著者: 植村 修一
出版社: 日系プレミアシリーズ
■”リスク”・・・虎の巻
本書は、”リスク”の解説書だ。”リスク”とは何か、リスクとどのようにつきあえばいいのか、リスクってコントロールできるのか、コントロール方法にはどんなものがあるのか、そこに落とし穴はないのか、穴にハマらないためにどうすればいいのか・・・など、”リスク”と聞けば誰もが持つであろう幅広い疑問に対して、解説している。
どれだけ幅広い範囲をカバーしているのか? 参考までに、本書に登場したキーワードには、わたしがパッと思い出せるだけでも次のようなものがある。リスク、不確実性、テールリスク、ブラック・スワン、レピュテーショナルリスク、発生確率、最悪の事態、プロスペクト理論、コントロール、プロジェクト、サンクコストファイナンス、バリュー・アット・リスク、ストレステスト、危機管理、囚人のジレンマ、ナッシュ均衡・・・などなど。
もちろん、本書のタイトルにもなっている誰もが気になる「想定外」という言葉も登場する。なぜ、想定外は生まれるのか? 最近よく耳にする「想定外を想定する!」なんてことが本当にできるのか!?などといった疑問に答えている。ちなみに、著者によれば「何か備えをする以上、その”とっかかり”、すなわち、想定が必要になるわけで、想定をする以上、想定外が生まれるのは必然である」とのこと。全く同感だ。したがって、重要なのは”想定外”をどれだけ減らせるかどうか・・・にかかるわけだが、本書では、想定外を生じさせやすい要因は何か?・・・についてもしっかりと言及している・・・。と、まぁ、こんな感じである。
■ズブの素人でもわかる
本書最大の特徴は、その”わかりやすさ”に尽きる。専門用語を説明するのに、平易な言葉を使っていること、そして、常に身近な例を取り上げていること・・・この2点が読者の理解度向上に大きく寄与していると言えるだろう。
たとえば、”リスク”を説明するのにいきなり難しい定義から入らない。
『あなたは、会社経営において、どのようなリスクを感じていますか」という質問をFさんたち4人の経営者にしました。以下は、その答えです。Fさん → 飲食店をやっている。最近、ある焼肉チェーン店が生肉を使った食中毒事件を起こし、結局破綻した。気をつけてはいるが、自分のところでも事故が起きないか心配だ。Gさん → 情報サービス会社の社長を・・・(以下、略)』(本書より)
このように専門家視点ではなく、一般人視点で、日常的に感じるリスクについて考えてみるところから入る。そして、人によってその答えに違いがあることを示した上で、リスクには種類があること、種類は違えど”危険”という共通性があることなどを解説している。
この”わかりやすさ”に華を添えているのが、途中途中に登場する歴史コラムだ。誰もがよく知る歴史上のイベントを振り返り、”リスク”の観点から考察している。本能寺の変にはじまり、厳島の戦い、ミッドウェイ海戦、八甲田山雪中行軍遭難事件、タイタニック号の遭難・・・など全部で12のコラムがある。歴史好きには、ありがたい。
■素人はもちろん、リスクの玄人も
さて、本書のターゲットは誰だろうか。”リスク”に真剣に向き合ってみよう・・・言葉やツールを勉強してみよう・・・と思う人である。企業人で言うと、リスク管理が業務の一部になる、リスク管理部、危機管理室、経営企画室、総務部、監査部・・・に所属する人(あるいはその可能性のある人)といったところか。
わかりやすい!と書いたが、実のところ、「今更、リスクの基本なんて」・・・ていう玄人にも、向いているかもしれない。玄人ほど、難解な専門用語を知りすぎて、変に詳しい知識をつけすぎて、ものごとを複雑に捉えすぎる傾向があるからだ。リスクに関わる知識を持ちすぎたゆえに、人にわかりやすく説明できない人も多い。
初心者は、難解なリスクの世界に足を踏み入れる”とっかかり”の本として、玄人は、堅くなった頭を柔らかい頭に戻す本として・・・有効な本だろう。
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