2011年6月5日日曜日

書評: 国会議員の仕事 ~職業としての政治~

政治の世界では日本という国全体をステージにして、おおがかりな”茶番”劇が今なお繰り広げられている。6月2日には、管総理に対する不信任決議案が否決された。

「政治家って何なんだろう?」
「みんな何をやりたくて政治家になったのかな?」
「こんなんで良いんだったら、自分でもできるよな」

色々な疑問が沸いてくる。そんな疑問に答えてくれる本があった。

国会議員の仕事 ~職業としての政治~
著者: 林芳正、津村啓介
出版社: 中公新書


この本を知ったきっかけは、著者の一人である津村議員からの紹介メールである。津村氏とは深い仲というワケでもないが、同じ大学院のOBである・・・ということで連絡してきてくれたのだろう。つながりある関係とは言え、"政治家”から”本の紹介メール”が届いた・・・(失礼を承知で)正直に告白すると、そのようなわけで、この本に手を出すことには、かなりの抵抗があった。

しかし、何事もきっかけが大事である。こういった機会に便乗しなければ、読む事なんて絶対あり得なかっただろうもの・・・そんな本を読んでみる。それにより、また何か面白い見識が広まるかもしれない。そんな思いから購入を思い立った、というのが事の次第である。

■職業としての国会議員に関する事実を伝える本

この本は、”職業としての国会議員”というものについて、2人の(比較的若い)議員がそれぞれの目線・立場で、自身の半生を振り返る形で語ってくれている本である。

【目次】
Ⅰ. 国会議員になるまで
Ⅱ. 国会議員の仕事と生活
Ⅲ. 小泉政権から政権交代へ
Ⅳ. 政権交代後の一年
Ⅴ. 職業としての政治を語ろう

(ここ最近似たような感想ばかりで恐縮だが)今回も素直に感想を述べると、”意外”に凄く面白かった。正直、読み始めた時点では「東大を卒業し・・・」「ハーバード大学に留学し・・・」「日銀に就職し・・・」「三井物産に就職し・・・」と次々に続く”超エリート的なお話”の展開に全く感情移入できず「あぁ、やっぱり政治家って下地が違うのね。そんな人の話を聞いて何の意味があったのか!?」と、むしろ本を手に取ったことを後悔しきり、であった。要所要所で色々な苦労話が語られるが、少なくとも本の中身だけから判断する限りでは「大きな挫折を知らない人達」というふうに見えた。これは完全に私の”ひがみ”だと思うがなにか、そういった事が面白くなかったりする(笑)。

しかし、こうしたエリートチックな話も含め本全体を通じて国会議員という職業に対して、努めて”事実”を語ろうとしている姿勢が好印象に写ったのも、また事実である。普段、メディアというレンズを通して見る政治家の劇の舞台裏について、かなりフランクに語ってくれているように思えた。

たとえば、誰もが積極的に触れるのは避けたいであろう金銭的な話題について赤裸々に語ってくれている。また”選挙活動”を”国会議員の仕事の1つ”と素直に認めた上で、具体的にどうやって票集めに精を出しているかについて生々しく触れている。街頭演説、ポスター貼り、地元のイベントへの参加・・・聞く人が聞けば「選挙活動は、国を良くしよう・・・という目的を達成するための単なる手段であって、ゴールではないはず。そんな選挙活動にばかり精を出して何やっとるんじゃ!?」と思うかもしれない。

しかし、しかし・・・である。これが国会議員という職業における紛れもない真実である。この本はこうした事実を脚色なく伝えてくれている。

2人の著者が立場を大きく異にする・・・という点も、本の魅力を増大させている点に違いない。確かに、二人とも東大出身のエリートだ。しかし、一人は自民党で、一人は民主党、一人は政治家の家計で、一人はサラリーマン家計・・・。実際に本を読み進めていくと、二人の活動内容に明らかな違いがある。年齢が10違うせいもあろうが、人的・金銭的に大きな資産を親から譲り受ける立場にある政治家家計の林氏からは、そもそも選挙活動に関わる苦労話はあまり見えてこない。議員として早晩から国家の戦略的な展望について触れる話が多い。”嫌み”でもなんでもなく「あぁ、国のトップに立つ人は、こうやって早くから育てられていくんだな」といった印象を持った。逆に、津村氏はサラリーマン上がりで、いわゆる”たたき上げ”と言える。選挙に勝つための泥臭い活動や、右も左も分からない中での官僚との協議・・・そのような過程を経つつ、政党が政権を取り、津村氏自身もどんどんと大きな仕事を担うようになっていく・・・。極めて対照的な2人であるが、異なる道を歩みつつ、目指す道は同じ・・・ドラマのようなおもしろさをも感じる。

読者を魅了する最後のポイントとして・・・非常に重要なポイントだと思うのだが、二人とも文章が上手だと思う。文章が下手くそだと思う政治家も数多くいた中で、やはり地頭がいいからだろうか、まえがきからあとがきまで極めてわかりやすく、理路整然とした文章が心地よく胸に入ってきた。

ところで、せっかくなのでこの場を借りて、この二人のプロフィールをぜひ、以下に載せておきたい。

林芳正(はやし よしまさ)
1961年、山口県出身。84年、東京大学法学部卒業、三井物産入社、89年退社後、ハーバード大学ケネディ行政大学院を経て、92年、大蔵大臣政務秘書官となる。95年、参議院議員に発動線。99年、大蔵政務次官、06年、内閣府副大臣、08年、防衛大臣、09年、内閣府特命担当大臣を務める。現在、自民党政調会長代理。

津村啓介(つむら けいすけ)
1971年、岡山県出身。94年、東京大学法学部卒業、日本銀行入行。2001年、オックスフォード大学経営学修士。02年、退職。03年、衆議院議員に初当選。07年、世界経済フォーラムYoung Grobal Leader。09年9月、内閣府大臣政務官となる。現在、民主党統括副幹事長。






■国会議員の収支

本書で紹介されている中身を1つくらい取りあげておきたい。先ほど、触れた”政治家の金銭まわりの話”について話そう。今回、国会議員の収入や支出について読んで初めて気がついたが、国会議員の仕事は、1つの会社経営に例えることができる。そう、議員1人1人が個人経営を営んでいるようなものだ。これを聞いて「国会議員が何を経営しているというのか?」と疑問に思う人もいるだろうが、国会議員における経営とは、”政治活動そのもの”である。すなわち、秘書を雇って出納処理を行い、ポスター作り・ポスター貼り・演説・・・といった選挙活動はもちろんのこと、地元民の陳情受付や、冠婚葬祭や地元のイベントへの顔出し、政党が決定した事項の地元への啓発活動などを行う・・・まさに様々な活動が、議員にとっての経営活動なのである。

こうした”経営”を行うためには、当然、収入が必要となる。どうやって収入を得るのか?・・・津村議員の場合は、以下のとおりになるそうである。

・津村氏の本人からの自分の事務所への寄付 800万円
・政党から支給される政党交付金が 1,000万円
・パーティー収入が 400~1,000万円
・支持者からの個人献金などが 100万円

こうした収入のほか、国会議員は”議員宿舎”やJRが無料で使える”議員パス”といった特権を活用できる。

さて、一方、議員自身の個人的な収入はどうか。津村氏によれば、サラリーマンで言うところの年俸は2,110万円だそうだ。うち”歳費”と呼ばれる月給的なものが130万円、ボーナス的なものが550万円という内訳になると津村氏は述べている。日本国民の平均年収が約400万(平成21年度、国税庁調べ)であるという事実と比較してしまうと、かなりの高額所得者・・・という印象が否めない。

ただ、ひとたび選挙に落ちれば無職に転落する・・・という点で、民間よりも不安定・・・と言えなくもない職業である。しかも、定期的にやってくる”選挙”という名の就職戦線を勝ち抜かなければならない。そのために多くの秘書を雇う必要も出てくる。お金がいくらあっても足りない、というのも事実だろう。

■政治に少しでも興味がある人にお勧め

「政治家って何なんだろう?」
「みんな何をやりたくて政治家になったのかな?」
「こんなんで良いんだったら、自分でもできるよな」

先に投げかけたようなこうした問いのほか、

「官僚と政治家って、何故、仲が悪いんだろう」
「政治家ってやっぱり、親が政治家でないとなれないんだろうか」
「政治家って、選挙活動と国会で寝ること以外に何があるんだろうか」

といった様々な疑問に答えてくれる。

こうした疑問を持つ人には、本書をぜひ薦めたい。ちなみに、私自身、最近の政治家の活動を見て「こんなんで良いんだったら、自分でもできるよな」という思いを持っていた口だが、本書を読んで、間違いなく自分には無理な職業だ、という答えをもらった。生半可な気持ちでつとまる職業ではない・・・それは民間であろうがなかろうが同じことなのだろう。だからこそ、この2人の真剣な著者・・・国会議員を心底応援したくなった・・・これもまた偽らざる気持ちである。

さて、皆さんの疑問に対してはどんな答えが返ってくるだろうか。

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