ニューズ・ウィーク2020.8.11号「人生を変えた55冊」で、あの日本ラグビーの名監督、エディー・ジョーンズ氏の推薦図書に見つけた本だ。彼が、「とても影響を受けた本」と述べていたことが気になってすぐに買った。
本書は、「一見、有利不利は明らかに見えているという状況でも、それは気のせいで、戦略・努力次第でどうとでも変えられるんだよ」という実例をたくさん載せた本である。具体的には、経験者 vs 未経験者、裕福 vs 貧困、エリート校 vs 一般校、障害者 vs 健常者、幸せな家庭 vs 不幸せな家庭という二項対立の構図で、本当にみたとおりの結論になると思ったら大間違いだよ、というのだ。見かけが全てではなくその人が持つもの、、、それがたとえ苦難であれ、貧困であれ、体が小さいことであれ、片親であれ、、、逆にそれが他の人にはない人生の武器になりうるということ。逆もまた然り。裕福であることが有利であるとは限らない、というわけだ。
そういえば、昔、「漫画の世界のヒーローは不幸な出自が多い、親がいないの定番」などといった冗談を聞いたことがあったが、まんざら冗談ではないよということじゃなかろうか。「なんとなくそうじゃないか」と思っていたことが、しっかりと著者の出すデータで裏付けられたという感じだ。
個人的には、印象に残ったのはこうした二項対立の話もさることながら、その他に2つある。
1つは、「相対的剥奪の落とし穴」というお話。これは非常に興味深い。一見、昇進確率が低い組織であるにもかかわらずその組織のメンバーの満足度は高く、逆に昇進確率が高い組織であるにもかかわらずその組織のメンバーは不満が高かったりする、というのだ。これは、背景に「自分が幸せと感じるかどうか、不幸と感じるかどうかは、誰かと比較して感じるものである」ということがあり、誰も昇進しない中で稀に昇進すればそのものは幸せを感じるし、昇進しないものも、周りと自分を同列だと感じて安心することができるという論理だ。Facebookで、誰かが「あそこにでかけた。今日、こんな素敵なプレゼンをもらった」など半ば自慢めいたことを書くと、実はそれを読んだ人はストレスを感じることがわかっているなんていうニュースを読んだことがあるが、それと同じ論理だろう。人間って、変な動物だと改めて感じるとともに、逆にこの論理を理解しておけば色々な応用が効くなと思った。
あともう1つ印象に残ったのは、リモートミスの話。戦火で、爆撃を受けた市民のダメージを3グループに分けることができると言う。1つは「死ぬ人」。もう一つがニアミス。死にはしないが負傷し心に大きなダメージを負う者。最後はリモートミス。遠くで爆弾が落ち無傷で助かった者。こうした人達は、どこか不死身感漂う興奮を覚えると言う。そして戦争では当然ながらこのリモートミスが一番多い。つまり高揚する市民の方が多いと言うのだ。このリモートミスの感情はプラスの側面では、むしろ戦意を上げることの繋がる。本書ではこのプラスの側面について言及している。ただ私はマイナスの側面もあると思った。マイナスの側面では「根拠のない自信から油断へとつながり、むしろ死者を増やしてしまう可能性があるのではなかろうか。
このリモートミスの話を聞いて、ふと「正常性バイアス」という人間が陥る心理の罠を思い浮かべた。有事においてなぜか「自分だけは大丈夫」と根拠なく思ってしまう心理状態のことだ。地震が起きたときに、すぐに避難行動にうつらない人の心理状況がまさにこれだ。リモートミスの話を聞いて思ったのは、地震などで「リモートミス」グループに入った人は、ただでさえ陥る「正常性バイアス」に加え、いよいよ「不死身感」を感じたりするのではなかろうか。わたしは、東日本大震災が起きた当時、東京にいたからまさにリモートミスのグループだ。自分は、果たして「地震」をなめてないだろうか。。。そんなことを考えさせられた。
ちょっと横道に話がそれたが本筋に戻ると、本書が一番言いたいのは、冒頭で述べたとおり。タイトルにもあるまさに誰にでも「逆転」できるチャンスがあるということだ。「自分が不幸だ」「なんて不利な立場にいるんだ」・・・そう思っている人。それはむしろあなたにとっての強力な武器なのだ。そんなあなたにこそおすすめの本だ。