2020年5月8日金曜日

書評: サピエンス日本上陸 3万年前も大航海

ホモ・サピエンス、すなわち人間が、どこからどうやって日本大陸に住み着いたのかについてとことん検証した本だ。どこからどうやってと言う点に関しては、38,000年前は少なくとも北海道はサハリンを何大陸とつながっていたのでそこから人が流入してきたのではないかと言うのが一般的な印象だが、そうではなく「海を渡ってきた」と言うのが著者の主張だ。

え!?と思うが、本書によれば、当時北海道と本州はつながっていない。つまりそこから南に行けないのだ。加えて日本最古の遺跡は本州と九州から発見されている。と言う。

「そうなると日本列島へ最初にホモ・サピエンスが渡ってきたのは、朝鮮半島から対馬を経由して、九州へ至る「対馬ルート」だったことになる。・・・次に古いのは琉球列島であるが、現時点での証拠を総覧すると、その頃大陸の一部だった台湾から北上して沖縄島へ至る『沖縄ルート』が存在したことが見えてくる」(本書より)

かくして著者はこの沖縄ルートを使って大航海のとことん検証するのである。「とことん」とは、実際に当時得られたであろう材料と技術のみを使って、舟を作り人力で黒潮を横切り台湾から与那国島へ行くことである。

しかして読者は思うはずだ。沖縄ルートが存在したとしてなぜそこまでとことん検証する必要があるのかと。これについては著者は次のように述べている。

「私たちのプロジェクトでは、「行けるかどうか」よりも、人類最古段階の海への挑戦たちにとって、「行くことがどれだけ難しかったか」に関心がある。祖先たちが島へ渡った事は既にわかっている。知りたいのは「彼らがどんな挑戦をしたか」なのだ。(本書より)

このくだりを読んだとき「挑戦とは、また大げさな。種子島の鉄砲伝来のように、誰かが漂流して流れ着いただけの話じゃないの?」と思った。しかし著者はこうした疑問にもしっかりと答えを用意してくれている。

そんな分けだから、ページをめくる手が止まらなかった。当時の技術や材料を考えてそこから舟を作り(なんと1年以上もかかるのだ!)、カヌーなど手漕ぎの名手を揃え挑戦するのだが、次から次に訪れる失敗。黒潮の流れが行く手をは阻み、全然渡れないのだ。びっくりした。海を渡ると言うことがどんなに大変なことかと思い知らされた。そしてそれだけ大変な航海に臨もうとした当時のホモ・サピエンスは一体どんな気持ちで挑戦したのか。強い興味がわいた。そう。まんまと著者の罠に陥り、自分自身も著者の好奇心にシンクロしたのである。

著者は語る。

「しかしよく考えると、ホモ・サピエンスは世界各所で不要なことに精を出している。ヨーロッパではクロマニョン人が、地下の洞窟にもぐり込んで、暗く狭く不規則な空間に絵を描いた。7万年以上前の南アフリカ沿岸部には、河口へ行って食べられもしない小さな巻貝を集め、それに丁寧に穴を開けてビーズを作った人たちがいた。どちらの行為もふつうの動物の感覚なら、無意味なエネルギーの消費であり推奨されない。そうすると結局のところ、3万年前の後期旧石器時代人は、どういう人たちだったのだろう。彼らのことを探求すればするほど、「私たちと何ら違わない人間」というイメージが浮かんでくる。やらなくてもよいことに挑戦する不思議な特質を共有し、私たちより上でも下でもない、同じ人間だ。」(本書より)

30000年も前に、限りなく私たちと同じ考えを持った人間たちがそこにいたに違いない。当時の情景が目に浮かんでくる。たった一冊の本が、著者の挑戦が、私たちの心を数万年前にタイムスリップさせてくれる。不思議な本だ。



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