2021年2月23日火曜日

書評: 運転者 〜未来を変える過去からの使者〜

さしずめ「ザ・ゴール」のポジティブシンキング力版。なお「ザ・ゴール」とは、小説に仕立て上げられた経営管理の教育本のこと。詳しくは過去の私の書評を読まれたし。

運転者 〜未来を変える過去からの使者〜
著者:喜多川泰

ふらぁ〜っと立ち寄った本屋で割と目立つ場所に積み上げられていた本でタイトルも装丁もなんとなく変わっていたし、惹かれるように手にとった。

小説なのかと言えば小説なのだが、冒頭「まるでザ・ゴールだ」と喩えたように、ある種の自己啓発本ではある。ただ、それが物語形式で描かれているので、腹落ちしやすい。そしてそのテーマは、ポジティングシンキング力だ。何事にもめげず前向きな努力をすることがいかに大切か、どうしてそれが大切なのか、どうやったら身につくのか・・・それらを物語を通じて語った本。読み終えた頃には、本書の主人公と同じように「今日から、運を転じるために前向きに生きよう」と思えるようになる本だ。

「努力」というと重く聞こえるが、そんな重苦しいことではなく、常に陽気でいよう。他人への親切を心がけよう。物事を損得で捉えるのはやめよう・・・とかそんなことだ。

ところで、偶然手にとったはずの本だが、ここ数ヶ月読んだ本とすごく似ていることに驚いた(自分の心が自然とそうした本を手繰り寄せているのか・・・)。RANGE(知識の幅)は「損得を超えてとにかく色々なことに興味を持って生きればたくさんの発見ができる」といった話だったし、GIVE AND TAKEでは「損得を超えて人助けをするギバーこそが、一番得をする」という話だったし、本書も「損得で生きるな」という訴えかけをしているし・・・本当によく似ている。

物語になっているし、(その分、押し付けがましくなく嫌らしくないし)読みやすいし、活字が苦手な人にも入り込みやすい本だと思う。

2021年2月22日月曜日

書評:日本の論点 2021〜22

「まぁまぁかな〜」というのが本書を読んでの感想。

日本の論点2021〜2022
著者:大前研一

自らのマクロ視点を養うため何かしらの気づきが得られればそれだけで儲けものと、だいたい毎年買っている本だ。そんなわけで、今回も買った・・・。

多少、学びはあった。例えば、デジタル庁に関しての指摘。

「デジタル丁創設に関しては『庁』と言っている時点で期待値ゼロだ。世界中でデジタル化をうまく行った国・地域では『省』の上に『スーパーデジタル省』的なセクションを作ってあらゆる省庁に命令する権限を与えている」(本書より)

類似例を海外から引っ張ってくるのは大前研一氏の常套手段だが、確かに「おっしゃる通り」と感じた。縦割りの強い官公庁組織において横串を通す形で作った組織なのだろうが、権限が弱ければ実効性が心許ないのは明白だ。

また、カジノ不要論についての話。

「カジノはもはや斜陽産業である。ラスベガスはもはや「売春とギャンブルの街」ではない。1990年代にテーマパーク型のホテルとコンベンション施設を整備し、各種スポーツイベントやシルクドソレイユ、人気歌手の上を誘致するなどして展示会や見本市、国際会議、そしてファミリーデスティネーション、リタイアメントタウンに完全に路線変更した」(本書より)

これも私の意識からは抜けていたこと。カジノの話になると、いつも論点は「治安」になるが、「そもそもカジノは斜陽産業である」と言われれば、日本のそれは「論点ズレ」を起こしていると言わざるを得ない。しかも、よくよく考えてみれば、日本の統合型リゾートも「カジノ」ってメディアが騒でいるが、「統合型(IR)」なのでカジノって全体のごく一部で、確か、IR全体の3%程度で・・・「カジノ=論点」はいよいよ変だ。

さらに、景気の話。

「資産リッチな国では、金利が高い方が資金に余裕が生まれる。1900兆円もの個人金融資産がある日本では、金利が1%上がれば19兆円の余裕が生まれ、個人消費につながる。安倍政権と黒田日銀のいわゆるアベクロバズーカはここに着目せずに10世紀の経済に則ったリフレ派の誤った政策を実行、金利を下げて国債を乱発した。その結果今日に至るも成果ゼロである。資産課税を一律1%とするだけで所得税をゼロにしてもお釣りがくる。個人と企業の固定資産と金融資産の1%を課税すれば50兆円。これに10%の付加価値税を加えれば、合計100兆円。」(本書より)

「へー、そういう考え方があるんだ」と思ったのだが、ただし、こちらは「はい、そうですか」と納得してはいけない分野だと感じた。実際、リフレ派の中にも説得力ある専門家がいて、その人たちからすると「は!?」的なところもありそうだ。

実際、大前研一氏は有名な人だし、ロジカルな説明の仕方をするので、説得力があるのだが、色々な分野における彼の発言に対する別の専門家の指摘を見ていると、間違った発言(しかも割とはっきりと断言しているのに)も多いようだ。

加えて、本書は彼が過去1年間にわたって月刊プレジデントに寄稿してきたものをベースに加筆修正したものである。だから、普段から、週刊ダイヤモンドや月刊プレジデント、東洋経済、エコノミストなど、メジャーどころのソースを見ている人からすると目新しいものはないかもしれない。

そんなことをいうと、「じゃぁ、読みたくないわ」と思ってしまう人もいるかもしれないが、私にとっては相変わらず価値のある本だと思っている。本書に載っている彼の見識そのものが必ずしもすごいということではなく、すでにいくつか紹介したように、自分で疑問に思いもっと詳しく調べてみたい!と思えるきっかけを与えてくれるからだ。

2021年2月20日土曜日

書評:GIVE AND TAKE ー「与える人」こそ成功する時代

最近、High Output Managementやエッセンシャル思考など、当たり本が続いたので、その類似本を読めば引き続き楽しめるだろうと思い、Amazonが自動的に推薦した本に飛びついた。

GIVE AND TAKE ー「与える人」こそ成功する時代
著者:アダム・グラント

本書は、一言でいうなら「日本の諺である”情けは人の為ならず”を実証した本」である。

もう少し詳しく解説すると、人間の性格を、見返りを求めないギバー、見返りを得るために与えるマッチャー、得することしかやらないテイカー・・・の3タイプに分けて捉え、「なぜ、ギバーが最も得をするのか?」を解説した本である。

本書には「なるほど」と頷ける指摘がいくつも登場するが、ここではその中の1つを紹介しておきたい。ギバーがやっていることの話の中で著者が「責任のバイアス」について触れているのだが、その理由の説明が目から鱗だった。なお、「責任のバイアス」とは、夫婦やカップルの両方に対して「自分が家事にどれだけ貢献しているかを割合で答えてください」という質問をし、双方から提示された割合を足しこむとなぜか100%を大きく超えてしまう傾向がある、つまり、人には「自分の貢献度を過剰評価する傾向がある」ということを指す。

著者は「責任のバイアス」に陥る理由を次のように説明している。

「もっと強力で有望なもう1つの要因がある。それは『受け取る情報量の差』だ。人間は『他人がしてくれたこと』より、自分が『してあげたこと』に関する情報をより多く手に入れる。自分がした努力は全てわかっているが、パートナーの努力については一部を目撃するに過ぎない。だから誰が偉いのかを考えるとき自分自身の『してあげたこと』をよりわかっているのは当然だ・・・(中略)・・・お互いの貢献度を正しく判断するカギは、「他人がした貢献に注目すること」である。それには、自分自身がやったことを評価するまえに、相手がしてくれたことをリストにするだけでよい」(本書より)

夫婦・カップル間の家事問題に限らず、似たような摩擦が至る所に生じると思うが、こんなに明快に解説してくれた本には初めて出会った。

ただ究極の学びはおそらく「何かをしてあげて・・・損をしたな」と感じることがあるとしたら、「そう考えること自体が損だ」ということだろう。もちろん、得することばかりしか考えない人にそれをするとこちらが食い尽くされるだけだが、そうではな人に対して、いちいち損得勘定で付き合っても自分が損するだけなのだ。

そんなわけで、なんとも単純すぎる話でお恥ずかしい話だが、私も今日からギバーを目指したいと思うw

テイカーの傾向にある人はもちろん、世の中全ての人が読むべき本だろう。著者の狙い通り、私のように「あ、ギバーになろう」と思う人が増えていけば、世の中の幸福度がましていく気がする。

2021年2月7日日曜日

書評:風神の手

道尾秀介氏の 「風神の手」・・・読みました。

小説はネタばらしせずに語ることが難しく、また、リラックス効果はあっても、学習効果があるわけではないので個人的にあまり好きではないのです。ですが、彼の作品はいつも読み応えがあるので、高評価のついた彼の作品を見つけて、つい手を出してしまいました。

ある街での出来事を中心に3編に分けて描いているのですが、オムニバスでもなんでもなく、1つのストーリーをぜんぜん異なる3つの視点で描いているなかなかおもしろい作品です。

久々に読んで「そうそう、彼の作品って・・・こんな感じ」って思いながら読み進めました。こんな感じってのが、どんな感じなのかを、うまく表現できなのですが、伏線の貼り方がすごい。そして、それが複雑すぎず読者が頭の中で咀嚼できる範囲に収まっており、それでいて結構リアリスティックだったりする。だからのめり込む。小説って基本的にフィクションですから、読んでいるとどうしても「そんなこたぁー、ないだろー」っていうところがあって、そうした場面で妙に冷めてしまうのですが、彼の作品にはそう感じる場面が少ない。

中身について言えば、「そうそうなんだよ。人生って」って思わせるところが多かった。「そうそうなんだよ。人生って」って何度か感じました。「人間万事塞翁が馬」っていうフレーズを思い出したり、「人生は奇跡の連続」っていう言葉を思い出したり・・・。そんな人生図をわずか数百ページの小説の物語にまとめた・・・著者の才能に改めて感服しました。

リラックスタイムにおすすめの一冊です。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...