インテルの元社長、アンドリュー・S・グローブ氏が、自身の経験をもとにどういう会社が生き残るのかについて出した結論を、具体的事例を交えて解説する本。
自身の経験とは、インテルがメモリー事業でトップを走っていた時代にいつのまにか日本企業が台頭し、あっという間に追い抜かれ、会社の存続が危ぶまれたときのことだ。
「その額は4億7500万ドル。交換する新築と廃棄した古いチップを合算した金額である。実に、年間の研究開発費の半分、ペンティアムの広告費5年分にあたる金額だった。この時以来、われわれは仕事への取り組み方を全面的に切り替えたのである」(本書より)
このとき、インテルはメモリー事業から撤退。マイクロプロセッサーへの開発・生産へ大転換した。その後、彼がどうなったかは誰もが知るところだろう。その後にも波がやってくるが全て乗り越えてきた。
彼なりに思うところがあったのだろう。「どうして日本企業の勢いに気付けなかったのか」「どうして手遅れになるまで反応できなかったのか」「最終的にはどうして気づくことができ、どうして大転換をなしえたのか」。氏はこうした論点を深掘りすることで結論を身引き出した。
では、その結論とはどんなものか。簡単にまとめると次のようなものだ。
危機(リスク顕在化)に気づくための要諦
- ミドルマネジメントと経営の間のフランクなコミュニケーション
- そのためにもリスクを報告してくる者を評価する
- ボトムアップとトップダウンが同程度に強い場合にいい
- 色々なことにアンテナをはる
- 業海内よりも、業界外の変化に
- 様々なことを知る努力をする
- 違和感に気付ける習慣をつける
- 同僚やミドルマネジメントとの会話のズレや違和感を感じないか
- シルバーブリットテストをする(もし競合を1社だけ排除できるシルバーブリットがあったとするなら、あなたは誰を打つか?)
- この技術が“もし化けたとしたら”どれくらい脅威になるか
- 「自分が新しく入ってきた社長の立場だったらどうするか」で考える
- ノイズであっても、切り捨てずレーダーに捉え続ける
危機対応の要諦
- リソースを集中し一点突破
- 死の谷を乗り越えた先に待っているイメージを具体化させ、共有する
彼の語りには、「ミドルマネジメント」というキーワードが頻繁に登場するが、それはリスクにもっとも早く気付けるのは「現場」という前提があるからだ。そして、組織のリスクマネジメント・危機対応を難しくしているのは、「いち早くレーダーで輝点をキャッチするのは現場」だが、「それが組織にインパクトをもたらすミサイルか単なるゴミかどうかの判断できるのは経営」という点だろう。つまり、最初に発見した輝点を経営を揺るがす危機ととらえるまでにいくつもの壁があるのだ。
- 現場が輝点を捉えられるか
- 現場が輝点を捉えたときに、それを経営に報告すべきシグナルと気付けるか
- 現場がシグナルと捉えたときに、経営に報告できるか
- 経営がその報告を受けたときに、適切な判断ができるか
- 経営が適切な判断ができたときに、勇気ある行動がとれるか
だから著者はこんなことを述べている。
「今日は、経営陣が中間管理職や販売部門の人間と自由に議論をしているときに表面化しやすい。ただし、それには面と向かって言いたいことがはっきりと言える社風が不可欠だ。インテルでは、これが機能している」(本書より)
いずれにせよ、本書がとりあげている企業存続もそれを乗り切る方法も、まずはトップが気づいて行動しなければ何も始まらない。世の全ての経営者、必読の書だろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿