消費税が日本を救う
著者: 熊谷 亮丸
発行元: 日経プレミアシリーズ
■消費税賛成の理由をとことん語る
無謀と知りつつ、著者の主張をあえて一言にまとめさせていただくと「日本の借金は限界に来ているから、税収を増やすのに効率的・効果的な消費税を導入するべき」となる。
日本の借金が限界に来ている理由について、たとえば著者がどんな発言をしているかというと、「日本の借金を背負ってくれている日本国民自体の財布が危険水域に到達しつつあること」、「実際に破綻したギリシャや破綻しそうになったスペイン、ポルトガルに共通する双子の赤字が、日本にも差し迫っているということ」などを述べている。また、消費税を効果的・効率的な手段と考える点については、「実際は比較的、景気変動に左右されにくい税制であるということ」、「若者より裕福といわれながら税を納める機会の少ない高齢者からもお金を徴収できるという点で公平性が強いこと」などを理由に挙げている。これらは一例だが、著者は、こうした発言に対して様々な角度からデータを集め、論拠を用意している。
もちろん、本書の中では、消費税反対派が一般的に取り上げる理由(「益税・損税」や「景気への影響」問題など)に対しても、しっかりと反論を行っている。
■本書の魅力はどこにある?
本書の魅力は3点ある。1つ目は、消費税賛成派の意図のほぼ全てを、おそらくはこれ一冊読めばカバーできるという点だ。本書が、消費税に賛成の理由、また、消費税反対派に与しない理由・・・について幅広く触れていることは既に述べたとおりだ。
2つ目は、この本が2012年6月に出版された本であるという点だ。そう、自民党への政権交代が行われたのは2012年12月なので、6月と言えばまだ民主党政権下の時期。暗いニュースばかりが広がり、野田前首相は消費税アップに躍起になり・・・そんな時期だ。安倍首相になり、円安が進み、株価が15000円を超え、東京オリンピック開催が決まり・・・さて、政権交代前に書かれた予想が、この状況下にいたってどこまで当たっているのか・・・そう考えると、おもしろく読める。ちなみに、わたしは、結構当たっているように思うのだが。
3つ目は、消費税の本にしては、そこそこ分かりやすいという点だ。私にはちょうどいいレベル感だ。大事な箇所は太字+下線が引かれており目立つような配慮がなされている。各章のおわりには、必ず「その章で訴えたかったこと・重要なこと」を約1ページの中にまとめてくれている。ただし、わかりやすいと言っても、池上彰さんほどのレベルではないので、そこはご注意いただきたい。
■本書を持ってして読者なりの答えが導き出せるか?
本書の意義はなんだろうか。至極一般的な結論で恐縮だが、いろいろな物事をより深く考えられるようになった・・・という点だろう。ただし、「消費税増税の是非」に関しては、自分なりの答えを導き出す・・・というところまでにはいたらなかった。
いろいろな物事を深く考えられるようになった・・・一例を挙げよう。たとえば本書読了後に、たまたま読売新聞に掲載されていた消費税増税に関する論説を目にしたときのことだ。そこでは確か、経済学者(飯田泰之氏)が「消費税を上げると景気に影響がでるから、このタイミングでの消費税増税は望ましくない」という発言をされていた。ところが前出のとおり、本書では「消費税アップは景気に影響が出るという証拠はない(=景気への影響はほぼない)」と唄っている。というわけで消費税増税賛成派と反対派の意見のすれ違いの1つはここにあるのだな・・・と改めて気づいたわけだ。どっちが正しい・正しくない云々は別にしても、まず、こうした専門家の発言に、少なからず、自分の脳みそが反応できるようになれた・・・というのはまことに本書のお陰である。
では、本書を読むことで「消費税増税の是非」に関して自分なりの答えが出たか?・・・というと、正直、そうは言えない。前の段落で取り上げた一例「景気への影響のあるなし問題」に代表されるように、賛成派・反対派・・・どっちの主張にもまだ疑問がいっぱいあるからだ。ちなみに、「消費税増税の是非」についての答えはまだ出せないが、「消費税の是非」については是だと改めて思った次第だ。「消費税のカラクリ」の主張はもっともだが、やっぱり得られるメリットのほうが大きいように思う。
さて、このように本書を読めば、自分の納得できる答えが必ずしも見つかるわけではないが、少なくとも、その答えを見つけるための最初の一歩として一役買ってくれる本であることに間違いないだろう。
【消費税という観点での類書】
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