2014年12月29日月曜日

書評: すべらない敬語

「正しい敬語にこだわり過ぎる」のは、きっと知識人が知識人であることに優越感を感じるための手段なのかも。「こだわるのはそこじゃないんだ」。本書を読んでそう感じた。

すべらない敬語
著者:梶原しげる
発行元:新潮新書



■敬語の解説書
本書は、敬語の解説書である。文化庁の出している「敬語の指針」を軸にすえながら、敬語の意義、世の中で使われている敬語の実態、それに対する専門家の見解、そして、それらを踏まえた上での著者の見解が、述べられている。

なお、著者の梶原しげる氏は、元文化放送のアナウンサーで、今はフリー。司会業などに従事している方だ。ちなみに、私はずっと昔に梶原さんにお会いしたことがある。今から25年以上も前、私が中学生だったとき、ラジオ番組の英語弁論大会で、梶原さんは司会者、私は大会参加者という立場で会話を交わした記憶が、なぜか今でも鮮明に残っている。そんな影響もあって本書に手を出した・・・のかもしれない。

■バランス感覚に優れた本
敬語に関する書物を他に読んだことがないので、正確なところは分からないが、本書を読んで感じたのは、敬語に対する著者のバランス感覚の良さだ。知識人にありがちな「本来の意味でこの敬語を使うべき!」といった”頭でっかちさ感”がない。かと言って「言葉は生き物なんだから、誤用されていてもみんなが使っている言葉なら、いちいち目くじら立てるなよ」といった”何でもござれ感”もない。

『私自身は、敬語を上手に使えることは確実にその人の力になり、メリットになる、と考えています。もっといえば人間関係においてもっとも簡便で有効な武器です。相手のことを本当に尊敬しているかどうか?なんてことは関係ありません』(4.敬語は自己責任である、より)

バランスがいい・・・そう感じる最大の理由は、上記一文からもわかるように、著者の論点が「あの使い方が間違っている」とか「この使い方が間違っている」といった正解・不正解の点にないからだろう。論点は、「敬語の効能は何か?」「その効能を最大限に発揮させるためにはどうしたらいいのか?」といった点にある。誤用されている敬語を紹介してくれているし、それらは十分に参考にはなる。が、そうした具体例は、敬語を使う効用を読者に伝えるためでもある。

■へぇーと感じる敬語の効用
せっかくなので、敬語がもたらしている力について、私が「おっ、なるほど」と思ったものを1つだけ紹介しておきたい。敬語は相手への敬意を表すというより、自らのプライドを守り、相手に巻き込まれないように距離をとり、毅然とした態度を示せるという例。

「私が伺います。ご用件をおしゃらないようであれば、お引き取り下さい。」

なるほど、べらんめー調の言葉に負けず劣ら、なぜか威圧感がある。敬語は、敬いの意図を示すために使うこともあれば、距離をとるために使うこともある・・・不思議な力を持つものなんだなと改めて感じた。

■確実に使える有効な武器を手に入れるために
私のような頭でっかちになりがちな人なんかは、頭を柔らかくするために有り難い本と言えるだろうが、次の2点の理由から、誰にでも本書をおすすめしたい。

1つには、プロの梶原氏の言う社会で確実に使える有効な武器の一つを携えるためだ。

2つには、人生を楽しくするためだ。普段何気なしに使うモノ(今回で言うと”敬語”)の中に、新鮮な観点を与えられると、世界観が広がる。なにより、些細なことでも、楽しみの目を持って観察できるようになる。

何のために敬語を使うのか? 敬語が何の役に立つのか? 考えたこともなかったが、それがわかったような気がする。


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