2010年11月5日金曜日

FXの功罪

ここ数年FX(エフエックス)がブームだ。

FXとは、Foreign Exchange(フォーリン・エクスチェンジ)の略で、外国為替証拠金取引のことだ。USドルなど外国通貨を買ったり、売ったりすることで、日々の為替レートの変動を利用して、差分から利益を得ようというものだ。株式取引よりも注目されるようになったのは、その名の通り証拠金取引が誰でも簡単にでき、短期間で大きな結果を得られる可能性があるからだ。証拠金取引では、100円しか元手が無くてもその何倍もの取引ができる。たとえ10,000円しか持っていなくても、それを元手に、たとえば30,000万ドル(約240万円相当)を買ったり売ったりすることができる。おかげで、為替変動が1銭2銭というちょっとした話でも、多額の利益を得られる可能性があるわけだ。

さて、あまりにもまわりが騒いでいるものだから、「自分も勉強がてら・・・」と思いつつFXをやってみた。なるほど、その影響力は凄いものである。

さて、何が凄いのだろうか?

私の実体験から、いかに個人的な感想をまとめてみたい。私の感じたことをまとめると、大きく3点に要約できる。

まず1つめは、その驚くべき手軽さ。自分でパソコンを立ち上げて、通貨を選択し、取引量を入力・・・あとは、「売る」「買う」のボタンを押すだけである。秒単位で為替は変動しているため、買った(あるいは売った)瞬間から、利益や損失が発生する。何が何だかよくわからずに、マウスをいじっていたら、思わず誤って「買う」のボタンを押してしまったことがある。それで数千、数万円の儲け・損失が一気に決まったりするのだから怖い。

そして2つめは、中毒性。この中毒性は半端ではないと思う。FX取引では、パソコンの前に四六時中座っている必要ないように、「何円になったら売る」とか「何円以上下がったら買う」とか、事前に値を指定(指値・逆指値)して、”予約買い”や”予約売り”を行うことができる。当然、こういった機能を使うことで、後は放っておけば儲かる・・・こう考えるのが人間の心情だ。

ところがどっこい、世の中、そんなに甘くはない。

日々変化する経済状況の中で、お偉いさんのちょっとした発言は為替を大きく変動させる。そう、波の高さや流れが一気に変わるのだ。あらかじめ読んで設定した予約(指値・逆指値)の前提が大きく変わってしまう、というわけだ。モニタの前に張り付いていないと、なかなかその波をつかむことが難しい。「FXの必勝策は、24時間パソコンの前に座って取引をすることだ」と書いている、ものの本もあるくらいだ。実際にそうなのだ、と思う。もちろん「そんな1日や2日の中で起こる波の変化は自分は気にしないよ」という人もいる。そんな人であったとしても、やはり、何かのたびにふと為替レートのことが気になってしまうハズだ。自分がそうだったからだ。ついついそのときの為替レートはどうなっているか、とニュースを追い求めている自分に気がつく。実は見た目以上に精神的に、FXにばかり時間をとらわれてしまうこと・・・これが本当に怖い、と思う。

最後の3つめは、経済ニュースに対する自分のアンテナだ。先に述べたように為替変動は、高官などのちょっとした発言や経済指標の発表内容で、大きく変化する。この波を読むためには、とにかく日々ニュースにアンテナを張り巡らせておかなければならない(ディーラーが、ひたすらロイターやCNNなどのニュースを流しっぱなしにしている理由がよくわかる)。すると、今まで気にもとめなかったような、毎月はじめに発表されるアメリカの雇用統計指数だとか、製造業に関係する指数だとか、ありとあらゆる統計情報が意味あるものに見えてくる。日銀の発言や対策、政府の動き・・・全てを理解しようという姿勢になる。一瞬、専門家になったような気分にすらなってくる。FXをやったことで、やたらと経済に詳しくなった・・・これは大きい成果だった。

さて、そんなFXだが2ヶ月ほどやってみて、肝心の金銭的結果はどうなったのか。

実は、一時期10万円近く儲けた。でも、あーだこーだで、120円まで儲けが目減りしてしまった。その後、先述したような中毒性に恐ろしくなり、FXから遠ざかってしまっている。あまりにも頭の中がレート、レートで、せわしくなり、精神衛生上も決して良くないように思えた。まだ、まわりには、「上がったぜ、下がったぜ」とか、「モニターを見てたら日が暮れてしまった」とか、言っている人たちがたくさんいる。

自分は、そういった声を聞くたびに、いよいよますますモニターの前に座る気が起こらなくなってしまっている。

ただ色々な功罪はあろうが、やってみて良かったとは思う。大変、良い人生の勉強になったのだから。得るものはそれなりに大きかった。

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