2019年12月29日日曜日

書評: EXTREME TEAMS(エクストリーム・チームズ)

出会えてよかった・・・一言でいえばそんな本だ。手に取ったのは全くの偶然だったが。

本書は、Googleやホールフーズ、エアビーアンドビー、アリババ、ネットフリックスなど、昨今すごい勢いで伸びている企業群の企業文化とその醸成方法にスポットライトをあてたものだ。それら企業が何を大切にしているのか、どうやってそれを実現しているのか、そこに共通点はないのか、といったことについて著者の考察を示した本である。

このような話をすると「またGAFAか・・・」と思うかもしれない。だが、決してGAFAの話ではない。本書が取り上げているのは「成長もしているしそこに見出されている企業文化も素晴らしい」と思われている企業である。だからなのか、本書はAmazonやFacebookよりもむしろ、その他の企業に多くのページを割いている。

こういう類の本は、ともすれば抽象的な話に終始しがちだ。だが、本書は「大きなポイントは5つだ。1つは・・・、2つは・・・、最後は・・・だ」というように綺麗にまとめてくるような(でも実は中身はそれほどないような)よくある本とは違う。たとえば、これらの企業では採用時にどのような工夫をしているのか、どんな質問を投げかけてフィルターをかけているのか、また、退職者に対してどのような接し方をしているのか・・・など、事細かな事例がそこには書かれている。

私自身、読みながら気になった箇所のメモを取って行ったが、最後には5ページにもなっていた。それだけ役立つ情報が書かれていたという証明でもある。そんな私のメモを見ると次のようなことが書いてある。

ネットフリックス社の自分たちの組織への不適合者の辞めさせ方について。普通だったら、「辞めていくやつにお金なんかやれるか」となるのが人の心だ。だが、彼らは、退職者に手厚い手当を出す。そうしなければ、辞めさせることに対するリーダーの精神的負荷が高くなるから上に、それによって辞めるべき人がいつまでも居残り続けることになるからだ。そうすると企業文化がそこから腐っていく。気持ちよく大きな手当を出した方が、お互いにとってハッピーになるのではないか・・・そう考えた結果だそうだ。

また、顧客満足度の測り方について。エアビーアンドビーでは、単純に「満足度は5点満点中何点ですか?」という聞き方ではなく、もし5点満点ではなく6点満点だとして6点をつけてもらうためには、あと何をすればいいですか?という聞き方をするという。人間心理をついたうまい聞き方だ。

さらに心理的安全性の作り方について。ブレインストーミング的な手法は確かに有効だが、実はそこにディベート方式も採用すると意見が出やすくなるという話。人間である以上どうしても忖度してしまう。だが、ディベートという方式を採用することは、そうした心理障壁を取り除いてくれるというわけだ。

何にも増して心に響いたのは「どんな企業でも、ある程度の規模になったら、企業文化が『腐ってくる』のは事実上避けられない」という一文だ。だからこそ、文化を醸成するために採用から評価、体色にいたるまでとてつもない労力を割いているということが腹落ちする。

そして、我が身を振り返って自分の組織はどうなのか? この本で言及されていることはすぐにでも自分の会社に活かせるヒントがあるそう思った。

そんなわけだから経営者には間違いなく必読の書。「企業文化は日本の伝統大企業のおはこ。ここに取り上げられているのは比較的新しい企業ばかりだし外国企業ばかりだから、そこに本当に学びはあるのか。読むのに抵抗感がある」。そう思ったとしたらそれは大間違いだ。これを読まないことがどれだけもったいないことか。それくらい重要な意義を持つ本だと自信を持って言える。


2019年12月27日金曜日

書評: <インターネット>の次にくるもの 未来を決める12の法則

タイトル:<インターネット>の次にくるもの 未来を決める12の法則
著者:ケヴィン・ケリー

示唆に富む本。

一言で感想を言えと言われれば、この言葉しか思いつかない。ただし、本書はタイトルから想像されるようなインターネットの次に来るものが何かについて1つの具体的な答えを明示している本ではなく、「どんな観点で次のテクノロジーや流行が生まれるのか、何が付加価値を持つようになるのか」を示した本だ。

「どんな観点」が、本書のいう「未来を決める12の法則」にあたる。それは次のようなものだ。

1. Becoming
2. Cognifying
3. Flowing
4. Screening
5. Accessing
6. Sharing
7. Filtering
8. Remixing
9. Interacting
10. Tracking
11. Questioning
12. Beginning

たとえば、Sharing。ここで筆者が言及しているのは「これからは群衆がますますサービスの力になっていく」というものだ。技術が発達し、ネットワークで繋がり、最適化される。それは今の世界でもどんどん起こっていること(Facebookではみんなが投稿した情報が、GoogleではみんながアップしたWEBページが、Amazonではみんなが評価したコメントが、ウーバーは車のサービスが・・・)だが、これからはもっともっとそれが広がる。「え!?そんなものシェアできるの!?」と思っていたものがシェアできるようになるのだろう。自分がいま従事する仕事の中でシェアできそうなものは何か・・・そう考えると新しい仕事のヒントが得られるかもしれない。

Questioning。技術は発達すればするほど人間の仕事が機械にとってかわられるが、人間が持つ好奇心・・・そこからくる「問い」は人間が持つ固有の能力だ。将来、何か知りたいことがあればすぐに答えが提示されるようになるだろうが、それをもとに新たな疑問を持つのが人間というものだろう。つまり、そこから想像できるのはこれからの我々の付加価値は「質問する力」なのかもしれない。

本書の悪い点をいうなら、やや冗長的で、抽象的な表現も少なくないことから、読みにくさがあるという点だ。また、よくよく考えれば当たり前のことばかりが書いてあるじゃないか・・・そう思う人もいるだろう。

ただ不思議と、私は吸い込まれるように本書を読んだ。1つには翻訳者のスキルが高いのだろう。日本語に滑らかさがあり、自然に読み進めることができた。冗長である点も、自分の理解を繰り返し確認できるという意味で特に苦痛ではなかった。

また、当たり前と言えば当たり前という点についても、全体が12の法則の基に体系的に整理されていて頭の中を整理することができた。また、色々なことをかんがえさせてくれた。「答えを求めているのではなく、ヒントを求めている」という人には刺激を与えてくれる本だろう。本を読みながら、次次と未来の世界が私の頭に浮かんできた。

10年後、20年後、30年後・・・いや、100年後の世界はどうなっているのか。もちろん正解は誰にもわからないが、間違いなくそれを考えるためのヒントを得ることができたと感じる。

 

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...