2021年8月1日日曜日

書評:決断力 〜誰もが納得する結論の導き方〜

決断力 〜誰もが納得する結論の導き方〜 (PHP新書) 
 橋下徹

●何が書いてある?
橋本徹が自身の成功・失敗体験から導き出した「答えのないテーマにおける決断の仕方」についてのポイントを解説した本。


●何が書いてある?
答えがないときの決断の仕方は、司法業界でとられている「手続き的正義」の考え方がヒントになるという。答えがないテーマで意思決定をする際には「実態的正義」ではなく、手続き的正義にフォーカスしたアプローチを行うことが望ましいというわけだ。

なお、「実態的正義」とは、ある結果の内容自体に正当性があるかどうかを通考え方のこと。いわば、「絶対的に正しい結果かどうか」を問うもの。また、「手続き的正義」とは、結果にいたる過程・プロセスに正当性があるなら、正しい結果とみなす、と言う考え方。論点は「適切な手続きに則って判断された結果かどうか」にある。

この話を聞いて、以前、日経ビジネスで宮本雄二 元駐日大使が次のように発言していたことを思い出した。

「迷ったらすぐに決断する。A案とB案のどちらが適切か迷うのは、どちらの案にも良い点と悪い点があるからです。しかも、その差はわずか。ならば、どちらを選んでも大きな差はないわけです。それならば早く決断し、稼いだ時間をマイナス要素を減らすことに費やすべき」
(by 宮本雄二 元駐日大使 日経ビジネス2016年9月5日号「有訓無訓」より)

「どちらも正解・不正解である可能性は高いのだから、絶対的な正解を探すのではなく、納得できる手続きに則って答えを出すのが大事」ということだろう。

●印象に残ったことは?
一番印象に残ったのは、この「手続き的正義」と言うシンプルでわかりやすい考え方。この本には書いてないが橋本徹さんが以前どこかの雑誌で原子力発電所の再稼働問題について、「原子力規制委員会が答えを出すのではなく、原子力規制委員会はあくまでも安全性の観点から必要な主張をし、他方、経済や環境の観点から別の専門家が主張をし、その双方の意見を踏まえて政治家が決断を出すという形にしないと、話が進まない」といった発言をしていたように記憶しているが、本書を読んで、「あぁ、なるほど。橋下さんの説得力ある思考の裏にはこのような考え方があったんだな」と腹落ちした。

あと、危機管理の要諦に関する発言も参考になった。特に次の氏の指摘は、まさに誰もが陥りそうな罠なので、ハッとさせられた。

「大組織ほど陥る罠として、リーダーは下からの報告を鵜呑みにしてしまいがちです。リーダーは『組織は、自分たちに都合の悪い事実は必ず隠す』と肝に銘じなければなりません」

●どういう人が読むべき?
「意思決定」は経営者のみならず、組織を率いる人はあらゆる場面でしていかなければならない。組織の上位階層に行けばいくほど「正解のない問い」に結論を出していくことが求められる。故に、そういった人たちには、参考になる本だと思う。


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