2015年2月16日月曜日

書評: サントリー対キリン ~業界2強を徹底分析~

表紙がビール色。頭より体が反応して買ってしまった。 

キリン対サントリー ~業界2強を徹底分析~
著者: 永井 隆

出版社: 日本経済新聞出版社


 

■対照的な2強の比較

国内ビール業界は4強。キリン、アサヒ、サントリー、サッポロ。

キリン 2兆1,861億円
サントリー 1兆8,515億円
アサヒ 1兆5,790億円
サッポロ 4,924億円
(出典:日経業界比較2013年度版)

で? なぜ、「サントリー」と「キリン」なのか? 売上げで言えば、2強というより、キリン、サントリー、アサヒの3強という印象があるし、ビールに限って言えば、一番搾りのキリンと、スーパードライのアサヒ・・・この2強比較でしょう・・・などと素人的には思ってしまう。

それでも、本書のタイトルは「キリン対サントリー」。端的に言えば、キリンとサントリー・・・この2社がDNA的に、ものの見事に対極に位置する会社だからなのだろう。同じ業界にあって、組織文化、強み、弱み・・・そのいずれもが、表紙のビール色のごとく、対照的なのだ。さしずめ、コンビニ業界で言うところの、セブン・イレブンとローソンの構図だろう。ちなみに、時期的にNHKのドラマ「マッサン」の影響でウイスキー=サントリーが再注目されつつあるせいもあるだろうが。

■業績、文化、サクセスストーリー、そして生の声

そんな本書がキリンとサントリーの何を徹底比較するのか。著者が解剖するのは、互いの業績はもちろんのこと、文化が生まれた背景となる創業の経緯、サクセスストーリー、そして現場の生の声だ。これらについて、前半をサントリー目線での深掘り、後半をキリン目線での深掘り、最後は、キリンとサントリーの持つサクセスストーリーの裏側について触れ、著者なりの考察をもって締める・・・という構成でまとめている。

中でも、印象的なのは、著者が両者の現場の人に直接聞いて拾ってきた生の声。ところどころで紹介される「自社の強み・弱み、ライバルの強み・弱み」だ。

『キリンの弱点ですか?そうですね、ずっと、王者でいたため、挑戦者意識が少し希薄なところでしょう。受けにまわると弱いのです。以前から比べると、スピード感は出てきたのですけど。サントリーについてですか? やはりキリンとの裏返しで、”やってみなはれ”の精神、すなわち挑戦心が組織全体で旺盛というところです。もちろん、マークしていますよ。』(第3章のキリンはシェア6割の大企業だった、より)

こうした生の声は、両者の文化の違いを浮き彫りにするだけでなく、両者に重なる部分が多分にあることも浮き彫りにしている。互いに対するリスペクトも感じられ、良い意味で互いに切磋琢磨して、成長してきた会社なんだ・・・という印象を覚える。

加えて印象的なのは、後半に登場する個別のサクセスストーリー。とある会社に対する売り込みで、明らかに負けが見えていた勝負に、キリンが大逆転勝ちした実例の紹介。ウイスキー文化を創ったサントリーが、ハイボールで2度目の文化を作りあげた裏話。これは、サラリーマンであれば誰もが参考になる話だ。

■本書が我々にもたらす2つの効能

本書はビジネス力向上のインプットになる。キリンの強みは、組織力・技術力、サントリーの強みは、チャレンジ精神・・・。本書を読むと、その言葉の持つ真の意味を理解できる。組織力・技術力で勝負に勝った実例、チャレンジ精神がもたらした勝利の実例がふんだんに紹介されているからだ。こうした実例は、ビール業界にのみに当てはまるものではない。どの業界・会社にも当てはまる重要なケーススタディだ。

また、個人的にビールを堪能するインプットにもなる。ビールをはじめ両社の製品を飲むとき、単純に、”のどを潤す液体”・・・で終わらせるのではなく、その裏にあるストーリーをイメージしながら飲めるようになる。きっと今まで以上に、よりおいしく飲める、そんな効能がありそうだ。


【業界2強を比較する観点での類書】
「セブン・イレブン終わりなき革新」&「個を動かす」

2015年2月10日火曜日

書評: 人を操る禁断の文章術

人を操る禁断の文章術
著者: メンタリスト DaiGo
出版社: かんき出版



「文章のたった1つの目的、それは今すぐ人を行動させること」

そう言い切る著者が書いたこの本は、わたしなりの言葉でまとめると、「文章に関する基本中の基本」にはじまり、「人の心をゆさぶるコツ」がハイライト、そして「書き方のコツ」で締める・・・そんなストーリーから構成されている。

メンタリストDaiGoの本を前にして、このように書くと、おそらく「人の心をゆさぶるコツ」が、誰もが一番気になる箇所だろう。

この箇所には、全部で7つのポイントが紹介されている。「興味」「本音とタテマエ」「悩み」「ソン・トク」「みんな一緒」「認められたい」「あなただけの」だ。

「あれ?なんかシンプルじゃね?」・・・そう感じた人はいるだろうか。その人は、私と同じだ。テレビで良く見かけていた著者だけに、本を読む前の勝手な期待は、相手の心をいかに巧みに読み取るか・・・そういった派手なワザをたくさん教えてくれるのかなー、といったもの。だって、そもそも本のタイトルが思わせぶりじゃないか。しかし、結果はことごとくそれと逆だった。著者の伝えるワザは非常にシンプルで、派手なんかじゃない。もしかしたら、彼はテレビでも派手にパフォーマンスを見せているが、その実、中身は非常にシンプルなワザの組み合わせなのかもしれない。

一方で、先の7つのポイントを見て「あれ?なんかマーケティングっぽいな」・・・そう感じた人もいるだろう。それも正解だ。昔、わたしはマーケティングでAIDMA(アイドマ)という言葉を習ったことがある。AはAttention(注意)、IはInterest(興味)、DはDesire(欲求)、MはMemory(記憶)、AはAction(行動)の略で、人間はこの流れに従って購買行動を起こす・・・という考えだ。全く同じ表現ではないが、先に挙げた7つのポイントを彷彿とさせるものだ。人をどうやって惹きつけるか・・・突き詰めていくと、マーケティングといっしょでも何らおかしいことではないのかもしれない。

「ってことは読む必要ないの?」

どうやら、本が目新しいことを語っているかどうかと、本が面白いかどうかは別物らしい。面白いと思えるかどうかを何ではかればいいのか。わたしの場合、どれだけ学びのポイントがあったか、その一点だ。この観点では、自分でも驚いたのだが、意外に学べる点が多かったということだ。

たとえば、恥ずかしながら私は「ブレインダンプ」という言葉を知らなかった。「ブレインダンプ」とは、頭に瞬間的・直感的に浮かんだことをはき出す手法だ。これは、著者が読み手を惹きつける際の言葉を生み出す上で、最初にやってみるといい、と推奨している方法の一つだが、非常にシンプルでありながら、なかなか有効な方法だと思う。

このようなちょっとしたテクニックもさることながら、実はわたしが一番勉強になったのは、”本書の文章”そのものだ。小見出しの付け方、シンプルなワザの意義や方法を印象に残るような紹介方法・・・それらが実にあざやかで、印象的だった。たとえば、彼の指摘する文章術の1つに「自分で書かない」という項がある。最初、この表現をみたとき、「???」だった。自分で書かない?・・・ゴーストライターにでも書いてもらうのか?と。だが、このように興味をもたせた時点で、おそらく著者の意図は見事に半分以上成功しているのだ。「読んで見たいと思わせて、読ませる」・・・そう思わせる小見出しやポイントが何度も出てくる。読んだ後も、もちろん「だまされた感」などはなく、「納得感」と「印象」が残る。このような彼のテクニックが、本全体に浸透しているのである。

今まで自分はどちらかというと、論理的であること=分かりやすいこと=印象に残りやすいこと・・・と思いがちで、文章を書く際には、どう表現するか・・・の部分は、ややおろそかだったように思う。だが、そこの手を抜くと、せっかく立派な文章も相手に何の印象も残さずに終わってしまうのだろう。印象に残りやすいかどうかは全く別の話なのだ。そのことを改めて気づかせてくれたのが本書だった。

本書の文章そのものが勉強になる。それが、この本の最大の魅力だろう。


2015年2月3日火曜日

書評: 大前研一 日本の論点 2015-2016

久しぶりに手を出した大前研一氏の本。彼の本は、当然ながら整理されて頭に入って来やすいので、読んでいて気持ちがいい。ストレスフリーで読めて、それでいて、思考力と知識がつくというありがたい本だ。





本書は、月刊誌プレジデントへの同氏の寄稿記事やストックしてきたネタに加筆修正を行ったものだ。タイトルにあるように日本が抱える論点について言及している。では、論点とはなんだろうか。

論点とは、「問題を解決するために、みなが最も集中して時間を注ぐべき事項のこと」だ。我々には何かについて何時間も真剣に議論していても、実は時間をかけるのはそこじゃない!ということがよくある。たとえば「どうやってこの難題を解こう」と何時間も悩み続けてるテーマがあったとする。何時間も考えて解が出ないなら、論点は「どうやって"自分が"この難題を解くか?」ではなく、「どうやって、解ける人を捕まえてくるか」とすべきなのだ。

頭のいい大前研一氏から見たら、「日本の政治家や経営陣の多くが、論点ではないところに時間を割いている」とイライラする場面が多いのだろう。「我々の思考時間の使い方のどこに無駄があるのかを指摘してくれているのが本書とも言える。

さて、具体的にはどんな論点を取り上げているのだろうか。ビジネスよりの話では、アマゾンの一人勝ちの話に始まり、ソニーの一人負け、もがき苦しむ日産自動車などを取り上げている。また、社会的な話では、エネルギー政策や企業の給与体系のあり方、韓国や中国との付き合い方などを取り上げている。

どのような語り口調で大前氏が論点を述べているか一例を挙げてみよう。以下は、ソニーの一人負けの章からの抜粋だ。

『ソニーのような大きな会社が躓く理由の一つは、過去の成功体験に引きずられるからだ。事業を作り出したことのない平井社長のような経営者は過去の延長線上で、足し算と引き算で考えることしかできない…(中略)…会社の中でデジタルの本質が何なのか、徹底的に議論する。その脅威を組織で理解し、共有する。そして勝者の側に立っている企業が何をやっているのか、徹底的に研究する。トップ自らがそれを毎日にように行わなければ、組織は危機感やビジョンを共有できないし、新しい発想も生まれてこない』

なかなか手厳しい。

実は本書を読むメリットは、こうして大きなテーマの論点を知ることだけではない。それに加え、もう一歩踏み込んで、見方を変えて読めば「思考術」の勉強にもなる。

先のソニーの事例で言えば、「勝者に学ぼう」という考え方・・・これは思考の起点として王道だ。一方で、何かを生みだそうとしているのなら、さらに、自分たちが提供している製品やサービスの付加価値・・・の本質を徹底的に見極めようという考え方・・・も、そうだ。何かを生みだそうとしても、ゴールに向かって敷かれた道ばかり(例:他社がどうやっているか、今何が売れそうか)見ていてはダメで、ゴールそのものをもっと徹底的に理解し、とらえ直す。そうすればそのゴールに到達するための別の道のりが見えてくる・・・「デジタル化とは何かを徹底的に議論する」との言があったが、そういうことじゃないだろうか。

ビジネスマン必見の書だ。


【日本の論点シリーズ】

2015年2月2日月曜日

澤田秀雄のハウステンボス再生術に魅了される

月刊プレジデント2015/2/16号。澤田秀雄氏に対し、田原総一朗氏が行ったインタビュー記事読んだ。ハウステンボスの再生に成功した鍵を紐解く内容である。

いつも思うが、詳しい成功体験の話は読んでいて面白いし、とても参考になる。ハウステンボスにいたっては、過去18年間にわたり誰もが黒字化にできなかった事業である。それを見事再生させるなんて痛快な話ではないか。参考までにハウステンボスの歴史を見てみると(Wikiより)、こんな感じだ。

1992 開業
2000 業績不振の責任をとり神近社長辞任
2003 会社更生法の申請、野村プリンシパル・ファイナンスが、経営に参画
2010 エイチ・アイ・エスが、経営に参画

記事によれば、澤田氏はハウステンボスの社長を引き受けてほしいという依頼を2回も断ったというのだから、コトがだいぶ深刻だったということがうかがえる。

澤田氏の「詳しい成功体験」とは例えば、東京ディズニーランドと比して使用効率の悪い土地を売却するなどのコストカットの話、やはり東京ディズニーランドなどに比してアクセスに不利な立地条件を克服するために飽きない目新しさを打ち続ける施作の話・・・などだ。

ただし思ったのは、対象が何であろうが、どれほど大きい規模の難題であろうが、解決のアプローチには法則があるな、ということ。一つには、(成功事例がある場合の)起点は「成功している同業他社と比べ何が違うのか」ということだと思う。ハウステンボスの話で言えばそれが東京ディズニーランドやUSJである。そう言えば、以前プロフェッショナルか何かの番組で紹介されていたが、USJの再生の成功にこぎつけたマーケターの方が、やはり東京ディズニーランドをとの集客のデモグラフィーの違いを起点に、改善策を導き出していた話を見たことがあった。

ベネッセの原田氏が戦略よりも実行が大事と言っていたように、もちろん、ギャップを見つけても実行がともなわなければ意味がないが、思考の出発点としては王道であるように思う。

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...