この本を読んで 久々に心を揺さぶられた。
クライシスマネジメントの本質
-本質行動学による3.11大川小学校事故の研究
西條剛央
そう感じたのは、世の中の災害対応の課題が全て集約されていると言っても過言ではないと感じたからだ。本書は、東日本大震災での大川小学校事故の詳細が語られている。なお、大川小学校事故とは、2011年3月11日に津波が来た時点で学校管理下にあった76名の児童のうち69名が遺体で見つかって3人が行方不明となった事故のことだ。
最初の揺れから津波到達まで50分の時間があり、校庭から走って1分ほどで登れる裏山があったにもかかわらず、どうしてこのような悲劇が起きたのか。著者は、その原因について、客観的な調査・分析・評価を試みている。
災害対応の課題は、ひと言で言えば「正論だけでは語れない人間心理の厄介さ」だろう。言ってしまえば、天災というよりも人災だ。いざ災害に直面してみると意思決定ができず判断に迷いが出る。「自分だけは大丈夫」「これまで起きなかったから今回も大丈夫」「誰かに怪我をさせて責任問題に発展させたくない」などといったバイアスにも直面する。
以下は、それを浮き彫りにする一例だ。
「教頭先生は山に逃げた方が良いと言っていたが、鎌谷の人は『ここまで来ないから大丈夫』と言って喧嘩みたいにもめていた」(本書 第二章 あの日の校庭 より)
こうしたドロドロとした課題が想定されるからこその、事前の取り決めであり、訓練の徹底なのである。本書を通じて見えてきたのは「何が本当に大事か」を形式ではなく本質で考え、幹部と日頃から意識共有しておくことの重要性や、有事のスピーディーな意思決定を実現するための行動基準の明文化の重要性などだ。
訓練の重要性は言うまでもないが、本書が挙げた、多くの児童が無事に避難することができた保育所の有事対応の背景がそれを裏付けてくれる。
「では、保育園ではなぜ避難訓練を徹底できたのであろうか。実は管轄となる省庁が違うためである。就学後は文科省の管轄となるのに対し、『5歳児までを預かる保育所では厚労省の基準に基づいて火事や地震を想定して少なくとも月一回以上避難訓練することが義務付けられている』のだ」(第5章 あの日、何を最優先にすべきだったか より)
事は有事対応だけではない。悲惨な事故が起きた後の原因究明においても、人間心理が邪魔をする。とりわけ人が自分のせいで亡くなったかもしれない、となれば、尚更だ。そこにメスを入れようとすればどうしたって保身に走ろうとする者が出てくる。当時、学校を留守にしていた校長が、責任追及を恐れてメールを削除したり、市教委が当事者からの報告内容を添削・加筆したりしていたことがわかっている。
だからこそ、そうした点も含めて、深く潜り込み、客観的に調査・分析・評価した本書の意義は大きいと言える。
ただ、私たちが決して忘れてはいけないのは、大川小学校と同じ過ちを犯す可能性のある組織・個人はたくさんあると言うことだ。私自身もそうだ。東日本大震災で死傷者を出さなかった学校でも、たまたま運が良かっただったかもしれない。東日本大震災以降の災害でも、例えば平成26年の西日本豪雨などでも、逃げるべき時に逃げずに亡くなった方が大勢いる。
大なり小なり同じ悲劇が繰り返されていることを忘れてはならない。「自分たちはこのような過ちを犯すわけがない。大川小学校の人たちだけが悪かったんだ。もう学んだし大丈夫なんだ」と思ってはいけないんだ。
組織を率いるリーダー全てが本書を読むことで、世の中が少しづつ良い方向に変わっていくのではないか。そう思った。
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