今の時代、どうしても中国の動向は気になる。そんなわけで先日は、「ラスト・エンペラー習近平」を読んだが、今回は雑誌の紹介記事を見て次の本を読んだ。
米中対立 アメリカの戦略転換と分断される世界
著者:佐橋 亮
本書は、米中のこれまでと現在の関係性を特に米国視点で追いかけてみることで、今後の米中対立の行方を占う本だ。政治・社会・経済の話は、情報量が多いせいもあって、いまいち頭に整理されて入ってこないので、本書のように「米国視点で米中関係性を観察してみる」というアプローチは、意外に新鮮でありがたかった。
実際、時系列に米中の関係性を読み進めていくと、「あぁ、確かに2000年初頭はこんな感じだったな」と記憶が蘇ってくる。時系列に追いかけるという行為があまりに面白かったので、読了後に、自分でも本を読みながら、とりわけ関係性に変化がで始めた辺りを中心に、主なイベントを並べてみた。
1997 中国を孤立化させることはかえって危険という判断から 関与政策へ
1998 3つのノー(台湾独立、2つの中国という解決法、台湾の国連加盟等のいずれをも支持しない)を強調
2000 「(中国は)戦略的パートナーではなく戦略的競争相手だ」という発言
2003 台湾の現状を変えようとする動きに米国反発。米台の関係関係
2005 中国人民元の割安感に対して不満の強まり
2006 中国への警戒感がより明確に
2008 リーマンショック
2009 中国が東シナ海、南シナ海で高圧的な振る舞い。反発はするもリーマンショック後で、中国にアメリカ政府公債の買い支えてほしいと発言
2010 米国がピボット戦略でより南シナ海問題を多く取り上げ。中国反発
2011 中国の軍拡や地域戦略の狙いに懸念
2012 陳光誠氏が米国亡命を申請。米中関係悪化。中国の人権問題も指摘
2013 中国が突如東シナ海にADIZを設定。バイデン副大統領狼狽
2016 地域の安定性を揺るがすものは台頭しつつある中国との認識が広く共有
2017 「国家安全保障戦略」にて中国を米国への挑戦者として明言。台湾防衛も。
2018 国家主席の任期が撤廃。ウイグル人権問題浮上。米国の警戒感が高まる
2019 米国国防授権法成立。米中の通商協議決裂。華為への輸出管理強化
2020 新型コロナ(COVID-19)発生で米中の関係が悪化
2021 中東欧諸国も中国に失望。人権侵害に米英カナダが制裁措置。中国は対抗
※本書を参考に自分なりにまとめた内容
ここからは一部私見だが、上記のように並べて眺めてみると、確かにわかってくることがある。例えば、私は次のような印象を持った。
- アメリカは「安定第一」で既存の状況を変えない戦略をとっている
- 中国は自分の支配領域を決め、そこに入ってくるなと思っている
- 中国は台湾はもちろん、東シナ海は自分達の領域だと感じている
- 中国は上記考えを邪魔する者には徹底抗戦する
- 中国は目的達成のためならかなりアグレッシブな態度をとる
- 中国は他国が反抗すればメンツを重んじる国ゆえ対抗措置を必ずとる
上記に加え、著者の指摘からなるほどなと感じたのは、こうした中国の動きに対して日米豪印4か国連携のクアッドのような協力体制が確立されてきたが、決して、オーストラリアや他の国々がアメリカとの関係性こそが第一と考えているわけでもないことだ。やはりどの国も自国の権益を守るために、その延長線上にクアッドがあるだけで、利用できる範囲で利用してやろうという意思が見え隠れしている。
欧州もそうだ。ただし、今は、中国が先のような自分達の目的達成のためなら、手段を選ばないアプローチをとっているため、強い嫌悪感を抱かれているのは確かではあるが。
ところで、こうした中国のアグレッシブな姿勢は、今後も無くなりそうもないという考えを補強するかのような記事を、最近、たまたま目にした。
「辛亥革命110周年の記念式典で、習近平国家主席が『中台統一を必ず実現する』演説をした」(朝日新聞2021/10/10の朝刊より)
こういうニュースを見るにつけ、目的達成のためならある意味手段を選ばず強硬に突き進む中国のスタイルは今後も継続しそうな雰囲気がある。武力で威嚇しつつ、経済的な取り込みや、政治的な手段などあらゆるアプローチを使って、台湾を取り込んでいこうとするのではないだろうか。そうなれば当然、米中は対立するし、制裁措置も激化しかねない。ちなみに「ラストエンペラー・習近平」では、中国は「戦狼外交」を続けているし、やめられそうもない(だからそのまま行けば破滅する)と指摘している。
だいぶ脱線したが、まぁ、要するにこうしたいろいろなことを考えさせてくれるところが本書の魅力だ。ただ漠然と「米中の関係性は今後こうなっていく」とか「今こんなことが起きている」といった定点観測の専門家の話を聞く前に、このように米中の関係性をストーリーとしてインプットしておくことは間違いなく有益だろう。今後の世界においてこの2国の動向に目が離せないのだから、それをする重要性はとても大きい。