2017年6月4日日曜日

書評: IoTの衝撃

業のリスクマネジメントのコンサルティングをやっていると、結局のところ重大リスクは2つに大別できることがわかる。企業がどこへ向かうべきかという戦略リスクの話と、戦略実行を邪魔するリスク話だ。今日紹介する本は前者に関わる話だ。前者の戦略リスクでは、例えばフィルムカメラからデジタルカメラに需要・技術変化が起きる中で、業態を変更させ見事の生き抜いた富士フィルムが思い起こされる。

さて、今流行りのIoT(Internet of things)を、この戦略リスク視点で捉えて見たくはないだろうか。なお、IoTとは「あらゆるものがインターネットにアクセスする可能性を持つ状態になること」と定義されている。テーマをIoTにおいた時、どんなリスクが考えられるのか、いや、そもそもどんな環境変化が予想され、どんな世の中になって行くのか? 企業の取り得る選択肢にはどんなものがありえるのか?

この趣旨を満たすべく書かれたのがこの本である。

HARVARD BUSINESS REVIEW
IoTの衝撃(競合が変わる、ビジネスモデルが変わる
出版社: ダイヤモンド社



IoTがどんな環境変化が予想されるのか? 具体的には例えば、「IoTが台頭してくると、企業収益を圧迫する可能性がある」と書いてある。なぜなら、単なるモノでしかなかったものが、通信できるようになるわけで、当然、生産コスト、すなわち固定費が上がるようになる。固定費が上がると価格を下げるために物量が求められる。競争は激化し、企業は従来の価格の中でコストを吸収しようとする。故に利益率が下がりやすくなる、といった論理思考である。

また、「収集したデータは誰のものか?」といった論点を取り上げている。最近、IoTを通じて収集した個人データを活用して付加価値を生み出すビジネスをしている企業が急成長を遂げているが、こうしたビジネスを展開している彼らにとっては、データが誰に帰属するかという問題は、死活問題になりうるテーマだ。

私も一昔前までは、IoTって、単にパソコン以外のモノ...例えば家電とか、車とか、ロケットの装置とか、色々なものが通信できるようになるだけじゃないか。「それのどこがすごいことなのか」、なぁんて思ったものだが、それは一般大衆の考え方。モノが繋がるということがどんなイノベーションを起こすのか、本書を読むと、その可能性の広がりに自分の浅はかさを思い知らされる。

モノが繋がるということは色々なことがコストをかけずに見える化できるということだ。見える化できると、効率化が進む。お客様へのチャージの仕方も変わる。典型的なのは自動車保険だ。燃費の悪い走りをしていたり、乱暴な走りをする人を特定できるようになり、保険料もそれに応じて変えられるようになる。IoTを使ってなんの情報を吸い上げ、何を見える化し、何を売るのか、どうやってチャージするのか? ビジネス戦略に影響を与える地殻変動といってもいい変化をもたらす。

ところで、本書は、ゼロから書かれたものではない。実はこうしたIoTに関するHARVARD BUSINESS REVIEWの過去記事の中から、売り切れ人気特集を書籍化したものである。だから、読みごたえのある記事だけが集められている。

このように話すと、パッチワーク的なつながりの薄い記事の寄せ集めと思う人もいるかも知れないが、それは杞憂だ。似たような構成で違和感を感じた書籍は多数あったが、本書に限って言えば、 あまりデコボコ感を感じなかった。またマイケルポーター氏を始めとする有名な著名人の記事なので難しいかと言えば、全然そんなことはない。私の中では読みやすい部類に入るほうの本だと思った。

というわけで、企業の戦略を考える立場にある人たち、経営陣、経営企画室や、企業のリスクマネジメントを考える部門の人たちには有益な本じゃなかろうか。最近は、健康管理を目的とした体調をトラッキングするデバイス・・・たとえばフィットビットなど、身の回りにIoTの将来を彷彿とさせる商品も増えてきた。イメージしやすいし、読むには絶好のタイミングだろう。

最後に余談だが、IoTの記事に関しては、先日、NewsPicksで読んだ(ただし、有料記事)「堀江さん、要するにIoTって何ですか?」は分かりやすかった。本当に興味がある人はぜひ本書とともに読まれたい。


【参考情報】
【動画付き】堀江さん、要するにIoTって何ですか?(NewsPicks)

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