本書は、三菱自動車やNHKなど、日本国内で起こった数々の企業不祥事をもとに、著者が携わったその他多くの不祥事案件の体験談も交えつつ、企業不祥事が起こる真の理由とそこからみえる企業がとるべき対策について解説したものである。
筆者の体験とはたとえば次のようなものだ。
「最後は社長が決断した。『私は、コンプライアンスは法令の文言ではなく趣旨・精神を尊重することだと社員に宣言した。言行一致でなければ社員はついてこない。X会との関係は遮断する。これで当面の売り上げが減少しても、それは自分の責任として受け止める。営業担当者の責任は問わない。正々堂々と入札を行い、長い目で見た価値につなげよう』と明確に宣言した」(本書より)
こうした活きた事例は、何にも勝る本書の付加価値だろう。
では、企業不祥事が起こる真の理由とは何なのか。筆者なりにまとめてくれているが、企業不祥事の種類は多岐にわたり、対策においてもコンプライアンス、リスクマネジメント、危機管理、コーポレートガバナンスといった複数の視点からの考察が入るので、やはり最後は自ら読んで、頭で整理しておきたい。
ちなみに、わたしが自分の頭を整理したときに、いの一番に、頭に思い浮かべたのは、日本に古くからある諺、「嘘つきは泥棒の始まり」というフレーズである。企業不祥事の原因を一言で言え・・・と言われたら、「このフレーズが徹底されていないこと」と答えるだろう。「貞観政要」を読んだときにも感じたことだが、どうやら企業不祥事の要諦は「原点に立ち返ること」にありそうだ。
【参考:企業不祥事要因に対するわたしなりのまとめ】
●企業不祥事が起きる理由
- 理念やコンプライアンス方針などが形式的(倫理よりも法律より、現場が思い入れを持てない無味乾燥な内容)で業務をする人間の何の足しにもなっていない
- 自分たちの成功体験ばかりに傾倒し、社会環境変化を敏感にくみとろうとしない文化
●企業不祥事を発見できない理由
- 「ウソをつくこと」の軽視
- 自分ごと化の失敗(自分には影響がない、やぶへびにしたくない気持ち、リスク管理は管理部の仕事)
- トップそのものの不正
- 不正防止活動の効果測定の甘さ
- 心理的安全性の低さ
- 形式的なコーポレートガバナンス(独立性ない人ばかりで構成)
- リソース不足
- 子会社
- 検査・品証体制の脆弱性
●企業不祥事がなくならない理由
- 盗む不正に厳しい一方で、ごまかし(嘘をつくこと)の不正に対する処分が甘い
- 性善説信奉
- 認知的柔軟性(少しのごまかしなら許されると思いがち)
- 割れ窓理論
- 形式的な事故調査(「過去どれだけの不正があったか」にばかり注力し・疲弊し・満足し、将来の不正への対応に時間が割かれない)
- リスク管理に対するトップの意識の甘さ(子会社や検査体制への投資不足など)
では、これらの要因を踏まえて、とるべき対策は何なのだろうか。ここまで要因が分かっているのであればやるべきことは明確だ。「活きた理念の浸透」「独立性が担保された外の目を入れる」「トップの覚悟を見せる」「自分ごと化させる」「現場と経営陣の双方向のコミュニケーション機会を増やす」など、たくさんある。
これだけのヒントを提供してくれているのだ。これで企業不祥事を起こしたとしたら、それは間違いなく経営者の責任以外の何者でもない。
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