2015年12月28日月曜日

書評:問題解決のジレンマ

タイトルが魅力的だった。自分の仕事がコンサルティングなので、また少しでもヒントになりそうなことがあればラッキーと思い、手を出した。

著者:細谷 功(ほそや いさお)
東洋経済新報社


そして読んで見て・・・結論から言えば、うーん、という感じ。私(コンサルティングを生業にしている者)がそもそもターゲットじゃなかったせいだろう。それにしても、なんか小難しい。いったい誰をターゲットにしたかった本なのか。初心者に対してであれば、息苦しくなるような内容だし、玄人に対してであれば、わざわざなぜそんなに回りくどく説明するのか、というような内容だ。

本書は、問題解決の際に誰もが陥りそうな落とし穴とその回避方法を、極めて論理的に分析・解説しようとしたものである。落とし穴とは、著者の言葉を借りて言えば「既知の既知」の世界のことである。世の中の問題を解決するのに、誰かが用意した試験問題を解くことで解決しようとしている人が少なくない、と指摘する。言い換えれば、「与えられた問題(やルール)が世の中の全て」と思いこんでしまい、それを解くこと(あるいはその中で戦うこと)だけに終始してしまうと言うのである。

私も仕事上、良くあることだ。あるお客様先に行くと、「A案がいいのか、B案がいいのか」で社内で何時間も議論していて結論が出ないという。「コンサルタントであるあなたはどっちを勧めるのか?」と問われる。ここで「Aなのか、Bなのか」といった問いの解答を考えようとするのが、著者の言う“落とし穴にはまった状態”だ。最初に自分が解く問題は「何を求めてAかBかの選択肢になったのか?」であるのに・・・。

ジレンマから抜け出すには、ソクラテスの唱えた「無知の知」・・・すなわち、「自分がわかっていないことを分かること」だが、問題はどうやってその境地に達するかだ。本書は、そのヒントを、先に挙げたような既知の既知や、既知の未知、未知の未知といった言葉の定義を通じて、様々な角度から解説している。中盤では、アリとキリギリスの話まで登場する。

ちなみに、ジレンマから抜け出す手段の是非や著者の意図はともかくとして、個人的に印象に残ったのは、やはり「無知の知」の重要さである。行き着くところまで行き着いた賢者たちは、みな「無知の知」が終着点のようだ。ソクラテス、ピータードラッカー・・・。そう言えばタロジロ物語のモデルにもなった西堀英三郎氏も、著書「石橋を叩けば渡れない」の中で、「モノゴトは決して思い通りには動かないという事実を認識しておくことが最大の対策だった」と経験談を語っている。私自身の人生でも思い当たることが多い。トラブルを起こした人間は、自分を客観的に見れてない(自分ができないことがわかってない)人が圧倒的に多かった。

そんなわけだから著者の指摘は全くもってなるほどとうなずける内容だが、やはり小難しい。「無知の知」の境地に至ってない人が本書を読んで、果たしてその大切さや、自分がそのような状態に陥っていることに気づくのか・・・少なくともそんなことを狙った本ではなさそうでる。「無知の知」の大切さが分かってはいるが、どう自分の部下に説明したらわかってもらえるか悩んでいる・・・そんな上司には、著者の言葉遣いや整理の仕方が役立つのかもしれない。


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