2013年4月27日土曜日

BCP・BCMS本・・・「ISO22301徹底解説」の2刷り目が決定

拙著 「ISO22301徹底解説−BCP・BCMSの構築・運用から認証取得まで-」の2刷りが決定しました。

使い手に役立つことを真剣に願って、魂を込めて書いた本なので、とても嬉しいです。細く長く売れ続けてくれることを心の底から願ってます。

ちなみに、そろそろ次の本を画策中でごわす・・・。


ISO22301徹底解説(勝俣良介著)

書評: 決断の条件

決断の条件 ~マネジメント力を鍛える実践ケース50~
著者: P.F.ドラッカー (編者:ジョゼフ・A・マチャレロ、訳:上田惇生)
出版社: ダイヤモンド社


■決断力の中・上級者向けのトレーニング本

マネジメントの決断力向上を狙いとしたトレーニング本である。

本書最大の特徴は、この本が懇切丁寧に「決断の仕方」を解説しているものではなく、50からの事例と数行からなる質問を詰めこんだのみのケーススタディ本という点にある。ケーススタディ本とは、過去にいくつかの企業で起きた実話を読み物語のように紹介している本のことだ。読者には、この読み物語を通じて、そこに登場する主人公が行った決断までの流れを追体験し、「何が決断の成功要因だったか」「何が失敗要因だったか」を自ら考え、自分なりの答えを導き出すことが求められる。

なお、各事例の最後についている質問は極めてシンプルなものだが、そこに正解はないし、回答例も記述されていない。どうしたらいいのか、分からなければ、別の本にヒントをゆだねたり、人に聞いたりするなど、自ら導き出すしかない。

【質問例】
『これからの問題は、本当に問題か。われわれは、これらの問題に取り組むことができるだろうか。それともただ説くことしかできないのだろうか。』(本書より)

ただし、さすがにヒントゼロだと(答えを与えられることになれている)日本人読者にはストレスがたまると思ったのかもしれない。回答例ではないが、訳者が、”1つの視点”と称して、各ケースの最後に考え方に関する簡単なヒントを付け加えてくれている。

■1人より2人、2人より3人・・・大勢で使う教材として

わたしの場合は、何も意識せずにこの本を買ってしまったので、自分1人の自己学習にとどまってしまったが、MBAクラスのように、1人で読む教材として使うよりも、グループディスカッションの教材として使う方が、遙かに効果的な本だと思った。事実、本書の”はじめに”には、次のようにある。

『・・・小グループでの討議に使うこともできれば、論文の教材として使うこともできる。そして最も重要なこととして、本書のケースは、マネジメントにかかわる情報を真の知識に転換する助けとなるはずである』(本書の”はじめに”より)

事例自体は決して難しいものではないし、専門知識がなければ考えることができない、というものもない。1ケースあたりのページ数も5ページ弱と非常にコンパクトだ。自分の会社の課や部の勉強会のネタにすることもできる。たとえば勉強会参加者が10人くらいいたとしたら、決断に関しての”反対派”と”賛成派”で半分に分け、ディベートさせる・・・というのも面白いのではないだろうか。その際、色々なレイヤーの役職者や部門の人が参加できたら、考えに多様性が出て、また、上の人の思考プロセスも勉強できてなお有意義になるように思う。

そう・・・1人の読み物・・・とするにはあまりにももったいない本なのだ。


2013年4月14日日曜日

書評: 「運脳神経」のつくり方

日本の人材育成の底上げを真剣に考えるのなら、大学受験の必須科目に”体育”を入れるべきだ。そう豪語するのは、東京大学大学院の総合文化研究科の深代教授だ。

「運脳神経」のつくり方 ~運動も勉強もできる脳を育てる~
著者: 深代千之
出版社: ラウンドフラット
価格: 1,500円



■文武両道は成り立つ!?・・・いや、成り立たせるべき!

本書は、運動が脳の活性化・・・つまり、頭を賢くするのに大いに役立つことを、科学的・統計学的に証明するとともに、脳を活性化させる具体的な実践方法を解説している本である。

なぜ運動することが頭を賢くすることなるのか。本書によれば、運動も勉強も、実は脳を使うからだ、という。「運動する=体を鍛える」というイメージが先行するが、「運動する=脳を鍛える→体を鍛える」なのだそうだ。わかりやすく書けば、次のようになる。

「運動する=脳を鍛える(→体を鍛える)」=「勉強する=脳を鍛える(→指先を動かす)」
本当か?と思う方は、著者が豊富なデータを紹介しているので、ぜひ、本書をご覧いただきたい。ただし、運動するだけで頭が賢くなるというなら、運動能力の高い人はみんな”頭がいい”ということになる。身の回りには、運動ができても、あまり勉強ができない・・・という人が少なからずいるハズだ。これについては、深代教授によれば、同じ”運動”でも2種類の”運動”がある、という考え方で十分に説明できるのだそうだ。2種類の運動とは、1つは純粋に筋力や持久力を鍛える運動。もう1つは、技術(テクニック)を磨く運動。前者をトレーニングと呼ぶのに対し、後者をプラクティス(練習)と呼ぶのだそうだが、このプラクティスを行っている人こそ、脳が鍛えられる、という。

■実践方法を図解入りで解説

日本大学総合科学研究科の林成之(はやしなりゆき)教授は、その著書「脳に悪い7つの習慣」の中で、脳に悪い習慣の1つとして「スポーツや絵などの興味がない」ことを挙げており、具体的に、手軽にでき、かつ、得られる効果が高い運動として”キャッチボール”を薦めていた。

面白いことに、今回の本の著書、深代教授も、技術(テクニック)を磨く運動の典型例として、キャッチボールを挙げている。指先や手首、腕の関節をどう動かすのか、ボールをどのような力で、どういう放物線を描くように手放すのか、様々なテクニックが求められるからだ。もちろん、プラクティスにいいのはキャッチボールだけではない。体の捻り、大また歩き、足指歩き・足指遊び・・・など、10を超えるプラクティスの実践方法が紹介されている。

そう・・・まさに、こうした効果的な実践方法を図解入りで具体的かつわかりやすく解説しているのが本書の特徴でもある。

■受験生から、ビジネスマン、育児中の親にいたるまで

ところで、深代教授によれば「プラクティスによる効果の有無に年齢は関係ない」とのこと。したがって、年齢問わず、自分の脳力を高めたいという人には有り難い理論だ。特に、運動がおろそかになりがちな受験生やビジネスマンこそ、読んでおくといいかもしれない。

もちろん、育児の真っ最中・・・という親も一読の価値があるだろう。なにせ、神経細胞が発達するゴールデンエイジは3歳ぐらいから小学校低学年までなのだそうだから。ちなみにわたしは、育児に活かす目的で本書を買ったクチだ。

■理論を理解すること、と、実践することは別問題

本書を読めば、運動(プラクティス)が脳に良いことは十二分に理解できる。また、それを実現するための方法も理解できる。しかし当然ながら、本書を活かすも殺すも、理解したことを実行に移せるかどうか・・・それが全てである。わたしを例にとると、読了後、一応家の前で自分自身、体を捻ってジャンプしてみたり、大股で歩いてみたり・・・また、息子と数ヶ月ぶりに公園でキャッチボールをしてみたり、サッカーをしたり・・・してはみた。果たして、これを数ヶ月後も実践できているかどうか・・・それは私にもわからない。

理論と実践方法を学ぶにはベストな本だ。それは間違いない。後は、実行し続けることができるか・・・その意志があるかどうかが、この本を買うかどうかの判断の分かれ目と言えるだろう。


【脳という観点での類書】
脳に悪い7つの習慣(林成之著)


===素人が150Kmの剛速球を打ってしまう衝撃===
先日、朝の番組が「集中力のプロは、やったことのない運動でもそれなりの成果を出せる」・・・そんな証明をすべく、ある実験をしていた。速読のプロ(女性)、カルタとりのプロ(女性)、そろばんのプロ(男性)・・・いずれも野球など一回もやったことがないという成人だが、この人達にピッチングマシンから投げ出される150Kmのボールを打ってもらう、という実験だ。150Kmというと、野球をやっていた人でも、そのスピードになれるまでかすることも難しい球速だ(わたしも野球をやっていたので分かる)。なんと、この3人、練習なしでいきなり10球中6~8球を打ち返すという快挙をやってのけた。専門家に言わせると、ボールのリリースからバッター(自分)の手元に届くまで、そしてそれにあわせて自分の体のどの部位をどの程度のスピードで動かせばあたるか・・・そういった脳の計算処理のスピードが一般人よりも速いのだそうだ。「運脳神経」の実例を、まざまざと見せつけられた・・・本当に衝撃の映像だった(2013年4月27日追記)

2013年4月6日土曜日

書評: 学び続ける力

学び続ける力 ~池上さんと考える教養のすすめ~
著者: 池上 彰
出版社: 講談社現代新書


本書は、人間がよりよく生きるための効果的な”教養の身につけ方”を池上彰氏の人生に例をとりながら、示しているものである。

こう切り出すと、まず「池上さんの言う教養って何だろうか!?」と疑問がわく。 実は、本の帯に答えがある。「すぐには役に立たないが学んでおけば将来、ずっと役に立つもののこと」だ。したがって、すぐに役立つこと・・・そう、たとえば「お酢をつけてこすればシールをきれいにはがせる」なぁんていう今からでもすぐに役立つ、生活の知恵シリーズなるものは”教養”には入らない。MBAのように、社会人にすぐに役立つ武器を提供することを前提とした学問も、厳密に言えば、教養の部類には入らない・・・らしい(ちなみに、わたしはMBAではすぐには役立たないこともいっぱい学んだと思っているので、正直、この指摘には賛同できないが)。では何が教養なのか? それはたとえば、歴史であり、数学であり、茶道であり、哲学だ。

では、次に池上さんの言う”効果的な教養に身につけ方”って何だろうか!? この疑問に対する答えがまさに本書の一番のテーマでもあるのだが、わたしなりの言葉でまとめると、見る、聞く、読む、喋る・・・こうした日常生活の基本的な動作ひとつひとつに、興味のアンテナを広げ、自分の頭で考える工夫を入れること、と言えるだろう。たとえば、”ニュースを読む”行為ひとつとっても、池上氏は、インターネット上のニュースではなく、紙の新聞を読むことがいいのだ、と言う。インターネットニュースは、読み手に興味のあるものだけを簡単に選び出せるようになっているため、関心の幅を広げる機会を得られないというのだ。それよりも、いろいろな見出しが目にとびこんでくる紙の新聞を読んだ方がいいだろう、というのが池上氏の提案だ。また、ノートの取り方に関するアイデアも中々だ。ページ左半分だけにメモをとり、右半分は開けておく。ノートを取り終わった後に、左側のメモを見ながら、右半分に、自分なりの考えを書き出す・・・。「つまり、相手はここで何を一番伝えたかったのだろうか?」などと。こうして”自分で考える”という行為を促す。

池上さんの言う”教養”が何たるかがわかった。”教養”はどう身につければいいのかもわかった・・・。ここで次の疑問がわく。「よりよく生きる・・・って何だ!? 教養を身につけると何がよりよくなるのか!?」と。

池上さんは次のように語っている。

『(教養を得ることで)自分の存在が社会の中でどんな意味をもつのか、客観視できる力を身につけることができるのです』(本書より)

なんとなくわかったようなわからないような・・・。言い換えると、「やみくもに生きる・・・そう、狭い一本道を突き進むことだけに腐心するのではなく、ゆっくりと立ち止まって周りを見渡そうよ。実は、自分の周りには他にも道があり、愉しい世界が広がっていることにきがつくよ。”教養”を得ることで、そうしたことに気づけるチャンスを増やせるよ。」・・・そんな感じじゃなかろうか。

故スティーブジョブズ氏は、美しさに魅せられて、何の役に立つかもわからない”カリグラフィー”を学んだが、それから10年以上の後、本人もびっくり、実はAppleのコンピュータ(マッキントシュ)を生み出す上で大きなカギになったのは有名な話だ。”教養”というと大仰に聞こえるが、わたし自身も、今の自分の立場を得る上で、大きく貢献してくれたのは、何に役立つかわからずに学んだことばかりだ。

「すぐに役立つことは、すぐに役だたなくなる」

池上彰氏が座右の銘であるかのように繰り返し発するこの言葉は、実は、文庫本「銀の匙」一冊だけを3年間かけて読むという型破りな国語授業を行い、灘に私立校初の東大合格者数日本一の栄冠をもたらしたあの伝説の教師、橋本武氏の言葉でもある。つまり、この言葉は、疑いようのない事実なのだ。何とも含蓄のある言葉だと思わないか? 少しでもそう感じるのならば、ぜひ、読んでおきたい一冊である。


【”教養”の本質に迫るという観点での類書】
奇跡の教室(伊藤氏貴著)
風をつかまえた少年(ウィリアム・カムグワンバ著)
人生を面白くする本物の教養(出口治明)

===役立たずな知識の有用性(2013年4月14日追記)===
月刊VOICE2013年5月号で山形浩生(やまがたひろお)氏が、エイブラハム・フレクスナーの書いた「役立たずな知識の有用性」について触れていた。フレクスナー氏によれば、好奇心のままに追究した方が遠い将来、有用性につながることが多いのは事実だが、追究する行為の正当性を有用性に求めるのはナンセンスだという。役立たずな好奇心の追究こそが人類の魂の自由な表れであり、それはそれ自体として何ら必要にしないのだ、と。ただし、山形浩生氏はフレクスナー氏の話を踏まえた上で”過ぎたるは及ばざるがごとし”的な結論でまとめている。つまり「政府は将来役に立つかどうかだけで物事を測り過ぎるべきではないし、研究者は自分がやっていることを何でもかんでも盲目的に追究するべきではない」と・・・。なるほど!

2013年4月1日月曜日

書評: リスク、不確実性、そして想定外

リスク、不確実性、そして想定外
著者: 植村 修一
出版社: 日系プレミアシリーズ


■”リスク”・・・虎の巻

本書は、”リスク”の解説書だ。”リスク”とは何か、リスクとどのようにつきあえばいいのか、リスクってコントロールできるのか、コントロール方法にはどんなものがあるのか、そこに落とし穴はないのか、穴にハマらないためにどうすればいいのか・・・など、”リスク”と聞けば誰もが持つであろう幅広い疑問に対して、解説している。

どれだけ幅広い範囲をカバーしているのか? 参考までに、本書に登場したキーワードには、わたしがパッと思い出せるだけでも次のようなものがある。リスク、不確実性、テールリスク、ブラック・スワン、レピュテーショナルリスク、発生確率、最悪の事態、プロスペクト理論、コントロール、プロジェクト、サンクコストファイナンス、バリュー・アット・リスク、ストレステスト、危機管理、囚人のジレンマ、ナッシュ均衡・・・などなど。

もちろん、本書のタイトルにもなっている誰もが気になる「想定外」という言葉も登場する。なぜ、想定外は生まれるのか? 最近よく耳にする「想定外を想定する!」なんてことが本当にできるのか!?などといった疑問に答えている。ちなみに、著者によれば「何か備えをする以上、その”とっかかり”、すなわち、想定が必要になるわけで、想定をする以上、想定外が生まれるのは必然である」とのこと。全く同感だ。したがって、重要なのは”想定外”をどれだけ減らせるかどうか・・・にかかるわけだが、本書では、想定外を生じさせやすい要因は何か?・・・についてもしっかりと言及している・・・。と、まぁ、こんな感じである。

■ズブの素人でもわかる

本書最大の特徴は、その”わかりやすさ”に尽きる。専門用語を説明するのに、平易な言葉を使っていること、そして、常に身近な例を取り上げていること・・・この2点が読者の理解度向上に大きく寄与していると言えるだろう。

たとえば、”リスク”を説明するのにいきなり難しい定義から入らない。

『あなたは、会社経営において、どのようなリスクを感じていますか」という質問をFさんたち4人の経営者にしました。以下は、その答えです。Fさん → 飲食店をやっている。最近、ある焼肉チェーン店が生肉を使った食中毒事件を起こし、結局破綻した。気をつけてはいるが、自分のところでも事故が起きないか心配だ。Gさん → 情報サービス会社の社長を・・・(以下、略)』(本書より)

このように専門家視点ではなく、一般人視点で、日常的に感じるリスクについて考えてみるところから入る。そして、人によってその答えに違いがあることを示した上で、リスクには種類があること、種類は違えど”危険”という共通性があることなどを解説している。

この”わかりやすさ”に華を添えているのが、途中途中に登場する歴史コラムだ。誰もがよく知る歴史上のイベントを振り返り、”リスク”の観点から考察している。本能寺の変にはじまり、厳島の戦い、ミッドウェイ海戦、八甲田山雪中行軍遭難事件、タイタニック号の遭難・・・など全部で12のコラムがある。歴史好きには、ありがたい。

■素人はもちろん、リスクの玄人も

さて、本書のターゲットは誰だろうか。”リスク”に真剣に向き合ってみよう・・・言葉やツールを勉強してみよう・・・と思う人である。企業人で言うと、リスク管理が業務の一部になる、リスク管理部、危機管理室、経営企画室、総務部、監査部・・・に所属する人(あるいはその可能性のある人)といったところか。

わかりやすい!と書いたが、実のところ、「今更、リスクの基本なんて」・・・ていう玄人にも、向いているかもしれない。玄人ほど、難解な専門用語を知りすぎて、変に詳しい知識をつけすぎて、ものごとを複雑に捉えすぎる傾向があるからだ。リスクに関わる知識を持ちすぎたゆえに、人にわかりやすく説明できない人も多い。

初心者は、難解なリスクの世界に足を踏み入れる”とっかかり”の本として、玄人は、堅くなった頭を柔らかい頭に戻す本として・・・有効な本だろう。

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...