2013年12月4日水曜日

書評: イシューからはじめよ

「マッキンゼー流 入社1年目 問題解決の教科書」「ハーバード、マッキンゼーで知った一流にみせる仕事術」「マッキンゼー式 世界最強の仕事術」「マッキンゼー流プレゼンテーションの技術」等々、最近、マッキンゼーを冠にした出版が急激に増えてきた。マッキンゼーブランドここに極まれり・・・といった感がある。正直言うと、同じような性質の本をやや見せ方を変えて発売しお金をとるやり方に反抗心を覚える一方で、商売が上手だなとも思う。こんなこといいながら私も結局、複数の本を買っちゃってきたわけだし・・・。 

イシューからはじめよ
著者: 安宅和人(あたかかずと)
発行元:英治出版 



■コンサルタントの王道ワザ、イシューベースアプローチの伝授本

本書は、超一流コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーにプロのコンサルティング流儀を学んだ著者が、そのノウハウを懇切丁寧に解説している本だ。ここで言う「プロのコンサルティング流儀」とは、イシューベースアプローチとも呼ばれるものだ。今までに経験がない、情報がない、そんな未知の問題に直面したときでも、効果的効率的に最善のアウトプットを出すためのワザだ。

このアプローチを使えば「日本にマンホールはいくつあるか?」「日本に走っている電車の数は?」など!!!???と思える質問でも、論理的に・・・しかも高速に、制約条件下での最適解を求めることができる。これらはもちろん極端な例だが、「シカゴで売っているピザの枚数は?」などといった突拍子もない質問に答えられるようにしよう!ということではなく、イシューベースアプローチをビジネスシーンに適用して仕事の生産性を上げようじゃないか・・・というのが、このワザの・・・いや、本書の狙いである。

■イシューベースアプローチ講座があればテキストになり得る!

講義を受けているような感じで読み進めることができる・・・というのが本書最大の特徴と言えるだろう。もしイシューベースアプローチという名の講座が大学にあるならば、この本を教科書にしてもいいかもしれない。プロのコンサルタントが書いた本ということもあり、章構成はきわめて合理的な建て付けになっているから、章1つ1つがちょうど講座一回分になるイメージだ。

序章: この本の考え方 ~脱「犬の道」
1章: イシュードリブン ~「解く」前に「見極める」~
2章: 仮説ドリブン① ~イシューを分解し、ストーリーラインを立てる~
3章: 仮説ドリブン② ~ストーリーを絵コンテにする~
4章: アウトプットドリブン ~実際の分析を進める
5章: メッセージドリブン ~「伝えるもの」をまとめる~

加えて、本書が講座教科書に適しているように見えるのは、著者がイェール大学の脳神経科学で博士号(PhD)をとった背景が寄与している面もあるだろう。ほぼ全ての講義ポイントにおいて、著者の主張を裏付けするため、何らかの事例が引き合いに出されているが、マッキンゼー時代や、大学院時代に学んだ脳科学の知識・経験に基づくものが少なくない。ややもすると、多少アカデミック色が色濃く出る場面があり、抵抗感を生じさせる場面があるかもしれないが、多くの場面において、そうした事例が極めて明快かつ論理的であり、説得力がある。

『インパクトがあるイシューは、何らかの本質的な選択肢に関わっている。「右なのか左なのかというその結論によって大きく意味合いが変わるものでなければイシューとは言えない。すなわち、「本質的な選択肢=カギとなる質問」なのだ。 科学分野の場合、大きなイシューはある程度明確になっていることが多い。僕の専門である脳神経科学の場合、19世紀末における大きなイシューのひとつは「脳神経とはネットワークのようにつながった巨大な構造なのか、それともある長さをもつ単位の集合体なのか」というものだった。』(本書 イシュードリブンより)

■多くの類書・・・さてどれを選ぶ?

さて、こんな特徴を持つ本だが、どういった人向きだろうかとハタと考えてしまう。というのも、冒頭で触れたように、イシューベースアプローチを解いた本は、タイトルこそ違えど、たくさんあるからだ。

結論を言えば、もし、イシューベースアプローチを解いた類いの本をこれまでに読んだことがなくて、「上記特徴を持った本が自分は好きだ」という人なら、買い!だろう。言い換えると、イシューベースアプローチを解いた本は、本書を含め、コンサルティングのプロが書いた本ならどれか一冊を読めばそれで十分なのではないかと思う。なぜなら、技術の習得において、文字から得られるレベルには限界があるからだ。本書評の最後は著者自身の次の言葉で締めくくりたい。

『結局のところ、食べたこともないものの味はいくら本を読み、映像を見てもわからない。自転車に乗ったことのない人に乗ったときの感覚はわからない。恋をしたことのない人に恋する気持ちはわからない。イシューの探究もこれらと同じだ。「何らかの問題を本当に解決しなければならない」という局面で、論理だけでなく、それまでの背景や状況も踏まえ、「見極めるべきは何か」「けりをつけるべきは何か」を自分の目と耳と頭を頼りにして、自力で、あるいはチームで見つけていく。この経験を1つひとつ繰り返し、身につけていく以外の方法はないのだ』(本書 おわりに より)



【一流のコンサルタントが使うワザを学べるという観点での類書】
マッキンゼー流入社1年目 問題解決の教科書(大嶋祥誉著)
質問する力(大前研一著)
マッキンゼー流 図解の技術ワークブック


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