2013年12月1日日曜日

書評: 爆速経営 新生ヤフーの500日

最近の話だが、本当に偶然、ヤフージャパンの本社を訪れる機会があった。受付を通り抜けると、眼前に現れるる会議室のガラス窓には大きく”爆速”と書かれていた。それがとても印象的だった。ヤフージャパンは老舗とはいえない会社だが、創業は1996年。昨日今日に、立ち上がった企業ではない。にもかかわらず一歩足を踏み入れると、とてつもない活力を感じる。最近、 ヤフオクの出店無料化をブチあげるなど、メディアをもにぎわせている。この会社に、一体何が起こっていると言うのだろうか?

そんな疑問を持った矢先に、これまた偶然、手元に届いた一冊の本・・・。

爆速経営 新生ヤフーの500日
著者: 蛯谷 敏
出版社: 日経BP社
レビュープラスさまからいただきました

■ヤフー生まれ変わりの謎に迫った本

本書は、宮坂社長率いる若手経営陣達が、決して悪くはない・・・いや、むしろ立派な経営状態だった組織に、何を理由にどんな大胆なメスを入れ、どうやって大きな変革を起こし、そして、結果を出したかを、描いたものだ。著者の蛯谷氏が、2012年4月の宮坂氏のCEO就任から2013年末頃までの約1年半にわたって続けた取材に基づいている。

ところで、このようないわゆる”経営者物語”には、 2種類ある。1つは、経営者本人が書くもの。柳井正ファーストリテイリング会長兼社長が書いた「一勝九敗」DeNAの元社長、南場智子氏の「不恰好経営」などはこれにあたる。もう一つは、本人以外の者が第三者目線で描いたもの。先日読んだソフトバンク孫正義社長の「あんぽん」ローソン社長の新浪剛史氏を描いた「個を動かす」がそうだ。本書は後者だ。

■スーパーマンではないがスーパーな結果を残す宮坂社長が読者にもたらすもの


DeNAの南場智子氏の本は素晴らしかったが、本書も負けず劣らず秀逸だ。第三者目線で書かれているにもかかわらず、経営陣たちの熱気がムンムンと伝わってくる。紙の上に書かれた文字を追っているだけなのに、情熱を感じた。学びもたくさんあった。

私にとって最も興味深かったことは、印象に残った言葉の多くが、実は主人公の宮坂社長自身が発したものではなく、宮坂社長が他の経営者からもらい、感銘を受けたものばかりであるという事実だ。思うに、これは宮坂社長の立場が、私のような凡人とシンクロしやすかったからではなかろうか。本書を読むに、宮坂社長の前任者である井上前社長は、一言で言えば天才でありスーパーマン的存在であったようだ。これに対して著者は、宮坂社長を「実直さ」と「親しみやすさ」、そして「執着心」の3つの言葉で表現している。宮坂社長の存在を私たち読者の立場に近い、と公言するのはおこがましいとは思うが、少なくとも柳井ファーストリテイリング会長や、南場DeNA元社長、あるいはヤフー井上前社長に比べると、むしろ我々読者に近い親しみのおける存在と言えるのだ。

だからなのか、本書を読んでいると、いつも以上に、自分にもできそうだ。自分でもやってみるべきだ、やってやろう!という気にさせられる。幾つか例をあげておきたい。

新生ヤフーの経営陣をどうするかで宮坂社長が悩んでいた時に、仲間が名著「ビジョナリーカンパニー」から引っ張ってきた言葉・・・「大事なのは、誰をバスに乗せるかである」そして、宮坂社長が現場にできるだけ権限を与えるようになったきっかけとして挙げた言葉・・・「永守さんは、経営者には2つの要素しかないと言うのです。 1つは、いかに多くの意思決定をするかということ。もう一つは、いかに早く挫折を経験するかと言うことです」いずれも単純だが含蓄のある言葉だと思った。言い換えれば、当たり前に聞こえるほどシンプルだが、実は私も含め、実践できていない人が多いというふうに感じたのだ。

さらに、ヤフージャパンの新しい”信条”を組織に定着化させることを考える場面で登場した言葉・・・「Facebookから良いアドバイスをもらったのは、会社の価値観を作るんだったら、人事評価にそれを持ってこないと定着しないということでしたちょうど自分も会社で信条を作り上げ定着化させようとしていたところでだったので、本当にハっとさせられた。単純と思われるかもしれないが、早速自分の会社でもこれを実践しようと試みているところだ。

■経営に携わる人たち、経営の立場を目指す人たちに

さて、最後に、冷静に本書の評価をまとめたおきたい。他の類書にも言えることだが、本書は決して奇抜なことを紹介してあるわけではない。新生ヤフーの経営陣達に、何かとてつもないユニークさを期待して読むとがっかりするだろう。

ただ、先に挙げた私自身の例からおわかりいただけるように、ヤフー経営陣たちと、立場がぴったりと当てはまる読者であれば、間違いなく、とても面白く読める本だ。すなわち、会社の経営、もしくは経営になる幹部の立場にある人、また、これから起業しようとしている人・・・には、強くおすすめしたい本である。

「巨漢だったヤフーがたった500日で、ここまで変われたんだ、だから僕らも変われるはずだ。」

きっとこう思わせてくれるハズだ。それが本書最大の価値である。


【一定の成功を収めた経営者を・が描いた本という観点での類書】
セブン-イレブン終わりなき革新(田中陽著)
個を動かす ~新浪剛史、ローソン作り直しの10年~(池田信太朗著)
不格好経営 ~チームDeNAの挑戦~(南場智子著)
ユニクロ帝国の光と影(横田増夫著)
一勝九敗(柳井正著)
あんぽん ~孫正義伝~(佐野眞一著)


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