「何かを得るには相応の代価を払わなければならない」
錬金術では有名な等価交換の法則だが、これはすごく真理に迫った言葉だと思う。
今、注目されつつある「燃料電池車」。先日、トヨタ自動車がMIRAI(ミライ)という車を販売すると発表した。走る上で排出するのは水だけ。温暖化につながるCO2は排出されない・・・ガソリン車やハイブリッド車よりも遙かにクリーン・・・夢の次世代車だと言う。テレビでは華やかに報道されているが、その一方で、我々の見えないところで「代価を払っているではないか」という指摘をする記事が増えてきている気がする。
代価とは、水素の取り出しから、燃料電池車に乗せるまでの過程で発生するCO2排出のこと。車に乗せた後はクリーンだが、乗せる迄がクリーンではない。早い話がそういうことだ。WEDGE1月号の安井教授の記事によれば、数値(1キロメートルあたりのCO2排出量)で見ると、ガソリン車は147g-CO2/km。ハイブリッド車が95g-CO2/km、電気自動車は55g-CO2/kmだという。これらに対し、燃料電池車は特に工夫をしなければ260g-CO2/kmものCO2を排出することになるそうだ。水素は自然界にないモノで、取り出すときにどうしても電気が必要になる・・・つまり、その段階でCO2を排出する。しかも、気体のままではとても運べないので、マイナス252.6度未満の温度で液化貯蔵しなければいけないが、それにも体力(電力)がいる。液化後の搬送にしてもタンカーやタンクローリーがCO2を排出する。加えて、水素ステーションでは、液化の状態で一定期間貯蔵することが必要になるのでその間、電気を使い続ける。これが260gのカラクリだ。
発電所から送られてくる電力もCO2とは無縁ではないが、効率性の面から言えば、まだまだハイブリッド車やEVの方が有利で現実的・・・というのもうなずける。
ただ、現時点で全く希望の見えていない技術かというとそういうわけでもないらしい。理論上は、太陽光発電など自然エネルギーを活用することで、分解時のCO2排出をなくせる。貯蔵にしたって、新技術が開発されつつある、ときく。先日、専門家の方の講演を拝聴する機会があったが、千代田化工建設がSPERAという技術を開発したそうだ。有機溶剤のトルエンと水素を化学反応させメチルシクロヘキサンという化学物質にして水素を貯蔵・輸送する技術だそうだ。頼もしい。
いずれにしてもテレビなどで報道されている以上にハードルは高い・・・とても高い・・・ということはわかる。「走る上では、すごくクリーンなエネルギー」というところだけに注目するのは、まったく本質的な課題解決になっていないし、そうした表面的な報道だけをしたり、表面的な報道を全ての真実として理解してはいけないのだ。
改めて大事だと思ったのは冒頭で述べた「等価交換」の言葉だ。何かこれはすごいゾ!と言う事象に遭遇したとき、実はどこかで代価を払っているのでは?それは何だ?・・・とまず考え、疑ってみる・・・モノゴトを正しく理解するためには、そういう問いかけがきっと大切なのだ。
【関連リンク】
・水素を液体化、体積500分の1に 千代田化工建設の新技術を聞く(日本経済新聞)
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2015年1月25日日曜日
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