2015年12月30日水曜日

書評: 日本企業の組織風土改革

最近、新聞を賑わせている事件・・・東芝や朝日建材、東洋ゴムの二の舞を繰り返さないようにするためにはどうしたらいいか、どうしてそうなってしまうのか、そうならないためにはどうしたらいいのか・・・について、ヒントを示す本だ。

日本企業の組織風土改革 〜その課題と成功に導く具体的メソッド〜
著者:柴田 昌治
出版社:PHPビジネス新書


組織風土改革と文字で書けば簡単に見えるが、そんな容易な命題じゃない。これまで色々な会社でもその必要性が説かれ、認識され、実施の努力がなされてきたはずだが、ほとんどは不成功に終わっている。組織が抱えている問題を掘り下げてゆくと話題が「企業文化」に落ち着くことが多い。しかしながら「では、どうやって変革するか」という点に話がのぼると、深く議論されずに終わるか、「結局はトップの姿勢だよね」などといった安易な解決策に帰結しようとしてしまう傾向が強い。本書が興味深いのは、そこをさらに掘り下げて、もう一歩先のアプローチを示そうとしている点だ。

少し、虎の巻に触れておくと、「コアネットワーク」が解決の鍵になると著者は主張する。「コアネットワーク」とは、著者曰く「良い会社にしたいという内発的な強い思いをもった多様な人間が「思い」を共有するという一点で結びついていく”要”」だそうである。このコアネットワークを作りいかにこの輪を広げていくか・・・それに尽きるというのだ。そして、本書はその一点にフォーカスして、解決策を説いた本といってもいいだろう。

さて、この本。読んでみると、時折、そうそう、それ、あるある!・・・とうなずかされる場面が多かった。自分もよく経験しているから分かる。

『(良く課題を見つけようとして色々な人にインタビューをすることが多いが)入社20年目の社員から話を聞く場合は、人を選ばないと問題の本質に迫るような有益な情報は得られない。本人には問題のを「隠している」という意識がそもそもない場合も多い。問題を問題として捉える感性がすでに失われているからだ。』(本書より)

そしてコアネットワーク醸成の話。もっともな話ではある。納得感もある。総じて「まぁ結局、近道はないよね」・・・というのが正直な感想。地味に地道に丁寧に醸成していく必要がありそうだ。本書のサブタイトルには、具体的かメソッドとあるが・・・改めて自分の考えを整理できたという意味では価値があったと思う。

コンサルタントが書いた本なので、コンサルタント業を行っている人にとって有益となる本だが、組織内部に変革を起こしたいと頭を悩ませている経営陣や事務局の人・・・管理職の人には、何をするにせよひとつのヒントになるだろう。


2015年12月29日火曜日

書評: 虚構の城

あらすじは、こうだ。出光興産(小説上は大和鉱油)を舞台にした小説。主人公は、エリートエンジニア田崎健治。特に大きな不満もなく勤めていた主人公。ある日、部下の一人から、労働組合結成の相談が舞い込む。相談内容がなんとなく気になった田崎は、この件を同期に相談。するとその直後に、あっという間に左遷される。理不尽さを覚えながらも、腐らずに、左遷先の東京で仕事に邁進する田崎だったが、大和鉱油の異常なまでの労働組合タブー視の雰囲気に違和感ばかりが募ってゆく・・・。

虚構の城 完全版
著者:高杉良
出版社:角川文庫



さて、感想だが、2つの観点から触れておきたい。

1つは物語としてどうかという観点。この点では、なかなかの秀作だ。一気に読めた。上司と部下、官僚と民間社員、キャリアとノンキャリア、妻と夫、男と女・・・。人間同士のぶつかりあいの描写を通じて、人間の生臭い・・・けどリアルな素顔が、さらけだされている。出光興産という舞台が絡んでなくても、魅力的である。

もう1つの観点は、出光興産を描いた物語としてどうかという点。描かれている範囲は一時点の話であり広くはなかったが、田崎というごく普通の社会人の目線を通して、出光興産の特徴を見事に浮き彫りにしている。ちなみに、実はこの小説、知人から勧められて読んだ。私に勧めてくれた彼のコメントはこうだ。

“海賊と呼ばれた男”(百田尚樹)を読んで、出光興産や創業者の出光佐三を理解したつもりなら、まだ甘いですよ。この本も読んだ方がいいですよ。僕も勧められて読んで、なるほどな、と思わされました。」

実際「海賊と呼ばれた男」は読んでいたし、感動もしていた。彼のこのコメントは私の関心をくすぐるのに十分だった。で・・・読んだ。「あぁ、なるほど、そういうことねー」というのが率直な感想だ。要するに、出光興産の影の部分が描かれているのだが、あそこまで強烈なカリスマを持つ組織であれば、それもあり得るだろうなぁと思う。不思議と、この小説の描き出した出光興産の世界観が違和感なく、自分の心に入ってきた。

「海賊と呼ばれた男」・・・間違いなく面白い小説だったが、考えてみれば、あの小説に描かれていた内容は、あまりにも美しすぎた・・・と言えるのかもしれない。負の側面が一切でてこないからだ。

誤解の無いように言っておくが、もちろん、「海賊と呼ばれた男」や、出光興産自体のことが嫌いになったわけではない(まぁ、すごい好きというものでもなかったが)。創業者の偉業がなくなるわけではない。誰にでも、どんな組織でも、正の側面もあれば、負の側面もある。一つ負の側面があったからといって、全てが否定されるわけではない。大事なのは、これからだ。こうした事実をもとに、これからの組織や人がどうあるべきか・・・考えてゆくことだと思う。

小説でありながら、ここまで考える機会を与えてくれる本も珍しい。私同様、「海賊と呼ばれた男」を既に読んだ人は、偏った見方にならないために読むべきだし、その逆もまたしかりだ。さすが、高杉良。

2015年12月28日月曜日

書評:問題解決のジレンマ

タイトルが魅力的だった。自分の仕事がコンサルティングなので、また少しでもヒントになりそうなことがあればラッキーと思い、手を出した。

著者:細谷 功(ほそや いさお)
東洋経済新報社


そして読んで見て・・・結論から言えば、うーん、という感じ。私(コンサルティングを生業にしている者)がそもそもターゲットじゃなかったせいだろう。それにしても、なんか小難しい。いったい誰をターゲットにしたかった本なのか。初心者に対してであれば、息苦しくなるような内容だし、玄人に対してであれば、わざわざなぜそんなに回りくどく説明するのか、というような内容だ。

本書は、問題解決の際に誰もが陥りそうな落とし穴とその回避方法を、極めて論理的に分析・解説しようとしたものである。落とし穴とは、著者の言葉を借りて言えば「既知の既知」の世界のことである。世の中の問題を解決するのに、誰かが用意した試験問題を解くことで解決しようとしている人が少なくない、と指摘する。言い換えれば、「与えられた問題(やルール)が世の中の全て」と思いこんでしまい、それを解くこと(あるいはその中で戦うこと)だけに終始してしまうと言うのである。

私も仕事上、良くあることだ。あるお客様先に行くと、「A案がいいのか、B案がいいのか」で社内で何時間も議論していて結論が出ないという。「コンサルタントであるあなたはどっちを勧めるのか?」と問われる。ここで「Aなのか、Bなのか」といった問いの解答を考えようとするのが、著者の言う“落とし穴にはまった状態”だ。最初に自分が解く問題は「何を求めてAかBかの選択肢になったのか?」であるのに・・・。

ジレンマから抜け出すには、ソクラテスの唱えた「無知の知」・・・すなわち、「自分がわかっていないことを分かること」だが、問題はどうやってその境地に達するかだ。本書は、そのヒントを、先に挙げたような既知の既知や、既知の未知、未知の未知といった言葉の定義を通じて、様々な角度から解説している。中盤では、アリとキリギリスの話まで登場する。

ちなみに、ジレンマから抜け出す手段の是非や著者の意図はともかくとして、個人的に印象に残ったのは、やはり「無知の知」の重要さである。行き着くところまで行き着いた賢者たちは、みな「無知の知」が終着点のようだ。ソクラテス、ピータードラッカー・・・。そう言えばタロジロ物語のモデルにもなった西堀英三郎氏も、著書「石橋を叩けば渡れない」の中で、「モノゴトは決して思い通りには動かないという事実を認識しておくことが最大の対策だった」と経験談を語っている。私自身の人生でも思い当たることが多い。トラブルを起こした人間は、自分を客観的に見れてない(自分ができないことがわかってない)人が圧倒的に多かった。

そんなわけだから著者の指摘は全くもってなるほどとうなずける内容だが、やはり小難しい。「無知の知」の境地に至ってない人が本書を読んで、果たしてその大切さや、自分がそのような状態に陥っていることに気づくのか・・・少なくともそんなことを狙った本ではなさそうでる。「無知の知」の大切さが分かってはいるが、どう自分の部下に説明したらわかってもらえるか悩んでいる・・・そんな上司には、著者の言葉遣いや整理の仕方が役立つのかもしれない。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...