2012年7月31日火曜日

ロンドンオリンピックでの失態!?

2012年ロンドンオリンピックのサッカー決勝会場に予定されているウェンブリー・スタジアムで「警察がセキュリティーに関わる鍵を複数、紛失した」という報道。

 これを受けて、中京テレビが「鍵は既に別のものに交換済みとのことだが、大規模テロを警戒するオリンピックにおいて、最も重要な役割を担う警察が失態をした」とのコメント。

やや、違和感。 

「即座に鍵を別のものに交換した」ということ、なおかつ、この事実が隠されず公に情報発信されているのだから、むしろ、しっかりとセキュリティが機能している・・・という印象なのだが・・・。

「そもそも人間はミスをする動物」という前提に立ち、事故が起きても困らないように二重・三重の対応策をとっているわけで、それが機能したのにもかかわらず、安易に”失態”と評するコメントはどうもしっくりこないなー。


2012年7月28日土曜日

書評: ハーバード白熱日本史教室

■海外超名門でダントツ評価を得る日本史若手教師の謎

名は北川智子(きたがわともこ)。日本人女性で20代。カナダの大学では理系専攻。そんな彼女が世界の超名門大学、ハーバード大学で日本史の教鞭をふるっている。しかも、かのマイケルサンデル教授のように超人気講師だと言うのだ。

「理系専攻だった人がなぜ日本史?」
「大学で際立った存在に見えなかった彼女が、なぜハーバード?」
「当初16人だった受講生が、今や251人! いったい、どんな魔法を使ったの?」

「ハーバード白熱日本史教室」は、この謎に迫った本である。

※同大学の他の日本史のコースは数名・・・ひどい時ではゼロ名の申し込みが常態化しているというわけだから、その凄さが容易にうかがい知れる。

■生徒1人1人を授業の当事者に変える教育術

本を読むと、北川智子氏が、今の地位を築けたのは、ある程度、偶然ではあったが、奇跡ではなかったことが分かる。

どこでどう習得したのか、彼女の教え方が優れているのだ。彼女より日本史に詳しい専門家はゴマンといるだろうが、彼女のように生徒の心をわしづかみにする授業ができる人は、本当にごく一握りだろう。

 『学生は授業中・・(中略)・・・今やどの学生も手書きノートを離れラップトップ持参で授業に来ます・・・(中略)・・・学習の障害になるような誘惑と闘いながら授業を受けています。私が真っ白な紙を配っておいて、授業で「お絵描き」を指示すると、学生はまずパソコンを閉じる必要があります。 最初はひやひやしますが、いったん紙に絵を描いてみると聴覚で理解したことが視覚に変換されて、イメージがぐんと広がるのです。』 

生徒を積極的に授業に参加させる教育手法をアクティブティーチングと呼ぶのだそうだが、とにかく彼女のその方法が抜群なのである。

■1粒で4度おいしい 

本は、北川智子氏がカナダの大学を卒業した24歳の夏(2004年)から、人気講師を博し250名以上もの生徒を抱えるようになった現在(2012年)にいたるまでを、次の観点から書いている。

・つまり、ハーバード大学の先生にはどうやってなれたのか?
・具体的にどんな内容の授業を、どのように教えていたのか?
・その結果、大学や生徒からどのような評価を受けたのか?
・実際のところ、授業にはどのような工夫をしたのか? 

本を読んでみると、学べるのは何も教育手法だけではないことに気がつく。

「日本史って、こんな切り口で見てみると確かに面白いな」と思ったり、「ハーバード大学で学ぶことはもちろん、教えることっていうのは決して、夢物語ではないんだ」と勇気づけられたり、様々な想いが沸き起こる。

著者が一体全体、この本を通じて、読者に何を伝えたいのか・・・人生論を伝えたいのか、日本史の面白さを伝えたいのか、人への教え方を伝えたいのか・・・正直、戸惑ったりもするが、要するにそれら全てを伝えたいのだろう。つまり、この本最大の特徴は、一冊で「何が起こるかわからない人生の面白さ」「日本史の奥深さ・面白さ」「ハーバード大学の面白さ」「授業のテクニック」の4つについて学ぶことができるという点だ。

ちなみに、私自身、”眼から鱗”だったのは次の2つである。

・切り口一つ変えるだけで、全く違う世界観が見えてくる
・ちょっとした工夫1つで、生徒の姿勢を受け身から能動に変えられる

私自身コンサルタントを生業にしているので、彼女が記す数多くのアクティブティーチングの事例は大いに役に立った。

■幅広い読者がターゲット

様々な学びを得られるこの本のターゲット読者層は非常に幅広い。これから大学や大学院への進学を考えている人、就職を控えている人、先生やコンサルタントなどのように人を教える立場にある人、日本史を勉強している人、などにはドンピシャの本だろう。

なお、この本は2012年5月20日に出版され、1ヶ月後に既に8刷り目になっている。どうやら北川智子氏の人を惹きつける力は教壇の外でもいかんなく発揮されているようである。

【日本史つながりでの関連書籍】
井沢元彦の学校では教えてくれない日本史の授業


2012年7月23日月曜日

書評: 人間の基本

●生活保護の受給者は医療費の自己負担はゼロ。
●少しでも怪我をさせる可能性のある遊具は公園から除去。
●一部の優先席を設けても誰も譲らないから、全席を優先席に変更。

上記は3つは私が勝手に気がつくところを挙げたものだ。正論に聞こえるが、心のどこかにひっかかるものを感じる。”奥歯にささった小骨”のように、気にはなるけど、それが何か、どこにあるのか、良く分からない。そして、取れない。

みなさんにも、そんな経験がないだろうか?

曽野綾子氏の「人間の基本」は、彼女の豊富な知識と経験、そして卓越した文章能力をもって、我々が人間が生きる上で何かひっかかるもの、すなわちこの”見えない小骨”を取り出してくれる本だ。

人間の基本
著者: 曽野綾子
出版社: 新潮新書


曽野綾子氏の次のような一文がある。

『私が考える教育とは、多少なりとも悪い状況をあたえて、それを乗り越えていく能力を付けさせることですが、今は、良い状況を与えるのが教育とされています』

この指摘には自分にも心当たりがある。たとえば私の場合、我が子供達が勉強しやすいように専用の机を買い与えようとか、専用の部屋を与えようとか・・・。できる限りよりよい環境で、との想いから、色々なことを優遇してきた。しかし、きっと子供は、勉強したい・しなければならない・・・という思いさえあれば、勉強する机がなくても、みかん箱をひっくり返してでも、勉強をする、そういうものなのだろう。むしろ、そのようにハードルを超えてたくましくなっていく、ということなのだろうと思う。

このほかにもこの本を読んでいると「人と地面がまるでつながっていないのです」、「自由というものは義務を果たしてこそ自由なのだから」、「私は個性的でしょう、と表面的にアピールするのはただの勘違いであって、単に他人のことを考えられない、自分中心で他者が希薄ということです」など、心に残る指摘が数えきれないほど出てくる。

ただし、それは曽野綾子氏が人から見聞きしただけの単なる理想論話ではなく、彼女自身が、見て聞いて触って感じた・・・彼女の正直な本音なのである。

それが手に取るように伝わってくる一文がある。

『以前、人に進められてある宗教団体の教祖の自伝を読みかけましたが「とにかく自分は哀れな人を救うのが好きで、幼い時から自分は食べなくても人には食べさせた」というような記述が延々と続いて、どうしてもついていけませんでした・・・(中略)・・・良いことは結構だが、良いことだけでもやってはいけない、という気がしてしまいます。周りを見渡してみても、自分を含めて皆いいかげんで、おもいつきで悪いことをしたり、ずるをしたりする。でも、いいこともしたいんです。その両方の情熱が矛盾していない。それが人間性だと思うのです。』

そう、それは酸いも甘いも理解して説教する寺の坊様のようでもある。坊様との大きな違いは彼女は文章表現のプロである・・・ということだ。耳障りではなく、しかし、いちいちグサグサと突き刺さる。

”人生”という名のシャツのボタンのかけちがえに気づかせてくれる貴重な本だ。全ての人が読むべき本だが、特に人に指導をする立場にある人・影響を与える立場にある人・・・そう、教育者や親は必読だろう、と思う。

【類書】
人間の分際(曽野綾子)

2012年7月21日土曜日

”世の中に絶対はない” を学ぶ

日経コンピュータの「動かないコンピュータ」は、いつもタメになる。「ありそうもないことが、起こる」ということを学べるからだ。

今月号(2012年7月9日号)の事例は、富士通やファーストサーバのデータセンターの大規模障害だ。

富士通の旗艦DC、”館林センター”が大規模障害を引き起こし、金融機関の業務に支障をきたした。ソニー銀行は全システムが朝6時に停止し、午後1時まで復旧できなかった。計7時間だ。スター銀行も朝6時に停止し、午後10時まで復旧できなかった。計16時間だ。

ファーストサーバにいたっては、2012年6月20日に全顧客の4割にあたる2,300件のサーバデータを誤操作で消去してしまうという事故を引き起こした。今も混乱が続いている。

2件の貴重な事例だが、特に館林センターのケースは、大手ベンダー富士通の旗艦DCで起きた事故あり、また、被害を受けたのが業務停止があってはならない金融機関であったということで、「まさに起こりそうもないことが起こった」という典型だ。

今月号の日経コンピュータは、CIOはもちろんのこと、経営陣、IT部門の人は必読だ。

2012年7月9日号

2012年7月17日火曜日

興味を惹くタイトル

日経ビジネス2012年7月16日号の「著者に聞く」というコーナーで、田中裕輔氏(ジェイド代表取締役)の本が紹介されていた。

 タイトルは「なぜマッキンゼーの人は年俸億円でも辞めるのか?」。 

恐ろしいなとおもったのは、この本のタイトルを目にしたのはこれで3回目だったということ。確か、日経新聞などの広告欄でも目にした記憶がある。何を何回見たかなんてなかなか記憶に残らないほど、情報過多の現代において、わたしによほどの印象を残すなんざ、やるなー!と、関心してしまった。

つまり、興味を惹くタイトルであった・・・というわけだ。 ああ、買っちゃうかなぁ・・・。買っちゃいそうだなぁ・・・。でも、1500円だって・・・。

高いなぁ・・・。 あぁ、どうしよう(笑)。

2012年7月15日日曜日

書評: 挑む力 世界一を獲った富士通の流儀

何か大きなことを成し遂げる上で、計画力と実行力・・・どちらが大事だろうか?

「そりゃー、決めたことを粛々とやる・・・実行力だろ、なんといっても。”言うは易し行うは難し”って言うくらいだもんな」

「いや、計画力だよ。”何かを成し遂げたい!”という想いを形にするはじめの一歩だぜ。ヤル気の持てない計画なんて最悪じゃないか・・・」


本書を読むと、この疑問への答えが見えてくる。

挑む力 世界一を獲った富士通の流儀
著者: 片瀬京子、田島篤(共著)、野中郁次郎(解説)
出版社: 日経BP社

■8つの事例に富士通のパワーの源泉を見出さん

タイトルにある”富士通”は、ICTサービスを提供する企業として国内第一位、世界第三位を誇る「世界最大級の日本企業」の1つだ。

採算が合わずNECが撤退を決める中、あきらめずに研究開発を続け、スパコン「京(けい)」で世界一を獲ったのは、まだ、みんなの記憶に新しいだろう。もちろん、富士通はスパコンだけじゃない。他にも数々の偉業を成し遂げてきた組織である。

そんな富士通が、今の地位を築けたのは単に幸運の連続が重なったからなのか?いや、そんなことはない。そこには何か他社(者)が学べる法則があるはずだ。それは何なのか?

この本は、富士通が持つ成功事例の中から8つを厳選し、描き、”成功の法則”の解明を目指した本である。
  • スーパーコンピューター「京(けい)」
  • 株式売買システム「アローヘッド」
  • すばる望遠鏡/アルマ望遠鏡
  • 復興支援
  • 「らくらくホン」シリーズ
  • 農業クラウド
  • 次世代電子カルテ
  • 手のひら静脈認証
『今回のシステムでは何を優先するのかが明確でした。機能を載せるとスピードが出ないような場合に「両方やってくれ」という話にはなりませんでした(アローヘッドプロジェクトの章より)』

『それから、瓦井さんが当時よく言っていたのは、チームのみんなが同じ強みを持っていても意味がないということ。それぞれ自分の強みがあって、お互い補完し合う、全体で、どんな大きな仕事もできるチームになると(すばる望遠鏡プロジェクトの章より)』

このように、プロジェクトを成功させた要素が、色々な形で描かれている。 

■”事例”と”考察”の2大特徴

本書の特徴は、2つだ。

1つは、先述したように8つの事例を紹介しているという点だ。しかも具体的に。

そしてもう1つは、米ハーバード大学経営大学院教授の竹内弘高氏をはじめ、富士通社員ではない外部の専門家が、富士通の強さについて、各自の観点から考察を述べているという点だ。考察は、実に本全体の約2割(約40ページ/220ページ)にも及ぶ。

こうした考察は、間違いなく、読者の理解を深める手助けとなる。8つの事例紹介だけなら、単に”富士通教の紹介本”・・・評していただけかもしれない。読者も、「ふーん、すごいね」という漠然とした感想だけで読み終えてしまっていたことだろう。

■プロジェクト責任者よりも、経営者にこそ読んで欲しい

ところで、この本を読んでみて、最も印象的だったのは”プロジェクト推進者達が共通して持っていた何としてもやり遂げるぞ、という強い意思・・・つまり、”ヤル気の大きさ”だ。

きっかけは様々だが、どのプロジェクトの責任者も「やり遂げたい!」、「やり遂げるぞ!」、「絶対にやり遂げなければならない!」という”大きなヤル気”を持っていたことが分かる。

そして、その想いが、他の要素・・・たとえば技術力や政治力、現場力など(※詳しい詳細についてはみなさん自身が、本を読んで確認していただきたい)と合間って、プロジェクトを成功に導いている。

言い換えれば、富士通が持つ強みの1つ・・・すなわち、”成功の法則”の1つは、プロジェクト責任者達の”大きなヤル気”を醸成させる、あるいは、それをプロジェクトパワーに変換する力にある、ということではなかろうか。

『(3・11の震災後、野口氏からの提案を役員に提案すると)「予算は何とかするので、すぐにやろう」と即決された。このときには僕は、このプロジェクトは億単位で経費がかかると思っていましたが、それが即決されるのが、さすが本社だな、と思いました。』

そもそも新しい”ヤル気”が生まれるような工夫をしたり、新しく生まれた”ヤル気”が冷めないうちに具現化されるような工夫をしたり、あるいは、プロジェクトに投入された人が”ヤル気”を持てるような工夫をしたり・・・

そんな工夫の仕方を学べるのが本書最大の魅力かもしれない。

(企業に学ぶという観点での)類書】
書評: 世界一のトイレ ウオシュレット開発物語
書評: 佐川萌え
書評: ユニクロ帝国の光と影

【関連リンク】
「挑む力」公式WEBページ



2012年7月9日月曜日

事業領域という言葉が持つ重み

パナソニックは、津賀社長になり、事業領域や、これにぶらさがる90のビジネスユニット(BU)の区切り方に注力している、とある。

事業領域について、具体的には、

・住宅空間
・非住宅空間
・モビリティ
・パーソナル

を新しく描く領域として考えているそうだ(日経ビジネス2012年7月9日号より)。

日本企業の多くは、これまで縦社会・・・サイロ型という言葉に代表されるように・・・音楽なら音楽、ゲーム機ならゲーム機、というように決められた枠の中で最適化して動いてきた。その最たる例がソニーだ。

他方、Appleはソフトやハードが融合し、強烈に魅力ある商品を生み出す力・・・を鮮烈にはなってきた。パナソニックの動きは、これに見習い、追いつき、追い越そうという意思の現れだろう。

このように考えてみてはじめて、今まで何気に見てきた企業の事業紹介の仕方1つにも、その企業の経営戦略が強く現れているのだ、と感じるようになった。

いやぁ、今週の日経ビジネスから、また(今更ながら・・・の)新たな気づきを得た次第で・・・m(__)m

===9つの事業領域から4つのカンパニー制へ(2013/2/2追記)===
日経ビジネス2013年1月18日号に、パナソニック津賀社長の記事が載っていた。そこでは、パナソニックが2012年1月から施行した9つの事業領域がうまく機能せず、4つのカンパニー制へ移行したというのだ。

振り返れば、2010年から11年末までは16事業領域で100のビジネスユニットがあった。そこから変わりに変わり、4カンパニー56ビジネスユニットになった。なお、4つとは、AVCネットワークス、アプライアンス、エコソリューションズ、オートモーティブ&インダストリアルだそうだ。名前を聞いただけでは一般人にはなかなかわかりづらい名称ではある。今後を見守りたい。

2012年7月6日金曜日

ISO22301徹底解説 2012年7月26日発売開始

夢見ること数年、構想2ヶ月、執筆&悶絶2.5ヶ月・・・。


2012年7月26日に、ついに本が出ます。


ISO22301徹底解説-BCP・BCMSの構築・運用から認証取得まで

価格: 3,360円

表紙画像がまだアマゾンにアップされていないようですが、こんな感じです。

日本最速・・・ISO22301徹底解説!

企業のリスクマネジメントに特化した話なので、ターゲットになる方はもんのすごく絞られるとは思いますが、まぁ、一応・・・。


献本をしてくれる会社

書評を書くのが好きな人には朗報です。みなさん、レビュープラスってご存知でしょうか?

わたしもたまたま知ったのですが、書籍のレビューワーに献本をしてくれる会社です。

わたしのような一般ブロガーは、無料で本を読めるところにメリットがある。一方、レビュープラス側は、我々のような一般人の口コミを利用して、マーケティング活動ができる。

そんなWin-Winのビジネスモデルです。 

本を売りたい出版社 → レビュープラス社 → ブロガー(自称書評家達)
《販売強化》             《無料で読める》 

 もちろん、制約もあります。献本になりますので「あの本が読みたい!」と、そうおいそれと簡単に自分の好みで書評対象を選ぶことができません。また、レビュープラスの会員(無料です)になれば、誰もが確実に献本を受けられる、というわけではありません。 

とは言え、とにかく色々な本を読みたい・・・という人には非常に魅力的なサービスだと思います。

正直、このサービスを見たときは、「どうせ、会員登録しても、(無料だからこそ)献本受けられるチャンスなんて、少ないんじゃないの!?」と半信半疑でした。 しかし、数ヶ月前に登録させていただいて依頼、今月で2冊目の献本をしていただきました。2冊目の書評は、〆切が7月15日なので、これから書く予定です。

ちなみに、1冊目は、「佐川萌え」・・・。自分の趣味とは全く反対方向の本でしたが、これも知らない世界を知る、いい機会だったと今ではありがたく感じています。 みなさんも、興味があれば、ぜひ・・・。

サイトはこちらです↓

 レビュープラス

2012年7月1日日曜日

書評: 「超」文章法

「すごくわかりやすく、しゃべる人だなぁ」

どこかのラジオ番組でそんな印象をもったのがきっかけである。聞けば、この人が、文章を上手く書くためのヒント本もだしている、という。そんなわけで、すぐに飛びついた。

タイトル: 「超」文章法
著者: 野口悠紀雄
出版社: 中公新書




■”つまみ食い”できるノウハウ本

全七章、245ページからなるこの本には、”明日からすぐに使える文章力向上テクニック”がつまっている。

第一章: メッセージこそ重要だ
第二章: 骨組みを作る(1)・・・内容面のプロット
第三章: 骨組みを作る(2)・・・形式面の構成
第四章: 筋力増強・・・説得力を強める
第五章: 化粧する(1)・・・わかりにくい文章と闘う
第六章: 化粧する(2)・・・100回でも推敲する
第七章: 始めればできる

この本の最大の特徴は、実践的・・・いや、そうではあるが、それ以上に”つまみ食い的に活用できるノウハウ本である”、ということだ。

”つまみ食い的に活用できる”とは、つまり、本をパラパラっと斜め読みして、自分の気になるところだけに目をとめても、それだけで十分役に立つ本、という意味だ。

章構成だけを見ると、七章全てが揃わなければテクニックの習得が困難であるかのようにも見える。が、章1つひとつに込められた著者のメッセージは明確だし、章の中が数多くの小見出しで分けられており、どこをどう読み始めても理解ができるような配慮がされている。

■”つまみ食い”を侮るなかれ

ところで、”つまみ食い”といっても、心にいちいち響くメッセージも、少なくない。

たとえば、わたしは著者の「タイトルをいい加減につけてはならない」というメッセージに関する次の”くだり”に、心をうたれた。

『内容がわからないタイトルをつけるのは、「どうしても読んでもらいたい」という熱意が書き手にない証拠でもある。タイトルをいい加減な気持ちでつけているなら、内容もいい加減な気持ちで書いているに違いない。読者にそう評価されても、しょうがない。』 (「超」文章法より引用)

全く同感である。

プレゼンスライドのタイトルをいつもいい加減につける我が部下に、この”くだり”だけでも、読ませたいくらいである。

せっかくなので、もう1つ、わたしが心うたれた・・・というか、胸をぐさりと刺された”くだり”を挙げておこう。

「最初に言い訳をする」文章を書く人に対する著者の次の批判だ。

『(「私はこの問題の専門家ではないのだが」などといった言い訳)文章の真意は、「間違っていたとしても、大目に見て欲しい。私自身もれっきとした専門家なのだが、じつは専門は別の分野で、そちらでは間違うことはありませんよ(あなたは知らないでしょうが)、ということである』(「超」文章法より引用)

わたし自身、ハッとさせられた。

■文章力を少しでも向上させたいと思っているなら、読むべき本

「おめーさん、それを言っちゃぁ、おしめーだよ」

そう注意されるのを恐れずに言わせてもらえば、いずれにせよ思うのは「本を読んだだけでは文章能力は向上しない」という事実である。

英語のスピーキング能力は、実際にしゃべらなければ伸びない。リスニング能力は、実際に聴かなければ伸びない。同様に、文章力は、実際に文章を書いてみなければ伸びないのだと思う。

ただ、それにしたって、全く知識なしで書くのと、知識を少しでも持って書くのとでは効果が違うのではないだろうか。

しかるに、こうした類の本を読むことの意義は決して少なくないと思うわけである。

ちなみに、著者自身もプロローグの中で触れているが、論文、課題論文、解説文、報告文、企画書、評論、批評、エッセイ、紀行文などを書く人にお勧めの本である。

とにかく、少しでもまともな文章をかけるようになりたい・・・そんな人はぜひ。

【関連リンク】
書評: 井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室(井上ひさし)
感想文: 「ニッポンの書評」(豊崎由美)


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...