虚構の城 完全版
著者:高杉良
出版社:角川文庫
1つは物語としてどうかという観点。この点では、なかなかの秀作だ。一気に読めた。上司と部下、官僚と民間社員、キャリアとノンキャリア、妻と夫、男と女・・・。人間同士のぶつかりあいの描写を通じて、人間の生臭い・・・けどリアルな素顔が、さらけだされている。出光興産という舞台が絡んでなくても、魅力的である。
もう1つの観点は、出光興産を描いた物語としてどうかという点。描かれている範囲は一時点の話であり広くはなかったが、田崎というごく普通の社会人の目線を通して、出光興産の特徴を見事に浮き彫りにしている。ちなみに、実はこの小説、知人から勧められて読んだ。私に勧めてくれた彼のコメントはこうだ。
「“海賊と呼ばれた男”(百田尚樹)を読んで、出光興産や創業者の出光佐三を理解したつもりなら、まだ甘いですよ。この本も読んだ方がいいですよ。僕も勧められて読んで、なるほどな、と思わされました。」
実際「海賊と呼ばれた男」は読んでいたし、感動もしていた。彼のこのコメントは私の関心をくすぐるのに十分だった。で・・・読んだ。「あぁ、なるほど、そういうことねー」というのが率直な感想だ。要するに、出光興産の影の部分が描かれているのだが、あそこまで強烈なカリスマを持つ組織であれば、それもあり得るだろうなぁと思う。不思議と、この小説の描き出した出光興産の世界観が違和感なく、自分の心に入ってきた。
「海賊と呼ばれた男」・・・間違いなく面白い小説だったが、考えてみれば、あの小説に描かれていた内容は、あまりにも美しすぎた・・・と言えるのかもしれない。負の側面が一切でてこないからだ。
誤解の無いように言っておくが、もちろん、「海賊と呼ばれた男」や、出光興産自体のことが嫌いになったわけではない(まぁ、すごい好きというものでもなかったが)。創業者の偉業がなくなるわけではない。誰にでも、どんな組織でも、正の側面もあれば、負の側面もある。一つ負の側面があったからといって、全てが否定されるわけではない。大事なのは、これからだ。こうした事実をもとに、これからの組織や人がどうあるべきか・・・考えてゆくことだと思う。
小説でありながら、ここまで考える機会を与えてくれる本も珍しい。私同様、「海賊と呼ばれた男」を既に読んだ人は、偏った見方にならないために読むべきだし、その逆もまたしかりだ。さすが、高杉良。
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