2021年5月6日木曜日

書評:グレートリセット 〜ダボス会議で語られるアフターコロナの世界〜

●今後の世界動向予測のインプットを探しているなら絶対に外せない一冊

私自身が本書を知ったのは、取引先の人に「いい本があるよ」と教えていただいたのがきっかけ。間違いなく良書だと思う。

グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界

さて、この本、何が書いてあるのか。この点については著者の次のクダリを引用するのが最も分かりやすいと思う。

「私たちの目的は、ウィズコロナ下で比較的コンパクトで読みやすい本を書き、さまざまな領域でこれから起きることの本質を読者が理解することを手助けすることだ」(本書より)

ちなみにタイトルの「グレートリセット」だが、これは歴史上、感染症は何度も起きていて、都度、国の経済や社会機構を組み直す大きな契機になってきたことから、「今回のコロナも例外ではなく、グレートリセットになる。それを踏まえて、みんな必要な行動を起こそう」という著者の思いが込められたものである。

●ポストコロナはどうなるのか?

では、具体的にどんな予測がなされているのか。

一例を取り上げると、例えば著者は、パンデミックの収束後、一時的に労働者側が有利な状況が出来上がる、と予測する。これは資本家側がコストをかけてでも経済再建を急ぐため、実質賃金が上昇する傾向が強まるからだ、そうだ。

また、中長期的には「 大規模な富の再分配と新自由主義との決別が起きるだろう」とも述べる。要は、世界中で起きている超金融緩和政策のおかげもあり一時的には富裕層が有利な状況が続くが、やがて貧困層の不満が爆発し大きな揺り戻しが起きるだろう、というわけだ。本書とは別に「人新生の資本論」という本を読んだときに「コロナショック・ドクトリンに際して、アメリカの超富裕層が2020年春に資産を62兆円も増大させた」という話を知ったが、こうした貧富の差拡大の話を聞くにつけ、「貧困層の怒りが爆発する」という話が絵空事ではないのは肌感覚でわかる。おそらくかねてより話題にのぼってきたベーシックインカムの導入や、富裕層に対する増税なんていうのも、ますます現実味を帯びてくるのだろう。

さらに、サプライチェーンリスクの肥大化も取り上げている。著者は、グローバルゼーションと脱グローバリゼーションの間で、リージョナリズムが1つの答えになっていくのではないかとも述べている。実際、半導体の製造については、2021年度の年が明けてからというもの、コロナによる需給予測の読み誤り、テキサス州の雪害や停電、ルネサスエレクトロニクスの工場火災、台湾メーカーへの集中化・ボトルネック化等でサプライチェーンリスクが顕在化している。こうした現状を見るにつけ、非常に信憑性の高い示唆だと感じざるを得ない。

●包括的・客観的な整理・分析

実は著者が本書を脱稿したのは昨年2020年の6月だ。まだ比較的新しい時期に執筆された本とは言え、先のサプライチェーンリスクを筆頭に、ESG、地政学リスク、監視社会の話等、的確に世の中の動きを言い当てている。

ただし、これらは、かねてから言われてきたことでもある。特段、目新しい予測ではないと言うこともできる。その意味では、予測の目新しさというよりも、これまでの状況(特にコロナ禍での状況)や過去のグレートリセットの事例を踏まえ、改めて状況を包括的・客観的に整理・分析していることが、本書最大の意義と言えるのではなかろうか。

だから、私は頭が整理できたし、「あ、そういえば!」と思えた箇所も多々あった。今後を予測した本は数多くあるが、ここまでスッと腹落ちする示唆を提供してくれる本は珍しいと思う。ポストコロナに範囲を絞れば、その存在はなおさら際立っていると言えよう。

著者はいう。

「ポストコロナの未来に踏み出す大多数の企業にとって最も重要な事は、これまで機能していた事と、ニューノーマルの時代に反映するために今必要となるものの間で、適切なバランスを見つけることである。これらの企業にとってこのパンデミックは、自社の組織を見直し、前向きで持続可能な変革を長期にわたって継続する類を見ないチャンスなのだ」

 そうだ、行動を起こそう!


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