2020年5月10日日曜日

書評:ルーキー・スマート(Rookie Smart)

この本は、ルーキースマートについての本だ。ルーキーは新人のことだ。と言ったところで、当然「ルーキースマートってなに?」となるだろう。本書によれば、「全ての人、周囲にある全て、から学ぶことができるマインドセットを持つ人」だ。要するにルーキー(新人)こそ、「学習意欲の塊」になれるわけで、そうした人が持つ「とにかくあらゆることから学んでやろう」という状態をルーキースマートというのだ。

実際、ルーキー(新人)の方が経験者を圧倒する場面に出くわしたことないだろうか。著者自身が人生の中でそういう経験をしてきたし、彼女が世界中の組織のリーダーや経営者に対してコーチングを実践してきた中でも、ルーキーが経験者を圧倒する場面を何度も見てきたようだ。「どうやらこれは偶然ではなく何か法則があるはずだ」と思い、その法則をデジタル化しようと試みた集大成が本書ともいえるだろう。

しかしながら、どうしてルーキー(スマート)なのか。ルーキーじゃなければいけないのか。本書を読むと、次のような理由が見えて来る。

  • 固定観念/偏見がない
    → 
    だから経験者が避けがち/見落としがちなことに気付ける/新鮮な発想が出やすい
  • 自分の力量がたりないことを自覚している
    → 
    だから、色々な人に素直にかつ必死に頼ろうとし、結果、たくさんの人の力を引き出せる 
  • 高い緊張感を保っている
    → 
    だから、全てに感度が高く反応係数も上がる
  • 失敗をしちゃいけないと言う制約が少ない
    → 
    大胆なことにチャレンジできる

そう言えば・・・。つい先日読んだ「パラノイアが生き残る」で、著者が次のようなことを言っていたことを思い出した

「新しく入ってくる人たちが経営者やリーダーとして前任者より能力があるとは限らない。しかし、1つだけ前任者より確実に優れている点があり、それがおそらく非常に重要な点なのだ。それは、自分の全人生を会社と共に過ごし、現場の混乱の原因に深く関わってしまった前任者と違い、新しい経営者には思い入れやしがらみがないと言う点だ。すなわち、現況においても割り切ったものの考え方ができ、前任者よりはるかに客観的に物事を捉えることができるのである(パラノイアだけが生き残るより)

確かに、著者のいうことに合理性はありそうだ。では、ルーキースマートが事実だとして、経験者はもう終わりなのか? 「いや、違う。そうではない。経験者でもルーキースマートのマインドセットを持つことができる。それには・・・」の答えが、本書の付加価値と言えるだろう。

ルーキースマートになれる手段として、なるほどと思った例を1つだけ挙げておく。それは、「知らないことリスト」を作るというものだ。その心は「経験者はそもそも自分が知らないという事実を認めたがらないし、無意識の内に調べることは全て、自分が知っていることの裏とりばかりに終始する」からだ。「自分が知らないこと」を明示的に書き出すことで、素直にその事実を受け入れられる、ということだろう。

ところで、こうした本質が分かると、逆に「ルーキーだからといって必ずしも結果を残せるわけではない」ということもわかる。なぜなら、ルーキーであっても、先に挙げたルーキーのメリットを殺している人がいるからだ。わたしの身の回りにもいる。たとえば「いろいろな人に勇気を持ってきける」というメリットにしても、最近ではインターネット技術が発達したばっかりに「とりあえずネットで調べようとする」人が多い思う。

このように考えていくと、本書を読むべき人は、次のようにまとめることができるだろう。
  • ルーキーの人
    → 
    ルーキーであることのメリットを正しく理解し、それを最大限活かせる術を学ぶため
  • 成長したい人
    → 
    自分の能力を超えたことに挑戦することが大事だし、むしろその方が組織のためになることを理解するとともにそのような状態に身を置く術を知るため
  • 経営者や組織のリーダー
    → 
    いかに「成長できる人」を増やし「成功」を増やし、組織を活性化させるかを知るため

2020年5月8日金曜日

書評: サピエンス日本上陸 3万年前も大航海

ホモ・サピエンス、すなわち人間が、どこからどうやって日本大陸に住み着いたのかについてとことん検証した本だ。どこからどうやってと言う点に関しては、38,000年前は少なくとも北海道はサハリンを何大陸とつながっていたのでそこから人が流入してきたのではないかと言うのが一般的な印象だが、そうではなく「海を渡ってきた」と言うのが著者の主張だ。

え!?と思うが、本書によれば、当時北海道と本州はつながっていない。つまりそこから南に行けないのだ。加えて日本最古の遺跡は本州と九州から発見されている。と言う。

「そうなると日本列島へ最初にホモ・サピエンスが渡ってきたのは、朝鮮半島から対馬を経由して、九州へ至る「対馬ルート」だったことになる。・・・次に古いのは琉球列島であるが、現時点での証拠を総覧すると、その頃大陸の一部だった台湾から北上して沖縄島へ至る『沖縄ルート』が存在したことが見えてくる」(本書より)

かくして著者はこの沖縄ルートを使って大航海のとことん検証するのである。「とことん」とは、実際に当時得られたであろう材料と技術のみを使って、舟を作り人力で黒潮を横切り台湾から与那国島へ行くことである。

しかして読者は思うはずだ。沖縄ルートが存在したとしてなぜそこまでとことん検証する必要があるのかと。これについては著者は次のように述べている。

「私たちのプロジェクトでは、「行けるかどうか」よりも、人類最古段階の海への挑戦たちにとって、「行くことがどれだけ難しかったか」に関心がある。祖先たちが島へ渡った事は既にわかっている。知りたいのは「彼らがどんな挑戦をしたか」なのだ。(本書より)

このくだりを読んだとき「挑戦とは、また大げさな。種子島の鉄砲伝来のように、誰かが漂流して流れ着いただけの話じゃないの?」と思った。しかし著者はこうした疑問にもしっかりと答えを用意してくれている。

そんな分けだから、ページをめくる手が止まらなかった。当時の技術や材料を考えてそこから舟を作り(なんと1年以上もかかるのだ!)、カヌーなど手漕ぎの名手を揃え挑戦するのだが、次から次に訪れる失敗。黒潮の流れが行く手をは阻み、全然渡れないのだ。びっくりした。海を渡ると言うことがどんなに大変なことかと思い知らされた。そしてそれだけ大変な航海に臨もうとした当時のホモ・サピエンスは一体どんな気持ちで挑戦したのか。強い興味がわいた。そう。まんまと著者の罠に陥り、自分自身も著者の好奇心にシンクロしたのである。

著者は語る。

「しかしよく考えると、ホモ・サピエンスは世界各所で不要なことに精を出している。ヨーロッパではクロマニョン人が、地下の洞窟にもぐり込んで、暗く狭く不規則な空間に絵を描いた。7万年以上前の南アフリカ沿岸部には、河口へ行って食べられもしない小さな巻貝を集め、それに丁寧に穴を開けてビーズを作った人たちがいた。どちらの行為もふつうの動物の感覚なら、無意味なエネルギーの消費であり推奨されない。そうすると結局のところ、3万年前の後期旧石器時代人は、どういう人たちだったのだろう。彼らのことを探求すればするほど、「私たちと何ら違わない人間」というイメージが浮かんでくる。やらなくてもよいことに挑戦する不思議な特質を共有し、私たちより上でも下でもない、同じ人間だ。」(本書より)

30000年も前に、限りなく私たちと同じ考えを持った人間たちがそこにいたに違いない。当時の情景が目に浮かんでくる。たった一冊の本が、著者の挑戦が、私たちの心を数万年前にタイムスリップさせてくれる。不思議な本だ。



2020年5月4日月曜日

書評:企業不祥事を防ぐ

本書は、三菱自動車やNHKなど、日本国内で起こった数々の企業不祥事をもとに、著者が携わったその他多くの不祥事案件の体験談も交えつつ、企業不祥事が起こる真の理由とそこからみえる企業がとるべき対策について解説したものである。

筆者の体験とはたとえば次のようなものだ。

「最後は社長が決断した。『私は、コンプライアンスは法令の文言ではなく趣旨・精神を尊重することだと社員に宣言した。言行一致でなければ社員はついてこない。X会との関係は遮断する。これで当面の売り上げが減少しても、それは自分の責任として受け止める。営業担当者の責任は問わない。正々堂々と入札を行い、長い目で見た価値につなげよう』と明確に宣言した」(本書より)

こうした活きた事例は、何にも勝る本書の付加価値だろう。

では、企業不祥事が起こる真の理由とは何なのか。筆者なりにまとめてくれているが、企業不祥事の種類は多岐にわたり、対策においてもコンプライアンス、リスクマネジメント、危機管理、コーポレートガバナンスといった複数の視点からの考察が入るので、やはり最後は自ら読んで、頭で整理しておきたい。

ちなみに、わたしが自分の頭を整理したときに、いの一番に、頭に思い浮かべたのは、日本に古くからある諺、「嘘つきは泥棒の始まり」というフレーズである。企業不祥事の原因を一言で言え・・・と言われたら、「このフレーズが徹底されていないこと」と答えるだろう。「貞観政要」を読んだときにも感じたことだが、どうやら企業不祥事の要諦は「原点に立ち返ること」にありそうだ。

【参考:企業不祥事要因に対するわたしなりのまとめ】
企業不祥事が起きる理由
  • 理念やコンプライアンス方針などが形式的(倫理よりも法律より、現場が思い入れを持てない無味乾燥な内容)で業務をする人間の何の足しにもなっていない
  • 自分たちの成功体験ばかりに傾倒し、社会環境変化を敏感にくみとろうとしない文化

企業不祥事を発見できない理由
  • 「ウソをつくこと」の軽視
  • 自分ごと化の失敗(自分には影響がない、やぶへびにしたくない気持ち、リスク管理は管理部の仕事)
  • トップそのものの不正
  • 不正防止活動の効果測定の甘さ
  • 心理的安全性の低さ
  • 形式的なコーポレートガバナンス(独立性ない人ばかりで構成)
  • リソース不足
    • 子会社
    • 検査・品証体制の脆弱性

企業不祥事がなくならない理由
  • 盗む不正に厳しい一方で、ごまかし(嘘をつくこと)の不正に対する処分が甘い
  • 性善説信奉
  • 認知的柔軟性(少しのごまかしなら許されると思いがち)
  • 割れ窓理論
  • 形式的な事故調査(「過去どれだけの不正があったか」にばかり注力し・疲弊し・満足し、将来の不正への対応に時間が割かれない)
  • リスク管理に対するトップの意識の甘さ(子会社や検査体制への投資不足など)

では、これらの要因を踏まえて、とるべき対策は何なのだろうか。ここまで要因が分かっているのであればやるべきことは明確だ。「活きた理念の浸透」「独立性が担保された外の目を入れる」「トップの覚悟を見せる」「自分ごと化させる」「現場と経営陣の双方向のコミュニケーション機会を増やす」など、たくさんある。

これだけのヒントを提供してくれているのだ。これで企業不祥事を起こしたとしたら、それは間違いなく経営者の責任以外の何者でもない。


2020年5月3日日曜日

書評:パラノイアだけが生き残る

インテルの元社長、アンドリュー・S・グローブ氏が、自身の経験をもとにどういう会社が生き残るのかについて出した結論を、具体的事例を交えて解説する本。

自身の経験とは、インテルがメモリー事業でトップを走っていた時代にいつのまにか日本企業が台頭し、あっという間に追い抜かれ、会社の存続が危ぶまれたときのことだ。

「その額は4億7500万ドル。交換する新築と廃棄した古いチップを合算した金額である。実に、年間の研究開発費の半分、ペンティアムの広告費5年分にあたる金額だった。この時以来、われわれは仕事への取り組み方を全面的に切り替えたのである」(本書より)

このとき、インテルはメモリー事業から撤退。マイクロプロセッサーへの開発・生産へ大転換した。その後、彼がどうなったかは誰もが知るところだろう。その後にも波がやってくるが全て乗り越えてきた。

彼なりに思うところがあったのだろう。「どうして日本企業の勢いに気付けなかったのか」「どうして手遅れになるまで反応できなかったのか」「最終的にはどうして気づくことができ、どうして大転換をなしえたのか」。氏はこうした論点を深掘りすることで結論を身引き出した。

では、その結論とはどんなものか。簡単にまとめると次のようなものだ。

危機(リスク顕在化)に気づくための要諦
  • ミドルマネジメントと経営の間のフランクなコミュニケーション
    • そのためにもリスクを報告してくる者を評価する
    • ボトムアップとトップダウンが同程度に強い場合にいい
  • 色々なことにアンテナをはる
    • 業海内よりも、業界外の変化に
    • 様々なことを知る努力をする
  • 違和感に気付ける習慣をつける
    • 同僚やミドルマネジメントとの会話のズレや違和感を感じないか
    • シルバーブリットテストをする(もし競合を1社だけ排除できるシルバーブリットがあったとするなら、あなたは誰を打つか?)
    • この技術が“もし化けたとしたら”どれくらい脅威になるか
  • 「自分が新しく入ってきた社長の立場だったらどうするか」で考える
  • ノイズであっても、切り捨てずレーダーに捉え続ける

危機対応の要諦
  • リソースを集中し一点突破
  • 死の谷を乗り越えた先に待っているイメージを具体化させ、共有する

彼の語りには、「ミドルマネジメント」というキーワードが頻繁に登場するが、それはリスクにもっとも早く気付けるのは「現場」という前提があるからだ。そして、組織のリスクマネジメント・危機対応を難しくしているのは、「いち早くレーダーで輝点をキャッチするのは現場」だが、「それが組織にインパクトをもたらすミサイルか単なるゴミかどうかの判断できるのは経営」という点だろう。つまり、最初に発見した輝点を経営を揺るがす危機ととらえるまでにいくつもの壁があるのだ。

  • 現場が輝点を捉えられるか
  • 現場が輝点を捉えたときに、それを経営に報告すべきシグナルと気付けるか
  • 現場がシグナルと捉えたときに、経営に報告できるか
  • 経営がその報告を受けたときに、適切な判断ができるか
  • 経営が適切な判断ができたときに、勇気ある行動がとれるか

だから著者はこんなことを述べている。

「今日は、経営陣が中間管理職や販売部門の人間と自由に議論をしているときに表面化しやすい。ただし、それには面と向かって言いたいことがはっきりと言える社風が不可欠だ。インテルでは、これが機能している」(本書より)

いずれにせよ、本書がとりあげている企業存続もそれを乗り切る方法も、まずはトップが気づいて行動しなければ何も始まらない。世の全ての経営者、必読の書だろう。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...