手術中の人間を、みんなでニヤニヤしながら観察しているような感覚だ。しかし、申し訳ないと思いつつも、切られた彼の体のパーツを一枚一枚ひっぺがして口に運んでいく・・・おいしいと思う・・・このパラドックス。

必死で逃げようと手足を伸ばすイカ。恨めしそうな大きな目が、突き刺さる。

残酷・・・矛盾・・・。

生きるって、こういうことの連続なのだ、きっと・・・。変なところで、先日読んだ本「ヘルプ」とつながる(笑)。




【関連リンク】
ヘルプ(書評)

2011年12月5日月曜日

僕が39歳になった意味

つい先日、39歳になった。思えば遠くへ来たもんだ・・・へへ。

39歳という年齢がどういう意味か・・・考えてみた。「40歳の一歩手前」「もう初老」「もうすぐ厄年」なんて・・・どうもネガティブなキーワードしか出てこない。

そんなくだらないことを考えながら、ふと思いだした。

そうだ、自分の母親が亡くなったのは49歳だった。

彼女が亡くなったのは私が大学生の時。それは突然やってきた。まだ受け入れられない自分がいるせいなのかもしれないが、そんな昔のことにも思えない。

そんな昔の話ではないはずなのに、今からもう間もない10年後に自分にもその年令がやってくる・・・そう考えると39歳という年齢がとたんに重たく聞こえる。

なぜ重たく聞こえるのか・・・その理由は何だろうか。

すぐに答えが見つからないが、なにか不思議と胸がしめつけられる。

また今日から一日一日を精一杯生きよう。ただ、そう思う。

2011年12月4日日曜日

書評: 世界一のトイレ ウォシュレット開発物語

今週はこの本を読んだ。

タイトル: 世界一のトイレ ウォシュレット開発物語
著者: 林 良祐(はやし りょうすけ)
発行元: 朝日新書
発行年月日: 2011年9月30日 (720円)

■開発者の生々しい苦労話が満載

”ウォシュレット”というのはTOTOの登録商標だそうだ。その誕生は、1980年にまで遡る。

『ウォシュレット開発がスタートして、まず立ちはだかった壁があった。どこにお湯を当てれば良いのか、すなわち、肛門の位置はどこか?」ということだ。そんな数値データなんてあるわけがない。開発チームは社内に協力者を求めた。・・・』

世界中に知られるようになったウォシュレットだが、開発に携わった張本人が、その歴史全てを”生々しく”語ってくれている。

「電気と水の共存をどうやって可能にさせたのか?」「1回20リットルも必要だったものが水洗をどうやって4.8リットルまで減らせたのか?」「全く文化の違うアメリカにどうやって入り込めたのか?」など、様々な疑問に答えてくれる。

■思わず仕事に役立つ知識も

かなり興味本位で買った本ではあるが、実は私の仕事に思いがけず役に立った部分もある。私は、リスクマネジメントコンサルタントであり、企業のリスク軽減またはリスクが顕在化した際の効果的な対応方法について、その仕組の導入をお手伝いしている身だ。当然、そんなリスクの1つに地震があるが、企業のビルで地震などにより断水が発生したときに、貯水槽にどれくらいの水が残っているのか、どうやってトイレまで水g運ばれているのか、一人あたりどの程度の水量を使うものなのか、などを考えなければならない場合がある。

この本はそんな疑問にも答えてくれる。著者によれば、それこそ節水よりも綺麗に流すことが至上命題であった昔のトイレでは高価なもので1回に20リットル近くの水を必要としたそうである。それが現代では、技術力を駆使して1回あたり4.8リットルですむところまできたそうだ。

ちなみに、偶然だがちょうど2日前の新聞(2011年12月2日付けの日経新聞朝刊)に「TOTO、トイレの水1リットル節約 1回3.8リットル、国内最小に」の文字が踊っていた。

■TOTOのチャレンジ精神に乾杯

ところでTOTOの技術力は世界に誇るべきものだ。今更、語るまでもない。ただ、私がこの本を読んで改めてTOTOがすごいと思ったことがある。それは、創業早くから世界に目を向けていた経営陣の意識の高さだ。日本企業は1億2千万人という、ある意味中途半端に心地よいマーケットで安穏としてしまう内弁慶な傾向がある。そんな中にあって、TOTOの目は常に世界に向いていたことが分かる。

1917年に大倉和親氏が初代社長となったとき、小倉工場の定礎の辞で「欧州の製品を凌駕し、世界の需要に答えていく」と述べたそうである。

また、今でこそロゴマークは"TOTO"と文字をかたどったものになっているが、最近まで”世界にはばたけ”という思いを込めて地球や大鷲をモチーフにしたロゴを使っていたようだ。


■日常に”笑み”をもたらす機会を

日常生活に完全に溶けこんでしまっているので、正直、この本を手に取るまで”トイレ”を意識したことなんてなかった。食事中に積極的に話すような話題でもないので、人と会話のテーマにもなりにくいといったせいもあるだろう。

しかし、日常生活において、これほどなくてはならないものはない。技術が注がれる意義も大きい。著者に言わせると、世界の6リットル便器が4.8リットルに替わると、年間2億立方メートル(ダム1つ分の大きさ)の節水と12万トンのCO2削減が見込めるそうだ。

トイレには、開発者の並々ならぬ情熱と努力が注がれている。

そして、この本を読んでからというもの、トイレに入るたびに思わず笑みをこぼしながら便器を眺める自分がいることに気がつく。


【関連リンク】
TOTO(企業の公式HP)

========ウォシュレットが機械遺産に========
日本機械学会は、生活の発展や社会に貢献し、歴史的に意義のある「機械遺産」に、温水洗浄便座「ウォシュレットG」など5件を新たに選んだと発表した。(2012年7月23日 日経新聞朝刊より)

2011年11月26日土曜日

書評: 「14歳からの世界金融恐慌」と「14歳からの世界恐慌入門」

「過去の反省を忘れ、同じ過ちを繰り返す」というのはいつの世も同じなのかもしれない

タイトル①: 45分で分かる!14歳からの世界金融恐慌
著者: 池上 彰
発行元: マガジンハウス(2009年2月26日)

タイトル②: 45分で分かる!14歳からの世界恐慌入門
著者: 池上 彰
発行元: マガジンハウス(2009年5月28日)

タイトルが「14歳から~」とあるので「そんな子供向けっぽい本、なんで手に取ったの?」と言われるかもしれない。実は、買うきっかけは著書ハゲタカで有名な真山仁氏の「レッドゾーン」のあとがきだ。真山仁氏と池上彰氏が対談を行なっているのだが、そこで池上氏が引き合いに出していたのがこれらの本だった。

■時の経過は人の痛みすらも風化させてしまう

「14歳からの世界金融恐慌」は、2008年リーマンショックが起きた背景を経済を、ほんの少しだけしかかじったことのない者でもわかるように丁寧に解説した本である。そして2冊目の「14歳からの世界恐慌入門」は、1929年世界恐慌が起きた背景と、そこから読み取れる我々のこらからの世の中の動きについて丁寧に解説した本である。

この本の著者、池上彰氏の考えの根底にあるのは「歴史は繰り返す」というものだ。1929年の世界恐慌と2008年のリーマン・ショック・・・驚くほど、数々の点で酷似している。
  • 米国の投資銀行の存在が恐慌の影響を大きくしたこと
  • 株価暴落の直後に米国の共和党政権が、なんの景気刺激策も打たなかったこと
  • 日本は世界恐慌/リーマンショックの前に既に危機を乗り越えていたこと
  • 米国が保護主義政策に走って手痛いしっぺ返しをくらったこと、などなど
もちろん、その規模も事の複雑さも過去の比ではないが、なるほど読んでみると類似している部分が多い。たとえば、世界恐慌の反省から1933年に米国ではグラス・スティーガル法を制定。一般の商業銀行が、比較的リスクの高い証券業を行うことを禁止したそうだ。にも関わらず、1980年代以降にとられた規制緩和の中で骨抜きにされていたとのこと。結局、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーなど投資銀行が2008年に起きたサブプライムローン問題に一役も二役も買ったというのは有名な話しである。

過去の反省を真摯に生かせば防げた問題も少なくなかったように見てとれる。安易に3・11東日本大震災を引き合いにだすのは不謹慎だと言われるかもしれないが、一世紀近い時間が経過する中で、過去の学びが風化してしまうというのは、人間の本質なのかもしれない。

■文字通り14歳以上の人全てが対象

「14歳からの・・・」とあるので、中高生が対象の本か?と勘違いしてしまう。わたし自身買ったはいいが、通勤電車の中で、このようなタイトルの本をカバーも付けずに読むのを少々恥ずかしいと思ったくらいだ。しかし、読んでみるとわかるが、特段中高生のみを対象にしているわけではなく、文字通り、14歳以上の人全て・・・つまり、20歳であっても30歳であっても50歳であっても、全ての人に向けた本だということがすぐにわかる。

実際、あとがきにおいて「出版社であるマガジンハウス社の社員に対して講演を行った内容を基本にまとめたもの」だと語っている。

■コストパフォーマンスはピカイチ

ボキャブラリーが少ないのでただ単に”わかりやすい本”としか表現できないのがもどかしい。どれだけわかりやすいのかというと、この本を読んだあとに、(本を見ずに)覚えていることを紙に書きだしてみたところ、8~9割のことをほぼ正確に書き出すことができたくらい・・・つまり鮮明に記憶に残るくらい、わかりやすいのだ。

いずれの本も100ページに満たない薄さ。しかし、読めばその全てが45分で頭に残る。凄くコストパフォーマンスの高い本。それがこの本に対するわたしの評価である。



【関連書籍】
『日銀を知れば経済がわかる』(池上彰)
『レッドゾーン』(真山仁)

2011年11月25日金曜日

従業員に対する気遣い

日経ビジネスをいつものようにペラペラとめくっていると、いつもと違う感覚。

「なんだろう・・・。」

ビジネス誌に、いつも見ないスポーツ紙ばりのプロ野球の写真が載っていたせいだ。

「いったいどんな趣旨で?」

見るとテーマは「マネジメントの研究 ~小川マジックの極意(ヤクルトスワローズの現監督)~」とあった。つまり、野球で大きな成果を出した監督の活動を企業経営に照らし合わせると何が見えてくるだろう、というわけだ。

わたしは”もしドラ”も読んでいないし、プロ野球の監督という職業が果たして企業経営にどこまで役立つか、には正直疑問を持つ口だ。

しかし、小川監督の次の言葉が素直に自分の心に響いた。

『こんな立場にいながらも「マネジメント」を意識したことはありません。みんなを「優勝したい」と思わせることだけに集中しています。そもそも、プロ野球選手は多様な価値観を持っていますから、彼らをまとめるのは不可能なんですね』

各選手モチベーションが異なる。お金のため、名声のため、ただ好きな野球で飯を食い続けたいため・・・。そうした価値観の違いを上手く吸収し、同じ方向へベクトルをあわせる。単純明快、経営と同じだ。

本当に今さらなにを!?と自分でも思ってしまうのだが、ふと考えると、自分は常に「顧客、顧客・・・」と顧客のことばかりを考えて仕事をしてきた。どうしたら喜ばれるかな・・・。何が彼らが望んでいる本当の付加価値なんだろうか・・・と。お陰でお客様にはそれなりの評価をしてもらってきた。

しかし、顧客のことばかりを考えるあまり、マネジメントとして重要なことが1つ完全に欠落していた。従業員の思いを考えることだ。「彼らは何を望んでいるのかな?・・・」「彼らはどうしたら幸せに感じるのかな?・・・」と。

ところでそういえば、最近「従業員第一」を掲げる企業について耳にすることが多くなったように思う。EC-Studioの山本氏の経営方針は「従業員第一」だ。従業員が満足できる環境を作れば、自然にお客様へのサービスも向上するというのがその論理だ。先日読んだハーバードビジネスレビューの記事にも、やはり、似たような企業の事例が紹介されていた。

こうした記事を読んでいるときは、わかっているつもりでいたが、それは間違いだったようだ。会社を起業してもう5年経過。今更何をを言っているのか!?と、周りからは白い目で見らる発言だとは思う。

更に一段高みに登るために、この課題を克服したいと思う・・・そんなことを思わせてくれた日経ビジネス(2011年11月21日号)でした。

2011年11月21日月曜日

書評: 人生がときめく片づけの魔法

「君の頭の中はすごく整理されているね」、と超一流のコンサルタントにおっしゃっていただいた」

そのように語った信頼のおける友人が真顔で「近藤麻理恵さんの”片づけ術”のお陰だと思う」と言うものだから、気にならないわけがない。

タイトル: 人生がときめく片づけの魔法
著者: 近藤麻理恵
発行元: サンマーク出版
発行年月日: 2011年1月15日

本を買うべく本屋に足を運ぶと、なるほど店頭の目立つところにこの本が置かれている。帯には「おはよう日本」「王様のブランチ」に著者が出演、大反響!50万部突破!の文字が踊る。

「そう言えば先週読んだ、佐藤可士和の超整理術の帯には18万部を突破!と書いてあったなぁ。こっちは50万部か・・・。そ、そそられる・・・。」

しかし、しかし・・・。タイトルがいかんともしがたい。”ときめき”というキーワードにどうも抵抗がでる。自分はターゲット読者層に入っていないのではないか? 帯に書かれている一般読者からの絶賛の声は、4人中3人が女性のものだった。売り場で30分ほど悩んだ挙句「いやいや、食わず嫌いはいけない」と自分に言い聞かせ、しぶしぶ買ったというのが正直な話しである。

■リピーターゼロの片づけコンサルタントが書いた本

この本は、(そんな職業が存在していたことすら知らなかったが)プロの片づけコンサルタントが執筆した”モノの整理術本”である。服の整理から、小物の整理、果ては書類や思い出の品の整理まで、ありとあらゆるモノの整理方法を解説してくれている。

それこそ整理術を語った本は世の中にゴマンとある。その中で、なぜこの本がそんなに注目されているのか!?

理由の1つは「決してリバウンドが起こらない整理術」をうたっているからだ。本の中で著者は片づけコンサルタントという自身の職業について次のように述べている。

『・・・そんな私ですが、じつをいうと、お客様のリピーター率はゼロです。・・・(中略)・・・自分でスッキリ片づいた状態の部屋を維持できるようになってしまうため、リピートしてレッスンを受ける必要がない、ということです』

■究極に合理的な整理術

さて、肝心の片づけ術だが「片づけ残しが起こらないように部屋単位ではなく、モノ単位で片付ける」「思い出の品物は後回し、最初に片付けやすいモノから順に手をつける。衣類、本類、書類・・・。」「生活しているときにしまう場所に迷わないように、すべてのモノに明確な所在地を作る」などなどもりだくさんだ。

中には結構、痛いところをつかれるような指摘も多々ある。

本「勉強関係の本やセミナー資料は、使わないのにいつまでもズルズルととってある典型です・・・」
わたし「うっ!・・・」
本「コード類も、なんか役立ちそうってとりあえずとってある典型です・・・」
わたし「うぅっ!!・・・」

さて、一方で「あれ!?”人生がときめく片づけの魔法”というタイトルとどうつながってるの?」という疑問がわく。驚くなかれ、実は片づけのアドバイスの1つとして「整理対象に直に触った瞬間の”ときめき”を整理の判断基準に使いなさい」ということを主張しているのである。この説明を聞いて「マジですか!?」と、思わず声に出してしまった。

しかし「50万部超の本が売れている」「信頼にたる優秀な友人がプロのコンサルをも驚かせた」というのは疑いようもない事実である。それを考えると、著者のこの言を、一笑に付すことはできない。

思うに、”ときめき”というモノサシを使う行為は、一見、非合理的に見えて極めて合理的な行為ではなかろうか。要するに「整理する際に、テクニックも大事だが、最後は自分のモノに対する直感(それも、ああ、これは遠い将来に使うかもしれない、といった思いではなく、触った瞬間に感じるその瞬間の自分の素直な思い)を大切にしなさいよ」という著者からの明快なメッセージではないか。言い換えると「これは将来使うかもしれないから・・・」とか「これはせっかくもらったものだから・・・」という別の思惑を整理の判断基準に入れてしまうことが、片づけのできない原因の一つである、と近藤麻理恵さんは言っているのかもしれない。

■信じるか信じないかは自分次第

いずれにしても著者の言っていることが正しいか、正しくないかは、自身で体験してみるしかない。実際に、わたしも自宅にある書類に対して、直に触り「ときめくかどうか」を心に問いかけて整理をしてみた。

果たして”ときめき”という表現が男児の気持ちを表すのに適切とは思えないが、少なくとも「あぁ、これがあると気分がアップする、これがないと気分がダウンする」といった基準で整理していった。あれよあれよという間に、今まで捨てるに捨てられなかったモノがゴミ箱に入っていったのである。

もしかしたら、一年後に「あぁ!なぜ捨ててしまったのか!?」と後悔するかもしれないが、そんなことがあれば、その時にはぜひこのブログに報告させていただきたいと思う。

■片づけで苦労をしてる人、思考力を高めたい人、精神的に豊かになりたい人に

ところで整理という行為そのものについて、著者は次のように語っている。

『モノが捨てられないときというのは「今、自分にとって何が必要か。何があれば満たされるのか。何を求めているのか」が見えていない状態です。自分にとって必要なモノや求めているものが見えていないから、ますます不必要なモノを増やしてしまい物理的にも精神的にもどんどんいらないモノに埋もれていってしまいます』

これはすなわち「”整理ができるようになる”ということは自分にとって必要なモノや求めているものが見えてくるようになる」ということの裏返しでもある。そう、私の友人のように。

ちなみに「整理という行為を”単に無駄なものを捨てる活動”となめてはいけない」という点では、先週読んだ佐藤可士和氏の超整理術の主張も一致している。整理・・・恐るべし。

この本は、単に整理ができるようになるだけではなく、思考力を高め、ひいては精神的に豊かになれる可能性をくれるもの、といっても過言ではない。

なるほど「人生がときめく片づけの魔法」とはまさにぴったりのタイトルだ。


【関連リンク】
佐藤可士和の超整理術
小島慶子のキラキラ(ラジオ番組にて水道橋博士がこの本を紹介する回)

===(2011年12月11日 追記)===
上の関連リンクにも反映したが、小島慶子のキラキラ(TBSラジオ:2011年12月9日の回)を聞いていたら水道橋博士の回で、近藤麻理恵さんのこの本が紹介されていた。まさにティッピング・ポイントの域に到達したのかもしれない。

2011年11月15日火曜日

書評: 佐藤可士和の超整理術

「仕事ができるかどうかは、机の上を見れば分かる」

ある意味、この言葉の正しさを証明してくれる本だ。

タイトル『佐藤可士和の超整理術』
著者:佐藤可士和
発行元:日経ビジネス文庫 価格:750円


この本を買ったきっかけは数年前に見たNHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」だ。佐藤可士和氏がSMAPやキリンレモンなどのプロモーションでの大活躍ぶりが紹介されていたことは、今でも鮮明に私の記憶に残っている。

■空間の整理=情報の整理=思考の整理

さて、そんな佐藤氏が書いた本のタイトルは『佐藤可士和の超整理術』。”整理”と聞くと、モノの整理整頓!をすぐに思い浮かべる(実のところ、私もそのつもりでこの本を買ったのだが (^_^;))。ところが、ここで氏が言う”整理”とは、大きく次の3つのことを指している。
  • 「空間」の整理(※これが一般的に我々が連想する物理的な整理のことだ)
  • 「情報」の整理
  • 「思考」の整理
本の帯にも書かれているのだが、つまり一言で言えば「整理力をつけて問題解決力を養おう」・・・それがこの本の趣旨だ。著者に言わせれば「空間の整理」も「情報の整理」も「思考の整理」も、実は全て同じ活動の延長線上にあるのではないか、そして「思考の整理」の前段階に、「情報の整理」があり、「情報の整理」の前段階に「空間の整理」があるのではないか、というわけだ。さしずめ整理の初歩段階的活動とも言える「空間の整理」ができずして「思考の整理ができるのか」といったところだろうか。

整理とは”不要なモノを捨てること”と国語辞典にはあるが、なるほど著者の言うとおり、それは裏を返せば「自分にとって大事なものは何か」を選ぶことに他ならない。つまり、整理をする際には本来、その対象が何であっても、

「何を捨てるのか」 → 「何を残すのか」 → 「何で重要なのか(何に使うのか)」

といった思考プロセスを踏むことになる。

■著者の整理プロセスを疑似体験できる

”問題解決力”などという言葉を使い出すと「尤もらしく聞こえるが、抽象的な言葉ばかりが羅列されたぼんやりとした解説本なんじゃないの?」という疑念がわく。

そこはさすが経験豊富な佐藤可士和氏。それぞれの整理のあり方について、彼が実際に実践して結果が出たもののみを採用し、理由から実践の方法まで事細かに解説してくれている。ちなみに「空間の整理」で鞄の整理について触れているのだが、私は早くも私生活に取り入れて効果を得ている。

「情報や思考の整理」については、私自身がコンサルタントであることから、整理術そのものにそこまでの目新しさがあったわけではないが、それでもやはり業界の最前線で活躍するプロ中のプロの整理プロセスを共有できることは大きな財産である。どうやってクライアントから情報を引き出し、整理し、具現化させたのか、あたかも私自身が佐藤氏の現場にいると錯覚してしまうかのように、彼の頭の中をさらけだしてくれている。しかも、ありがたいことに彼がその結果として実際に作り上げた作品(写真)も掲載されているので、頭の中だけでなく視覚にも訴えかけきて、読んでいて何か頭がすっきりする。

■アート/クリエイティブディレクターが整理の達人たる所以

ところで「アート/クリエイティブディレクターなんぞが、なぜ整理の達人たるのか?」という疑問を持つ人もいるかもしれない。本の1章でその理由について触れられているので、あえてここで細かくは言及しないが、要するにコンサルタント・・・すなわち思考のプロだからである。「こんな製品を作ってこんな消費者に売りたい」と思うクライアントがいたとしても、具体的に何を誰にどうやって訴えればいいか分からない人が多い。それはクライアントの頭が整理されていないからだ。コンサルタントは、クライアントに的確な質問を投げ、奥底に眠った情報を引き出させ、整理させ、目に見える形に落とし込む。そういった行為をほぼ毎日、大企業の最前線で実践してきている佐藤氏は、整理について達人の域に達しているといっても過言ではないだろう。

■自らの身の回りを今一度、確認

影響を受けやすい私は、この本を読み終えた直後、自分の机の上を見てみた。汚かった。いつも「時間がない、ない」と時間のせいにしてしまっているのだが、それは単なる言い訳で、要するに、何が必要で必要じゃないかの判断と決断力・・・総じて整理力が弱いということの証明だ。

と、いうわけで慌てて仕事机を整理整頓してみた。何となく気持ちの良く整理された机の上でこの記事を書いたわけだが、その効果はいかに・・・。



【関連リンク】
 ・人生がときめく片づけの魔法

2011年11月6日日曜日

書評: The Help (ザ・ヘルプ)

「人間がいかに残酷になれるか」「人間がいかに矛盾だらけか」「人間がいかに強くなれるか」

その全てが、この小説に詰まっている。

The Help(ザ・ヘルプ) - Change Begins with a whisper -
著者: キャサリン・ストケット
出版社: Bakley (英語版)
※日本のAmazonでも1,000円を切る値段で入手できるみたいです


正直に言っておくと2011年11月現在、残念ながらまだ日本語訳は出版されていない。私が読んだのは英語版のペーパーバックだ。では、なぜ、わざわざ英語版なんぞを取り寄せて読んだのか?

映画評論家、町山智浩氏のラジオ番組(小島慶子のキラキラ)での同作品の映画紹介がきっかけだ。彼の解説が面白く、これはぜひ観てみたいと思ったのだ。ただし、映画も日本では未公開であるため、せめて原作の小説だけでも・・・その思いから手を出したというのが事の次第である。

■黒人メイドに育てられる白人家庭の子供がやがて黒人差別をする世界

舞台は1962年、アメリカはミシシッピー州、ジャクソン市。激しい人種差別が存在していた時代だ(※ちなみにマーティン・ルーサー・キング牧師は1968年に暗殺された)。黒人は白人の病院で治療を受けられない。黒人は白人と同じバスに乗ってはいけない。同じテーブルに座って食事してはいけない。黒人は得体の知れない病原菌を持っているから(完全にでっちあげである)トイレも別にしなければいけない。万が一、黒人メイドが雇い主と同じトイレを使えば即刻クビ。雇い主が黒人メイドを気に入らなければ嘘をでっち上げて盗人扱いし牢獄にぶちこむ、といったことも日常茶飯事。白人と仲良く話しているところを見られたら、誰かに刺されてもおかしくはない世界。

白人家庭のメイドとして働いていた黒人アイビリーン(Aibileen)は、つぶやく

『時間をもてあましているはずの白人女性がほったらかしにする子供達の世話を、メイドである自分が(私の子供達は私の世話を受けたくても受けられないのに)、一生懸命に見る。しかし、育ったその白人の子供はやがて親と同じように自分(黒人)を差別する者として育っていく』

「何かがおかしい・・・」

そう思っても、行動を起こすどころか、誰も怖くて口にすることすらできない。

編集者志望の白人女性スキーター(Skeeter)は自分が、子供の頃、黒人メイドコンスタンティンに愛情一杯に接してもらえていたことを良くわかっていた。しかし、ある日、家に戻ってみると彼女がいなくなっていた。絶対、何かがあったはずだ。しかし、母親に問い詰めても本当の理由を語ろうとはしなかった。

「何かがおかしい・・・」

スキーターをはじめ白人女性の中にも、そう思う人達は少なからずいた。しかし、そんな疑問を口にすることすら許されないのは黒人と一緒である。

『編集の仕事につきたいのなら、日常生活の中で”おかしい”と思うものにアンテナをはって、それについてとにかく書いてみることだ』

そんなプロのアドバイスを受けて、彼女は決心する。黒人にとって白人家庭でメイドとして働くことはどんなことなのか、それについて書こう・・・と。

■遠い時代、遠い世界の話に聞こえるが、ものすごく身近に感じる小説

英語でしかも500ページ強もあったために読み終えるのに2週間かかってしまったが、一度読み始めると目を離せなかった。来年日本では映画も公開されるという。原作を読み終えた今、ぜひ観たいと思う。なぜ、ここまで惹きつけられるのか?

一番の理由は、この本が、遠い時代・遠い世界の話のようで、いつの時代・場所でも変わらない人間の本質について語っているからだと思う。私がここで述べる本質とは「人間はかくも簡単に残酷になれるのか」ということ、「人間はいかに矛盾だらけか」ということ、「人間はいかに強くなれるか」ということ、だ。

「人間はかくも簡単に残酷になれるのか」・・・それは先に例を挙げたとおりだ。「人間はいかに矛盾だらけか」・・・同じ町にいる黒人にひどい差別をしている傍らで、よかれと思って白人の奥さん連中が疑念も抱かずに”アフリカ難民のためにチャリティで募金を募っている”。こんな皮肉はない。矛盾はもっとある。自分は差別する側の人間と思い込んでいる白人女性は実は男性に・・・、そして差別されていると思っている黒人達は、実は知らず知らずのうちに自分達も白人を差別、つまり差別する側にも立っている。「人間はいかに強くなれるか」・・・このような想像を絶する状況下においても黒人達は毎日を精一杯に生きている。そして何かを変えようと行動する。ちなみに町山智浩氏によれば映画版はコメディとして描かれているそうである。この本も決して悲しくてどうしようもない話ではない。

これらは、今の世界、今の日本にも、当てはまる部分があるのではなかろうか。

補足だが、もう1つ読者を惹きつける理由として挙げておきたいのが、本の構成だ。おおよそ2章ごとに主人公が入れ替わる。黒人メイドのアイビリーン、黒人メイドにミニー、そして白人女性のスキーター。3人の視点で世界を眺めるので、この三者が交わるイベントが発生した際には三者の気持ちが良く分かり、話全体にものすごくシンクロできるようになっているのだ。

これが著者キャサリン・ストケット氏の処女作というのだから、末恐ろしい話である。

■来年には日本語版が出ると思われるので、その際にはぜひ!

英語が分かる人は、原作を是非読んでいただきたい。そうでない人も、来年は日本で映画公開(3月頃らしい)されると言うのでぜひ観て欲しい。さらにその際には(推測だが)小説でも日本語版が出ると思われるので、ぜひ読んで欲しい。心からそう思う。他の人に強く勧められる数少ない本の一つだ。



【関連リンク】
The Help (映画公式サイト;英語)
The Helpの映画評価(IMDb)
イカに生きる意味を学んだ日(わたしのブログ)

2011年10月24日月曜日

ズームアップマイク

日経ビジネス2011年10月24日号。
日経ビジネス2011年10月24日号
本誌で紹介されている”ズームアップマイク”・・・という技術に興味がわいた。これは、30メートル離れた場所の音だけを明瞭に拾うことができる新技術だ。NTTが目下開発中らしいが、試作機はもうできているようだ。

知らない間に、色々な技術が出るものだなぁ。

セミナー会場で、マイクがなくとも出席者の質問を拾うことができたり、サッカー選手のフィールド上での声を拾うことができたり・・・と、用途はつきない。

これから注目だ。

2011年10月23日日曜日

書評: 運命の人

作風が大好きでほとんどの作品を読んできた。そして今回、ついに彼女の最新作「運命の人」を読むことができた。

「運命の人」(全4巻)
著者: 山崎豊子
発行元: 文春文庫

■1人の男を通じて見る沖縄返還史

時は、昭和46年。主人公は、毎朝新聞政治部記者、弓成亮太(ゆみなりりょうた)。政治家・官僚に食い込む力は天下一品、自他共に認める特ダネ記者。沖縄返還をめぐる鮮烈なスクープ合戦の中、弓成自身が、妻が、同僚が、仲間が・・・強大な国家権力の渦に巻き込まれゆく。

この本は、一言で言えば、1人の男の生き様を通じて戦後沖縄と沖縄を取り巻く世界を見つめ直す小説だ。

■山崎豊子節は健在

山崎豊子節は健在だ。作風は彼女の過去の作品、「沈まぬ太陽」「不毛地帯」を思い起こさせる。いつもものすごく近くを見ているようで、どこか遠くを見ている感じがする。全4巻だが、最初の1~2巻を読み終えても、話がどこに向かって進もうとしているのかが全く分からない。それがもどかしくもあり、エキサイティングでもある。

主人公、弓成亮太は山崎豊子氏のレンズであり、そのレンズを通して何かを訴えかけようとしている思いが伝わってくる。

■40年経つ今も何も変わっていない

小説の舞台は、今からなんと40年も前のこと。しかし、古くささを感じない。驚くべきは、今のこの時代2011年・・・この瞬間で起きている出来事と、小説で語られる当時の出来事が非常に似通っている点だ。沖縄を取り巻く、その全てが現代とシンクロしている・・・そんな印象だ。

沖縄国民の感情は、政治家・他の日本国民には、どこまでいっても他人事・・・。

我々は何も変わっていない、いや、学んでいない・・・そういうことなのだろうか。

■タイトルからは想像できない奥深い世界

これ以上、この本について語ろうとする、ついうっかり中身のことをしゃべり過ぎてしまいそうで怖いので、今回はこの程度にとどめておきたい。内容の濃い4冊でありながら、あっという間に読破してしまう・・・それだけ面白い作品ということなのかもしれない。特に、山崎豊子氏の作風が好きな人には、はずせない一冊ではないだろうか。ぜひ読んで欲しい。

【関連リンク】
 ・運命の人 in 渦中の人(ブログ)


バレンタイン17年 ウイスキー

Ballantine(バレンタイン) 17年!!!

バレンタイン17年

つい最近、いただきまして・・・。自分自身ではもちろん手が出ないウイスキー。

最初は、まずストレートで・・・

ん、ん・・・んん!?・・・誤解を恐れず言うと、正直、セ○ダインに似た感じのにおい・・・。まぁ、ウイスキーはみんなそんなものか・・・。

しかし、一口、飲んだととたんマイルドーーー。おおおおーー。嬉しいーっ! いや、おいしいっす。

次に、ロックで・・・。

おお、おおおっ、おおおおおおおおおおおっ!・・・さらにマイルドに・・・。

私にはロックが一番おいしいかもしれない・・・。

ちびちび飲むことにしますが、後、何日持つことやら・・・。

2011年10月18日火曜日

心がとてもポカポカする

ここ数年、心がとてもポカポカしている。

最近嬉しかったこと。

小学校一年の息子が野球に興味を示し始めた。

彼には偏見無く色々なものにトライして、好きなモノをやって欲しかったので、サッカーや野球、ドッジボールなどやらせてきたが、どうやら野球に焦点が絞られてきたようだ。そして、そんな彼が、日に日に投げられる距離が伸びている。また、ボールをグローブに収めることが、ついほんのおとといまでできなかったのだが、突然、昨日できるようになった。そしてキャッチボールができるようになった。それが嬉しかったのか、家に帰ってくると、こっちが何も言わずともグローブを磨き始めた。精神的に上手くまわっているときは色々なはぐるまがかみ合うのだろう。勉強も、あまりこちらから言わずとも手をつけるようになった。

娘は3歳にして早くもおしゃれに目覚め始めた。

先日、西松屋に行ったら、自分で服を選ぶ!といいだし、これだというものを見つけたらそれ以外にもう目がいかなくなったよう。妻に言わせると、センスも悪くないらしい。それに彼女は頑固だがとてもやさしい子だ。3歳の女の子にとって野球など楽しいはずもないのに、お兄ちゃんについていく!とついてきた。すぐに飽きて「帰りたい!」って言うだろうと思ったが、私が息子に野球を教えている間、何も言わずに横で1人黙々と遊んでいた。そんな彼女に先日、どうしても欲しいというので、ピンクのリュックを買って上げたら、これ以上のうれしさはないとばかりに、毎日、背負っている。昨日、買い物にでかけたのだが、そのときも常に背負ってくる始末だ。

「本当は幸せなのに、それに慣れすぎて幸せに感じられない・・・」

そんなことにならないよう、これからも常に有り難みや感謝を忘れずに生きてゆきたい。

円高対策が必要な理由

日経ビジネスに東レ社長の日覺昭廣(にっかくあきひろ)氏の記事が載っていた。東レと聞くとユニクロ!とかボーイング!とか、研究開発!といったキーワードが頭に思い浮かぶ。いずれも同社の強さを印象づける。


さて、東レ・・・実態はどれだけ凄いのか。先日、せっかく四季報の読み方本を読んだばかりなので、まずは四季報を手に財務諸表をチェック。ふむふむ・・・売上高は、1兆5千億円を超える。おおっ、1兆円企業。営業利益率は6%強。セグメント別に見ると、国内56%、海外44%の売上比率。事業内訳では、やはり繊維は全体の売上の4割近くを占めているが、情報通信関連が2割近い数字を占めている上、利益率も16%とダントツだ。

東レの売上高(経年変化)

「繊維の会社における情報通信事業って何だろう?」

と思い、ホームページを調べてみると、同社のアニュアルレポートに、情報通信関連フィルムや電子回路・半導体関連材料と書いてあった。薄型テレビのフィルターやパソコンの回路の材料の一部に使われる素材を生産しているようだ。なるほどねぇ。

そんな立派な会社の社長が何を今一番気にしているのだろう・・・と記事を読んだわけだが、やはり円高が一番の懸念材料のようだ。

「円高? そんなに円高が怖いなら海外に100%出て行けばいいじゃないか?」

と思う人もいるだろう。私も安易にそう思っていた口だ。しかしこれに対し東レ社長は次のように語っている。

『ここ3~4年のことを考えれば、国内工場をすべて閉めて海外に持って行った方が利益率は高くなると思いますよ。・・・(中略)・・・だけど、全てを海外に移管して5年後、10年後はどうかと言えばおそらく競争に負けて終わりでしょうね。研究開発拠点である国内の重要性は今後も変わることはありません』

なぜ、10年後は競争に負けるのか・・・その根拠は語られていなかったが、東レの強さの源(コアコンピタンス)は日本でこそ作られる・・・だから海外へ行ったら、いずれ負けてしまう・・・そういうことなのかもしれない。言い替えれば、企業のアイデンティティーに、その企業が生まれた国の文化や風土が欠かせないということなのかもしれない。

あるいは個人的には、これについては小説ジュラシックパークのイアン・マルコム氏が語っていた一説が思い起こされる。

「何事も一極化すると大きな波(変化)がきたときにあっという間に淘汰されてしまう」

100%海外に出てしまうと、何か大きな転換期を迎えたときに、柔軟に対応できる力が残っておらず、つぶれてしまうリスクが高まるのではないか。

日覺昭廣(にっかくあきひろ)氏の主張をまとめると、次のような感じになる。

円高 → 東レはローエンド製品の海外生産シフト&ハイエンド製品の国内での開発で対応 → 一層の円高 → 他社はいよいよますます海外へ → 東レの作るハイエンド製品の使い手自体が国内からいなくなる → 自分たちも海外へ行かざるを得なくなる → 日本には何が残る?

つまり、(1ドル60円だとか50円だとかいう)円高がもたらす行く末は、日本企業の衰退を意味していることになる。

しかも、自分たちさえ頑張ってれば、なんとかなるわけではない・・・というのがミソだ。

東レ社長の言うように、やはり、より積極的な円高対策・・・これが必要ということなのか、と考えさせられた。

日銀は・・・政府は・・・果たして、何ができるのか(私には、このあたりについて、いいアイデアなんて当然思いつきませんが・・・トホホ)

日経ビジネス2011年10月17日号

【関連リンク】
東レ(公式HP)
ジュラシックパークの小説(Wikipedia)
トヨタ、日本のための「籠城戦」

2011年10月10日月曜日

書評: 中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか

日本は中国という国を正しく理解しているだろうか?
中国は日本という国を正しく理解しているだろうか?

雑誌VOICE2011年9月号を読んでいたとき、そこで「中国で最も有名な日本人」という若者の存在を知った。彼の北京大学での学生生活時代のエピソードや中国文化に対する考察を読み、自分はあまりにも中国のことを知らなすぎる・・・そう気づかされた。そんな彼が日本で本を出版したという。

■「中国人はなぜそれをやるの?」の答えが分かった

この本は、人生の前半17年間を日本で、後半(大学生以後)9年間を中国で過ごし、両方の文化を肌身で体験した若者が、両国の違いについて語った本である。目次を見れば、おおよそどんな内容の本であるかが見えてくる。
  • 中国人は、なぜ感情をあらわにするのか
  • 中国人女性は、なぜそんなに気が強いのか
  • 中国の「八〇後」は、30歳にして自立できるか
  • 中国人は、なぜ値切ることが好きなのか
  • 中国人は、なぜ信号を無視するのか
  • 中国の大学生、特にエリートは真の愛国者なのか
  • 中国はなぜ日本に歴史を反省させようとするのか
  • 中国は、実はとっても自由な国だった!?
  • 中国は、既に安定した経済大国なのか
  • 中国は計画が変更に追いつかない!?
  • 中国では「政治家」と「官僚」は同義語!?
  • 中国の「ネット社会」は成熟しているのか
  • 日中関係は、なぜマネジメントが難しいのか
  • 中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか
もちろん、私には知らないことだらけ。とても勉強になった。中には、自分がいつも思っていた次のような疑問についてドンピシャリ、明らかにしてくれた。

海外で駅の切符売り場などに並んでいると、中国人はいつも平気で横から割り込んでくる。本当に平然とだ。「どういう神経構造をしているんだ!?」と都度、そう思ったものだ。本を読むと、加藤嘉一氏自身(著者は現在、中国在住だ)、そんな経験を毎日していると言う。しかし、それについて加藤氏は次のように語っている。

『自分の欲しいものを、手段を選ばず手に入れようとしなければ、馬鹿を見る - こう考えているから、中国人は、公共の場において、なにひとつはばからない』

なるほど、正直者が馬鹿を見る社会と、そうでない社会にいる者の違い・・・。そういう見方をすると腑に落ちる。ただし、最近は日本社会でも原発事故の政府対応に代表されるように「正直者が馬鹿を見ることもある」という事件・事故が徐々に増えつつあるような気がするが・・・。

■著者は、どのように日本のことを外に伝えているか

著者は、中国でブログを開設して以来、3ヶ月500万、半年で1,000万、現在2,500万アクセスを突破したそうである。この他にも、英フィナンシャルタイムズ中国語版コラムニストをつとめ、香港フェニックステレビでコメンテーターをつとめるなど大忙しだ。こうした活動の結果、受けている取材の数は年間300以上にも及ぶそうだ。「日本と中国の架け橋として活躍したい」というのが本人の希望だそうだが、もはやそれを実現しつつあるようにも見える。

ところで、本の中で「なぜ日本人女性は専業主婦という社会的に男性より劣っている地位に甘んじていられるのか?」という中国人女性の疑問に対して、著者が次のように答えている。

『日本の女性が重い負担を嫌がらないのは、一家の財政をコントロールしているからだ』

私は、これが必ずしも、日本の今の姿を正しく伝えていないように感じた。これは答えの一部にしか過ぎないのではないだろうか。いや、それ以前に、そもそも”専業主婦=社会的に劣っている地位”という疑問の出発地点が正しくないようにも感じる。

架け橋になるほどの影響力を持つ、ということは、逆にそれだけいい加減な発言ができなくなってくるという意味でもある。「中国人が持つ日本人像」という者が、著者の持つ日本人像の投影になる可能性があるわけだ。この点については、著者が日本人だから、いや日本に住んでいたから、と言って日本人像を正しく理解しているとは限らない。著者には、日本人というものをこれまで以上に理解して外国に発信していってもらいたい、そう願う。

■裸の王様にならないために読むべき

日本では中国のことを理解している人は、まだまだ、ほとんどいないのではないだろうか。冷静に考えれば当たり前のことかもしれない。

韓国については、それこそ色々な形で報道されているし、日本のテレビにアイドルが頻繁に露出するなど、知る機会が多い方だが、中国について我々が知る機会というのは、決して多くない。私が触れる機会なんて、たまに起きる日本を敵視した暴動ニュースくらいだ。しかもそうした暴動も、中国全土で起こっているものではなく、ごく一部の地域の若者(言ってみれば、先日の花王に対する韓流デモ程度のようなものだろうか)が起こしたものであることが多いと聞く。しかし、我々はこうした一部のニュースにのみ左右され、「中国はなんて怖い国なんだ・・・」という誤った印象を持ってしまう。

「中国は、情報統制されて正しい諸外国の事情を把握できず、かわいそうな国だよね」という声を良く聞く。しかし実は、我々日本人こそが正しい外国の情報を実は把握できていない・・・いや、把握できていないという事実に気がついていない」

そうなのだとしたら、それこそ情けない話だ。裸の王様にならないためにも、こうした本を読む機会を増やすことは大事だと感じた。


【関連リンク】

【”中国を理解する”という観点での類書】
2014年、中国は崩壊する(宇田川敬介著)

2011年10月7日金曜日

ディズニーランドが東日本大震災という苦境を乗り越えた理由

”東日本大震災での対応が素晴らしかった企業の1つ”と言えば、ディズニーランドの経営で有名なオリエンタルランド社が思い浮かぶ。従業員の9割がバイトという社員構成でありながら、迅速かつ懇切丁寧な来場者への対応で数万人の安全を確保した。その手際の良さといったら見事というほかない。

実際、同社6月の株主総会では、経営陣に対して賛辞の声があがったそうだ。TBSテレビでは特集が組まれ、その対応の素晴らしさについて専門家の方も素直に褒めていた。地震、液状化、数万人の帰宅困難者、不要不急のビジネス・・・こうしたネガティブキーワードのオンパレードの中にありながら、賞賛を浴びるにいたった事実を単に偶然と片付けることはできない。

さて、そんなオリエンタルランド社の方から最近、同社の地震対策について話を聞くことができた。

「同社のいったい何が最も評価されるべきことなのか?」
「我々が学べる点はどこにあるのか?」

私自身の率直な感想を以下に触れておきたい。

同社の対応について、震災後良く語られるソフト力とハード力・・・テレビでも報道されていたが、この両方についてバランス良く対策が取られていたのは間違いなさそうである。ソフト力という点では、年180回の防災訓練に裏付けされた従業員1人1人の防災スキルの高さはもちろんのこと、「自分たちがお客様を守らなくて誰が守るんだ」という現場での当事者意識の高さが際立っていたように思う。ハード力という観点では、最悪のシナリオを想定した備蓄管理(5日間数万人分の水と食料の確保をしていた)、独自のレスキュー車の所有、液状化への事前の備え、リスクファイナンス(保険の一種)の用意、といった点を挙げることができるだろう。

ただし、これらを”彼らがとってきた対策そのものが素晴らしかったから良い結果が出たんだ”と、安易に片付けてはいけないと思う。

本当に着目すべきは「何故これだけの対策をとる気になったのか」・・・という理由そのものではないだろうか。

「どうして従業員は当事者意識が高かったのか」
「どうして年180回も防災訓練をしようと思ったのか」
「どうしてそこまでお金をかけて液状化対策を実施してきたのか」
「どうしてレスキュー車まで自社で保有する気になったのか」

思うに、理由はいくつかあるだろうが、その1つには「従業員誰もが、ディズニーランドという夢の国の世界の一員なのだ」という意識付けを会社が徹底的に行ってきたことにあると思う。オリエンタルランド社では、従業員のことをキャスト(出演者)と呼んでいる。

そして何よりも最大の理由は、オリエンタルランド社の経営方針やコアコンピタンス(強み)・・・いやレゾンデトール(存在意義)が、マネジメントをはじめ社員全員にはっきりと理解されていたためではなかろうか。そうしたものを守らねばならない・・・と理解されていたからこその、こうした対策だったのではないか。

オリエンタルランドの経営方針には次のようにある。

『我が社のミッションは、自由でみずみずしい発想を原動力に すばらしい夢と感動 ひととしての喜び そしてやすらぎを提供することである』


※リスクファイナンス
リスクの顕在化に備える資金面での対応のことであり、同社のケースでは、災害規模(被害の程度ではなく、発生した地震の大きさに比例させて)一定額が速やかに支払われる保険を特別に組んでいた、と言われている。

【関連リンク】
・東日本大震災後に同社への影響を心配した私の記事
・オリエンタルランド社(企業ミッションをうたったHP)

2011年10月6日木曜日

1つの大きな歴史の幕が降りた日

2011年10月5日(アメリカ時間だと10月5日)、Apple社のスティーブ・ジョブズ氏が亡くなったと全世界で報道された。心から、ご冥福をお祈りします。

Apple本社のトップに掲載
Apple本社のジョブズを追悼するメッセージ
CNNのトップ画面
BBCのトップ画面

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...