2017年2月5日日曜日

書評: 種の起源

そもそもの大前提を知ることは何をするにも強い武器になる。例えば、コンピュータ。最近はマウス操作・・・いや、マウスどころか、指操作だけで色々なことができる。便利だが、裏でどんなコンピュータ処理が行われているか、操作者には知る由も無い。これが一昔前なら、コマンドと呼ばれる命令文を、いちいち画面上に入力して操作指示を出していた。不便だったが、コンピュータの原理を肌感覚で知ることができた。だから、コンピュータに何かちょっとしたトラブルが起きたとき、マウス操作しか知らない人は、マウスを片手に画面上で右往左往するばかりだ。だが、“そもそも”を知っている人間には対応力がある。

さて、自然界の“そもそも”を知りたくはないだろうか。壮大な話に聞こえるが、我々が豊かな社会を築くため、豊かな暮らしを送るため、前提を知っておくことは、これからやってくる不確実性あふれる世界において生きるヒントを提供してくれる、とは言えないだろうか。

自然界の“そもそも”は何か。その答えの1つは、ダーウィンの提唱した自然淘汰だと思う。どの種がというより、"地上の生き物"が生存するための最もシンプルかつ強力なメカニズムではなかろうか。

種の起源〈上〉 (光文社古典新訳文庫)
種の起源〈下〉 (光文社古典新訳文庫)
著者: チャールズ・ダーウィン

ダーウィンの「種の起源」を読むと、生物には、そもそも多様化するようなロジックが組み込まれており、自然淘汰というメカニズムを通じて、環境適応した生物がより繁殖していく。そんな世界なのだということがはっきりとわかる。

変種が生まれやすい話、環境適応した変種こそが繁殖していく話、あまりに似過ぎたもの同士は、不稔(ふねん:種子を生じないこと)になりやすい話など、ダーウィンの主張するこうしたいくつかの理論に触れると、その点が明らかだ。

ところで、こうした話だけを聞くのと、どうしてどのようなプロセスでこのような結論にいたったのかを含めて聞くのとでは読み手に与えるインパクト、腹落ちの度合いが違う。本書を読んで、改めて、学校の教科書からだけでは知り得ないことに出会えた。ダーウィンがいかに謙虚に研究に向き合い、主観を排除して、こうした答えを導き出そうとしていたこともわかった。

そして、こうした自然界の法則を目の当たりにするにつけ、人間の現状、そしてこれからに対しての読み手の思慮が深くなる。だから、かの堀紘一氏も、その著書「自分を変える読書術」にて、読むべき一冊として本書をリストアップしていたのだろう。

例えば、いま、出生前診断の技術が格段に進歩している。これは私見だが、これが最終的に行き着く先は、人為的な選抜が行われることかもしれない。事実、イギリスにいたとき、胎児の性別が女の子だとわかった時点で、堕胎をするインド人が多かったため、出生前に性別を伝えないようになったという話を聞いた。さて、そうして人為的な選抜が行われるとなると、性別はおろか、かっこいい人、頭のいい人、そんな遺伝子を持つ人・・・ただし似た人ばかりが生み出されるようになるかもしれない。だがそれは、ダーウィンが唱える進化論の根底にある多様性・・・それがない世界に見える。そんな世界は環境変化への対応力が低そうだ。ダン・ブラウンの「インフェルノ」ではないが、ちょっとしたウイルスで一気に人間が死滅する日が来るかもしれない。

この法則はもっと身近な場面にも当てはまる。ダイバーシティという言葉が普通に使われるようになって久しく、女性の参画はもちろんのこと、いろいろな文化を持つ人と協同することの強みが叫ばれている。が、昨今、アメリカ始め、世界中で保護主義が強調され、多様化にブレーキがかかりはじめている。では、日本は多様化しているか・・・といえばそんなこともない。島国であり、外国人受け入れにも消極的な国だ。ヨーロッパに比べて圧倒的に多様性が少ないのは、言わずもがなだ。さらに、最近では、海外に出たくない社会人が増えているのだと聞く。そんな閉鎖的な意識が蔓延しつつあるそうだが、そんな多様性の薄い社会は、淘汰される側になってしまうのでは?などといった不安がもたげる。では、自分・・・個人レベルで多様化を創出する努力ができているのか・・・といえば、そんなこともない。変わらねば・・・と思う。

難しい。読みづらい。実際、読み飛ばしたりもした。読んで、何かこう目新しい知識が増えるわけではない。が、こうした人間というか生物の本質に触れることにより、人間のこれからの生き方を考えてしまうのだ。

うまく表現できないが、まさに冒頭に触れた「そもそも」を知る強さ...そんな強さを提供してくれる本だと思う。

  

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