著者: P.F.ドラッカー (編者:ジョゼフ・A・マチャレロ、訳:上田惇生)
出版社: ダイヤモンド社
■決断力の中・上級者向けのトレーニング本
マネジメントの決断力向上を狙いとしたトレーニング本である。
本書最大の特徴は、この本が懇切丁寧に「決断の仕方」を解説しているものではなく、50からの事例と数行からなる質問を詰めこんだのみのケーススタディ本という点にある。ケーススタディ本とは、過去にいくつかの企業で起きた実話を読み物語のように紹介している本のことだ。読者には、この読み物語を通じて、そこに登場する主人公が行った決断までの流れを追体験し、「何が決断の成功要因だったか」「何が失敗要因だったか」を自ら考え、自分なりの答えを導き出すことが求められる。
なお、各事例の最後についている質問は極めてシンプルなものだが、そこに正解はないし、回答例も記述されていない。どうしたらいいのか、分からなければ、別の本にヒントをゆだねたり、人に聞いたりするなど、自ら導き出すしかない。
【質問例】
『これからの問題は、本当に問題か。われわれは、これらの問題に取り組むことができるだろうか。それともただ説くことしかできないのだろうか。』(本書より)
ただし、さすがにヒントゼロだと(答えを与えられることになれている)日本人読者にはストレスがたまると思ったのかもしれない。回答例ではないが、訳者が、”1つの視点”と称して、各ケースの最後に考え方に関する簡単なヒントを付け加えてくれている。
■1人より2人、2人より3人・・・大勢で使う教材として
わたしの場合は、何も意識せずにこの本を買ってしまったので、自分1人の自己学習にとどまってしまったが、MBAクラスのように、1人で読む教材として使うよりも、グループディスカッションの教材として使う方が、遙かに効果的な本だと思った。事実、本書の”はじめに”には、次のようにある。
『・・・小グループでの討議に使うこともできれば、論文の教材として使うこともできる。そして最も重要なこととして、本書のケースは、マネジメントにかかわる情報を真の知識に転換する助けとなるはずである』(本書の”はじめに”より)
事例自体は決して難しいものではないし、専門知識がなければ考えることができない、というものもない。1ケースあたりのページ数も5ページ弱と非常にコンパクトだ。自分の会社の課や部の勉強会のネタにすることもできる。たとえば勉強会参加者が10人くらいいたとしたら、決断に関しての”反対派”と”賛成派”で半分に分け、ディベートさせる・・・というのも面白いのではないだろうか。その際、色々なレイヤーの役職者や部門の人が参加できたら、考えに多様性が出て、また、上の人の思考プロセスも勉強できてなお有意義になるように思う。
そう・・・1人の読み物・・・とするにはあまりにももったいない本なのだ。
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