2012年3月25日日曜日

書評: 小島慶子 女子アナ以前

今週読んだのはこの本だ。

小島慶子 女子アナ以前 ~あのころのわたしと、いま考えていること。~
著者: 小島慶子
発行元: 大和書房
発行日: 2011年8月5日

著者の小島慶子氏は、わたしが大好きで、かつ、尊敬するラジオパーソナリティだ。今から1年ほど前、ふと「なんかラジオ聞きたいなぁ~。面白い番組ないかな~」と探していた時、アクセスランキング1位だった番組「小島慶子キラ☆キラ」が目に止まったのが彼女の存在を知った瞬間だ。

「なぜ好きなのか?なぜ尊敬しているのか?」

彼女は「最近、周りに見ないタイプの人」「自分に持っていないものを持っている人」・・・自問自答してみるとこの2つの答えが見えてくる。物怖じせず、思ったことをズバっと言う。喜怒哀楽の感情を恥ずかしがらずに出す・・・わたしの目にはそんな人に映る。

「知らないよ、小島慶子なんて・・・」と言う人もいるだろうが、彼女はまさに近年注目すべき日本女性の一人だ。事実、ここ一年で「えっ!?これにも出てるの!?」「えっ!?あれにも!?」と、驚くほど多くの番組に出演するようになった(もちろん、その全てを見ているわけではないが)。

■飛ぶ鳥を落とす勢いの小島慶子氏の半生に迫る

本書はそんな飛ぶ鳥を落とす勢いを持つ小島慶子氏の自叙伝である。今でこそ大活躍する彼女だが、その半生は常に順風満帆だったのか? どんな苦しみがあったのか? どうやって抜け出せたのか? 二次の母親として、仕事をする女性として、一人の人間として・・・これまでに彼女が経験し、感じたことを赤裸々に語っている。

■子育てと仕事の両立に苦しむ女性に

男女問わず小島慶子という人間に興味を持っている人であれば本書を読むことは有意義なことだろうが、ところどころで彼女が出すアドバイスは女性・・・とりわけ子育てと仕事の両立に懸命に生きている女性に向けたものだ。

たとえば彼女がとりあげるテーマには次のようなものがある。

「お受験コンシャスなママたち」
「”ママ友”って必要ですか?」
「結婚して良かったと思えるとき」
「大人の女の友達関係」など

※わたしはなんにも考えっずに買ってしまった(-_-;)

■一人の女性として人間として懸命に生きてきた彼女の人生に光を見出す

何事にも歯に衣着せぬ発言をする小島慶子氏。本書を読んで見えてきたのは、決して生まれつき奔放な性格であったわけではなく、また、解放感溢れる中に育ってきたわけでもない、むしろ抑圧され続けてきた半生だ。上下関係を強く意識させる駐在員の娘としての海外生活。常に答えを押し付けようとする昔ながらの母親の存在。人間は生まれながらにして平等ではないということを嫌というほど思い知らされる学習院での学校生活。社会人になってからは摂食障害・・・果てはパニック障害までを経験し、苦しんだことがあるという。

彼女を照らす光の明暗・・・そのギャップの大きさに驚く。今の小島慶子は過去の抑圧の反動なのだろうか。

いずれにせよ、間違いなく言えるのは、そのような苦しみから抜け出すために懸命に生き、そして抜け出してきた彼女の体験談は、きっと同じように苦しんでいる多くの女性に光を与えてくれるのではないだろうか、ということだ。



【関連リンク(自叙伝という観点で)】
書評: やめないよ(著者:三浦知良)
書評: 40歳からの適応力(著者: 羽生善治)

2012年3月24日土曜日

書評: ふしぎなキリスト教

23億人・・・この数字が何かお分かりだろうか?

全世界に存在するキリスト教徒の数(2010年)だ。イスラム教徒や仏教徒に比べても約2倍近い数・・・そんなとてつもない信者を生み出したキリスト教の世界観を知ることは決して無駄ではないはずだ。

ふしぎなキリスト教
著者: 橋爪大三郎、大澤真幸
発行元: 講談社現代新書

■キリスト教のタブーに迫る!

「なぜ、キリスト教がここまで広まるにいたったのか?」「キリスト教とはそもそも何か?」「ユダヤ教と何が違うのか?」「イスラム教と何が違うのか?」・・・誰もが持つキリスト教に関する疑問に対する答えを約300ページの文庫本の中に詰め込んだ本である。ちなみに同書は”新書大賞2012”において栄えある第一位に選ばれた本だそうだ。

この本の最大の特徴は、本が一方的な解説口調でまとめられたものではなく、社会学者である大澤氏と橋爪氏の対談形式でまとめられている点にあるだろう。キリスト教徒ではない一般読者の立場・・・ともすれば辛辣ともとれる質問の数々を直球で投げる大澤氏に対し、宗教観に理解の薄い人でも分かるように様々な喩え話を用いて回答を返す橋爪氏。

わたしが”直球”と喩える大澤氏の質問には(全体のほんのごく一部だが)例えば次のようなものがある。

「食べていけないのなら、なぜ、神はわざわざアダムとイブの側にそのリンゴの木をおいたのか?それはまるで囮捜査ではないか!?」「神が完全体というのなら、なぜ、不完全体(人間)を作ってしまったのか?」「なぜ、ユダヤ人が選ばれたのか?」「なぜ、イエス・キリストについて異なる説明をする書物(福音書)が複数存在するのか?」

また、橋爪氏のわかりやすい喩えでとても印象に残っているのは「イスラエルを追われたユダヤ人が信仰するユダヤ教にはなぜあのような厳しい戒律が存在するのか?」といった疑問への回答だ。

『もしも日本がどこかの国に占領されて、みながニューヨークみたいなところに拉致されるとする。百年経っても子孫が、日本人のままでいるにはどうしたらいいか。それには、日本人の風俗習慣を、なるべくたくさん列挙する。そして、法律にしてしまえばいいんです。正月にはお雑煮を食べなさい。お持ちはこう切って、鶏肉と里芋とほうれん草を入れること。夏には浴衣を着て・・・(中略)・・・これを守って暮らせば百年経っても、いや千年経っても、日本人のままでいられるのではないか。こういう考え方で、律法はできているんですね』

■宗教に関心の無い人にこそ

ここまで深く掘り下げたベストセラー本を、たった3回の対談で作り上げてしまったというのだから、ただひたすら驚くばかりである。さて、

この本・・・キリスト教をはじめ宗教の世界に興味がある人よりもむしろ、「宗教なんて・・・」とか「おれは無神論者だから関係ねぇ!」とか思っている人に読んでもらいたい。この本を読むと宗教は誰にとっても決して無縁なものではなく、むしろ、我々の生活に深く入り込んでいることがわかるからだ。

何かを強く信じることが宗教であるとするならば「わたしは無神論者である」と頑なに主張することそれ自体が、1つの宗教観である・・・そう大澤氏は語る。見識を広めるためにも、私たちの生きる世界をより本質的に知るためにも、ぜひともオススメしたい本の一冊である。



2012年3月11日日曜日

書評: 50歳を超えても30代に見える生き方

「心拍数上げると死ぬらしいですよ」「ぜひ、この本を読んでみてください」

そんな言葉で同僚から勧められたのが次の本だ。

50歳を超えても30代に見える生き方 ~人生100年計画の工程表~
著者:南雲吉則
出版社: 講談社プラスアルファ新書

■要するに’健康管理啓発本’

57歳(1955年生まれ)の医師が、長く健康でいられるための秘訣を伝授する本だ。

正しい健康管理のあり方について、自身の実体験からはじまり、医学的、統計学的・・・そして動物学にいたるまで・・・幅広い分野に主張の根拠を求めているので非常に説得力がある。しかし、なんといってもこの本最大のウリは著者自身だろう。著者の南雲氏は本を執筆した当時56歳(2012年現在57歳)。写真を見ると、なるほど56歳には全然見えない。

本人は「脳年齢38歳、骨年齢28歳、血管年齢26歳です!」と豪語する。

■特徴1) 全ての生物には”命の導火線がある”という考え方

こうした著者の主張の出発点を探ると、すべて1つの科学的根拠にたどりつく。生物に存在する’テロメア’・・・著者が「命の導火線」とも呼んでいるもの・・・に基づく考え方だ。細胞が何兆個に分裂してもDNAは正確にコピーされるが、このテロメアはコピーが繰り返されるたびにどんどん劣化してゆくと言う。セミが約7日間という短い期間で一生を終えるのも、人間の最高齢が120歳前後であることも、このテロメアの考え方に基づけば全て説明ができるとのこと。

人が120年を全うせずして亡くなってしまうのは、何らかの原因でこのテロメアをどんどんすり減らしてしまっているからだ、というわけだ。もちろん、本はその原因に迫ってゆく。

■特徴2) ”病気は悪者ではない”という考え方

著者の主張の根底にある考え方のもう1つは「病気は悪者ではない」・・・「病気は人間の命を救うためにある」という考え方だ。全ては進化と適応の結果だと言う。

たとえば、糖尿病。人間には糖分を脂肪分に変換するインシュリンというものが存在する。ところが脂肪分を蓄えすぎると「これ以上、体に脂肪分をつけるのは危険」と細胞が判断し、インシュリンはその変換機能を停止する、というのだ。病状が進行すると、失明したり、手足の先が腐ったりするが著者に言わせれば、それも命を守るために重要性の低い部分から切り捨てていこうとする細胞の意思の現れだ、とのこと。

すなわち”病気”は体からの親切な警告である、ということだ。逆に言えば、薬を飲んだり、手術をしたりして治癒するのは、その”警告を一時的に打ち消しているに過ぎず、それだけで事を済ませるのはかえって危険”というわけだ。警告を発した根本原因・・・たいていは生活習慣なのだが、そこにメスを入れないと「”命の導火線”はどんどん減る一方ですよ」となる。

かくして、この本は生活習慣をどのような方向性にどのように持っていったらいいかについて深く言及しているのである。

【本の章立て】

第一章: アンチエイジング実現の条件
第二章: メタボの真実
第三章: ガンは悪者ではない
第四章: 免疫を高めすぎてはいけない!
第五章: 「老い」にも「病気」にも意味がある
第六章: 細胞から若返る食事術
第七章: 20歳若返るシンプル生活術

■”健康を害したことのない人”は読まなくても良し

冒頭で述べたように医学的、(本人の)経験的、動物学的など色々な見地から、生活習慣を変えることの重要性とその現実的な実践方法について述べているので、読み終えた後「あー、オレも今日から、コトを起こそう!」という気になることは確実だ。

ただし、それだけ説得力を持つ本であっても、これが心に響く年齢は大病をした人・・・もしくは、おそらく30代後半・・・40代以降(ちなみにわたしは39歳)の人だろう。

なぜか!?

実は、著者は決して目新しいことは言っていないからだ。「塩分は控えめ」「運動のし過ぎはダメ!」「”まるごと食べる!”が基本」「サプリはダメ!」「睡眠は良より質!」などなど・・・どこかテレビや雑誌で聞きかじったことのあるような訓戒がズラリと並ぶ。

似たような話を過去に聞き、その後「生活習慣を変えた人」が果たしてどれだけいるだろうか!?

人は所詮、痛みが伴わなければなかなか本気にならないものだ。そんな痛みを伴った人は、30歳台後半・・・40歳以降の人に多いのではないかと思う。私の周りでも「突然、老眼がきたよ」とか「健康診断でいつもアウトでね」などと言っている人はそういった年代の人が多い。

私自身、まだ一度も大病を患ったことがなく自分の健康を信じて疑わなかった37歳のとき、突如、原因不明の症状で倒れ1週間入院した。その後も、飛蚊症(眼底出血が起こり、血の塊がその後、蚊のように眼底の周りをうごくため)になったり、腕が上がらなくなったり・・・様々な病気を経験した。そうした経験を経た今だからこそ、著者の書いている内容を真剣に受け止めることができるし、今まで以上に生活習慣を変えていこう・・・そう思うのである。

健康のありがたみを少しでも実感したことのある人・・・そういう人にぜひ読んでいただきたい。



【関連リンク】
右目を患った日(ブログ)
書評: 食の安全と環境(ブログ)

2012年3月8日木曜日

すべらない書き方

2012年3月19日号の雑誌プレジデントのテーマは”「すべらない」書き方”。大きく次の2点の記事が印象に残った。

■議事録の書き方

「すべらない」書き方がテーマ、と言っても手紙や作文だけが対象ではない。記事は企画書をはじめ、提案書、報告書など、ビジネスの要所要所で発生する”書く”という行為全てにスポットライトを当てている。その中で最も有益だったのが議事録の書き方。

議事録の作成は、日々発生するが意外に難しく重要な作業だと思う。自分でも、分かりやすさを追求し独自のフォーマットを用意し作成してきたが、いまだにどうもしっくりきていなかった(※かと言って専門書を買ってまで学びたい、といったような気も起こらなかった)。なんというか、まとまっているように見えて微妙にわかりづらいのだ。

張本邦雄TOTO社長が指南役として登場しているが、そこで見た事例が非常にわかりやすい。

議事録と言うとたいてい会議の基本情報(日時、場所、参加者、使用した資料)、議題、決定事項、話し合った内容・・・などを盛り込む。後から議事録を見た人が「その会議で何が行われたか」・・・そのツボをつかむためには、特に「決定事項」や「話しあった内容」が重要になる。中でも「話しあった内容」を時系列に”誰ソレから○○のような発言があった”といった形で記述されるケースが多い。

事例では、時系列や発言者別に「話しあった内容」を整理するのではなく、”情報の性質別”に整理をしてあった。性質別とはたとえば「前提」「論点」「課題」といった単位で情報をまとめるという意味だ。

自分は十分に徹底できていなかったように思う。良い反省材料をもらった。

■企業の活路 三菱ケミカルHD

文字どおり「三菱ケミカルHDのこれから」についての特集記事だ。この記事からは「よし自分ももっと精一杯生きよう!」というエネルギーをもらった。

そこには同組織で重要な役割を担う7人のサムライが紹介されているが、そのトップを行くのが小林喜光三菱ケミカルHD社長兼三菱化学社長だ。三菱ケミカルと言えば連結での売上額が3兆円を上回る巨大企業。マンモス企業イメージの強い花王の売上額が1兆円だから、三菱ケミカルHDの大きさが窺い知れる。そんな企業の社長・・・とあらば、四方八方から槍が飛んでくるのは当然だろう。

「(部門削減に反対する社員から)反対のシュプレヒコールとかこたえたでしょう?」との問いに小林はこう答えた。
「俺が悪いんじゃねーよ。全部会社のためだと言いたいけどさ、だけども、ブレたことは一度もない。」

そんな小林社長がインタビューアーに「ブレない自分」を確立できた原点を、ありのままの言葉・気持ちで表現しているのだが納得感があり印象に残った(興味のある方は記事をご覧あれ)。ともあれ、海外経験を経て「人間は存在するだけで美しく、素晴らしい。ならば精一杯生きよう」・・・こう思えた瞬間に「ブレない」小林社長が誕生した・・・と記事は言及している。

ちなみに、人生の数年間を海外で過ごしたことが今の小林社長の土台を作ったわけなのだから、海外に出ることの大切さをここであらためて感じる次第。

さて、わたしも常日頃から「精一杯生きよう!」「悔いのないように生きよう!」・・・そういう信条で生きてきた。このブログにつけたタイトル(全速力の軌跡)もそういった嘘偽りのない想いと行動が反映されたものだ。今回、似たような想いを共有する方が大企業のトップとして活躍していることを知り、励みになった。もっともっと精一杯生きよう!

2012年3月5日月曜日

書評: 井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室

「作文の秘訣を一言で言えば、自分にしか書けないことを誰にでも分かる文章で書くということだけなんですね」

そんな文章ではじまるこの本は、1996年11月15日から17日にかけての三日間、岩手県一関市で開催された「作文教室」での井上ひさし氏の講義内容をまとめたものだ。

井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室
著者: 井上ひさしほか 文学の蔵編
発行元: 新潮文庫


■作文の基本から日本語のクセ、作文の添削例までを掲載

本は全4章(1時限目~4時限目)で構成されている。各章に小見出しがついていないので、わたしなりの解釈をもとに趣旨を書きだしてみると以下のような感じだ。

1時限目: 作文の基本について

1時限目だけで20を超えるポイントが掲載されているが、参考までにいくつか挙げると以下のようなものだ。
「タイトルをつけるということで三分の一は書いたということになります」
「みなさん、まず下書きを書きますよね。そうすると、だいたい前の方はいらない」

2時限目: 日本語について

1時限目同様、参考までにここで触れられているポイントをいくつか挙げると以下のようなものだ。
「点ひとつで意味が全然変わってくるわけです」
「木も葉っぱも長い草も、語彙の数は日本が一番だと思います」

3時限目: わかりやすく書くということについて

1時限目同様、参考までにここで触れられているポイントをいくつか挙げると以下のようなものだ。
「文章に接着剤を使いすぎるな」
「誠実さ」「明晰さ」「分かりやすさ」・・・これが文章では大事な事です

4時限目: 添削結果

■「思ったことを書きなさい」はプロにとっても難題

総じて参考になるものが多かったが、中でも印象に残ったことは「”思ったことをかく”はプロにとっても難題である」という井上ひさし氏の指摘だ。「プロでも書けないことを子供に書かせようとすることは何事かと」氏は学校の作文教育に警鐘を鳴らしている。本来子供に問いかけるべきは「(たとえば遠足などに行って)何を思ったのか書きなさい」ではなく「何をしたのか書きなさい」であるべきだろうと氏は言う。

つまり「何をしてきたのか、何を見てきたのか・・・モノゴトを正しく捉えそれを的確に表現すること」・・・まずはその訓練が最初だろうというわけだ。

この氏の指摘は”目から鱗”だった。わたしも子供に(ほんの数行だが)作文を書かせることがあるのだが「(子供が自分に)正しい質問を問いかけられるようになりさえすれば、文章なぞいくらでもかけると考えていた」。おそらく最終的にはそういうことなのだろうが、その前にまず「(遠足で)どこに行ったのか?何をしてきたのか?」あるいは「(読んだ本には)何が書いてあったのか?」・・・こういったモノゴトをとらえさせることが大事なのだ、と気付かされた。

もちろん、これは自分にも言える。

■文章を書くことに興味がある人に

と、こんな感じで色々な学びのある本である。文章の上手い下手に関わらず「文章を書くのが好きでもう少し上達してみたい」と思っている人・・・この本で述べられている「作文教室」の参加者たちはそんな人達ばかりである。同様の気持ちを持つ人ならば”買い”の本であると思う。





2012年3月4日日曜日

不屈のサプライチェーン

日経ビジネス2012年3月5日のテーマは「不屈のサプライチェーン」。

事例が豊富で結構、タメになった。サプライチェーンに強く依存する業界にいる人、企業の危機管理担当者、危機管理関係のコンサルタントは必読の雑誌だ。例によって印象に残ったことを以下に挙げておく。

■揺らぐ「日本の裏庭」

「ソニーは東日本大震災の際、部品の調達先が被災し、ビデオカメラなどの生産に支障をきたした。機種ごとにどのメーカーからどのような部品を調達してるか、リストを作って把握するだけで3週間かかり、調達先の被災状況の確認、代替メーカーの確保を経て、生産を再開するまで製品によっては約2ヶ月を要した。それに比べれば、今回は部品調達先のリストが既に手元にあった分、当時の半分の約1ヶ月で生産を再開できた。」

※記事はソニーだけでなく、花王、コマツ、富士通・・・同様の事例を豊富に紹介している。共通のキーワードは、可視化、分散化、標準化だ。

■気づけば調達二流国

「世界の優良企業は、成果的なリスクが高まる中で、サプライチェーンを経営の最優先テーマと位置づけていると痛感した」(日立の江幡誠執行役専務)

※これはわたしも仕事をしていて同感。ただ、どうしてこのような意識の違いが出るのか、それが知りたい。こうした危機感の薄さ・・・これが狩猟民族と農耕民族の違いってやつなのか!?

■市場と価値観を共有する

「・・・そのとき、社外取締役から”3年目はまさか、こうじゃないよね”と問われました。私はその言葉を「3年目も赤字ならトップを続けることは社会の常識では許されない」と受け止めました。」(大八木成男 帝人社長兼CEO)

日経ビジネス2012年3月5日号

書評: ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験

「自分の夢は何か?」
「それはどれほど実現したい夢なのか?」
「その夢の実現のために能動的な努力をしているか?」

この本を読んで、こうした問いかけを頻繁にするようになった。

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験
著者: 大鐘 良一、小原建石
発行元: 光文社新書
発行年月日: 2010年6月20日

■オリンピック出場チャンスよりも遥かに少ない就職試験物語

なれるチャンスは四年に一度どころか、十年に一度・・・いやそれ以下の確率でしか巡ってこない。生活環境は激変、収入は激減、命を失う危険性まである。しかし、応募は殺到。試験は1000人応募して2人しか通れない超難問。そんな意味のわからない職業があるのか。そう、それが宇宙飛行士という職業だ。

宇宙飛行士を目指す人たちの過酷な選抜試験・・・1次試験から、2次、3次・・・最終選抜にいたるまでのプロセスを、ドキュメンタリータッチであますところなく描いているのがこの本「ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験」である。

■受験者を丸裸にする選抜試験

963人の応募に対し書類選考で230人、1次選抜で48人、2次選抜で10人まで絞られ、最終的に3次選抜で宇宙飛行士になる資格を得られるのは2~3人しかいない。本書ではそうした試験プロセスはもちろんのこと、試験の内容、そこで選ばれた当事者達の精神的内面にまで切り込んでいる。実際に出された例題も一部掲載されているので試しにやってみると面白い。ちなみに、わたしは最初の設問で轟沈。

ハイライトは3次試験だ。選ばれた10人が宇宙飛行士に選ばれる瞬間までの道のりに全体の9割が割かれている。最終選抜に残った10人の個人プロフィールも掲載されている。もちろん、みんな立派な経歴の持ち主だ。この3次試験・・・全2週間超の工程のうち、最初の9日間は国内の筑波宇宙センターで、後半の1週間はアメリカのNASAで行われる。最初の筑波宇宙センターの試験では、国際宇宙ステーション”きぼう”を模した船内で受験者全員が共同生活をする。この試験描写が非常に生々しい。9日間を一緒に過ごし、ロボットを作るグループ課題を出されたり、何羽もの折り鶴を折るという司令を出されたり・・・。受験者たちの一挙手一投足がカメラに映し出され、音声はマイクに拾われる。小手先のテクニックは通用しない、今までの生き様を見られる世界だ。

■誰が選ばれるのか最後までわからないドキドキ感

単に試験風景を客観的に描いているだけではない。10人それぞれの心情・・・そのときどうしてそんな言動をとったのかが、克明に描かれている。

「自分は、もともと目立つタイプではないので、その意味であの自己アピールは、正直言ってかなり恥ずかしかったです・・・(中略)・・・でも、想像以上にみなさんのアピールが強烈で、これはまずいと焦りましたね。このまま普通に終わらせたくない、ここで遅れをとることはできないということが自分の中にはありました」

そして気がつくと、当事者に自分をおきかえて読んでいることに気がつく。最終試験の結果報告・・・これを読んだとき自分の頬は涙で濡れていた。

『(夫の試験結果を聞いて・・・)実は皆様が出発された後、しばらく何も手が付けられず、ニュースを見たときは、涙がとまりませんでした。なぜ、ここに主人がいないのだろう・・・と。娘たちは「お母さん、頑張ったじゃん。だから悪くないんだよ。」と言って励ましてくれました。』

■果たして自分はどうなのか?

10年に一度しか巡ってこない試験、しかも受けても1000人に2人しか合格するチャンスはない試験・・・この本は単にそうした宇宙飛行士に選ばれることの難しさを伝えようとしている本ではない。

人を突き動かすものが何か、そしてそれを”夢”と呼ぶとするのなら、それがどれだけ信じられないくらいのパワーを生み出すのか、そして、結果を恐れずその夢を賢明に追い求めて頑張る人がどんなに輝いてみえるのか・・・それを思い知らせてくれる本だ。

この本を読んで「宇宙飛行士になりたぁーい!」と梅雨とも思わなかったが、

「今の自分は彼らに比べてどうなのか?」
「今の自分は彼らに負けない夢を持っているのか?」
「今の自分はその夢を能動的に追いかける努力をしているのか?」


今まで以上に、そう強く問いかけるようになった。




書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...