さて、書評。
■ノンフィクションに限りなく近い、会社再建ドラマ
これは、会社再建ドラマだ。フィクションではあるが、著者自身が経営コンサルをする中で得た実話を上手に組み合わせて、書き上げたかなりリアルな物語である。読者に追体験させることを狙いとしている。
舞台は、色々な会社を買収し、多角化を進めてきた企業、新日本工業から始まる。投資した子会社の業績は惨憺たる状態。新日本工業社長・・・財津は、立て直しをしようと抜本改革を目指す。そもそも経営を担える次世代幹部が育っていないことを真の課題ととらえた財津社長は、36歳の伊達陽介に注目し、彼を傾きかけた子会社の1つに出向させる。そう、物語の主人公は財津社長・・・ではなく、倒産寸前の会社に送り込まれた伊達陽介だ。彼は困難に立ち向かい、会社を再建できるのか。
■「ザ・ゴール」を彷彿とさせる示唆にとんだ本
読んでパッと頭に思い浮かんだのは、エリヤフ・ゴールドラット氏が書いた有名なオペレーションズ・マネージメント小説「ザ・ゴール」だ。「ザ・ゴール」は小説に仕立て上げられた経営管理の教育本だが、本書「経営パワーの危機」も、言わば、その経営再建バージョンと言えるだろう。
結論から言うと、面白かった。500ページ近くからなる分厚い本だが、立ち止まることなくあっという間に読めた。加えて、小説の合間合間に登場する著者のちょっとしたコメントは示唆に富んでおり、役に立つ。たとえば、財津社長が主人公の伊達陽介を出向させる場面では、
「日本企業の弱点は、経営が育ちにくい環境であることだ。組織を小さなプロフィットセンターに分けて、権限を与えればいいが、日本ではこのアプローチがまだまだできていない。多くの日本企業が依然として機能別組織や中途半端な事業部制の組織にとどまっている。だから実質、本来の意味での“経営センスを磨く場”が乏しいといえる」
といった著者のコメントが登場する。なるほどな、と思っているところ・・・本を読み終えた翌々日くらいに次のような日経新聞の記事がたまたま飛び込んできた。
トヨタ、次世代経営者育成! カンパニー制導入発表。「トヨタ自動車は2日、社内カンパニー制を4月に導入すると発表した。」2016年3月4日日経新聞朝刊より
みずほの場合は、どちらかと言えば顧客ニーズを掘り起こすことを目的とした組織編成だが、トヨタなどはまさに著者がしてきたしたような課題解決を目指した組織編成を行おうとしているわけだ。
こうしたリアルな企業のニュースが、自分のアンテナにひっかかり、単なるニュースが単なるニュースだけでおわらないのは、本書を読んだからこそだと思う。本書は本当にタメになる。こんなケーススタディ本がたくさん登場し、読まれるようになれば、と願う。日本企業から真の経営者が生まれることは、日本経済の活性化にもつながるのだろうから。
【経営ノウハウを物語から学習できるという観点での類書】
・ザ・ゴール(エリヤフ・ゴールドラット)
・ザ・ゴール2(エリヤフ・ゴールドラット)
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