2011年11月21日月曜日

書評: 人生がときめく片づけの魔法

「君の頭の中はすごく整理されているね」、と超一流のコンサルタントにおっしゃっていただいた」

そのように語った信頼のおける友人が真顔で「近藤麻理恵さんの”片づけ術”のお陰だと思う」と言うものだから、気にならないわけがない。

タイトル: 人生がときめく片づけの魔法
著者: 近藤麻理恵
発行元: サンマーク出版
発行年月日: 2011年1月15日

本を買うべく本屋に足を運ぶと、なるほど店頭の目立つところにこの本が置かれている。帯には「おはよう日本」「王様のブランチ」に著者が出演、大反響!50万部突破!の文字が踊る。

「そう言えば先週読んだ、佐藤可士和の超整理術の帯には18万部を突破!と書いてあったなぁ。こっちは50万部か・・・。そ、そそられる・・・。」

しかし、しかし・・・。タイトルがいかんともしがたい。”ときめき”というキーワードにどうも抵抗がでる。自分はターゲット読者層に入っていないのではないか? 帯に書かれている一般読者からの絶賛の声は、4人中3人が女性のものだった。売り場で30分ほど悩んだ挙句「いやいや、食わず嫌いはいけない」と自分に言い聞かせ、しぶしぶ買ったというのが正直な話しである。

■リピーターゼロの片づけコンサルタントが書いた本

この本は、(そんな職業が存在していたことすら知らなかったが)プロの片づけコンサルタントが執筆した”モノの整理術本”である。服の整理から、小物の整理、果ては書類や思い出の品の整理まで、ありとあらゆるモノの整理方法を解説してくれている。

それこそ整理術を語った本は世の中にゴマンとある。その中で、なぜこの本がそんなに注目されているのか!?

理由の1つは「決してリバウンドが起こらない整理術」をうたっているからだ。本の中で著者は片づけコンサルタントという自身の職業について次のように述べている。

『・・・そんな私ですが、じつをいうと、お客様のリピーター率はゼロです。・・・(中略)・・・自分でスッキリ片づいた状態の部屋を維持できるようになってしまうため、リピートしてレッスンを受ける必要がない、ということです』

■究極に合理的な整理術

さて、肝心の片づけ術だが「片づけ残しが起こらないように部屋単位ではなく、モノ単位で片付ける」「思い出の品物は後回し、最初に片付けやすいモノから順に手をつける。衣類、本類、書類・・・。」「生活しているときにしまう場所に迷わないように、すべてのモノに明確な所在地を作る」などなどもりだくさんだ。

中には結構、痛いところをつかれるような指摘も多々ある。

本「勉強関係の本やセミナー資料は、使わないのにいつまでもズルズルととってある典型です・・・」
わたし「うっ!・・・」
本「コード類も、なんか役立ちそうってとりあえずとってある典型です・・・」
わたし「うぅっ!!・・・」

さて、一方で「あれ!?”人生がときめく片づけの魔法”というタイトルとどうつながってるの?」という疑問がわく。驚くなかれ、実は片づけのアドバイスの1つとして「整理対象に直に触った瞬間の”ときめき”を整理の判断基準に使いなさい」ということを主張しているのである。この説明を聞いて「マジですか!?」と、思わず声に出してしまった。

しかし「50万部超の本が売れている」「信頼にたる優秀な友人がプロのコンサルをも驚かせた」というのは疑いようもない事実である。それを考えると、著者のこの言を、一笑に付すことはできない。

思うに、”ときめき”というモノサシを使う行為は、一見、非合理的に見えて極めて合理的な行為ではなかろうか。要するに「整理する際に、テクニックも大事だが、最後は自分のモノに対する直感(それも、ああ、これは遠い将来に使うかもしれない、といった思いではなく、触った瞬間に感じるその瞬間の自分の素直な思い)を大切にしなさいよ」という著者からの明快なメッセージではないか。言い換えると「これは将来使うかもしれないから・・・」とか「これはせっかくもらったものだから・・・」という別の思惑を整理の判断基準に入れてしまうことが、片づけのできない原因の一つである、と近藤麻理恵さんは言っているのかもしれない。

■信じるか信じないかは自分次第

いずれにしても著者の言っていることが正しいか、正しくないかは、自身で体験してみるしかない。実際に、わたしも自宅にある書類に対して、直に触り「ときめくかどうか」を心に問いかけて整理をしてみた。

果たして”ときめき”という表現が男児の気持ちを表すのに適切とは思えないが、少なくとも「あぁ、これがあると気分がアップする、これがないと気分がダウンする」といった基準で整理していった。あれよあれよという間に、今まで捨てるに捨てられなかったモノがゴミ箱に入っていったのである。

もしかしたら、一年後に「あぁ!なぜ捨ててしまったのか!?」と後悔するかもしれないが、そんなことがあれば、その時にはぜひこのブログに報告させていただきたいと思う。

■片づけで苦労をしてる人、思考力を高めたい人、精神的に豊かになりたい人に

ところで整理という行為そのものについて、著者は次のように語っている。

『モノが捨てられないときというのは「今、自分にとって何が必要か。何があれば満たされるのか。何を求めているのか」が見えていない状態です。自分にとって必要なモノや求めているものが見えていないから、ますます不必要なモノを増やしてしまい物理的にも精神的にもどんどんいらないモノに埋もれていってしまいます』

これはすなわち「”整理ができるようになる”ということは自分にとって必要なモノや求めているものが見えてくるようになる」ということの裏返しでもある。そう、私の友人のように。

ちなみに「整理という行為を”単に無駄なものを捨てる活動”となめてはいけない」という点では、先週読んだ佐藤可士和氏の超整理術の主張も一致している。整理・・・恐るべし。

この本は、単に整理ができるようになるだけではなく、思考力を高め、ひいては精神的に豊かになれる可能性をくれるもの、といっても過言ではない。

なるほど「人生がときめく片づけの魔法」とはまさにぴったりのタイトルだ。


【関連リンク】
佐藤可士和の超整理術
小島慶子のキラキラ(ラジオ番組にて水道橋博士がこの本を紹介する回)

===(2011年12月11日 追記)===
上の関連リンクにも反映したが、小島慶子のキラキラ(TBSラジオ:2011年12月9日の回)を聞いていたら水道橋博士の回で、近藤麻理恵さんのこの本が紹介されていた。まさにティッピング・ポイントの域に到達したのかもしれない。

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