2010年7月31日土曜日

書評:マッキンゼー流 図解の技術ワークブック

ここ1週間夏休みだった。この間「普段、読めない本をできるだけ読んじゃおう!」と気合いを入れたが、結果は、気持ちの先走りに終わっただけだった。情けないことにきちんと読めたのはたった2冊だけ。1冊目については先日書いた。今日は、夏休み最終日に読んだ残りのもう1冊にスポットライトを当てようと思う。

 「マッキンゼー流図解の技術ワークブック」
著者: ジーン・ゼラズニー
出版社: 東洋経済新報社


まず、この本をなぜ読んだのかというと、先日、子供につきあって図書館に足を運んだ際にたまたま目にとまったのから、というのがもっぱらの理由だ。加えて、薄っぺらかったという理由もある。全部で123頁、実質的には読めるのは110頁程度だろうか。普段、仕事で頭をフル回転させているだけに、「休みの日くらいはリラックスして読める本が良い」と、そんな思いから借りた。

ところで、今の図書館に、ここまで色々なビジネス書がそろっているとは夢にも思っていなかった。正直、脱帽した。あるある・・・色々な本が、最近発刊された本までたくさんおいてある。すばらしい。しかも、僕が書いた本までおいてあった(貸し出し中だったのはある意味余計に嬉しかった)。

さて「図解の技術ワークブック」とは、なんなのか?

一言で言ってしまえば「プレゼン資料の見せ方」に対する講釈本だ。何らかのデータを使って誰かに訴えかける資料を作るときの図示の仕方や、なにか、大きな論点を訴えたいときのまとめ方・見せ方についてのアプローチ方法が解説されている。

こんな経験ないだろうか?

「プレゼンのタイトルと中身が全然あっていない」
「もう少し、工夫すれば相手にもっと意図が伝わるのに・・・」
「なんか、まとまっているように見えるがごちゃごちゃして分かりづらい」

私自身、もちろん、えらそうなことは言えないが、仕事柄、そのような場面に出くわすことが多い。プレゼン資料の作成者本人は、そこまで重要なこととは意識せず、パワーポイントのスライドに適当なタイトルをつけたり、あるいは、矛盾する中身を作ったりすることがある。

あるいは、もっと形式的なことで、スライドは横長なのに縦長の表やグラフを無理に挿入して、見栄えの悪いものにしてしまっている・・・なんていうケースもある。

実は、こういったことは、本人が思っている以上に、その資料を見る相手に与える違和感は大きいと思う。そして、非常にアンプロフェッショナルだ。

この本は、ちょっと工夫すれば、劇的に見栄えが良くなるヒントについて教えてくれている。有り難いのは、単なる解説に終始するのではなく、”演習”形式をふんだんに活用しており、読者自身に常に考えさせるスタイルをとっている。私も読んでいる間、夢中になって問題を解いた。しかも、問題を解くのに紙もペンもいらない。ただ、考える頭がそこにあればいいだけだ。

さて、著者がプレゼン資料を改善する際にとるべきアプローチが大きく4つあると述べている。これは一見とても単純だが、非常に核心を突いたポイントであると思うので、ここに触れておく。

【4つのアプローチ方法】
・単純にすることを考える
・枚数を増やすことを考える
・視点を変えることを考える
・クリエイティビティーを駆使することを考える

の4つである。

「単純にすること」とは、要するに無駄な情報は省く、ということだ。非常に多くのケースで「こんな情報もあるとよさげだ」とか「あの情報も入れておきたい」など、存在理由が不明瞭な情報を詰め込みがちだが、そんな情報は省きなさい、というわけだ。スティーブ・ジョブズもそういえば言っていたっけな。「重要なことは、どういったものを盛り込むか、ではなく、捨てるか」だ、と。

「枚数を増やすこと」とは、先に述べた「単純にすること」と似ているが、情報を単に捨てるのではなく「複数のスライドに分けたらどうでしょう?」ということだ。やはり多くのケースで、なんとなく「1枚のページに全ての情報が集約されているといいな」と思ってしまいがちだが、本当にそうなのか、ということだ。実は、複数のスライドに分割しても説明する時間が変わらないことは多い。であるならば、文字も見やすくなるし、伝えたいポイントも明確になる複数スライドを使わない手はない、というのが著者の言い分である。

「視点を変えること」とは、一度、今とろうとしているアプローチを白紙に戻して、他の方法(たとえば、箇条書きかもしれないし、グラフかも知れない、あるいは矢印かもしれない)によるアプローチも考えてみませんか?という考え方だ。実は、棒グラフよりもパイチャートの方が、理にかなっており、インパクトも大きく変わるかも知れない。

最後に「クリエイティビティーを駆使すること」とは、既存の表現方法にとらわれすぎるのはやめよう、想像力を働かせよう、ということだ。もしかしたら、表でもなく、グラフでもなく、矢印でもなく、もっと面白い表現方法があるかもしれない、ということである。

このように、非常にタメになる点が多かった1冊であると感じている。ただし、1点だけ「注意した方がいいかな」と感じたことがある。それは「これまでにあまりプレゼン資料を作ったことがない人は読まないほうが良い」、ということだ。

自分なりに苦労して、これまで色々なプレゼン資料を作ってきた人だからこそ、「ああ、なるほど」と理解できる内容が多いと思う。プレゼン資料を作る際に、どんな点が大変か、自分の頭で考えて苦労してみてからでないと、この本の有り難みが半減してしまうように思う。

いずれにしても、薄い本ではあるが、だらだらと冗長的に難しい言葉で解説してある本よりよっぽど役に立つ本だと感じた。

そして、何よりも図書館様々・・・。

 
 
【資料作りという観点での類書】

2010年7月29日木曜日

書評:ITロードマップ2010年版

本を1冊読み終わった。今回は、仕事にとても近い分野の書籍になる。

ITロードマップ2010年度版(情報通信技術は5年後、こう変わる)
野村総合研究所 2,2000円

■最新IT技術のこの先5年間の動向を解剖
本書は、今注目され(または注目されはじめ)ているIT技術の向こう5年間の動向について詳しく解説しているもので、毎年、更新版が発刊されている。

内容は、その章構成を見るとおおよそ理解できるが以下の通りである。

第1章 5年後のITロードマップ
第2章 5年後の重要技術
第3章 複合的なITの活用による新サービスの可能性
第4章 現在のITトレンドを知る

■「情報技術マップ」と「ITロードマップ」が最大の特徴
本書では、各分野(例:サーバや開発言語、セキュリティなど)において、現状どのような注目すべき技術があるのかということを示す「情報技術マップ」と、それら技術が向こう5年間の中でそれぞれどのように台頭(または衰退)していく可能性があるかについてビジュアル化した「ITロードマップ」の2つのマップを軸に解説を行っている点が最大の特徴だ。しかも、これらマップは比較的深いレベルでの技術的考察に基づいている。

たとえば、「情報技術マップ」では、サーバOSの分野において「クラウドコンピューティング」を先端技術の1つとして紹介している。そして、この「クラウドコンピューティング」の「ITロードマップ」では、2013年頃からこの分野での競争がいよいよ激化して企業淘汰が始まるとともに、クラウドコンピューティングを使ったサービスは、"Infrastructure as a Service(IaaS)"と呼ばれるような、単に「システムインフラをレンタルしますよ」というサービスから、”Desktop as a Service (DaaS)"のようなインターネットにつながる端末さえあれば「OSからアプリケーションまで、ありとあらゆるサービスをネットワーク経由でレンタルしますよ」という社会になっていくだろうと予想している。

■ITに興味ある全ての人が対象
本書は、「効果的・効率的にIT技術の最先端を理解したい」という要望を持つ人に対して有用だろう。言い換えると、以下のような疑問に対する回答を見つける必要がある人たちにとって役立つということもできる。

「IT技術を今後どのように活用して新製品につなげていくべきか?」
「今ある社内システムを今後どのようなタイミングで入れ替えしていくか?」
「ソフトウエアを今後、内製化するか外製化するか?」
「どのようなエリアを重点的に勉強しておくべきか?」など

したがって、システムエンジニアのみならず、ITコンサルタントやIT部門長、そしてCIOをはじめとする経営陣など、幅広い読者層が対象となると言えよう。なお、経営陣向けには、技術ごとにエグゼクティブサマリが設けられているのが有り難い。

■毎年購入する価値のある1冊
先述したとおり、どのような立場の人にも有益な情報源となるものであることに間違いはない。特に毎年、更新されるものであるというのは魅力的だ。IT戦略を立てる立場にいる人ならなおさら目を通しておきたい1冊だ。「インターネットで検索をすれば、こんな情報など簡単に手に入るのでは?」という声も聞こえてきそうだが、ここまで整理されているサイトはないだろう。2,200円でこの内容は、極めて価値ある1冊ということができる。

2010年7月17日土曜日

書評:「ビジネスモデルを見える化するピクト図解」

板橋悟著「ビジネスモデルを見える化するピクト図解」(ダイヤモンド社)を、ようやく読み終えた。こう書くと

「なんだ読みにくい分厚い本なのか?」

と誤解を招くかも知れない。そういうことではない。むしろ読みやすい本だ。単に、読もう読もう、と思いながら、ここ1ヶ月ほどずっと鞄に入れっぱなしになっていただけのことだ。どうも仕事の隙間時間に「ビジネス書を読もう」という気になれなくて、1ヶ月もの間、単なる重石がわりになっていた。

さて話題を本に戻して考えてみる。「ピクト図解って、なんだろう」と、ふと思うわけだが・・・。

意味したいことをシンプルな絵文字で表すツールに「ピクトグラム」と呼ばれるものがある。言葉が通じなくてもそのシンボリックな絵を見れば、それが何を意味しているか一発で分かる簡単な絵のことだ。一番わかりやすい例が、トイレに使われるサインだ。どこに国に行ってもトイレのマークがあれば、それがトイレを意味しているものだと、みな直感的に分かる。

タイトルにも使われている「ピクト図解」とは、この「ピクトグラム」の絵を駆使してビジネスモデルを見える化する手法のことだ。著者が開発した手法らしい。別の言葉で言い換えると、ともすれば複雑怪奇に見えるビジネスモデル、すなわち、企業が収益をあげるためのお金とモノの流れ(構造)を簡単に図式化してしまおう、というわけだ。

著者は、どんな場合も、おおよそ8つの代表的なピクト図解を使ってビジネスモデルを描くことができると言う。

1. シンプル物販モデル (例:たこ焼き屋)
2. 小売りモデル (例:コンビニ)
3. 広告モデル (例:グーグル)
4. 合計モデル (例:居酒屋)
5. 二次利用モデル (例:音楽アルバム)
6. 消耗品モデル (例:プリンター)
7. 継続モデル (例:YahooBB!)
8. マッチングモデル (例:結婚相手紹介所)

なるほど、確かに、これら基礎になる8つのモデルを抑えておくこと、そして、ピクト図解の描き方を覚えておくことで、企業のビジネスモデルをA4ノート紙1枚の上に表現するのも難しいことではなさそうだ。そして、一旦、見える化ができれば、そこからはちょっとした発想の転換で「ピクト図解」を変形させて、新しいビジネスモデルを生み出すこともできる、と著者は言う。

全体的に読みやすく、一度手に取れば一気に読めてしまう。ただ、個人的な感想としては、1,500円のビジネス書としては若干物足りなさを感ぜずにはいられない。上記手法の紹介がメインテーマで、後は、

「ピクト図解を駆使して色々なものを見える化してみよう」

という感じの終わり方だ。上記に挙げたような代表的なビジネスモデルを既に知っている人には、特に物足りなさを感じるかも知れない。

「この本を読んで、自分だけのビジネスモデルが湧き出しそうな気がしてきたか」といえばそうでもない。

もちろん、発想の転換手法の1つとして、このようなアプローチの仕方を知っておくのは有効であると思う。実際、著者自身、この手法を使ってこれまでに様々なお客様のピンチを救ってきたようである。

ブックオフで買うのがちょうど良い、そんな感じの本である。

2010年7月2日金曜日

一通の封筒から学んだこと


ある日、こんな封筒(上記写真参照)が届いた。届いた封筒の表には、自分の住所が記載され、サンフランシスコの消印がおされている。裏には何も書いていない。

「どうせ、どこぞのDMだろう。すぐにゴミ箱行きになる運命の封筒だ。紙がもったいないなぁ。」

と思いつつ、とりあえず封筒を開けてみる。A4サイズの記事らしきものが1枚入っているだけだった。

「やっぱり広告だ。捨てよう。」

と思った瞬間、あるものが目にとまる。そう、記事に少し大きめサイズの黄色いポストイットが貼られていたのだ。しかも、そこには手書きでこう書いてある

"See this. It's really good!!" (これを見てみて下さい。すごくいいことが書いてますよ!!)

「ん?誰か知り合いが、どうしても僕に共有したいことがあって、わざわざ記事の切り抜きを送ってきたのだろうか?」

と瞬間、思う。過去数ヶ月の自分の行動を思い巡らせた。

「誰かに、記事(に書かれている内容)に興味があるなんて何気ない話をしたことなんてあっただろうか?」

考えること5分。冷静になって記事を裏返してみる。そこには、どこぞの購読申し込み用紙がついていた。

「なぁんだ、やっぱりDMじゃないか」「それにしても何で手書きのポストイットなんて・・・」

そう、これが彼らの作戦なのだ。マーケティングでいうアイドマ(AIDMA)最初のステージ、Attention(注意をひく)のワザだ。ところでアイドマ(AIDMA)とは

A = Attention(注意を引く)
I = Interest(興味をそそらせる)
D = Desire(欲望を駆り立てる)
M = Memory(記憶させる)
A = Action(行動(購買)に走らせる)

だ。この5ステージを経て人間は最終的に購買に走る、というわけだ。僕はこの最初のステージAttentionに見事にひっかかったことになる。ポストイットに手書きでのメモ・・・なかなか上手だ。ただし、残念ながら次のステージ(Interest(興味をそそらせる))には行かなかったことになるが。AとIのギャップがありすぎたように思う。それにしても、まぁ、太平洋の遙か何千マイルもの向こうから、こんなDMを送ってくるなんて・・・。果たして、(Action(購買))に走った人が何人いたのだろうか。

何気ない封筒1つからも、色々なことが学べるものだと関心した一日だった。

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...