2017年6月11日日曜日

書評: 恐怖の地政学

え方が下手くそだと言われる学校の先生に共通しているのは、「なぜ、なんのために、それを覚えなければいけないのか?」・・・それを具体的に説明しないまま、ただ「重要だ。覚えなさい。テストに出るぞ」とばかり言うからだ。事実、私も高校の数学は本当にきつかった。サイン、コサイン、タンジェント・・・について、「この数式がいったいなんの役に立つのか?」・・・実は今に至っても理解できていない。

そういった過去の痛手も手伝って・・・「なぜ、それが重要か?」を説明してくれる本があると、心の底からむさぼり読みたくなる。今回、まさにそのような一冊に出会えたといっても過言ではないだろう。

恐怖の地政学 ~地図と地形でわかる戦争・紛争の構図~
出版社:さくら舎
著者:T・マーシャル(甲斐理恵子訳)
●世界の地政学
本書は、世界の地政学を紐解いた本だ。ここで言う世界とは、主として世界で紛争が起こっている、または、緊張関係にある地域のことを指す。具体的には、中国、ロシア、日本、北朝鮮、アメリカ、西ヨーロッパ、中東、インド、パキスタン、ラテンアメリカ、北極圏のことだ。また、地政学とは、文字通り、地理的な観点から政治を紐解く学問のことだ。たとえば、四方を多くの国々に囲まれるスイスは、“中立”を国家ブランドとして掲げて生き延びてきた。このような説明をすることが地政学だ。

●理由が鮮明に頭に思い描ける世界紛争の意味
こうした地政学を使って世界の戦争や紛争について、わかりやすく面白く語ってくれているのが本書だ。「わかりやすく面白く」とは、「地理的な話」と「政治的な話」のみならず、そこに歴史も絡めて説明してくれているからだ。「へー、そうなんだ」「えっ、そんなことになってるの?」とブツブツ言いながら読んでいる自分に気づく。

そもそも私は地理というものが大っ嫌いだった。アルミニウムの原料であるボーキサイトの輸出国がどこだとか、産油国がどこだとか、ゴビ砂漠がどうだとか・・・カタカタの地名を覚えさせられた記憶があるが、まぁ、自分にとってはあたかも意味を持たない記号を丸暗記していたかのようだった。

ところが、アフリカの発展を遅らせた一因は、マラリアで、地形的な特性からマラリアの懸念が少ない南アフリカは発展してきただとか、ウクライナのセバストポリはロシアの手が届く、ロシアにとって唯一の不凍港(ウラジオストクですら四ヶ月間は凍結してしまうらしい)でありそれがクリミア紛争につながっていった理由なのだとか、ヒマラヤ山脈がもたらす地形的な優位を欲したがため、中国はチベットを意地でも手放したくなかったとか、水の少ないエジプトにとってナイル川の恩恵は大きく、実際、都市はほぼナイル川から数キロ以内のところに作られており、でもそこに流れ込む水源を実はエチオピアが握っているのだとか・・・。もしかしたら、学校の先生も少しはそのように教えてくれていたのかもしれないが、私にとってはすべてが新鮮で目からウロコの話ばっかりだった。
ナイル川流域に集中する都市(Googleマップより)

●地政学のことを馬鹿にしていた
地政学を使って、よくパーソナリティがラジオなどで政治を説明してたりするが、いつも話半分でしか聞いていなかった。世界をそんなかんたんに語れてたまるか・・・と思っていたせいだと思う。万が一語れたとしても、本当に断面的なことにしか過ぎないと考えていた。

だが、山脈、湖、海、河川・・・結局、世の中で起きている事象に大きく影響をあたえるのは地理的な条件だということが、嫌というほどわかった。もちろん、地政学がすべてを語れるわけではないということに変わりはないが、それでも知って置かなければ正しい世の中の動きを語れないというのもまた事実だ。

●受験勉強にもってこい
学生時代にこんな本があったら、もっと地理を楽しく勉強できたのに。政治や歴史を楽しく勉強できたのに・・・。そう思わずにはいられない。だから、これから受験勉強をする人には、社会を楽しく学ぶ良いツールになるのではないかと思う。

また、グローバル化が進む現代において、他国の文化や風土、意識・・・と自国のそれとの違いを正確に知ることは・・・それがビジネスを推進する社会人にとって良いツールにもなるだろう。


もし、本書に5点満点で評価をつけるとしたら、間違いなく5点をつけたい。

 

2017年6月4日日曜日

書評: IoTの衝撃

業のリスクマネジメントのコンサルティングをやっていると、結局のところ重大リスクは2つに大別できることがわかる。企業がどこへ向かうべきかという戦略リスクの話と、戦略実行を邪魔するリスク話だ。今日紹介する本は前者に関わる話だ。前者の戦略リスクでは、例えばフィルムカメラからデジタルカメラに需要・技術変化が起きる中で、業態を変更させ見事の生き抜いた富士フィルムが思い起こされる。

さて、今流行りのIoT(Internet of things)を、この戦略リスク視点で捉えて見たくはないだろうか。なお、IoTとは「あらゆるものがインターネットにアクセスする可能性を持つ状態になること」と定義されている。テーマをIoTにおいた時、どんなリスクが考えられるのか、いや、そもそもどんな環境変化が予想され、どんな世の中になって行くのか? 企業の取り得る選択肢にはどんなものがありえるのか?

この趣旨を満たすべく書かれたのがこの本である。

HARVARD BUSINESS REVIEW
IoTの衝撃(競合が変わる、ビジネスモデルが変わる
出版社: ダイヤモンド社



IoTがどんな環境変化が予想されるのか? 具体的には例えば、「IoTが台頭してくると、企業収益を圧迫する可能性がある」と書いてある。なぜなら、単なるモノでしかなかったものが、通信できるようになるわけで、当然、生産コスト、すなわち固定費が上がるようになる。固定費が上がると価格を下げるために物量が求められる。競争は激化し、企業は従来の価格の中でコストを吸収しようとする。故に利益率が下がりやすくなる、といった論理思考である。

また、「収集したデータは誰のものか?」といった論点を取り上げている。最近、IoTを通じて収集した個人データを活用して付加価値を生み出すビジネスをしている企業が急成長を遂げているが、こうしたビジネスを展開している彼らにとっては、データが誰に帰属するかという問題は、死活問題になりうるテーマだ。

私も一昔前までは、IoTって、単にパソコン以外のモノ...例えば家電とか、車とか、ロケットの装置とか、色々なものが通信できるようになるだけじゃないか。「それのどこがすごいことなのか」、なぁんて思ったものだが、それは一般大衆の考え方。モノが繋がるということがどんなイノベーションを起こすのか、本書を読むと、その可能性の広がりに自分の浅はかさを思い知らされる。

モノが繋がるということは色々なことがコストをかけずに見える化できるということだ。見える化できると、効率化が進む。お客様へのチャージの仕方も変わる。典型的なのは自動車保険だ。燃費の悪い走りをしていたり、乱暴な走りをする人を特定できるようになり、保険料もそれに応じて変えられるようになる。IoTを使ってなんの情報を吸い上げ、何を見える化し、何を売るのか、どうやってチャージするのか? ビジネス戦略に影響を与える地殻変動といってもいい変化をもたらす。

ところで、本書は、ゼロから書かれたものではない。実はこうしたIoTに関するHARVARD BUSINESS REVIEWの過去記事の中から、売り切れ人気特集を書籍化したものである。だから、読みごたえのある記事だけが集められている。

このように話すと、パッチワーク的なつながりの薄い記事の寄せ集めと思う人もいるかも知れないが、それは杞憂だ。似たような構成で違和感を感じた書籍は多数あったが、本書に限って言えば、 あまりデコボコ感を感じなかった。またマイケルポーター氏を始めとする有名な著名人の記事なので難しいかと言えば、全然そんなことはない。私の中では読みやすい部類に入るほうの本だと思った。

というわけで、企業の戦略を考える立場にある人たち、経営陣、経営企画室や、企業のリスクマネジメントを考える部門の人たちには有益な本じゃなかろうか。最近は、健康管理を目的とした体調をトラッキングするデバイス・・・たとえばフィットビットなど、身の回りにIoTの将来を彷彿とさせる商品も増えてきた。イメージしやすいし、読むには絶好のタイミングだろう。

最後に余談だが、IoTの記事に関しては、先日、NewsPicksで読んだ(ただし、有料記事)「堀江さん、要するにIoTって何ですか?」は分かりやすかった。本当に興味がある人はぜひ本書とともに読まれたい。


【参考情報】
【動画付き】堀江さん、要するにIoTって何ですか?(NewsPicks)

2017年6月3日土曜日

書評: 伸びる会社は「これ」をやらない!

●部下の管理の仕方を語った本
本書には、社長の振る舞い方、部長や課長の振る舞い方をはじめとした組織の運営方法が書いてある。部下の管理の仕方のありがちな誤った認識について、何社も見てきた著者の経験から解説している。

たとえば具体的には次のようなものだ。

・プロセスを評価するな、結果を評価しろ
・社員から社長の評価を聞くな
・社長が直接部下の相談に乗るな
・経営理念を社員全員に理解させるのをやめろ

上記のほか、こうしたポイントが30余り書かれている。

・・・

伸びる会社は「これ」をやらない!
著者:安藤広大
出版社:すばる舎


●経営者や管理職の人は読む価値あり
さて、読んでみて・・・どう思ったか。結論から言うと、読んでよかったと思う。面白かった。気づきもあった。ゆえに、私と同じように経営者の立場ないし、管理職の立場にある人なら一度目を通しても損はないと考える。


しかし、「伸びる会社はこれをやらない」・・・なんていタイトルの本・・・なんかいま世の中に出ている大半の本がそんな感じで同じことを別の表現で言い合っているだけじゃないの?・・・そんな声が聞こえてきそうだ。事実、私も読み始めは懐疑的だった。実際、読んだ瞬間に頭をよぎった本もあった。元LINE社長の森川亮氏の「シンプルに考える」という本だ。森川氏の本は、世の中で常識的に謳われていることをほぼ真っ向からシンプルに否定している。たとえば、森川氏の本を開くと「ビジョンなんていらない」といった文字がいきなり飛び込んでくる。安藤氏の「経営理念を社員全員に理解させるのをやめろ」なんて、森川亮氏のそれと表現の仕方が似ているではないか。でもそれは、本の書き方が似ているだけのことだ。言っていることは全然異なる。この例について言えば、森川氏の「ビジョンはいらない」は「社員がビジョンに縛られて、変化に対応できなくなるデメリットのほうが大きい」という主張であるのに対し、安藤氏の主張は「理念なんて決めると、みんなそれに基づいて勝手にどんどん意思決定してしまい、ルールが瓦解する」といったものだ。

まぁ、第一印象がどうだったか・・・や、比較する本が妥当なのか・・・といったことはともかく、少なくとも私にとっては新たな気づきを提供してくれた本であることに間違いはない。

●自分の背中を押してくれた一冊
では実際にどんな気づきを得たのか?と言われれば、「プロセスを評価しない結果を評価しろ」といった点かな。なお、ここで言う結果評価とは、測定可能な目標設定を行い、それが達成できたかどうかで評価しろ・・・そういう意味での結果評価を言う。当たり前のことではあるが、わかっていても、結果評価を徹底できてない。見ている部門が営業部門だけだったらいくら売上を上げたか・・・などわかりやすい指標が使えるが、今は間接部門も見ているため、数値目標の設定が難しく、やや曖昧さを残してきた。だが、本書を読んで、改めてその大切さを認識した。また、「学びは獲得しに行くものである」という著者の主張も心に響いた。教育については本当に苦労してきたが、懇切丁寧な教育プログラムを組めば人が成長する
か・・・というのはどうもそうではないらしい・・・と思うところがあったからだ。自分の仮説を後押ししてくれた気がする。

●すべてを鵜呑みにせず、上手に使うべし
・・・というわけで、色々極端な小見出しをつけた文章がズラリと並ぶ本であり、喧嘩を売っているようにも見え、ある意味、それが読者の関心を引きつける本ではある。ただ、誤解のないように言っておくと、タイトルこそ、キャッチーで、「ん?なんだよ、それ?そんなわけないだろ」と思わせぶりなところがあるが、読んでみると、あぁ、そういうことね、それならAgreeだ、と思えることが少なくない。したがって、読み方には気をつけたほうがいい。中身をしっかりと読んで本質を理解しておかないと間違った認識が独り歩きすることになる。たとえば、「社長が直接部下の相談に乗らない」というポイントがあるが、「では、一切話しかけるのをやめよう」・・・というのは、著者の意図とは異なる。そういったことにはぜひ気をつけたい。

しっかりと内容を読んで、本質に納得がいったものだけとりいればいい。それが本書の活用方法だ。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...