『日本で成功する人の一般的なパターンは、20代でたくさん恥をかき、30代で一度は自信過剰になって失敗し、40代では謙虚に努力して、50代で花開く、といったところではなかろうか。これが米国の場合だと、10年以上も前倒しの速いスピードで駆け抜けるスターがたくさんいる。それがあの国の魅力をつくっている。日本でも、これからは若い世代からそうしたパターンをたどる人が多くなってくるだろう。』
本ブログのタイトルにもなっているように、わたし自身も、人生をかなり全速力で駆け抜けてきたつもりだったが上には上がいる、と驚かされる。冒頭の言を発っしたのは、自らも非日本流のスピードで駆け抜けてきた三枝匡(さえぐさただし)氏だ。三井石油化学、ボストンコンサルティングを経て、MBA(スタンフォード大学)を取得し、30代にして、赤字会社再建やベンチャー投資など3社の代表取締役を歴任した経歴を持つ。本日は、その三枝氏が書いた戦略本を紹介したい。
戦略プロフェッショナル ~シェア逆転の企業変革ドラマ~
著者:三枝匡
発行元:日経ビジネス文庫
■シェア逆転の企業変革ドラマに見る戦略指南書
本書は、企業における戦略的アプローチの実践を、物語調に示した指南書だ。
主人公は、日本有数の鉄鋼メーカーに勤めるMBAあがりの36歳、広川洋一。広川の会社は、新事業開発部の活動を全社的に広げて脱鉄鋼の戦略をさらに展開しようという想いがあった。そんな矢先、会社は、一見、本業の鉄鋼とは無縁に見える米国発医療機器販売の代理店販売を行っている会社、新日本メディカルに出資を決める。広川が勤める鉄鋼会社から全体の売り上げからすれば微々たるものだったが、それよりもなによりも、新日本メディカルの成長が芳しくない。物語は、広川は、そんな新日本メディカルに常務取締役として出向を決意したところから始まる。いったい新日本メディカルの何が悪いのか、そもそも勝機はあるのか、そして広川は会社を建て直すことができるのか・・・。
・・・物語のあらすじはざっとこんな感じだ。
■あの「ザ・ゴール」を彷彿とさせる本
この「戦略プロフェッショナル」の類書は?と聞かれれば、エリヤフ・ゴールドラット氏の「ザ・ゴール」を挙げたい。経営理論を、物語形式で伝えるところが、まさにそっくりだ。読み物語形式でありながら、技術理論をしっかりとカバーしており、興味をもって集中して読める良さがある。具体的にはたとえば、目標設定の話だとか、セグメンテーションの話、プライシングの話・・・などが登場するが、とてもわかりやすい。
なお、「ザ・ゴール」の場合は、隅から隅まで小説の体をなしており、ともすればビジネス書と気がつかないほど、良く練り込まれたストーリーが秀逸だった。そんな「ザ・ゴール」と本書が異なるのは、ストーリーそのものがほぼ1つの”実話に基づいている”という点と、物語の章の合間合間に「戦略ノート」と呼ばれる解説が差し込まれている点だろう。実は、こうした著者の解説が意外に馬鹿にならない。物語と解説の両方があって初めてわれわれ読者の腹にストンと落ちる・・・そんな感じだ。
「朝礼暮改がある会社は決して悪いことではない。むしろ、元気の裏返しでもある」という言。「社員への礼儀作法とか社内の清掃への感覚がお粗末な会社は成績もともなっていないことが多い」という言。「失敗の疑似体験をするための前提は、しっかりしたプラニングです」という言。「元来が人間志向の(人間性・包容力に重きをおく)人は戦略志向に、戦略志向の人は人間志向にと、互いに同じ壁を反対側に超える努力をしないと経営者として明日への成長がないようだ」との言。
このように・・・心に響いた著者の言葉を挙げればきりがない。
■追体験を通じた戦略理論の学習
まとめると本書は、”MBAで習う戦略論の数クラス分の授業を一冊に集約させた本”と言うことができる。ただし、MBAで使うケーススタディ教材とは一線を画する。MBAで扱うケーススタディにはほとんどの場合、結論が描かれていないが、本書には物語としての結論・・・主人公の広川洋一がどうなったかの結論がある。これは前者が、生徒同士が自らの意見をぶつけあう・・・ディスカッションを通じて、理論の実践を学ぶことに目的があるのに対し、後者は読者が主人公、広川洋一の人生を追体験することを通じて、理論の実践を学ぶことに目的があるためだ。
すなわち、MBAで身につけるような戦略理論を、一人からでもスパっと学習できる・・・これこそが、本書最大の意議であるように思うのだ。そんな意議に共感できる人はぜひ。
【物語を通じて理論を学習できるという観点での類書】
・書評: ザ・ゴール(The Goal)
・書評: ザ・ゴール2 (It's Not Luck)
・書評: V字回復の経営(三枝 匡)
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