2015年12月30日水曜日

書評: 日本企業の組織風土改革

最近、新聞を賑わせている事件・・・東芝や朝日建材、東洋ゴムの二の舞を繰り返さないようにするためにはどうしたらいいか、どうしてそうなってしまうのか、そうならないためにはどうしたらいいのか・・・について、ヒントを示す本だ。

日本企業の組織風土改革 〜その課題と成功に導く具体的メソッド〜
著者:柴田 昌治
出版社:PHPビジネス新書


組織風土改革と文字で書けば簡単に見えるが、そんな容易な命題じゃない。これまで色々な会社でもその必要性が説かれ、認識され、実施の努力がなされてきたはずだが、ほとんどは不成功に終わっている。組織が抱えている問題を掘り下げてゆくと話題が「企業文化」に落ち着くことが多い。しかしながら「では、どうやって変革するか」という点に話がのぼると、深く議論されずに終わるか、「結局はトップの姿勢だよね」などといった安易な解決策に帰結しようとしてしまう傾向が強い。本書が興味深いのは、そこをさらに掘り下げて、もう一歩先のアプローチを示そうとしている点だ。

少し、虎の巻に触れておくと、「コアネットワーク」が解決の鍵になると著者は主張する。「コアネットワーク」とは、著者曰く「良い会社にしたいという内発的な強い思いをもった多様な人間が「思い」を共有するという一点で結びついていく”要”」だそうである。このコアネットワークを作りいかにこの輪を広げていくか・・・それに尽きるというのだ。そして、本書はその一点にフォーカスして、解決策を説いた本といってもいいだろう。

さて、この本。読んでみると、時折、そうそう、それ、あるある!・・・とうなずかされる場面が多かった。自分もよく経験しているから分かる。

『(良く課題を見つけようとして色々な人にインタビューをすることが多いが)入社20年目の社員から話を聞く場合は、人を選ばないと問題の本質に迫るような有益な情報は得られない。本人には問題のを「隠している」という意識がそもそもない場合も多い。問題を問題として捉える感性がすでに失われているからだ。』(本書より)

そしてコアネットワーク醸成の話。もっともな話ではある。納得感もある。総じて「まぁ結局、近道はないよね」・・・というのが正直な感想。地味に地道に丁寧に醸成していく必要がありそうだ。本書のサブタイトルには、具体的かメソッドとあるが・・・改めて自分の考えを整理できたという意味では価値があったと思う。

コンサルタントが書いた本なので、コンサルタント業を行っている人にとって有益となる本だが、組織内部に変革を起こしたいと頭を悩ませている経営陣や事務局の人・・・管理職の人には、何をするにせよひとつのヒントになるだろう。


2015年12月29日火曜日

書評: 虚構の城

あらすじは、こうだ。出光興産(小説上は大和鉱油)を舞台にした小説。主人公は、エリートエンジニア田崎健治。特に大きな不満もなく勤めていた主人公。ある日、部下の一人から、労働組合結成の相談が舞い込む。相談内容がなんとなく気になった田崎は、この件を同期に相談。するとその直後に、あっという間に左遷される。理不尽さを覚えながらも、腐らずに、左遷先の東京で仕事に邁進する田崎だったが、大和鉱油の異常なまでの労働組合タブー視の雰囲気に違和感ばかりが募ってゆく・・・。

虚構の城 完全版
著者:高杉良
出版社:角川文庫



さて、感想だが、2つの観点から触れておきたい。

1つは物語としてどうかという観点。この点では、なかなかの秀作だ。一気に読めた。上司と部下、官僚と民間社員、キャリアとノンキャリア、妻と夫、男と女・・・。人間同士のぶつかりあいの描写を通じて、人間の生臭い・・・けどリアルな素顔が、さらけだされている。出光興産という舞台が絡んでなくても、魅力的である。

もう1つの観点は、出光興産を描いた物語としてどうかという点。描かれている範囲は一時点の話であり広くはなかったが、田崎というごく普通の社会人の目線を通して、出光興産の特徴を見事に浮き彫りにしている。ちなみに、実はこの小説、知人から勧められて読んだ。私に勧めてくれた彼のコメントはこうだ。

“海賊と呼ばれた男”(百田尚樹)を読んで、出光興産や創業者の出光佐三を理解したつもりなら、まだ甘いですよ。この本も読んだ方がいいですよ。僕も勧められて読んで、なるほどな、と思わされました。」

実際「海賊と呼ばれた男」は読んでいたし、感動もしていた。彼のこのコメントは私の関心をくすぐるのに十分だった。で・・・読んだ。「あぁ、なるほど、そういうことねー」というのが率直な感想だ。要するに、出光興産の影の部分が描かれているのだが、あそこまで強烈なカリスマを持つ組織であれば、それもあり得るだろうなぁと思う。不思議と、この小説の描き出した出光興産の世界観が違和感なく、自分の心に入ってきた。

「海賊と呼ばれた男」・・・間違いなく面白い小説だったが、考えてみれば、あの小説に描かれていた内容は、あまりにも美しすぎた・・・と言えるのかもしれない。負の側面が一切でてこないからだ。

誤解の無いように言っておくが、もちろん、「海賊と呼ばれた男」や、出光興産自体のことが嫌いになったわけではない(まぁ、すごい好きというものでもなかったが)。創業者の偉業がなくなるわけではない。誰にでも、どんな組織でも、正の側面もあれば、負の側面もある。一つ負の側面があったからといって、全てが否定されるわけではない。大事なのは、これからだ。こうした事実をもとに、これからの組織や人がどうあるべきか・・・考えてゆくことだと思う。

小説でありながら、ここまで考える機会を与えてくれる本も珍しい。私同様、「海賊と呼ばれた男」を既に読んだ人は、偏った見方にならないために読むべきだし、その逆もまたしかりだ。さすが、高杉良。

2015年12月28日月曜日

書評:問題解決のジレンマ

タイトルが魅力的だった。自分の仕事がコンサルティングなので、また少しでもヒントになりそうなことがあればラッキーと思い、手を出した。

著者:細谷 功(ほそや いさお)
東洋経済新報社


そして読んで見て・・・結論から言えば、うーん、という感じ。私(コンサルティングを生業にしている者)がそもそもターゲットじゃなかったせいだろう。それにしても、なんか小難しい。いったい誰をターゲットにしたかった本なのか。初心者に対してであれば、息苦しくなるような内容だし、玄人に対してであれば、わざわざなぜそんなに回りくどく説明するのか、というような内容だ。

本書は、問題解決の際に誰もが陥りそうな落とし穴とその回避方法を、極めて論理的に分析・解説しようとしたものである。落とし穴とは、著者の言葉を借りて言えば「既知の既知」の世界のことである。世の中の問題を解決するのに、誰かが用意した試験問題を解くことで解決しようとしている人が少なくない、と指摘する。言い換えれば、「与えられた問題(やルール)が世の中の全て」と思いこんでしまい、それを解くこと(あるいはその中で戦うこと)だけに終始してしまうと言うのである。

私も仕事上、良くあることだ。あるお客様先に行くと、「A案がいいのか、B案がいいのか」で社内で何時間も議論していて結論が出ないという。「コンサルタントであるあなたはどっちを勧めるのか?」と問われる。ここで「Aなのか、Bなのか」といった問いの解答を考えようとするのが、著者の言う“落とし穴にはまった状態”だ。最初に自分が解く問題は「何を求めてAかBかの選択肢になったのか?」であるのに・・・。

ジレンマから抜け出すには、ソクラテスの唱えた「無知の知」・・・すなわち、「自分がわかっていないことを分かること」だが、問題はどうやってその境地に達するかだ。本書は、そのヒントを、先に挙げたような既知の既知や、既知の未知、未知の未知といった言葉の定義を通じて、様々な角度から解説している。中盤では、アリとキリギリスの話まで登場する。

ちなみに、ジレンマから抜け出す手段の是非や著者の意図はともかくとして、個人的に印象に残ったのは、やはり「無知の知」の重要さである。行き着くところまで行き着いた賢者たちは、みな「無知の知」が終着点のようだ。ソクラテス、ピータードラッカー・・・。そう言えばタロジロ物語のモデルにもなった西堀英三郎氏も、著書「石橋を叩けば渡れない」の中で、「モノゴトは決して思い通りには動かないという事実を認識しておくことが最大の対策だった」と経験談を語っている。私自身の人生でも思い当たることが多い。トラブルを起こした人間は、自分を客観的に見れてない(自分ができないことがわかってない)人が圧倒的に多かった。

そんなわけだから著者の指摘は全くもってなるほどとうなずける内容だが、やはり小難しい。「無知の知」の境地に至ってない人が本書を読んで、果たしてその大切さや、自分がそのような状態に陥っていることに気づくのか・・・少なくともそんなことを狙った本ではなさそうでる。「無知の知」の大切さが分かってはいるが、どう自分の部下に説明したらわかってもらえるか悩んでいる・・・そんな上司には、著者の言葉遣いや整理の仕方が役立つのかもしれない。


2015年11月28日土曜日

書評: もしも、あなたが「最高責任者」ならばどうするか? VOL.1

久々の書評だ。私の悪い癖で、何かをずっと続けることはできるのだが、やりすぎると、ふとしばらくその活動から離れたくなる。最近ずっと読書を敬遠して、映画ばかりみまくっていた。AMAZONプライムのせいだ・・・。

それはさておき...まじめな話。

久々に読書をした。レビュープラス社からの献本がきっかけ。献本だが、自分も読みたいと思って、話を引き受けた。タイトルはもしも、あなたが「最高責任者」ならばどうするか?Vol.1。私が好きな大前研一氏が関わっている本である。

本書は、一言で言えば、勉強本。それも企業戦略立案のための思考力アップを目的とした勉強本である。

そんな本書だが、特徴は3つのキーワードで表せる。ボリューム、ケース、大前研一・・・の3つだ。

ボリューム感というと「とても分厚い、お得感のある本なのか?」と誤解を与えるかもしれない。事実はその逆。ページ数にして170ページ程度。どちらかというと薄い。後述するが、中身が重たい内容だけに、この薄さが逆に有り難い。

そして、ケース。本書は特定のケースに対して、読者自身がまず自らの頭で考え、その考えと本書の考えを照らし合わせて、気づきを得る・・・そんな読み方を想定している。なお、ケース数は全部で8つ。コカ・コーラ、ローソン、UBER、任天堂など・・・。また、特定のケースとは言ったものの、本書が読者に投げかけるボールは単純明快。「あなた(読者)が、この企業の社長なら、どういった手を打つか?それを考えなさい」。それだけだ。

3つめのキーワードは大前研一。読者自らが考えたものと、本書の考えとを照らし合わせて気づきを得る・・・と述べたが、「本書の考え」とは、そもそも「大前研一氏の考え」である。一流の戦略コンサルタントの思考プロセスを追体験できるという意味で価値がある。

そのまま何も考えずに、本書の考えを読んでも何の役にも立たない。自らでまず考えることが必要な本である。その意味で、正直、なかなか・・・良い意味でヘビーな本ではある。頭に高負荷のかかる本だ。だから、先の話につながるわけだが、ちょうどいい薄さだと思う。

さて、企業戦略立案の思考力アップという観点では、まさにそういう立場にある人・・・具体的にはたとえば、社長や役員をはじめ、経営企画部の人、これから新しく事業を立ち上げようとしている人・・・などに向いている本と言えるだろう。

ただし一点、留意事項を挙げておきたい。本書が読者に投げつけるものが、「この会社の社長になったら、どうするか?」という、大きいボールなので、それを受け止められる力量をある程度持っている人でないと、キツいと思う。具体的には、有価証券報告書や四季報、業界マップなどから情報を引っ張ってこれることはもちろん、そこにある内容から、財務諸表や事業環境などを読み取り、課題を抽出できるような能力は、先に持っておきたいところだ。本書も述べているが、複数人まじえてのディスカッションを前提とした・・・グループ勉強会などで使うというのもありだろう。

たぶん、個人的には、Vol2が出たら、買ってしまうだろうな。下手なパズルを解くより面白い。


2015年9月21日月曜日

書評:奇跡の脳 〜脳科学者の脳が壊れたとき〜

奇跡の脳 〜脳科学者の脳が壊れたとき〜
著者: ジル・ボルト・テイラー (竹内薫訳)
出版社: 新潮文庫

養老孟司氏の「自分の壁」で見かけたのがきっかけだ。「人間はなぜ”自分”を意識するのか」という命題の解を探す中で、一つのヒントとして引用されていたのだ。「脳卒中で倒れた脳科学者がその瞬間の出来事を克明に記した本がある。」と。「そして、それによれば、左脳の能力が失われゆくとき、自他の区別があやふやになり、自分が流体になったような感覚に陥る。」 と。この異世界のような真実を聞いて、すぐに読みたくなったのだ。

脳科学者であった著者ジル・ボルト・テイラー氏が、脳卒中になった瞬間から、奇跡の回復をとげるまでの話が、そこには確かにはっきりと描かれていた。左脳を損傷し、言語能力や記憶を喪失し、そこからどうやって回復できたのか、そこにはどんな苦労や発見があったか、、、患者と、そして脳科学者という両方の立場から紐解いている。皮肉といえば皮肉だが、脳のことを勉強して、脳のことを一番よく知っている当人が、脳の病気に見舞われた・・・。この事実こそが、本書最大の特徴であり、魅力である、と言えるだろう。

読み進めるたびに、自分が興奮していくのがわかった。著者がずっと脳の話をするので、「あ、いま、自分の左脳がものすごく活動している」なんていうことを自分でも感じながら読んだ。左脳と右脳が違う役割を持っていることくらいは知っていた。だが、本書を読むことでまた自分の知らない世界が開けたかのようだった。人間の底知れない生命力の強さに・・・いや、ヒトの脳の想像以上の脆さと強さに驚嘆した、と言っていいだろう。

なんとはないきっかけで、一瞬のうちに記憶や言語力が失われてしまうという事実に、至極合理的であると感じつつも、なんとも受け入れがたい脆さを感じた。そう、そのあっけなさは、まるでウィンドウズが壊れたPC・・・ブルースクリーンになった画面を見つめているかのようである。ハードディスクが壊れちゃった・・・あ、データが消えた・・・まさにそんな感じで、人が何十年にも渡り積み重ねた記憶が一瞬にして、文字通り完全に消失してしまうのである。人間とは、なんてこう・・・機械的なんだろう・・・と思ってしまう。

一方で、脳の逞しさにも惚れ惚れする。脳卒中で完全に言語や学習してきた知識を喪失した人間が、こんな立派な本を書きあげるまでに回復したのである。この事実は、驚愕以外のなにものでもない。いま、彼女がどうしているのか、とても興味があり、読了後にインターネットで彼女のことを調べていたら、TEDという有名な大会で、立派にプレゼンしている動画を目の当たりにすることができた。その様子からは、本を読んでいなければ、とても脳卒中になった人とは分からない。それほどの回復ぶりだったのである。ヒトの脳とは何とも逞しいことか。

著者は言う。本書を読むことで、自分と同じ病気になった人への手の差し伸べ方を学んで欲しいと。著者は言う。本書を読むことで、脳の美しさと逞しさを知って欲しいと。著者は言う。本書を読むことは、右脳への旅することでもあり、深い安らぎを得る旅でもあると。健常者にも、脳障害を持つ人が身近にいる人にも、すべての人に新たな発見とたくましく生きるヒントを与えてくれる本である。間違いなく私の大好きな本の一冊となった。


2015年8月30日日曜日

書評: ぼくらの真実

「もっと早く読んでおけば良かった。」というのが素直な感想。
         
ぼくらの真実
著者:青山繁晴
出版社:扶桑社


本書に手を出したきっかけは、TBSラジオ番組VOICEというコーナーの存在だ。内容もそうだが、青山繁晴氏の熱意溢れる姿勢に心打たれる。彼の声が引き起こすスタジオ内の空気振動が、そのまま私に届いているんじゃないかと錯覚するほどの・・・そんな熱意を感じるのである。そんな人が魂を込めて書いた、と言う。それは読まずにいられない。

本書には、自衛隊問題や改憲問題、沖縄基地問題、靖国問題など、何かと気軽な意見を述べることが憚れるような解決が難しい問題を語る際、あれは語る以前に、そもそも我々が知っておくべきこと・・・それを著者は”僕らの真実”と呼んでいる・・・について書かれている。その事実とは、日本国憲法の中の矛盾、日本国憲法と現実の矛盾、そしてそのような日本国憲法が生まれた背景のことなどである。

いきなり著者の考えを述べるのではなく、大元の情報・・・いわゆる一次情報を基に考察を展開させているので、「えー、本当にそうなのかなぁ・・・」とか「信じがたいなぁ」といった野暮な感想を持ちづらい。一次情報とは、例えば、憲法前文について問題提起をするにあたり、日本国憲法の基になっていると言われるGHQ案の英語の原文を引用し、それと日本国憲法の日本語文を比較しているが、そうったことだ。そのお陰で、青山氏自身が自らの考察を披露する前に、私自身が今の憲法に違和感を持つことができた。深く考えさせられるし、彼が示す見解に対する反論も容易ではない。つまり非常に示唆性、説得性に富んだ一冊になっている。

ただし、著者自身が述べているように、あくまでも彼は一石を投じることが目的なので、そのまま書いてあることを鵜呑みにすべきではないとは思うが。

読み終えてみて、「もっと早くにこの本に出会っておきたかった」というのが最初の感想だ。本書は最近出版されたものなので不可能とは分かっているが・・・そう、できれば学生時代、憲法について学習する時に、知っておきたかった。誰かが作ったルールの中で踊らされている、とは言い過ぎかもしれないが、少なくとも誰がどのような意図で作ったルールの中で自分たちが生きているのか、誰が何を必死で守ろうとしているのか、守るべきなのか、を知ることができるからだ。

私は日本が好きだ。反省すべき点もあるが、これからも残って欲しいと思う良い面がたくさんある。さらにいい国になって欲しい。そう思うからこそ、先に挙げたような難題にも逃げずに自分の意見を持って、よりよくするための意思表示をできるようにしておきたい。そのためにはコトの本質を理解しておくことが必要不可欠だ。そして、本書はまさにその本質にせまる入り口たりえるだろう。


2015年8月23日日曜日

書評:メンターが見つかれば人生は9割決まる!

メンターが見つかれば人生は9割決まる
著者:井口晃
出版社:かんき出版

久しぶりにレビュープラス社からの献本。これまでも機会はあったがタイミング的にやや暇だったというのが、本書を手に取った一番の理由。

中身は、タイトル通りである。「メンターが見つかれば、人生は9割決まる」・・・と確信を持つ著者が、自身の経験を踏まえながら、その理由、実践方法について丁寧な解説をしている。念のため補足をしておくと、メンターとはロールモデルのことで、師匠とも言うべき存在の人のことである。著者は、メンターを早々に見つけ、1年間、その人の一挙手一投足を参考にしながら、自分を高めていきなさい、さすればその後の将来が豊かになる・・・とこう主張しているわけだ。

ところでロールモデルについては、私も餓えていた時期がある。社会人成り立ての頃は周りにそういった人がいて、真似をしようと試みたこともあったし、真似してきた。だが、30歳を過ぎたあたりで、ああなりたい!と思える人に恵まれなかった。それで40歳を過ぎる今に至るわけだが、もしかしたら本書を読めば、こんな私にも、メンターが見つけられるかも!?と変な期待を持ったりもした。さすがに、それを本書に求めるのはお門違いだったようだ。

先の私の経験からも、本書のメインターゲットは、あくまでも社会人成り立てから、社会人になって数年経ったくらいの人たちだろうと思う。私のようにそれなりに月日を重ねると、メンターを探すよりも、むしろ誰かのメンターになる・・・そういう時期にきている・・・と言えるのかもしれない。なれるにふさわしい人間であるかどうかは別にして・・・。

そんな本書だが、当たり前といえば当たり前のことが書いてある。たとえば、本書には一度メンターを決めたら、そのメンターの1日の習慣を聞き出すことが大事、とある。これは私自身、感じるところであり、これから成長してほしい部下にそうして欲しいと思うところでもある。たまに「あなたみたいになりたいです!」と言ってくる人がいるが、本当に真剣にそう思っているのか、と疑いたくなることが少なくない。なぜなら、私の生活習慣を聞き出そうとも、探ろうともしないからだ。私なら、メンターの生活習慣を聞き出して、成長のヒントを見つけ出し、少なくとも同じ努力、いや、それ以上の努力をすることでメンターに追いつき、追い越そうとすると思う。残念ながら、多くの場合は聞きに来ない。真剣じゃないか、単なる社交辞令からの発言だったからだろう。

話がややそれたが、このように本書には”当たり前”のことが書かれている。だから、熱意もやる気もあって、すでに良いメンターに巡り合っている人は読まなくてもいいと思う。社会人数年目で、いまだメンターなどという人には無縁、かつ、成長の仕方に悩んでいる・・・そんな人に本書は向いているのだろうと思う。


2015年8月17日月曜日

書評: 火花

リアルが凝縮されている、と感じた。

火花
著者: 又吉 直樹
出版社: 文藝春秋



私ごとだが、3ヶ月ほど前から偶然、月刊文藝春秋を読むようになった。iPad版デジタル媒体として購入したのだが、これがなんとも読みやすい。なぜだか分からないが、とにかく私にとっては読みやすいのだ。書店で目にしたときには数ページめくっただけで、買うのがためらわれたのに・・・。

ともかく、そのお陰で文藝春秋を読む習慣ができて、2015年9月号もいつもどおり読んでいた。

読んでいたところ・・・又吉直樹氏の「火花」が掲載されていることを偶然、知った。どうせ、全部ではなくその一部だけが掲載されているんだろう・・・と思いながら、「どれ、数ページくらい目を通してやろうか・・・」とページをめくり始めた。すると、めくる手がとまらない。一部しか掲載されていないだろうと思っていたページも途中で途切れない。あれよあれよ・・・と、「火花」の世界にとりこまれ、気がついたら全ページ読み終えていた。そこには作品全部が載っていたのである。全くの覚悟なしに、不用意な状態で読みはじめて、しっかりと読み終えてしまう・・・読み終えさせてしまう・・・その事実からだけで、作品力が伺いしれるのではないかと思う。

「火花」には、漫才師としての成功を目指す主人公の徳永・・・そんな彼がひょんなことから師弟関係を結んだ師匠の神谷。両人ともにまだ売れていないが、芸能世界で成功することを目指して頑張る人間模様が描かれている。主人公徳永目線で描かれているので、自分がまるで芸人生活を送っているかのような感覚で読める。どうやら、芸人業界特有の慣習というものがたくさん存在するらしく(たとえば、どんなに売れて無くても後輩には先輩がおごらなければいけない、など)、そんなわけで主人公目線で芸人世界を体験できるわけで、読んでいると全てが新鮮にうつる。

本書を読んでまっさきに思いついた言葉は、“リアル”という言葉。何がリアルって、情景描写がリアル。ちなみに、著者本人曰く、「情景描写は少なめに押さえたつもりだが、まわりからはそれでも多い」と指摘されたそうだ。人間は、本当にくだらないことばかりをやってしまうところがリアル。不条理なことが少なくないと思える世の中と、人間の喜怒哀楽とが、実は見えないところで絶妙なバランス感覚でつながっているなとときおり感じさせる瞬間があるところがリアル。

それにしても不思議なのは、リアルであることになぜこうも引き込まれてしまうか・・・である。どんな理不尽なことも、つらいことも、楽しいことも・・・全てを受け入れて、生きていくのが人間だと・・・それを知ることで、読んでいる自分ももっと何が起きても驚かなくなれる・・・など、度量が大きくなれるのではないか・・・と期待してしまっているのだろうか。そして、前を向いて生きていかな・・・と励まされるのだろうか。

事実してはっきり言えることは、著者が惚れる太宰治の本を改めて読んでみたくもなったし、著者の次回作にも是非目を通したくなった。それが本書を本で私が感じた本音である。


書評: プロフェッショナルシンキング 未来を通す思考力

ビジネスマンの知的好奇心をくすぐる本だ。

プロフェッショナルシンキング
~未来を見通す思考力~
監修:大前研一、編:ビジネスブレークスルー大学、著:宇田左近、平野敦士カール、菅野誠二
出版社:東洋経済新報社

※レビュープラスさまからの献本です

一企業のみならず、日本人全体が“戦略的思考力”に弱いとは、私自身、日々感じるところだ。たとえばISOマネジメントシステム規格(ISO9001、ISO14001、ISO27001など)は、ほとんどがイギリス発だ。ところが、その規格を最もとりこんで使っている国は日本だ。欧米はルール作りにたけており、日本はルールの運用にたけている・・・そう言うこともできるが、悪く言えば、日本はルールを作ろうとするのではなく、(どんなに不利なルールであっても)与えられたルールの中で戦おうとばかりする・・・。野中郁次郎氏が著書「失敗の本質」の中で、先の大戦において日本の戦略は無きに等しかった・・・と結論づけたが、悲しいかな、その傾向は70年経つ今もそれほど変わっていないように見える。

だからこそ、私は“戦略”について、日本人みんなが、もっと勉強し、もっと考えるようになればいいと思っている。

そして、まさにその“戦略”について語った一冊が本書である。これは事業戦略を考えるのに有効な思考方法について、ポイントを解説している本だ。但し、厳密には戦略立案そのものというよりも、その土台となる未来予測・・・この捉え方に焦点をおいている。大前研一氏が「大前研一 日本の論点2015-2016」をはじめ、数々の著書の中で、これからの日本社会の進むべき道について考えを共有してくれているが、まさにああいった際の未来予測につながるテクニックを紹介している本と言えるだろう。

戦略・・・というとすぐにフレームワークという言葉を思いつく人もいるだろうが、本書は、役立つフレームワークを「いかに数多く提供できるか」に力点をおいたものではない。また、著者が経験から編み出した一つの確固たるアプローチをステップバイステップで紹介する本も良くあるが、そういった類いのものでもない。ある意味、その中間に位置する本と言えるだろう。「未来予測」に役立つ特に役立つであろう代表的なフレームワークをとりあげ、実際の企業を使った分析を披露しつつ、フレームワークの活用方法や有効性について解説してくれている。

フレームワークがたくさん紹介されていても、実際にはそれを使えるようになることが重要なわけで、その点を考えれば、本当に使えそうないくつかに焦点を絞ってくれている点には実は有り難い。ちなみに本書には6C分析というフレームワークが登場するが、これは私はあまり使ったことがないものだったので、参考になった。

ところで、編者のところにビジネスブレークスルー大学とあることから、プロモーション(勧誘)本ということになるわけだが、世の大半はそういったことを目的としたものばかりだし、仮に、それが目的だとしても、役に立つかどうかが重要なハズだ。その点では、本書においては勧誘するようなウザったい文言はほぼ皆無だし、かつ、解説も上辺だけの薄っぺらい内容で終わっていないので、それなりに評価できる。

総じて、難解すぎず、オタク過ぎず、分量多すぎず・・・適度にバランスがとれている本だ。そのためか、読み終えった後は、なんか役立ちそうなことを学べたな・・・という適度な高揚感があった。今自らが携わっているいくつかの事業について、再度、見直しをかけてみようかな・・・とか、今後、新規に企画しようとしている事業を企画する際に、本書のことを少しは思い出してみようかな・・・と感じた事実は正直に認めておきたい。冒頭で触れたように日本人は戦略的思考に弱い。過去に似た本を読んだことがあっても、こうした類いの本はバンバン読んでおきたい。


【戦略という観点での類書】
失敗の本質(野中郁次郎ほか)
戦略の本質(野中郁次郎ほか)
戦略プロフェッショナル(三枝匡)

2015年8月14日金曜日

運動を促進する最強ツール

気分転換に書評以外の記事を一つ・・・。

ジョギングを始めて、もう5年が経つ。さすがにもうそろそろ飽きてくるところだが、最近、ますます調子がいい。近所だけでなく、旅行先でもバンバン走り/歩きまくっている。理由は、面白いツールを知ったお陰だ。3つある。

1つは、ブルートゥースイヤフィン。PLT M70というPlactronics社 の製品だ。この種のものでは比較的バッテリーが長持ちするし、外界の音を完全にシャットアウトしないので安全面からアウトドア向きである。使い始めて半年以上になるが、ここまで重宝している製品は正直、私の中ではめずらしい。


2つ目は、ブルートゥース万歩計。 MISFIT社のSHINE だ。これは最近買った。ボタン電池式だが、バッテリーはなんと1年近く持つ。防水でお風呂にもそのまま着用して入れる。シンプルイズベストを具現化した製品と言っていいだろう。高機能ではないが、充電いらずでずっとつけていても気にならない。加えて、睡眠時間を計測している機能は、体調管理に結構役立っている。


3つ目はハードではなくゲームアプリ。Google社(つい最近スピンアウトした模様だが)が出している陣取りゲーム、Ingress(イングレス)。舞台は、リアルに全地球。陣取りをするために、特定の地点まで実際に足を運ぶ必要があるため、これにハマると、やたらと遠くまで足が伸びるようになる。



















お陰で、毎朝、走る/歩くのが楽しい。気がつくと2時間近く外をウロウロしてる時がある。


2015年8月11日火曜日

書評: 孫正義の焦燥

“焦燥”を読んで、やや“安心感”を覚えた。

孫正義の焦燥
著者: 大西孝弘
出版社: 日経BP社


ソフトバンク社長孫正義氏の2014-2015の動向にフォーカスし、そのときの背景や孫正義氏本人の心情について描いた本だ。孫正義氏本人へのインタビューはもちろんのこと、本人が尊敬しているという数少ない経営者の一人、ファーストリテイリング柳井正会長兼社長や、日本電産永守重信会長兼社長、その他、ソフトバンクグループを支える主要関係者へのインタビュー内容が反映されている。

そもそもなぜ私が本書に手を出したかと言うと、最近、孫正義氏のプレゼンスが少なくなったなと感じていたからだ。スプリント買収以後、アメリカの方にずっと行っていることが多いせいかもしれない。以前は「そんな時間どこにあるんだ!?」と思ってしまうほど、ツイッターでもつぶやいていた孫正義氏だが、最近はめっきりといった感じ。日本随一の経営者が今は何を考えて行動してるんだろうかと気になっていたところに本書の次のような帯が目に飛び込んできたのでつい買った。

・アメリカから撤退するのか
・脱原発なのに東京電力と連携のワケ
・ニケシュは孫正義2.0になれるのか
・ロボット「ペッパー」発売延期の深層
・ヤフー「爆速経営」失速の主因
・足取りが重いのには理由がある
・「五番街のマリーへ」に込めた思い

で、早速読んで見たわけだが、「おー、孫さんの生き急ぎ姿勢はまだまだ変わってないなー」というのが第一印象。年取って、なお、攻め続ける姿勢に安心したと同時に敬服の念を抱いた。私が安心した・・・というのも変な表現だが、やはり、日本を代表する経営者に、世界を代表する経営者になって欲しいという勝手な期待をのせているからだろう。

この意味で、本書を買って一番良かったと思えることは、孫さんや柳井さんなど、全速力で疾走するパワーに触れられたこと。経営手法だとか、新規事業立ち上げのノウハウだとか、そういったヒントは別にないが、ビジネスの先頭の方を走る経営者の息吹に触れることができて、自分も頑張らなきゃと・・・そこだけは強く思わされた。さすがに全く同じマネはできないが、自分の人生のゴールをもう少し高めに設定しないといけないかな。

ただし、やや冷静に本書を見返してみると、知らなかった情報が満載・・・というものでもない。たとえば、本の帯には「アメリカから撤退するのか」とあったが、その問いかけに対し、本書を読んでみても結論が出ているようで出ていない感がある。それは本を読む前に抱いていた感情と一緒だ。また、「ヤフー「爆速経営」失速の主因は?」という問いかけに対しても、特にはっきりした答えが書かれているようには感じなかった。もちろん、知らなかったことも書かれているが、本の帯に書いてある真相全てに迫れると思うのは過度な期待だ。

自分の人生観が、孫正義とどれだけ違うのか、それを埋めるためにはどれだけのスピード感が必要なのか・・・そのギャップを知りたい人、あるいは私のように少しでもやる気をもらいたい人に向いた本だと思う。


【孫正義氏に関係ある類書】
あんぽん ~孫正義伝~
爆速経営 新生ヤフーの500日

2015年8月7日金曜日

書評: データの見えざる手

新しい世界観を提供してくれる本だ。

データの見えざる手
~ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則~
著者: 矢野 和男
出版社: 草思社


ビッグデータがもたらした発見、もたらすであろう発見について、著者自身が長年にわたって研究し得た成果をもとに解説している本だ。ビッグデータとは、文字通り膨大な量のデータを扱うことである。これまでは得ることのできなかった、そしてさばききれなかったとてつもないデータを、技術革新のお陰で収集・分析することができるようになった。その結果、今までは見て取れなかった法則性を見いだすことができるようになったのだ。どれくらい膨大かというと、人間が1日の中で、いつ起き、いつトイレにいき、いつ食べ、いつ体を動かし、いつ仕事し、いつ睡眠をとっているか・・・これを24時間、365日、何年・十年にもわたり採取し、それを何百・何千・何万人分を対象者に集めるようなデータ量のことである。

そんなビッグデータを語った本書だが、読むことで何を得ることができるのだろうか? 大きくまとめると次のようなことだ。

●技術進歩の状況
●ビッグデータの意義、意味
●ビッグデータに学んだ人間の活動の法則
●ビッグデータに学んだ仕事の有効性・効率性を向上させるテクニック

こうした点を語るにあたっては、著者本人がビッグデータの技術研究を先鋭的に行ってきた人であることから、抽象論に終始せず具体的な実証実験結果をたくさん紹介している。したがって、単なる“わかりやすい本”ではなく、“面白くて、わかりやすい本”と言えるだろう。

ただし、どうしても統計的な話・・・たとえば、正規分布といった言葉やポアソン分布といった言葉が登場するので、数学アレルギーのある人には一瞬躊躇する場面があるかもしれない。私も決して、数学好きではないので、「ジェネレーターってなんなの(本書に登場する)?あまり面白くないなぁ」といった瞬間があった。私は、さっさと読み飛ばした。だが、本の総量から見れば、それはごく一部だ。

さて、実際に本書を読み終えて、ぱっと私の口をついてでたのは“衝撃的”という言葉だ。今までには思いもよらなかった新しい世界を知ることができたからだ。具体例を1つだけ紹介しておく。

「人間には1日の活動総量のうち、激しく動ける時間、普通に動ける時間、だらだら動ける時間に当てられる配分率(予算)がきまっていることが分かった」という事実には驚いた。著者は、明確な実証データを持ってこれを解説している。分かりやすく言えば、1日の中で「だらだらする(物理的に手を動かさない)」時間にも限界があるというわけだ。しかも、物理的に手を動かさない・・・つまり、デスクワークのような仕事も「だらだら」すると同義だと著者は言う。

これから何が言えるのか? ここからは私なりに導き出した答えの一つだが・・・たとえば一日の大半をデスクワークしてた人ばかりが集まるセミナーをその日の夕方に開催するとしよう。このセミナーを(まったく手を動かさない)座学形式中心に行うとどうなるか。おそらく参加者は集中力も伴わないし、何も頭に入らない可能性が高くなるということだ。なぜなら、すでに一日の中で、だらだらできる時間(言わば“だらだら予算”)を使い切ってしまっているからだ。あるいは、あまり外で活発に遊ばない子供がいたとしよう。その子が、午前中、家でだらだらと遊んだり、テレビを見て時間を過ごしてしまうと、午後、机に向かって勉強することは極めて困難になるに違いない。すでに“だらだら予算”を使い切っているからだ。親は良く「涼しい午前中のうちに勉強しておきなさい」と言うが、結果として間違っていない指示と言える。ただし、午前中に勉強した方がいい理由は「涼しいから」ではなく「“だらだら予算”にかぎりがあるから」というのが正しい。さらに言えば、どうせゲームをさせるなら、任天堂Wiiのような手を動かすゲームをやらせたほうがマシとも言える。そうすることで、だらだら時間(予算)を使わなくて済むからだ。

・・・というように、本書を読むと、著者がビッグデータに学んだという人間の法則を知ることができ、なおかつ、それを踏まえて、自分なりの新たな発見が広がるのだ。それ以外にも紹介したいことがいっぱいあるが、それこそ本書を読むべきであり、ここでの紹介は差し控えておくことにする。

ビッグデータ・・・どうせそんな言葉は一時の流行で、いずれすたれるのでは?ITリテラシーが高い人が理解しておけばいい言葉では?・・・本書を読むと、どうもそうではないらしい・・・ということが本当に良く分かる。


2015年8月4日火曜日

書評: 「自分」の壁

「自分」の壁
著者:養老 孟司
出版社:新潮社

■本書の趣旨
“自分”って何だろう? “自分”がなかったら、何が起きるんだろう? ・・・みなさんは考えたことあるだろうか。著者の養老孟司氏は、なんと幼少の頃からそんな疑問を持っていたそうな・・・。そんな彼が、行き着いた境地とは・・・。

『(生物学的に自分とは)結局のところ、「今自分はどこにいるのかを示す」矢印くらいのものに過ぎないのではないか』(本書より)

著者は、“自分”をこう定義する。「・・・くらいのもの」という著者自身の表現からも分かるように、“自分”を意識することはそれほど重要なことではないのではないか・・・というのが、著者の長年の経験からの想いである。だから、個性を出せとか自分探し、などといったことを押しつけるなという。無理に押しつければ、他者のことを考える意識が薄れ、(極論だが)それは自殺につながるし、社会問題は他人事になり、無関心が増えていくのだと。

■本書に対する私の印象
中身はさておき、本書に対する読了中・読了後の第一印象は・・・「やや読みづらいなぁ」というものだ。やはり本書の紹介をしていた武田鉄矢さんが「バカの壁」よりもだいぶ読みやすかったとおっしゃっていたが、私の集中力が弱いのか、それとも無知過ぎるのか・・・、個人的にはなかなか本書に入り込むのが難しかった。だから、読みにくい本は全くもって苦手という人にはお勧めしない。

逆に多少、難しくても大丈夫・・・という人であれば、一読する価値はある。人生経験豊富な養老孟司さんの話だけに、きっと自分が年を取ったときに感じることが書かれているのだろうと思えるからだ。“自分が”という意識を引っ込めて物事をとらえたら、新しい境地にいけるかも・・・なんて。みなさんも、一度、本書を読んで日頃当たり前のように思っている“自分”というものを見つめ直すと新たな世界が広がるのでは??


2015年6月23日火曜日

書評: 子供の頭を良くする勉強法

え!? なぜ読んだかって? そりゃー、子育てしてる親としては色々とインプットして損はないかなと・・・。

著者: 伊藤 真
出版社: ベスト新書


子供をどのように育てれば、人生の成功者になれるのか・・・著者自身の経験を踏まえ、そのテクニックを紹介した本だ。人生の成功者っても色々とあるだろ・・・と突っ込みが入りそうだ。こうした類いの議論は、多種多様な価値観を持った人達が世の中にいる中で難しいと思うが、著者は逃げずに定義している。曰く、「自分が幸せだと感じられることと同時に、社会に貢献ができる人」「人から求められる仕事ができる人間になれたという実感を持てた人」とのこと。

では、そんな偉そうなことを語る「著者自身の経験はいかに?」となるが、弁護士だそうだ。弁護士になるまでに相当な苦労をした・・・ということだけは容易に想像できる。弁護士業以外にも、ロースクール立ち上げを試みたり、色々とご経験をなさっている方のようだ。氏の成功・失敗経験から、強く感じた「成功者を育てるためのポイント」があったのだろう。本書には、そんな氏の思いがたくさんつまっている。

ざっと238ページ。あっという間に読める。頑張った時には、しっかりと感情豊かに褒めてあげましょう! 目標意識を植え付けよう! 習い事漬けはやめましょう! “考える力”をつけるため、“なぜなぜ”と思う気持ちを醸成しよう!等々。はなまる学習会の塾長であられる高濱正伸氏も同じようなことを言っていたし、目標意識をしっかり持たせることで、立派に成長させた友人を実際に知っているだけに、あぁ、きっと、正しいことを言っているんだな・・・というのは理解できる。

しかし、天邪鬼な性格の私には、ここで違和感が芽生える。そんなに“立派そうな子”を育てることって本当に正しいことなのだろうか・・・と。百歩譲って、目標意識など本書に書かれたことは、子供が成功者になるための必要条件かもしれないが、十分条件でないんじゃないかなと。そんな悶々とした気持になっているときに、本書の最後の方で、著者の次のような言葉が登場する。

『生真面目な人こそ人のせいにしよう』

最初は、「は!?」と思った。いきなり何をいうのかと。要は、逃げ道を用意しときなさいということであるが、次の瞬間、なぜ違和感があったのかが分かったと同時に、なるほどなと思った。そう、著者の言うこと(少なくとも前半の話)はイチイチ息苦しい感じがしたのだ。なにか立派すぎる。逃げ道がない・・・。

“考える力”をつけさせるために「常に、それはなぜなんだい!?」と子供に問いかけ続けてきた知人が、「子供が高校生くらいになって鬱になった」という話をしていたのをふと思い出した。さらに先日、NHKの番組、100分で名著「荘子(そうじ)」の回で、「やむをえずの思想」が大事という話を思い出した。これは、無理に目標や計画を立てずに、必要に迫られたら動けばいいじゃないか・・・という話で、目標設定や計画設定は、今のストレス社会を作っている要因の一つでもある・・・という指摘だった。

つまり、著者の言いたいのはこうなのだ。本書で紹介されている色々なテクニック・ポイントを押さえるのは大事だけど、最後に“心の逃げ道を用意しておく”のだけは忘れるなよ・・・と。これで色々なことが腑に落ちた。

さて、腑に落ちたが、本書のような本はゴマンとある。先述したはなまる学習会の高濱正伸氏の本もこの類いだ。そんな中、あえてこの本を読む価値があるのか?と問われれば、私は類書だからこそ、読む価値があると答えたい。最近、特に感じるのだが、人間はすぐに色々なことを忘れる。重複する部分が多かったとしても、忘れているポイントは呼び覚まされるし、改めてすり込まれる。そして、重複しない部分や意見の異なる部分は、それは自らが「正しいことは何だろう!?」とさらに深く考える良いきっかけとなる。だから、この本を買って良かったと思うし、子供がまだ子供である限りは、1年後・2年後、また似た本を見かけたら、買うだろう。


【類書】

2015年6月15日月曜日

勝つ人と負ける人との差

以下の2つの会社が対照的だ。

●牛タン専門店・ねぎし(ねぎしフードサービス)
●うどんミュージアム(一班財団法人うどんミュージアム)


ねぎしフードサービスは、カンブリア宮殿で見た。過去の反省から、人材育成が全てのカギととらえた根岸社長。出店ペースがどんなに遅くても(34年間で34店舗のペース)、人材育成を妥協しないで成長してきた。

うどんミュージアムは、日経ビジネス(2015年6月15日号)の“敗軍の将”で見た。アイデアは斬新で、最初の一店舗目の出だしは堅調。立ち上がったことを見届け、開店の4ヶ月後には新規事業活動で海外へ。その間、店が混乱し立ちゆかなくなったとある。挙げ句の果てに店の売上金を持ち逃げする社員まで現れだした、とも。

これは外食事業における話だが、つまるところ、人材育成が大事なのはどの業界も同じだ。なぜって、会う人会う人、みんな「うちは人が大事だよね」と言うから。

上記2社の結果の差は当たり前のように見えるが、だからといって、ねぎし社長のように「君の会社は、人材育成に一切の妥協をしていないでやっているか!?」と問われれば、果たして、胸をはって「はい」と答えられそうにない。

気づくことや感心することなら誰にでもできる。だが、アクションにうつせる人は一握りだ。そしてそれが勝つ人と負ける人との差なのだろう。

2015年6月9日火曜日

書評: リーダーのための!ファシリテーションスキル

これも、Amazon電子書籍半額セールに乗じて衝動買いした本だ。やっぱり、たまには衝動買いもした方がいいなー、何がどう転ぶか分からないなー・・・とは、読み終わっての正直な感想。

リーダーのための!ファシリテーションスキル
著者: 谷 益美
出版社: すばる舎



「対話を促す、それがファシリテーション」・・・そんな出だしから始まる。私流に書けば、そこにいる人たちを巻き込み、化学反応を起こし、一方的な座学では得られない、一人思考では決して得られない、アウトプットを出す・・・それを促すのがファシリテーションだ。本書は、このファシリテーションを成功させるための勘所や、各種テクニックを懇切丁寧に紹介している。ちなみに、とても読みやすく、私は1時間ちょっとで読破した。


どんな分野の、どんな課題にも、有効な解決手段の一つになりうる・・・私はこのファシリテーションが大好きだ。だから、数年前、ファシリテーションスキルを追求してみようと思った時期がある。そのときに5~6冊、ファシリテーション関連の書籍を大量購入したが(書評は書くにいたっていないけど...)、正直、あまり得るものがなかった。なんとなく本書の方が好きだな、と思う。その理由は、ひと言で言えば、具体性だろう。「すぐに役立つ知識はすぐに役立たなくなる」・・・とおっしゃる池上彰さんには怒られそうだが、これは明日から使えるぞ!と思ったテクニックがいくつかあった。

ホワイトボードのちょっとした使い方にはじまり、参加者がより前のめりになるテクニック、盛り下がりがちな場面を打破するテクニック、100人以上でもできるワールドカフェなど・・・、分かってはいるつもりだったが、あぁ、そこまで意識してできていなかったな、そのテクニックはまだ使ったことがなかったな・・・と思えるものがあった。自分もある意味、我流だからね。

さて、本書を読んで、ぜひ、してみたい!と思ったことが実は3つある。1つは、私の仕事で予定されているワークショップに、本書で紹介されていたテクニックを、早速、取り入れることだ。仕事がら、毎週のようにワークショップがあるので早速活用して、自分流にさらに進化させたい。

2つ目は、ファシリテーションスキルをはじめ、プレゼンや営業スキル、文書スキルなど、業務で求められる様々なスキルの、さらなるデジタル化への挑戦だ。自社内で、これまでも属人化しがちなスキルを文字に落とし込もうと努力してきたが、本書を読んで、まだまだやれることがある・・・と思い知らされた。

そしてそして・・・著者自身にも興味がわいた。ぜひ、とも会ってみたい。彼女のファシリテーションを体感してみたい・・・とまじめに思っている。


【スキル指南書という観点での類書】

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...