その全てが、この小説に詰まっている。
The Help(ザ・ヘルプ) - Change Begins with a whisper -
著者: キャサリン・ストケット
出版社: Bakley (英語版)
※日本のAmazonでも1,000円を切る値段で入手できるみたいです
正直に言っておくと2011年11月現在、残念ながらまだ日本語訳は出版されていない。私が読んだのは英語版のペーパーバックだ。では、なぜ、わざわざ英語版なんぞを取り寄せて読んだのか?
映画評論家、町山智浩氏のラジオ番組(小島慶子のキラキラ)での同作品の映画紹介がきっかけだ。彼の解説が面白く、これはぜひ観てみたいと思ったのだ。ただし、映画も日本では未公開であるため、せめて原作の小説だけでも・・・その思いから手を出したというのが事の次第である。
■黒人メイドに育てられる白人家庭の子供がやがて黒人差別をする世界
舞台は1962年、アメリカはミシシッピー州、ジャクソン市。激しい人種差別が存在していた時代だ(※ちなみにマーティン・ルーサー・キング牧師は1968年に暗殺された)。黒人は白人の病院で治療を受けられない。黒人は白人と同じバスに乗ってはいけない。同じテーブルに座って食事してはいけない。黒人は得体の知れない病原菌を持っているから(完全にでっちあげである)トイレも別にしなければいけない。万が一、黒人メイドが雇い主と同じトイレを使えば即刻クビ。雇い主が黒人メイドを気に入らなければ嘘をでっち上げて盗人扱いし牢獄にぶちこむ、といったことも日常茶飯事。白人と仲良く話しているところを見られたら、誰かに刺されてもおかしくはない世界。
白人家庭のメイドとして働いていた黒人アイビリーン(Aibileen)は、つぶやく
『時間をもてあましているはずの白人女性がほったらかしにする子供達の世話を、メイドである自分が(私の子供達は私の世話を受けたくても受けられないのに)、一生懸命に見る。しかし、育ったその白人の子供はやがて親と同じように自分(黒人)を差別する者として育っていく』
「何かがおかしい・・・」
そう思っても、行動を起こすどころか、誰も怖くて口にすることすらできない。
編集者志望の白人女性スキーター(Skeeter)は自分が、子供の頃、黒人メイドコンスタンティンに愛情一杯に接してもらえていたことを良くわかっていた。しかし、ある日、家に戻ってみると彼女がいなくなっていた。絶対、何かがあったはずだ。しかし、母親に問い詰めても本当の理由を語ろうとはしなかった。
「何かがおかしい・・・」
スキーターをはじめ白人女性の中にも、そう思う人達は少なからずいた。しかし、そんな疑問を口にすることすら許されないのは黒人と一緒である。
『編集の仕事につきたいのなら、日常生活の中で”おかしい”と思うものにアンテナをはって、それについてとにかく書いてみることだ』
そんなプロのアドバイスを受けて、彼女は決心する。黒人にとって白人家庭でメイドとして働くことはどんなことなのか、それについて書こう・・・と。
■遠い時代、遠い世界の話に聞こえるが、ものすごく身近に感じる小説
英語でしかも500ページ強もあったために読み終えるのに2週間かかってしまったが、一度読み始めると目を離せなかった。来年日本では映画も公開されるという。原作を読み終えた今、ぜひ観たいと思う。なぜ、ここまで惹きつけられるのか?
一番の理由は、この本が、遠い時代・遠い世界の話のようで、いつの時代・場所でも変わらない人間の本質について語っているからだと思う。私がここで述べる本質とは「人間はかくも簡単に残酷になれるのか」ということ、「人間はいかに矛盾だらけか」ということ、「人間はいかに強くなれるか」ということ、だ。
「人間はかくも簡単に残酷になれるのか」・・・それは先に例を挙げたとおりだ。「人間はいかに矛盾だらけか」・・・同じ町にいる黒人にひどい差別をしている傍らで、よかれと思って白人の奥さん連中が疑念も抱かずに”アフリカ難民のためにチャリティで募金を募っている”。こんな皮肉はない。矛盾はもっとある。自分は差別する側の人間と思い込んでいる白人女性は実は男性に・・・、そして差別されていると思っている黒人達は、実は知らず知らずのうちに自分達も白人を差別、つまり差別する側にも立っている。「人間はいかに強くなれるか」・・・このような想像を絶する状況下においても黒人達は毎日を精一杯に生きている。そして何かを変えようと行動する。ちなみに町山智浩氏によれば映画版はコメディとして描かれているそうである。この本も決して悲しくてどうしようもない話ではない。
これらは、今の世界、今の日本にも、当てはまる部分があるのではなかろうか。
補足だが、もう1つ読者を惹きつける理由として挙げておきたいのが、本の構成だ。おおよそ2章ごとに主人公が入れ替わる。黒人メイドのアイビリーン、黒人メイドにミニー、そして白人女性のスキーター。3人の視点で世界を眺めるので、この三者が交わるイベントが発生した際には三者の気持ちが良く分かり、話全体にものすごくシンクロできるようになっているのだ。
これが著者キャサリン・ストケット氏の処女作というのだから、末恐ろしい話である。
■来年には日本語版が出ると思われるので、その際にはぜひ!
英語が分かる人は、原作を是非読んでいただきたい。そうでない人も、来年は日本で映画公開(3月頃らしい)されると言うのでぜひ観て欲しい。さらにその際には(推測だが)小説でも日本語版が出ると思われるので、ぜひ読んで欲しい。心からそう思う。他の人に強く勧められる数少ない本の一つだ。
【関連リンク】
・The Help (映画公式サイト;英語)
・The Helpの映画評価(IMDb)
・イカに生きる意味を学んだ日(わたしのブログ)
2 件のコメント:
私も、実は同じ動機で原作を読み始めては見たものの、スラング(たぶん)が多くて、スラスラとは読み進めません(泣)おまけに想像ですが、口語体のままで、スペルされているようで、より難しくなってるような気が・・・
町山さんが映画を見て考えさせれられるが、相当面白い(愉快な)シーンがあったと仰っていたので、DVDも注文してますが・・・
スラングが多いというのは確かにそうかもしれませんね。できるだけ黒人の人たちの会話の雰囲気をそのままだそうとしていますしね。
思ったのですが、英語の本は、やっぱりキンドルやiBooksを利用して電子で見るのも手でしょうね。わからない英語があってもすぐに辞書を引けるので・・・(口語体の問題は解決しませんが)
DVD買ったんですね。私は、一応、妻が見れるように日本語版が出るであろう来年まで我慢してみるつもりです。
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