2011年2月28日月曜日

書評: 「この命、義に捧ぐ」

「どうせ大分、脚色して書いたんじゃなかろうか?」・・・多少、そんな想いを持ちながら読んだことは否定しない。

「この命、義に捧ぐ」 ~台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡~ 門田隆将 集英社

というのがその本のタイトルだ。ここ最近読むようになった月間VOICEでの著者門田氏のインタビュー記事を読んでいて偶然知った本だが、ノンフィクションでありながら、ドラマのようなあらすじに興味をかき立てられ、購入した。

さて、根本博陸軍中将とは誰か? 本によれば「終戦後の昭和20年8月20日、内蒙古の在留邦人四万の命を助けるために完全と武装解除を拒絶し、ソ連軍と激戦を展開、そしてその後、支那派遣軍の将兵や在留邦人を内地に帰国させるために奔走した人物」、とある。

このプロフィールだけを聞いても、なんとなく「凄い人だったんだな」以上の感想は正直出てこない。

何がこの人物に対する興味をかき立てたのか?
それを知るためには、蒋介石(しょうかいせき)について触れる必要がある。蒋介石と言えば、中国の内戦で、共産党の毛沢東(もうたくとう)と激しく戦った国民政府軍(国府軍)の指導者だ。

1947年イギリスのエリザベス女王がフィリップ王子とのご成婚を果たした際に、蒋介石(しょうかいせき)はお祝いのためにと、景徳鎮(けいとくちん)で贈り物を作らせたのだが、その品物の中に、一対の花瓶(3セット)があった。この花瓶の一対はイギリスに送られ、もう一対は日本の皇室に送られた。残った最後の一セットを自らの執務室におき、この上なく大切にしていたそうだが、その後、この一セットのうち「一つ」を、根本博陸軍中将に贈ったそうである。

根本中将は、それほど大きなことを成し遂げた人物なのである。敗戦後の余裕のない日本から、内密に命をかけて台湾にわたり、金門島にて国府軍が共産軍を壊滅させるのに大きな貢献をした人だ。

ところが、2009年春、台湾の国防部で「金門島の古寧頭戦役六〇周年記念式典」が計画された際には当時の大勝利に日本人が関与していたという事実を知る者は・・・ほとんどいなかったそうだ。また、当時の大勝利を記念して建てられた古寧頭戦史館には、彼の写真は一切無かったそうである。

「蒋介石が心から感謝を示した根本中将」「台湾史からほぼ消されかかっている根本中将」・・・ともすれば矛盾する2つの事実を、史実はどのように結びつけていたのか? この本は、それを明らかにしている。

そして、戦後忘れ去られたもの・・・家族だとか、右翼だとか、左翼だとか、国府軍だとか、共産軍だとか、アメリカだとか、日本だとか、そういった概念を遙かに超えた、義を重んずる武士道精神とは何か・・・それを脚色なく伝えている。

この本は、物語調で語られる部分と、実際にそれを裏付けるために関係者に会って拾ってきた現場の生の声を紹介する部分から構成されているためにリアリティが伝わってくる。

その全てが、私の興味をかきたて、そして、最後に私に感動をもたらした。「台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡」・・・我々は、この男とそれを支え懸命に生きた人たちの生き様を知るべきである。


【歴史物語という観点での(私が読んだ)類書】
南海物語(加藤和子著)

2011年2月23日水曜日

タイヤのパンクが教えてくれたこと


先週末に自家用車で熱海に行った。2月20日(日)の夜9:00頃に帰途についたが小田原厚木有料道路上で、突然、右後輪のタイヤがパンク。路側帯に緊急停止した。

普通の車なら、そのままジャッキで車体を持ち上げてタイヤ交換を行うところだ。ところが、私が乗っているのはホンダのフリードである。この車は仕様上、広いスペースを確保するために、なんとスペアタイヤを犠牲にしていた。パンクを一時的に直す修理材は入っているが、完全に破裂したタイヤには何の意味ももたなかった。

さて、どうしよう・・・。搭乗者は、子供2人。大人4人。夜の9:00。ダッシュボードをのぞくも、車検証以外のめぼしい資料がない。

情けない話だが、保険証が見つからなかった。慌てて携帯を駆使して過去のメールをあさる。契約先は三井ダイレクト。すぐにWEBページにアクセスして、なんとか連絡先電話番号を見つけた。

電話をした結果、以下のことが分かった。

・事故・故障で路側帯に止まった旨、すぐに道路公団に連絡をしなければならないこと
・スペアタイヤなんて、誰も(道路公団も保険会社が提携している業者も)持っていないこと
・通常の保険契約では、最寄りのタイヤ修理屋までレッカー移動しかしてくれないこと
・レッカー移動時に、牽引される我々の車には最大で2名しか乗れないこと
・レッカー車が現場に到着するまでに15分はかかること


しとしとと雨が降っていた。ソフトバンクは電波受信状態が悪い。このため雨の中、社外に出て、色々なところに電話をかけてアレンジを行った。

ぐずぐずしている時間はなかった。のんびりしていると、日曜日中の移動手段を全て奪われてしまうリスクがあった。同乗者のうち、私の家族は横浜方面。もう一家族は千葉のほうまで戻る必要があった。すぐさま携帯で、最寄り駅を検索。そこから、最終電車が何時に出るのかを特定した。タイムリミットは10:30と表示された・・・。レッカー車など、色々とアレンジしているとなんだかんだでギリギリ間に合うかどうかの時間だった。

運の悪いことに、レッカー車の到着する時間(日曜日の夜10:00頃)にタイヤ交換をしてくれる店がなかった。業者にも直接そのことを尋ねたが、アテがないと言う。結局、保険契約会社が提携している業者にきてもらい、その業者に一晩、車を保管してもらうほかなかった。移動手段を奪われた我々は、レッカー車が到着するのを待っている間、タクシー会社に電話(タクシー会社の電話番号は保険会社に調べて教えてもらったものだ; ちなに道路公団の人にタクシー会社をどこか紹介してくれ・・・と聞いたところ「知らない」との答え。イギリスじゃあるまいし、これには少しビックリした。)。タクシー会社に路側帯の詳細な情報を伝え、車の中で待った。

待つこと15分。最初に到着したのはタクシーだった。その2分後、まるではかったかのようにレッカー車も到着。レッカー車の方にキーを渡し、全てを一任。我々はおもい荷物と共に全員タクシーに乗り込み、最寄駅へ。Google Mapによれば、最寄り駅は鴨宮駅(かものみやえき)というところで、路側帯から3キロほど離れた場所だった。そこまでの移動代金は約1,300円。

ところで子供達は、車で家に到着したらそのまますぐにベッドに潜り込めるようパジャマで車に乗っていた。これもある意味運が悪かった。彼らはパジャマの上にジャンパーをはおる形で我々とともに電車に乗り込んだ。幸いだったと言えるのは、日曜日の夜・・・ということで、そんな時間に上り電車に乗る人たちは圧倒的に少なかった、ということだろうか。

結局、自宅に到着したのは夜の12時過ぎだった。

翌朝、私は予定通りに会社に出勤。子供は風邪気味だったので幼稚園を欠席させ、自宅療養。午前中に私の携帯に保険会社から電話が入った。

「昨晩預かった車ですが、弊社と契約しているタイヤ交換業者が近くにあります。よろしければ、そこまで無償でレッカー移動させていただきますが、万が一、お客様ご指定の業者へのレッカー移動となりますと、昨晩一晩の車の保管料金と、そのご指定の業者までのレッカー移動代は有料とさせていただきます。」

なんか、親切な言い方で強力な脅し。こちらが指定した業者に移動する場合、そこまでの距離を保険会社がコントロールできなくなるので、有償にするのはわかるにしても、なぜ一晩の保管代金まで有料にするのか!?。険会社指定の業者にレッカー移動してもらうほかないような迫りようだ。

気持ちの中でイライラしつつも抗う術もなく、そのまま保険会社指定のタイヤ修理業者へ移動してもらうこととなった。なお、その場所だが、”開成”・・・というところだ。地図で調べると、東京からでも2時間強かかる場所にある。ドアツードアで間違いなく2時間半はかかる。


「いつ、誰が取りに行くんだよ・・・」

思わず天を仰いだ。おまけにタイヤ修理業者と電話で話したところ、すぐに交換できる替えのパーツがないとのことで、3日待ってくれ・・・とのこと。

「そうまでして、僕らに、スペアタイヤを持たないことのリスクを伝えたいのか!?」

さて、タイヤの一件には全く関係のない話題だが、その次の朝、ホンダの一部の車がエンジンが再点火しなくなる不具合があるとのことで、リコールのアナウンスを全国に出した。

その対象車に僕の車が含まれていたことは、・・・このストーリーの流れ以上・・・もちろん言うまでもない。今回の費用は、移動代金含めて約2万円。

得たモノはきっとそれ以上だと思いたい。本当、人生は色々ある。

2011年2月22日火曜日

情報に溺れているのか、情報が足りないのか

2011年3月号のVOICEは、なかなか読み応えがあった。とりわけ、堀江貴文氏と江川達也氏という異色の二人の対談記事は印象に残った。堀江貴文氏は、言わずとしれた元ライブドア代表取締役、江川達也氏は「まじかる・タルるーとくん」や「東京大学物語」など有名な作品を数多く排出している日本を代表する漫画家だ。

対談の中で江川氏と堀江氏に次のようなやりとりがあった。


江川氏の「今の若者にどんなスキルの習得を薦めているのか」という質問に対して・・・

堀江氏「やはり、情報収集のスキルでしょうね・・・(省略)」
江川氏「しかし、もともと自分の中に確固たる指針がなければ、多くの人は情報を集めれば集めるほど、混乱するだけなのでは?」
堀江氏「それは情報が多すぎるからではなく、逆に足りていないからです。たくさんある情報の中から価値あるものを見つける術を身につけるのは、結局、情報処理の場数を踏むしかありません・・・(省略)・・・仮に本を情報源とするならば、小説だけでなく、経済書、ノンフィクション、歴史書など、あらゆるジャンルのものを読む。雑誌なら様々なジャンルの雑誌をとにかく全部読む。「iPhone」をもつ前は、僕は週20誌以上を読んでいました。WEBも時間を区切って読みまくる。」

堀江氏の「むしろ情報収集活動が足りてない」という視点は、面白いと思った。実は、自分も身に覚えがあるからだ。私は以前は、せいぜい1年に4~5冊程度の小説を読む程度、たまにインターネットからニュースを見る、新聞は週に2回程度、ましてビジネス書など一度も読んだことはない、という生活を送っていた・・・本当にそんな感じだった。そんなとき、当時興味深い人だな(ラジオパーソナリティの小島慶子さん)・・・と思った人物の行動に関心があり、その人が読んでいるといった雑誌や本を読んでみよう、と思ったことがあった。

一冊目に手を出し、二冊目に手を出し・・・以前の自分であれば絶対に手を出さないであろう分野の雑誌に目を通したり、本を読んだりするにつけ、加速度的に色々なことに興味がわくようになった。雑誌、ビジネス書、歴史書、小説・・・ニュース・・・様々なメディアの様々な情報を通して何が変わったのか?・・・”考える”機会が圧倒的に増えたのである。

”考える機会”が増えると、様々なことに対して自分自身の意見を持つ努力をするようになり、また、人との会話の話題も増えた。ただし、本の出費がかさむ・・・というデメリットもあったが。

このような生活を継続して、1年後、2年後の自分がどう磨かれているか(あるいは磨かれていないのか)、「単なる”頭でっかち”になっているのか?」「より人間性が向上しているのか?」・・・できればこのブログを通じて、自分自身の観察もしていければな、と思っている。

2011年2月20日日曜日

書評: 文系ビジネスマンでもわかる数字力の教科書

今週は、久保憂希也著「文系ビジネスマンでも分かる数字力の教科書」(大和書房:1,300円)を読んだ。例によって、新刊ラジオ※で紹介されていた本で「これは、自分の仕事に何か役立てられる内容が書いてあるかもしれない」と思い、購入したものだ。

http://www.sinkan.jp/radio/


人を説得するビジネスシーンに活用できるノウハウ本

著者の言葉を借りると「数字力を鍛える」本だ。言い替えると「人を説得する必要のあるありとあらゆる場面、特にビジネスシーン(社内会議での上司への説明、部下やプロジェクトメンバーへの説明、セリング先への提案など)において、”数字”をもう少し上手に活用して、大きな成果につなげよう。そのためにはどうしたら?」・・・こんな疑問に回答を投げかけるノウハウ本だ。

【本の構成】
第1章: 仕事の全てを数字で考える
第2章: 「会社の数字」をざっくりつかむ
第3章: 「数字の魔力」を使いこなす
第4章: 発想を変える9つの方法
第5章: 全ての判断を合理化する

ビジネスに役立つヒントが必ず1つは見つかるかも!?

ところで、この本は読んでみると、どこかで耳にしたことのあるような内容を数多く含んでいる。数字にそれなりに強い人や経営修士学を取得した人、コンサルティングをやっている方・・・そのような人たちは「そんなの知っているよ」と思うことが多いかもしれない。そもそもタイトルからも分かるように、この本は数字にそれほど強くない人であっても、役立つようにというスタンスで書かれたものだから、それはある意味当然のことかもしれない、とは思う。

しかし、良く言われるように、1つでも2つでも自分にとって役立つことが書いてあれば、それだけでその本に読む価値がある、といえると考える。その意味では、私にとっては読む価値のあった本と断言できる。実際、読んでみて”知ったかぶり”になっていたものがいくつかあった。

数字に弱い人にとって、どのような役立つ情報が載っているのか? その1つを紹介しよう。

著者が薦める”数字力を鍛える方法”の1つに、「基本的な数字を記憶しておく」というワザがある。これは非常に単純明快なもので、世の中で出てくる色々な数字(例:1兆円の利益、400億円の売上、200万台の販売・・・)を、自分にとって、あるいは、説得する相手に、より意味あるものにするためには比較できる基本的な数字をつかんでおくと良い、というものである。たとえば、日本の歯科診療所の数は6万8200あるそうだが、これは多いのか少ないのか、イメージがわきづらい。ここに「日本にあるコンビニの店舗数は4万店舗である」という事実をつきつけると、診療所の数がいかに多いのかというメッセージが伝わりやすくなる。しかるに「基本的な数字はあらかじめ記憶しておこう」というわけである。

普段、定量的な説得力に欠けていると自覚ある人たちに・・・

この本は、誰かに説得をする機会を多く持つ人、たとえば、予算取りをするための資料を作る部長、企画立案をする企画部の人や営業マン、コンサルタント・・・それこそ、普段数字をあまり意識しきれていない人たち、みんな・・・と言えるだろうか。

ちなみに、この本の第3章「数字の魔力」を使いこなす・・・を読んでいて、以前読んだ「リスク・リテラシーが身につく統計的思考法」という本を思い出した。今回のこの本を読んで、より興味がわいた方はそちらも目を通してみると、更に理解が深まるかもしれない。



2011年2月13日日曜日

マクラーレン社CEO、ベビーカーリコール対応から学んだこと


ハーバードビジネスレビュー1・2月合併号に興味深い記事が載っていた。「マクラーレン社のCEO、リコールから学ぶ」がそれだ。

このマクラーレンという会社はグローバルにベビーカーの生産販売事業を行っている。丈夫かつ極めて洗練されたデザインのベビーカーを販売していることで有名だ。日本国内でも、外を出歩いていれば、一日一回は見かけるといっても過言ではないほど。言うまでもなく”信頼性の高さ”が、一番の強みだ。

あるとき、彼らの製品の1つで、ベビーカーに座った子供が留め具の部分に肘をひっかけて、怪我をしてしまうクレームが十数件あがってきたそうだ。そのときに(販売台数に比べれば圧倒的にクレーム数は少なかったようだが)、信頼性は会社の生命線であることを理解していた経営陣は、積極的にリコールをすることを決めたそうである。必要な調査や事務手続きを終えるまでは、法律的に社外に公表することができず、内々に、必要な処理を進めて、さて、いよいよ明日リコール発表。・・・という前日に、報道機関にすっぱ抜かれ・・・電話は2週間パンクし、風評被害に発展し・・・CEOが何を学んだか・・・というのが記事の趣旨である。

CEO曰く、

・常に顧客に対して真実を伝える姿勢を崩さないこと
 最後には、顧客に自分たちの姿勢が伝わるので、決して、騙そうという姿勢をとらないことを言っている

・グローバルに連携しているリスク管理体制が必要であること
 実は、マクラーレン社は、地域に根ざした形態の運営を行っており組織体制自体、グローバルに密な連携をとれる状態になかったそうである。たとえ法律的に一地域の問題であったとしても、顧客はそうは受け取らない可能性の問題であり、マネジメント側としてもグローバルにリスク統制が行える体制を整えておくべきだった、と述べている

・自分たちがイニシアチブを発揮すべき立場だと認識して行動をとること
 今回の事件で、コンプライアンスを意識して、マクラーレン社はアメリカの法規制当局と緊密に連携をとりながら、法に忠実な手順を踏んでいたそうだ。だが、ふたを開けてみれば、これによりむしろ対応が遅くなり、被害は大きくなったという。彼らの企業規模やグローバルプレゼンスを考えると、規制当局の言うことに忠実に従うだけの”受け身の姿勢”ではなく、自分たちが業界をひっぱるリーダーであることを認識し、リコールをする際の適切な対応手段を自分たちが確立する・・・という強い意識を持った”積極的な姿勢”をとることが重要だったと気づいたという

風評被害・・・といっていいと思うが、このあたりの対応手段は、つくづく明確な正解のでていないエリアだと感じる。このマクラーレン社の学びをはじめ、他の事例にも常にアンテナをはっておき、私がコンサルタントして提供するサービスに役立てたいと思った。

書評:日本でいちばん社員満足度が高い 会社の非常識な働き方

さて、今週読んだ本は、次の本だ。

日本で一番社員満足度が高い会社の非常識な働き方 
山本敏行著(ソフトバンク クリエイティブ社)


いきなりだが、みなさんは”マインドマップ”ってご存じだろうか。頭の中で考えている(文章や声の形でアウトプットしづらい)ことを、そのままの直感的な図解の形ではきだすことで、整理や発想、理解力の向上を助けてくれる思考方法だ。

以前、どこぞの若手社長が、この手法を製品化した「マインドマネージャー」というIT製品を動画で紹介していたのを見たことがある。その紹介が、単に「この製品はいいですぜ」というものではなく、どういう場面で、どうやって活用することで、日々の生産性を高めることができるのかについて、懇切丁寧に説いていた。その内容が面白く、またそのマーケティング手法に感心して、印象に残っていた。実際に、それ以後、自身もその製品を使うようになった。そして、この動画を見て以後も、ツイッターや日経コンピュータ、ワールドビジネスサテライトなどで、その若手社長をちょくちょく見かけるようになった。それでその存在が気になって仕方がなかったのかもしれない。その社長が、この本の著者である。

彼が運営する会社、EC-Studioは、日本で100社ほどが毎年受けているという「社員満足度診断(Employee Motivation Survey)」で2年連続一位に選ばれたそうだ。満足度一位・・・すなわち、彼の会社が急成長してきた理由を具体的に紹介した本である。

「全社員にiPhone支給」「顧客に会わない」「電話を受けない」「社員をクビにしない」「売上げ目標に固執しない」「21時に強制退勤」「社長とランチ」「プレイステーションでテレビ会議」・・・本にはこれまでに彼が会社で実践してきたユニークなアイデアが全て紹介されている。

これらの中には、明日からすぐにでも自分の組織で実践できそうなものもたくさんある。わたしが気に入ったのは「ランチトーク制度」だ。組織が大きくなりはじめると、部下となかなかコミュケーションをする機会を持つことが難しくなる。実は、私の会社でもそうだ。そんなコミュニケーション不足を解消するため、ランチを部下と一緒に食べよう、ただし、費用は会社持ちで・・・というのものだ。部下とランチを食べる・・・この考えはありがちだが、”コミュニケーションを図るために”という大義名分で部下をランチに誘う以上はそれは会社として費用を負担すべきだ、というのは至極もっともである。

この本は、「どうやったら会社を良くできるか悩んでいる人」や「これから会社を起業しようけど、どういった会社作りを目指そうか」と考えている人に、非常にタメになる本だと思う。実際、私自身が起業家だが、気になって折り目をつけた箇所が11カ所もあった。自分の会社でいくつかは実践できたらな、と思っている。

ただし、この本に載っているテクニックをコピーするだけでは、本当の意味での良い会社を作ることはできないと思う。著者が、自分の会社で役だったもの・実際に実践しているもの、をあますところなく、紹介していること自体がそれを裏付けているのではないかと考える。つまり、そのように広く公開できるのは、それ(テクニック)自体が会社のコアコンピタンス(強み)ではないからだ。テクニックは、強みから生まれてきたものにしか過ぎない。EC-Studioの強みは、このようなテクニックを醸成することができる文化であり、人・組織を持っていることだ。その文化の醸成は、一朝一夕でできるものではないし、既にある一定の文化を形成してしまっている大きな組織では、取り入れることは難しいだろう。

しかし、この本にヒントは提示されている。「この提示を受けてどうするか」・・・その大きな課題解決は、私を含め、実際に現場に立ち向かう経営者自身に託されている。

【類書】
 ・ほとんどの社員が17時に帰る、売上10年連続右肩上がりの会社(岩崎裕美子著)

2011年2月8日火曜日

書評: そこまで言うか!

本は、新聞や雑誌、ラジオなどで誰かの話を読んで(聴いて)影響を受けて買うことが圧倒的に多い。1月に読んだ「心を鍛える」もそうだし「脳に悪い七つの習慣」もそうだ。

今回買った本は違う。書店をぶらぶらと歩いていて、目にとまったものだ。「そこまで言うか!」と銘打たれたそのカバーには、著名な勝間和代氏、ひろゆき氏、そして、ホリエモンの姿が写っていた。流行りモノ・・・そういったものに手を出すことに自分はいつも抵抗感を覚えるのだが、どうしても無視することができなかった。登場人物の取り合わせが妙だと思ったからかもしれない。この「三人が混ざることでどんなアウトプットが出てくるのだろうか」と興味がわいた。


全く毛色の違う三人の取り合わせ

堀江貴文氏(ホリエモン)は、東大文学部中退(おー、ジョブズやゲイツと一緒だ・・・)。ウェブ製作会社オンザエッヂを設立。2002年ライブドアを買収し、社名変更。会社は急成長に合わせて球団やフジテレビの買収劇で一躍、有名になった。2005年衆議院議員選挙立候補、亀井静香氏と争うも落選。検察に目をつけられ、証券取引法違反に問われ有罪判決を受ける。(現在はライブドアCEOから退き、宇宙ビジネスを実現させるべく、邁進中・・・らしい。)

勝間和代氏は、慶応大学商学部卒。当時史上最年少19歳で公認会計士補試験に合格。アーサーアンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立。現在、株式会社監査と分析取締役、内閣府男女共同参画会議議員、中央大学ビジネススクール客員教授として活躍中。(朝から晩まで時間という時間を余すところ無く効率的に活用し、自身の能力向上と目標達成に向けて日々邁進中・・・という印象)

ひろゆき氏は、中央大学卒。米国留学中の1999年にネット掲示板「2ちゃんねる」を開設。東京プラス株式会社社長、有限会社未来検索ブラジル取締役、株式会社ニワンゴ取締役など複数の企業の経営に携わる(自分の幸せがどこにあるのかをしっかり理解して、それを満たすのに十分な範囲での生活を行っている・・・必要以上のお金は稼ぎたくないし、庶民的な生活を失いたくはない・・・のんびりゆったりマイペース、そんな印象)

気になる。うーん、どうしても気になる取り合わせだ。

この本ができたきっかけは、ひろゆき氏と勝間氏のある番組での対談

ところで、この本が出版される前にさかのぼること数ヶ月。実は、ひろゆき氏と勝間和代氏は、デキビジ(できるビジネスマンの略称らしい)という番組で対談した。私もその番組は見た。対談では、勝間和代氏が、色々なテーマに対して主張するも、のらりくらりと巧みに交わすひろゆき氏。勝間氏はヒートアップ。彼女の「ダメだこりゃ、議論にならないわ」といった捨てセリフがその対談の全てを物語っていたように思う。ただ通常とは異なるぎくしゃくした対談が、視聴者にはウケたのは間違いない。実際、インターネット上のブログやツイッターに様々な書き込みを見た。

そして、そんな視聴者の反応を知ったホリエモンも反応した。「再び対談の機会を設けるのならぜひ、自分に取り仕切らせて欲しい」と。それを知った編集者が「面白そうじゃないか。」ということで実現させたのが、この対談であり、この本の出版である。

満を持して行われた対談、今回はかみ合うのか?

起業者としての立場は同じだが、バックグラウンドは全く異なる三人・・・「デキビジでは意見が対立(?)していたが、実は、腹を割って話せばすごく意気投合する人たちなのではないのか?」なぁんと勝手な期待をしながら読み進めた。

結果、分かったのは、三人がそれぞれブレない軸・・・“哲学“と言ったほうがいいんだろうか・・・を持っていると言うこと。彼らが元々持っていた信念に加え、社会人として場数をこなす中で磨き上げてきたものであるだけに、強固たるものだ。自分の軸を持っている人・・・というのは実は今の世の中、少ないのではなかろうか。軸を持っていない最たる人が日本の首相陣だろうか(笑)。だから、どういったテーマ・質問に対しても、答えが矛盾しない。読みやすい。それゆえ、彼らの意見は、交わる部分と交わらない部分がはっきりとしている。そして、交わる部分は、荒波にもまれてきた三人が共有する”成功者(というとひろゆき氏に嫌われそうだが)の哲学“とも言えるわけで、「自分も学ぼう」という気持ちで読める。そして交わらない部分は、どれが正解・不正解という次元の問題ではないので、三者三様の意見を聞いて「自分はどうなんだろう?」と考えることを促される。思考力が高められる、と言えるかもしれない。

三者一様、三者三様の意見

たとえば、交わる部分・・・というところでは「三人とも保険会社を信用しない」という点だろうか。「保険会社のビジネスモデルがなんたるかを理解すれば、信用ならないのは当然なことだ」と主張する。したがって、勝間氏は必要最低限の利用にとどめているし、ホリエモンにいたっては保険には一切入っていない、と言う。

交わらない部分というところでは、たとえば、ホリエモンや勝間氏は、目標設定が重要であると考えている。ホリエモンは対談の中で「目標がないと、やる気が起きず、楽しくない」と語っている。ちなみに勝間氏は無収入生涯生存年数(今、突然収入がなくなったとしても、質を落とさずに生活を続けられる年数のこと)を45年(現在は20年分貯まったらしい)にする、という目標があるそうだ。ひろゆき氏は、特に目標にこだわりはないし、明確な目標は何もないと言う。個人的には、目標を持つことは人間を突き動かす原動力になるものなので絶対に必要だと思っていたのだが、ひろゆき氏の人生観を聞くと、必ずしもそれが正解ではないのかな・・・と考えさせられた。

ホリエモンの人生観はいったいどこから?

ところで、本書を読んでいると、どうしても無視できないのが、ところどころにあるホリエモンの強烈な発言だ。彼は、離婚しており一児の父親だが、曰く「死んだ後のまわり(家族など)に及ぶリスクは知ったこっちゃない。もし、自分が死んで家族が困るのなら、それはそれでまた彼らの人生。そうやって苦労することで、また別の道が開けるかもしれない。だから生命保険なんてものも絶対に入らない」とのこと。くわえて「自分の自由な時間を奪われたくないから子供と一緒に生活したいとも思わない」とも述べている。

別に支持もしないし、反対もしないが、ユニークな考え方ではある。このような考え方を持つようにいたった経緯には興味がわく。何かそう思わせるようなきっかけがあったのだろうか。残念ながら本書ではそれを読み解くことはできなかったが、今後、何かそれを知るきっかけがあればなと思うところではある。

時間とお金に余裕があるならぜひ

この本はソフトカバーだが、持ち歩くには重たいやたらと分厚い本だ。その厚さのせいなのか、値段は1,600円弱。先述したように、このアクの強い三者の取り合わせには非常に興味深いものがあり、その好奇心は十分に満たされたが、この好奇心を満たすためだけに1,600円は少々高いかもしれない。私同様に強い好奇心を持てない人は、時間が経てば、ブックオフなどセカンドハンドで安価に入手できるようになるので、それを待つというのが得策だろう。

2011年2月1日火曜日

カントリーリスク・イン・エジプト

今、人口8,300万人のエジプト情勢が不安定だ。ムバラク大統領への退陣を要求して、エジプト反政府が5万人規模のデモを展開。デモ5日目にして、既に死者が74人に及ぶ。

エジプトは言わずとしれた共産国家であり、一党独裁という点では中国と同じだ。しかし、議会に選ばれた大統領が事実上の終身制という点で、大きく異なる。安定した政権運営ができる一方、不満のガス抜きをする機会がないため、大きな不満がたまりやすく、何かをきっかけ(今回のもともとのトリガーは隣国チュニジアの政変と言われている)として一気に爆発してしまうという危険性をはらむのだろう。

ところで今回の件を、ビジネスに向けてみると、やはりそれなりの被害はありそうだ。エジプトに工場を持つ製造会社も少なくない。今日の日経に目を通すと、

・日産自動車は現地ギザ工場の操業を30日から当面1週間停止
・スズキは合弁工場の生産を30日に停止
・住友電気工業は、やはり工場の操業停止
・大塚製薬も胃潰瘍の治療薬などを生産している工場を操業停止
・ソニーはエジプト国内約50店舗の小売店の営業を中断
・三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅、双日、伊藤忠商事など大手商社は事務所を一時休業
・ビリジストンも駐在員が国外へ避難
・YKKもラマダンにある工場の操業を停止


いずれも再開のめどは立っていないという。現地出張中に三菱重工の社員40人はホテルで一時待機。出張する予定のあった企業は見合わせている。なお、ジェトロ(日本貿易振興機構)によれば、去年4月時点でエジプトには、56社の日本企業が進出しているとのことだ。

リスクマネジメントの世界では、こういった事象をカントリーリスクと呼ぶが、危機管理や事業継続マネジメント(BCM)の領域でもある。何らかの理由により重要な業務が中断をしてしまった際に、それが事業の致命傷とならないように、どうしておくべきかを考え手を事前に打っておく考え方だ。今回の場合であれば、エジプト工場の操業が停止しても、たとえば、在庫を余分に持っておくとか、一時的に違う国の工場で代替生産を行うなどの対策があり得るかもしれない。

特に製造系は、生産コストのメリットから新興国に工場を構えることが多いが、それは同時に、こうしたカントリーリスクを追うことにもなる。せっかくビジネスがうまくいっていても、ちょっとした中断で事業が完全につまづくようでは本当にもったいない。

企業は今回の事件を他山の石とせず、こうしたことを踏まえて、日頃からきちんと手を打っておきたいものである。

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...