2020年1月11日土曜日

書評:貞観政要(じょうがんせいよう)

昨今、経営者の不祥事が絶えない。東芝のチャレンジ問題、ウーバーのハラスメント問題、スルガ銀行の不正融資問題、かんぽ生命の不適切販売問題、・・・。その横で、やれコーポレートガバナンスだ、やれリスクマネジメントだ・・・といった横文字が並ぶ。経営管理の世界はそんなに難しい世界なのか。いや、1,500年前に答えは既にあったようだ。技術は進化しても、人間はそう簡単に進化しないものだなと実感させられる。

「貞観政要」は知る人ぞ知る超有名な優良書で、名君の誉高い唐の太宗(李世民・在位626〜649年)とそれを補佐した名臣たちとの政治問答集である。

本書の言葉をかりて表現すれば、本書は「守成(守り)の心得」である。さらにこの本をまとめた著者は次のように語る。

「これを欠けば、せっかく手に入れたトップの座を守り切ることができない。そのよい例が、秦の始皇帝であり、隋の煬帝であった。我が国の例で言えば、ほとんど一代限りで終わった豊臣秀吉と、徳川三百年の基礎を築いた家康の違いであろうか」

ぐうの音も出ない。秦は2代で終わった。隋も15年程度で滅びた。豊臣秀吉も確かに短い。その差はいったいなんなのか。

「今までの帝王をごらんください。国が危殆に瀕した時は、すぐれた人材を盗用し、その意見によく耳を傾けますが、国の基盤が固まって仕舞えば、必ず心に緩みが生じてきます。そうなると、臣下も我が身第一に心得て、君主に過ちがあっても、あえて諌めようとしません。こうして国勢は日毎に下降線をたどり、ついには滅亡にいたるのです。」

おいおいおい・・・。今の時代の経営者の失敗要因とほぼかわらんやないかーい・・・というのが本書を読んで真先に感じたことである。先日読んだ「プレイングマネジャー「残業ゼロ」の仕事術」でも「エクストリームチームズ」といった本でも、「チームメンバーみんなが同量の発言量を持つチームのパフォーマンスが高い。それはすなわち心理的安全性が確保されたチームである」なる主張がなされていたが、それと全く一緒。

話は、心理的安全性に留まらない。人材採用の話も当然登場する。

「(自己推薦制について)人を知る者はせいぜい智者の水準であるが、自分を知る者は真に明智の人である、と個人も語っています。人を知ること自体容易なことではありません。まして、自分を知るということは至難の業であります。世間の暗愚な者たちは、とかく自分の能力をは何かけ、過大な自己評価に陥っている者です。売り込み競争だけが活発になりましょう。自己推薦制覇おやめになったほうが賢明かと存じます」

これも現代と全く一緒。私自身身をもって経験して感じていることだが、仕事ができる人ほど自分を客観的にみることができるので、評価が(ある意味)低くなる。仕事ができない人ほどその逆の傾向がある。

この1,500年間われわれ人間はいったい何をやっていたのか。本書を読むとつくづくそれを感じさせられる。一組織の経営どころか、秦や隋などといった大国の経営失敗談が示す「学びの重さ」は他と比べるべくもない。

よく、「歴史に学べ」「歴史は繰り返す」というが、この言葉はこの本のためにあるのではなかろうか。本書をみれば必要なことが全て書いてある・・・そう言ってもいいのかもしれない。あー、それにしても「裸の王様」って本当に怖いことなんだな。明日からより一層、自戒しようと思う。


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