2013年11月17日日曜日

書評: 不格好経営

本書を読んで、南場智子という人間に惚れた。はっきり言うが、これまで色々な本を何冊も読んできたが、このように感じることは滅多にないゾ。

不格好経営 ~チームDeNAの挑戦~
著者: 南場 智子(なんば ともこ)
発行元: 日本経済新聞出版社


■DeNA(ディー・エヌ・エー)の起業物語

本書は、オークションサイトやショッピングサイトを運営する株式会社DeNA(ディー・エヌ・エー)の創設者にして元社長、現在は同社取締役を担う南場智子氏が書いた、言わば”会社起業振り返り物語”だ。彼女が1999年に起業を決心してから、ディー・エヌ・エーを立ち上げ、社長の立場で東奔西走・活躍し、諸事情により役職を退くまでの密度の濃い10年間を振り返っている。

コンサルティング会社マッキンゼーを辞めて、ディー・エヌ・エー社立ち上げにいたった経緯や、資金集め・社名決めですったもんだした話、システム開発での大トラブル、競合他社に自社の広告を載せてしまった話、モバイルビジネスへのシフト、野球チーム買収、コンプライアンス問題、旦那の病気など、テーマはわんさかある。著者本人も認めているが、よくもまぁ10年の間に、これだけ色々な経験を詰め込んだものだ・・・と関心するほどだ。

■南場智子の言葉には勢いがある

本書の特徴は、2点ある。1点目は著者自身が述べている”とりわけ失敗体験に焦点を当てて書いた本である”ということだ。

『私はビジネス書をほとんど読まない。こうやって成功しました、と秘訣を語る本や話はすべて結果論に聞こえる。まったく同じことをして失敗する人がゴマンといる現実をどう説明してくれるのか。だから本書の執筆にあたっては、誰か遠い他人の仕業とおもいたいほど恥ずかしい失敗の経験こそ詳細に綴ることにした。』(本書 まえがきより)

ただしこの点については、特徴の1つではあるが本書最大の魅力とは言い難い・・・ということを付け加えておく。わたしの読書経験から言えば、たとえば柳井会長の「一勝九敗」や、渡邉美紀(ワタミ創設者)さんの「青年社長」、鈴木敏文セブン-イレブン創業者の「セブン-イレブン終わりなき革新・・・あるいは孫社長の半生を描いた「あんぽん」など・・・実は成功体験より苦労体験に触れている本の方が多いといったからだ。

2点目の特徴・・・これこそが本書最大の魅力だと思うが・・・「他人の仕業とおもいたい」と彼女が形容するほどの失敗に対する彼女なりの総括が、気持ちいいくらい”単純明快”であることだ。これは、南場さんのバックグラウンドが超一流会社のコンサルタントであったことも寄与しているのだろう。彼女の発言はロジカルなだけでなく、哲学というか魂というか信念というか、生き様に何かこうしっかりとした一本の筋がとおっており、感じたこと・思ったことを、常にブレない視点で、シンプルな言葉を使って、はっきりと言い切っているのだ。

『しかし、DeNAを立ち上げてすぐに、会社はロジカルな人間だけでは少しも前に進まないことがわかってくる。事実、マッキンゼーのエース(自称)3人が1年で黒字化させますと宣言して会社をつくり、実際は4年も赤字を垂れ流したわけだ。コンサルタントの言うことは信用しないほうがいい。』

『ビジネススクールに行くことで人脈ができるのでは、ともよく訊かれるが、そうも思わない。逃げずに壁に立ち向かう仕事ぶりを見せ合うなかで気づいた人脈意外は、仕事で早くに立たないと痛感している。』(第七章 人と組織より)

■偶然の一致か必然の一致か

そんな本書だが、個人的感想を言わしてもらうと”ひさしぶりに気分が高揚した”感がある。また、冒頭で触れたように著者の南場智子氏をとても魅力的な人物だと思った。

その理由は先述したとおりだ。加えて、起業時に経験している内容がわたしのものとすごく似ていたから、という理由もある。やや余談になるが、たとえば、南場さんがコンサルタント出身であり、MBA経験者であるということ。格は全然異なるが、私もそうだ。また、南場さんが起業してまだ間もない頃、寝起きする真横にサーバをおいていつでも再起動できる体制をとって寝ていたということ。わたしも、奈良でISP起業に参画したときは同じ経験をしている。さらに、社内で過激なダイエット競争を繰り広げていたという話。実は自分自身がダイエット競争に参加してたわけではないのだが、同僚が目の前で、全く同様の”やり過ぎ!”とも思える熾烈なダイエットバトルを行っていた。最後に、人の採用に関して、とある大きな誤解から、大切な人との間に大きな摩擦を生じさせてしまったという話。これも全く一緒の経験がある。

質と規模において南場氏のそれと比べるべくもないが、自分と驚くほど似た経験を持つことに、ものすごく親近感を覚えてしまうのだ。そのせいで本書については客観的な評価ができていないかもしれないので、その分は差し引いて評価していただいて構わない。

■失敗を追体験できる貴重な教科書

本書は当然、会社の経営者・・・とりわけ起業に興味がある人なら読むべきだ。起業について学びたければ、さっさと起業して自らが失敗経験をするのが一番いいわけだが、人生には終わりがあり、失敗を重ねられる回数にも限りがある。だからこそ、こうした先人たちの体験をフル活用すべきだと思うのだ。だから、読むことをお勧めする。

なお、時間に余裕があるのなら、他の起業家たちの本との読み比べをしてみてはいかがだろうか。そのほうが、起業家たちの特徴が際立つし、そこに新たな”気づき”が生まれることも少なくないからだ。たとえば、ファーストリテイリングの柳井さんの本を読んでいたときは、良くワンマン経営と揶揄されるように、柳井さんばかりが読者の視野に入る印象だった。が、南場さんの本では、南場さん本人だけでなく、固有名詞で語られる強く頼もしい仲間が頻繁に登場する。両起業人の信条の違い、アプローチの違いの現れなのだと感じる。かと思えば、起業時の金銭面での苦労や、人の採用における苦労なんかは、両者ともに非常に似ていたりする・・・。このように色々な気づきを得ることができる。

とにもかくにも、まずは失敗の追体験本として、南場智子氏のディー・エヌ・エー起業物語を対象に選んでみてはいかがだろうか。わたしのイチオシ本だ。


【著名な経営者の体験を描いた本という観点での類書】

2013年11月10日日曜日

努力は運を支配する

日経ビジネス2013年11月11日号を読んだ。以下、感想。


現行法では東電を破綻処理した場合、賠償より社債の償還が優先される。
(原発対策、「国主導」の行方より)

(感想)これが国が東電破綻の道を選択しない理由だそうだ。が、結局は、都合の良い言い訳に聞こえる。現行法を尊重して、社債の償還を優先させて、仮に賠償が滞った場合には、国がその分を負担する・・・とすればいいだけの話では?・・・と思ってしまう。いずれにしても、要するに、全ては”国のやる気次第”だと思うのだが。やはり、その覚悟ができていないのか。


『立花が懇意にしていた三井住友銀行取締役にしてラグビー日本代表監督だった宿澤広朗は、生前こんな言葉を残している。”努力は運を支配する”。立花は来年も”日本一”でそれを証明するつもりだ。』
(日本の革新者たち 立花陽三より)

(感想)努力は運を支配する・・・いい言葉だ。


『2013年のイノベーターはこんな人・・・エナジャイザー(チームを鼓舞する力)、インテグレーター(組み合わせで革新する力)、ビジョナリ-(ゴールを設定する力)、ソーシャル・チェンジャー(社会を変える志)、ノン・ギバー・アッパー(あきらめない心)
(イノベーション生む5つの力より)

(感想)2013年の・・・という冠がついているが、この5つの力は、今回雑誌で取りあげられた日本人たちだけでなく、日本の外でも、いつの時代でも、イノベーションを生むのに必要なもの、と思う。振り返ってみれば、今年9月に読んだ『静かなるイノベーション(ビバリー・シュワルツ著)』で登場した社会起業家たちにも当てはまる。個人的には、「ゴールを設定する力」「あきらめない心」がこの5つの中でも重要なのだと感じる。「何かをやり遂げたい」という気持ちが、チームを鼓舞するだろうし、社会を変える志につながるだろうし、ほかの全てにつながるんじゃないかと思う。



2013年11月9日土曜日

書評: 戦略プロフェッショナル

こんなことを言う人がいる。

『日本で成功する人の一般的なパターンは、20代でたくさん恥をかき、30代で一度は自信過剰になって失敗し、40代では謙虚に努力して、50代で花開く、といったところではなかろうか。これが米国の場合だと、10年以上も前倒しの速いスピードで駆け抜けるスターがたくさんいる。それがあの国の魅力をつくっている。日本でも、これからは若い世代からそうしたパターンをたどる人が多くなってくるだろう。』

本ブログのタイトルにもなっているように、わたし自身も、人生をかなり全速力で駆け抜けてきたつもりだったが上には上がいる、と驚かされる。冒頭の言を発っしたのは、自らも非日本流のスピードで駆け抜けてきた三枝匡(さえぐさただし)氏だ。三井石油化学、ボストンコンサルティングを経て、MBA(スタンフォード大学)を取得し、30代にして、赤字会社再建やベンチャー投資など3社の代表取締役を歴任した経歴を持つ。本日は、その三枝氏が書いた戦略本を紹介したい。

戦略プロフェッショナル ~シェア逆転の企業変革ドラマ~
著者:三枝匡
発行元:日経ビジネス文庫


■シェア逆転の企業変革ドラマに見る戦略指南書

本書は、企業における戦略的アプローチの実践を、物語調に示した指南書だ

主人公は、日本有数の鉄鋼メーカーに勤めるMBAあがりの36歳、広川洋一。広川の会社は、新事業開発部の活動を全社的に広げて脱鉄鋼の戦略をさらに展開しようという想いがあった。そんな矢先、会社は、一見、本業の鉄鋼とは無縁に見える米国発医療機器販売の代理店販売を行っている会社、新日本メディカルに出資を決める。広川が勤める鉄鋼会社から全体の売り上げからすれば微々たるものだったが、それよりもなによりも、新日本メディカルの成長が芳しくない。物語は、広川は、そんな新日本メディカルに常務取締役として出向を決意したところから始まる。いったい新日本メディカルの何が悪いのか、そもそも勝機はあるのか、そして広川は会社を建て直すことができるのか・・・。

・・・物語のあらすじはざっとこんな感じだ。

■あの「ザ・ゴール」を彷彿とさせる本

この「戦略プロフェッショナル」の類書は?と聞かれれば、エリヤフ・ゴールドラット氏の「ザ・ゴール」を挙げたい。経営理論を、物語形式で伝えるところが、まさにそっくりだ。読み物語形式でありながら、技術理論をしっかりとカバーしており、興味をもって集中して読める良さがある。具体的にはたとえば、目標設定の話だとか、セグメンテーションの話、プライシングの話・・・などが登場するが、とてもわかりやすい。

なお、「ザ・ゴール」の場合は、隅から隅まで小説の体をなしており、ともすればビジネス書と気がつかないほど、良く練り込まれたストーリーが秀逸だった。そんな「ザ・ゴール」と本書が異なるのは、ストーリーそのものがほぼ1つの”実話に基づいている”という点と、物語の章の合間合間に「戦略ノート」と呼ばれる解説が差し込まれている点だろう。実は、こうした著者の解説が意外に馬鹿にならない。物語と解説の両方があって初めてわれわれ読者の腹にストンと落ちる・・・そんな感じだ。

「朝礼暮改がある会社は決して悪いことではない。むしろ、元気の裏返しでもある」という言。「社員への礼儀作法とか社内の清掃への感覚がお粗末な会社は成績もともなっていないことが多い」という言。「失敗の疑似体験をするための前提は、しっかりしたプラニングです」という言。「元来が人間志向の(人間性・包容力に重きをおく)人は戦略志向に、戦略志向の人は人間志向にと、互いに同じ壁を反対側に超える努力をしないと経営者として明日への成長がないようだ」との言。

このように・・・心に響いた著者の言葉を挙げればきりがない。

■追体験を通じた戦略理論の学習

まとめると本書は、”MBAで習う戦略論の数クラス分の授業を一冊に集約させた本”と言うことができる。ただし、MBAで使うケーススタディ教材とは一線を画する。MBAで扱うケーススタディにはほとんどの場合、結論が描かれていないが、本書には物語としての結論・・・主人公の広川洋一がどうなったかの結論がある。これは前者が、生徒同士が自らの意見をぶつけあう・・・ディスカッションを通じて、理論の実践を学ぶことに目的があるのに対し、後者は読者が主人公、広川洋一の人生を追体験することを通じて、理論の実践を学ぶことに目的があるためだ。

すなわち、MBAで身につけるような戦略理論を、一人からでもスパっと学習できる・・・これこそが、本書最大の意議であるように思うのだ。そんな意議に共感できる人はぜひ。


【物語を通じて理論を学習できるという観点での類書】
書評: ザ・ゴール(The Goal)
書評: ザ・ゴール2 (It's Not Luck)
書評: V字回復の経営(三枝 匡)

2013年11月4日月曜日

本当に尊大になっていないか?

『(会社が伸び続けている)秘訣と呼べるものはありませんが、挙げるとすれば2つ。会社の調子がいい時に経営者自身が尊大にならないこと、そして問題を先送りにしないで早めに手を打つことです。』 (編集長インタビュー 藤田晋サイバーエージェント社長 課題は全部「合宿」で潰す、より)

(感想)
結果を残してきた社長さんみんなが口を揃えるのが、まさにこの藤田晋社長の言。会社の大きさも残してきた実績も、比べるべくもないが、我が社も会社の歴史から言えば、比較的順調な時期と言える。つまり、今のまさにこの順調な時期が、これまで以上に謙虚な姿勢を持って、ことに臨まなければいけない時期である、とも言える。「本当に尊大になってないか? 問題を先送りにしてないか?」と自分に問いかけると、それを全く否定することはできない、と思うのである。忙しさをいいわけに、手をつけられてないことがたくさんある。

来年から・・・いや、明日から、いや、今この瞬間から改めて態度をいれかえて、ことに臨みたい・・・そう思った。

日経ビジネス2013年11月4日号

2013年11月2日土曜日

書評: 死の淵を見た男

かの東国原(ひがしこくばる)氏は、宮崎県知事だった時、鳥インフルエンザ問題に直面した。現場に足を運び、自ら現状を把握し、指示を出していった。周りの評価は高かったようだ。他方、管元首相。3・11にて福島第一原発の事故に直面した。やはり、自ら現場に駆けつけたが、そのときの評価はさんざんなものだ。危機時にトップ自らが現場に足を運ぶ・・・ここに共通点を見いだせるが、評価は真反対。この違いはいったい何なのだろうか。もちろん、「県のトップと国のトップでは立場が異なる」・・・そう、一蹴してしまうのは簡単だが、わたしはここに”学び”があるような気がしてならない。それを知るためには、やはり当時、現場で何が起きたのかを次の本を通して、正確に知るべきだと思うのだ。

死の淵を見た男
著者: 門田 正隆
発行元: PHP研究所

■福島原発・・・報道されなかった裏舞台を描いた本

東日本大震災で起きた福島第一原発の事故。事故を収束させるための一連の活動の中で起きた騒動は、まだ記憶に新しい。あのとき、報道の裏側で、いったい何が起きたのか? 福島第一原発の現場で必死になって闘った人たちは? 彼らの家族は? 周辺に住む住民は? 駆けつけた自衛隊員は? 首相官邸にいた人々は? 東電の経営陣は?・・・そのとき何を考えてどう動いたのか? 本書は、東日本大震災が起きた2011年3月11日から約9ヶ月後の2011年11月頃までの時間軸の中で、福島第一原発の事故が悪化の一途をたどっていく状況とそのときの人間模様を物語調に描いた本である。

ただし、物語調と言っても、事実を脚色するような書き方をしているわけではない。

『私はあの時、ただ何が起き、現場が何を思い、どう闘ったか、その事実だけを描きたいと思う。』(死の淵を見た男 「はじめに」より)

これは本書の冒頭にある著者の言葉だが、容易に推察されるように、本書は当時の状況を読者にわかりやすく伝えるために当事者中心の視点で描かれてはいるが、文中に登場する会話などは、聞いた事実がほぼそのまま反映されたものと思われる。

■2つの”凄まじさ”

本書を読み、頭にパッと浮かぶのは”なんと、凄まじいことか”という想いだ。ここには2つの意味がある。

1つは”現場力の凄さ”という意味での凄まじさだ。管元首相のことが色々と取り沙汰されてきたが、誤解を恐れずに言えば、結局のところ、当時のトップが管首相であってもなくても、(多少の違いはあったかもしれないが)あの現場の人たちがいたかいなかったか・・・それが全てだったんじゃないかと思う。それほど現場力は凄まじいものだったと感じるのだ。実際、「注水」だとか「ベント」だとか・・・当時、東京にいた首相官邸や東電の対策本部にいたお偉いさんたちが、現場に指示をだそうと必死に動いていたようだが、本書を読むと、東京側で考えつくことは全て、現場でも早々に検討されていたことが良くわかる。つまり、指示がなくても彼ら・彼女らは立派に動けていたのだ。

もう1つは”なんと過酷なことだったのか”という意味での凄まじさだ。海外からはフクシマフィフティと言う言葉でたたえられた現場の人たち。自らの命をも省みず、家族・・・いや、日本のために、必死で闘った人たちのことだ。本書を読むと、彼ら・彼女らに降りかかった肉体的・精神的な負担が、いかに過酷なものだったのかが、はっきりと伝わってくる。胸をえぐられるようだ。

『(現場を仕切る責任者として)何人を残して、どうしようかというのを、その時に考えましたよね。ひとりひとりの顔を思い浮かべてね。・・・(中略)・・・極論すれば、私自身はもう、どんな状態になっても、ここを離れられないと思ってますからね。その私と一緒に死んでくれる人間の顔を思い浮かべたわけです。・・・(中略)・・・こいつなら一緒に死んでくれる、こいつも死んでくれるだろう、と、それぞれの顔を吉田(所長)は思い浮かべていた。』(死の淵を見た男・・・「第15章 一緒に死ぬ人間とは」より)

ちなみに、こうした現場の過酷さを知るにつけ、やはり原発は廃止すべきなんじゃないかと思った。目に見えている以上に多くの犠牲を払っているのだとしたら・・・原発事故に最悪の事態を想定したとき(たとえば関東一帯が居住不能になる・・・など)、それを受け入れられる覚悟があるのだろうか?と疑問に思うのだ。受け入れられる覚悟がないなら、私はやってはいけないと思う。

■原子力の恩恵を享受する人たち全員が読むべき本

原発の恩恵を享受する国民一人一人が、原発廃止の是非を判断する前に、当時報道されなかった”見えなかった犠牲”というものを知るために本書を手に取るべきだということはもちろんだが、加えて、組織のトップこそ、ぜひ読むべきだと思った。

なぜなら、本書を通じて、災害時における組織のトップのあり方を理解することができるからだ。災害時には現場こそが一番機能する・・・これは9・11からも、3・11を描いた本書からも見て取れるが、組織のトップがその事実を改めてしっかりと理解しておくことで、自分のあるべき真の役割を見いだせるのではないかと思うのだ。たとえば私なら、トップは結局、「現場がより円滑に機能できるように後方からサポートをしてあげること・・・決して邪魔をしない・・・それにつきる」という答えを出すんじゃないかと思う。そうやって考えると、冒頭に触れた東国原元知事と管元首相の評価の違いの理由も見えてくる。現場を混乱させないように休暇という体をとって、単身現場に乗り込んだ東国原元知事と、一国の首相という体のまま現場に乗り込み、現場の手を止めさせたという管元首相。まぁ、この考察が正しい、正しくないは別にしても、こうした思考をめぐらせることは、非常に大事なことだと思う。その意味でも、本書の意議は大きいと思うのだ。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...